強化人間部隊ヴェスパーの9人目 作:ねむい
スネイルの言伝通り、惑星封鎖機構の強制監査部隊を発見したものの、私だけでは一人で全て片付けられるか怪しいものだった。特に、その部隊の中央で指揮を執っている機体は尋常ではない火力を持っていそうな、重厚かつ複数の砲を持つ見た目をしている。
見た記憶が無いことから、少なくとも企業やBAWS製の機体ではなさそうだ。
「オペレータ、映像を転送する。解析を」
『…受け取りました。 ……これは、カタフラクト! 封鎖機構の特務機体の中でも、最上級特務機体の枠に位置する機です。なぜこんなところに…?』
特務機体というらしいそれのデータが転送される。見た目は凄まじく大きい戦車のように見えるが、キャタピラを包む脚部装甲に付属するブースターがかなり大型だ。推力もまた尋常ではないと窺わせた。
特務機体数機を除く全ての監査部隊が付近の施設に突入していくのを見て、オペレータに指示を仰ぐ。
「あれは……どうする?」
『スネイル第2隊長閣下からはMT部隊を預かっていますが…特務機体が相手では一分と持たないでしょう。AC単機で当たり、MTは付近の偵察に留めさせるのが無難かと』
「わかった、そうしよう。 ……聞いていた通りだ、BAWS第2工廠から敵が出てくるようなら私に報告しろ。間違ってもカタフラクトには手を出すな」
『了解しました、第9隊長』
MT部隊が散らばって山岳に展開し、機体の電力を落としてレーダーにかからないようステルス状態となる。山を飛び越えて工廠に突入した私を迎えたのは、またもや見た事のない人型の機動兵器。ACとは似ても似つかない細身の見た目は、いかにも機動力に優れますと言わんばかりの様相だ。
「あれは?」
『あれは……封鎖機構のLC…ライトキャバルリーと呼ばれる特殊機動兵器です。サブジェクトガードが擁するMTとは比較にならないほどの高性能で、その戦闘能力は熟練すればACにも匹敵すると聞きます』
「厄介な…わかった、V.IX、これより敵を殲滅する」
レーザーハンドガンを溜め、真後ろまでアサルトブーストを用いて高速で接近すると、次にショットガンをチャージしながらハンドガンの五連照射をLC機体にぶつける。
『…!? なっ、AC!? コード5、AC捕捉!』
「遅い!」
振り向いて応戦しようとするLC機体だが、私ののACヴァンダーファルケに向けたレーザーライフルは機の脇をすり抜けて当たらなかった。増援を呼ばれる前に、右手ショットガンのレーザーによる刺突攻撃でLC機体を1機落とす。
『ば、かな…!!』
爆散するLC機体を尻目に、敵部隊の行軍を後ろから叩く。情報伝達は済んでいたのだろう。通信が途絶えたLCを案じてか、もう1機のLC機体と複数のMTが駆けつけてくる。
『……チッ、やはり二士はやられているか。コード78、応援を要請』
当然応援を呼ばれるのは想定のうちだ。
だが、カタフラクトの図体では工廠の中には入って来れないだろう。留意すべきは他のLC機体等の増援だが、目下は眼前の敵を排除することで対応するとしよう。
ヴァンダーファルケは機動力を活かした撹乱戦が主な戦いとなる。故に脆く、その要諦は被弾しないことが寛容だ。だからこそ、私とのシナジーは良好だった。
『クソッ、当たらない!』
『情報照合完了! ヴェスパー第9隊長ノインです!』
『なるほど…アーキバスの番号付きか』
数度の撃ち合いののち、LC機体から火花が散る。レーザーハンドガンによる削りと、ショットガンによる衝撃を受けてACS負荷が許容を超えたのだ。体勢を崩した隙を狙ってブーストチャージを喰らわせると、敵機は完全に破壊され、吹き飛んだ先で爆発する。
『強すぎる……!』
そのまま潤沢な残弾を活かして残るMTを全て殲滅すると、 オペレータからBAWS工廠の奥へと向かうようにマーカーが設定される。
『ノイン隊長、その奥にもまだ敵反応が残っています。恐らく、SG監査部隊の先遣と言った所でしょうか。殲滅をお願いします』
「わかった」
工廠奥へ機体を進める。月明かりは数ある施設や重機、骨組みなどに遮られて、奥に行くほど暗くなっていく。そこにも数機のMTがこちらを待ち構えていた。SGのMTが携行する装備はレーザーガンにヒートブレード。純粋なBAWS製MTの強化機体と言って良いものだ。
『来たか…!』
『LC!頼むぞ!』
『コード31! 敵ACと交戦中! 応援を要請、コード78!』
MTを叩こうと一歩踏み出した時、彼らの後方にあった隔壁が開かれる。あの方向は増援では無い。つまり…。
『……なに!? コード5、ACが2機目!』
敵部隊の後ろから現れたのは、あまり見覚えのない機体構成のAC。しかし、その出で立ちにはどことなく練達の雰囲気を漂わせる何かがあった。
向こうのACから……正確には、そのACの飼い主が連絡を取り付けてくる。
「やっぱりあなたか、ハンドラー・ウォルター」
ウォルターの飼い犬、独立傭兵レイヴンが対AC用の重ショットガンを向けてくる。私も自ずとそれに応えるように、レーザーハンドガンを向けた。
『俺たち…いや、621とお前の間には、奇妙な縁があるらしい。この工廠に何の用がある?』
「少なくとも敵ではないと思うけど。私の仕事は監査部隊の排除、多分その様子なら目的は似てそうね」
『……良いだろう。621、協働して監査部隊を排除しろ。ケイト・マークソンの事はこちらで洗っておく』
ウォルターの言葉と共に、レイヴンの敵対するような動きが止まり、マーカー情報が伝達される。それは真っ直ぐ工廠の外へと繋がっていた。飛び上がり、外へ向けて2機共に飛翔する中、私はカタフラクトの事を思い出した。
「そうだ、外に特務機体がいる。カタフラクトと言うらしいけど……やれる?」
『カタフラクトか……621、並のACが勝てる相手ではない。心してかかれ』
『……ゔぇすぱー…9…心配、しない…で』
……杞憂だったと隠れて笑う。このレイヴンの実力は、二度も肩を並べた私がいちばんよく知っている。
もうすぐ工廠の入口に到着する。そこで───
『───たっ、隊長!』
部下のMT部隊からの通信が入る。ただ事では無い状況のようで、逼迫したような焦りを隠さない声色に、すぐに応答する。
『監査部隊の奴ら、こちらに気付いてます! 特務機体が……オペレータより情報が来ました! 型番は
「どうした? ……チッ」
部下の安否が知れず、レイヴンと違う航路を取る。どうやら三度目の共闘とはいかないらしい。
『僚機のエリア離脱を確認した。どうした?』
「部下が特務機体にやられた。悪いけど救援に向かう」
『…わかった。621、予定通りケイト・マークソンとの共闘になる。味方を上手く───』
距離が離れ、通信が遮断される。山岳地帯で待機していたMT12機は、既にその半数が倒されていた。マシンガンを向けて迎撃するMTを更に攻撃すると、エクドロモイはこちらに向き直る。
『親玉が来たか。 コード10、交戦する』
プラズマガンが横を掠める。咄嗟に横にクイックブーストして避けるが、弾速は並のレーザーライフルとそう変わらないらしい。牽制のようにミサイルが飛んでくる。
被弾を抑えつつ接近するにはとにかく前に進み続けなければならないが、それを阻むのが直撃すると大打撃は免れ得ないプラズマと、爆発力によりACS負荷限界を狙えつつ命中数にも期待できるミサイルだ。
『照合完了。V.IX……アーキバスのACか』
「チッ……!」
捉えるのに手こずっている。火力や搦手だけでなく、跳躍力と高出力のブースタによる高い機動性も備えているらしい。LC機体がAC並の戦力になるのだとすれば、この特務機体は文字通りAC以上の性能なのだろう。
プラズマガンの直撃を受けるが、爆心地から急いで抜け出す事で機体ダメージを抑える。ミサイルは切り返すことで誘導を振り切れるので回避自体は容易だが、プラズマは直進していれば必ず命中させてくる。爆発範囲もあるので地上に留まってはいられない。
だのに、このヴァンダーファルケは燃費がすこぶる悪い。一度余剰EN容量の中身を全てかっ食らうと回復までに1.3秒前後かかる。それも完全回復では無い。緊急補充で得られるエネルギーは容量の約3分の1。
『掠ったか…!』
ハンドガンとショットガンで応戦しながら有効打を加えるべく様子を見る。敵弾へ的確に対処できれば被弾は無いものと同じだが、そうすると攻撃する余裕が無くなる。
被弾しても即座に致命打とならない中量機体なら、ある程度無茶も利かせられるのだが…軽量機の欠点がここに来て浮き彫りとなっていた。
「くっ…!」
向こうの弾が尽きるのを待っている間に倒されそうだ。一気に敵以上の火力で仕留めるのが、上策だろうか。決めあぐねていたが、突然エクドロモイが前のめりに仰け反る。
『隊長、今です!』
『ぐっ、貴様…っ!!』
生き残っていた部下のうち1機が、グレネードキャノンを動き回るエクドロモイにぶつけたのだ。
それに好機を見出すと、レーザーブレードを展開して一気に踏み込み、横一文字に切り開く。エクドロモイを半分に焼き切ったと同時に、敵機は爆発して山間部へと転がっていく。
落ちていくエクドロモイを見届け、ほう…と息を吐く。
「ナイスアシスト…」
『光栄です、第9隊長』
腕の良いMTパイロットもいたものだ。今援護してくれたのは誰だろうか。それを考える猶予はあまりない。エクドロモイなどというふざけた火力を相手にこっちの機体はもうぼろぼろだ。
「とりあえず帰ろう。監査部隊自体はこれで殲滅した。残る方もレイヴンなら問題なく仕留めるだろうし」
『了解です、帰投します』
オペレータに輸送ヘリを手配してもらう。私みたいな軽量ACなら自分の脚で帰れるが、MTのジェネレータやブーストは貧弱極まりなく、足回りなど目も当てられないほどだ。
今回の功労者を相手に、そんな真似はしたくない。
独立傭兵と違って、仕事の無い完全オフの日は恨まれている相手から襲われる、なんて事が無さそうで安心する。ベッドにゴロゴロ寝転がりながらそんなくだらないことを考えていた。寝床が保証されているというのは、前線にに身を置く人間にはありがたい。
コンコン、と横になっているところにドアのノックが聞こえた。気怠い身体を起こしてドアを開ける。
「はーい、どなたですか…っと」
「私です、ノイン。ペイターです」
「ペイターでしたか。どうぞ中に」
「ええ、少し失礼します」
ドアの向こうにいたのはペイターだった。
「兵站管理が終わりましてね。もうすぐホーキンスさんもお越しになられると思います」
「兵站管理って、どんな事をするんです?」
興味本位から聞いた質問に、ペイターは苦笑いを浮かべながら答えた。どうやら気苦労の多い仕事でもあるらしい。
「食料や弾薬、兵器類の運輸状況の整理や、前線部隊の物資補給要請の受諾、指示……まあ、ホーキンスさんの補佐ではありますが、やり甲斐もありますよ」
「面倒そうですね」
呟いた後にしまった…と口を噤む。しかしペイターは嫌な顔をしなかった。
「これも上を目指すからこそですよ。下積みのようなものです」
「上?」
聞き返した私に彼はこくりと頷く。
「昔から面倒を見てくださったオキーフさんや、いつもお世話になっているホーキンスさんへの恩返しです」
ニコニコと微笑みながらそう答えるペイターは、今までで一番の良い笑みを浮かべていた。
そして、この話題に重ねるように更にドアが叩かれる。ホーキンスだろう。ドアを開き、客人を招き入れる。
「ホーキンスだ。ペイター君、ノイン君、いるかい?」
「ええ、います。どうぞ」
「ありがとう。失礼するよ」
私と目が合い、会釈しながらホーキンスは部屋に入った。最近はお互いに作戦行動やら仕事やらが続いていて、会う機会も無かった気がする。椅子に座った二人に、コーヒーを淹れた。
「ありがとうございます」
「おお、済まないね。いただくよ」
二人が口をつけるのを見計らい、皿を出してプレーンクッキーを差し出す。私も席についてフィーカを啜り、クッキーを頬張る。
熱いものを飲み込んだあとは、自然とため息がこぼれるものだ。殊更、汚染のせいで常に寒冷となるルビコンでは。
「温まるねえ」
「はい、私もそう思います」
仕事中では無いからか、ペイターが割と砕けた雰囲気で相槌を打つ。戦いを忘れているとまでは行かないものの、この瞬間だけは平和になったような気がする。
───何をバカなことを…。私は友人たち全てをかなぐり捨ててまで、アーキバスに降った。友人たちが死んでいるかもしれないというのに、私ばかりがこんな事を……。
「……? ノイン君、大丈夫かい?」
考えていた事が顔に現れていたらしい。ホーキンスは優しく心配してくれていた。ペイターも心配そうな目でこちらを見ていた。嫌な考えは忘れて、今を楽しむべきだ。私はもう一度フィーカを喉に流し込み…。
「んぶっふ!」
むせた。
名も無きMT部隊員
ヴェスパー部隊に従属するMT部隊の一員。
今次作戦では、第9隊長ノインの指揮下として戦闘に臨んだ。それなりに場数を踏んでいたらしく、高速で動き回るエクドロモイを正確にロックオンし、撃ち抜いてみせる手腕を見せた。
オペレータ
ヴェスパー部隊に従属する専属オペレータ。
ペイターが元の仕事に戻った理由。ノインがスネイルにとって役立つ人材たると本人の手によって証明したため、ペイターの代わりにオペレータである彼女がノインをサポートするに至った。