強化人間部隊ヴェスパーの9人目   作:ねむい

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CHAPTER 2
10話 海越え


 

 

 

 つい一昨日のことだ。

 コーラル収束による局所爆発の影響でベイエリアが消失して、まだ二日。だというのに、事態は驚くほどの進展を見せていた。

 

 爆発する事で宙に漂うようになったコーラル群、それにはある種の指向性があるのだという。群知能といって、バラバラの個がより大きな群へと集まっていく作用がコーラルにはあるらしい。

 

 それにより判明した事実がひとつ。

 即ち、コーラルの集積地点は、ベリウス西部よりも先に広がる巨大な海洋、アーレア海を越えた先にあるという“中央氷原”のどこか。

 

 

 

『──よって、我がアーキバスグループはアーレア海を越え、中央氷原に到達することを決定しました。よって今より名を読み上げられた者は中央氷原へ進駐。コーラル調査拠点を設け、後の本隊が安全に合流できるよう、敵対者を排除しなさい』

 

 

 

 ……という説明をスネイル第二隊長から受けたあと。

 

 隊長からそう説明された私達は、全員がそれぞれのACに搭乗し、更にそのまま輸送ヘリに揺られていた。

 ブリーフィングの内容としてはごく簡単なもので、アーレア海を越えた先の大陸である中央氷原のどこかにある集積コーラルを探り当てろというものだ。

 

 それなりに長い間コーラル調査に携わっていたというホーキンスが言うには、不可能な事では無いらしい。

 理由は前述したとおり、コーラルには群知能が備わっているからという事もあるが、それ以上に大体の地域での調査が既に終わっているため、この数ヶ月の間に調査ができていなかったのはベリウス地方と中央氷原のみだったそう。

 

 その状況に加えて、ウォッチポイント・デルタでの襲撃事件と、それが引き金で発生したコーラル局所爆発だ。

 流れ出たコーラルの行く先が特定でき、それが中央氷原が集積地点だろうという根拠となっていた。

 

 ベリウスで幾つか発見されたコーラルの井戸は、いずれ枯れて尽きてしまう残り物にしか過ぎなかったらしい。

 

 

 

 

 

 

 任務が始まるまでの海の上、丁寧な操縦に揺られながら端末でのんびり小説を読んでいた時の事だった。パイロットが先んじて上陸していた部隊からの連絡を受けたらしい。

 

『第九隊長殿』

 

「どうしたの?」

 

『先遣隊から情報通達がありました。ベイラムの連中、やはり腕の立つ傭兵を数人雇って先回りしていたようです。建設した資材搬入庫や前哨拠点等が襲撃されているようで、犠牲者も…っ』

 

 パイロットは苦虫を噛み潰したように低い声で伝達する。やられた先遣隊の中に友人でもいたのだろうか。MT乗りだったならば多少は仕返しも出来ただろうが、ヘリパイロットの身ではそれも成らない。

 

「友達がいたの?」

 

『…! …養成学校時代からの親友が…』

 

「そうか……。 親しかった人を喪う気持ちはわかる。仇討ちしてあげるから、今日は何か美味しいものでも食べて休んで」

 

 きっと無念だろうから、と。パイロットの端末にアクセスし、数コームほど送金する。端末にはパイロットの名と所属が書かれていた。

 私も親兄弟全員を一度に失っているから、その気持ちは痛いほどわかった。家族が死んだ時、ルビコン解放戦線の人間は名誉の戦死だとして、誰も手を差し伸べ、或いは守ってくれなかった。

 

 なら、ここで私が同じ境遇の彼に手を差し伸べてやりたい。ひとつの部隊を束ねる隊長という身分の上では勝手な振る舞いはできないが、部下のひとりに同情してやるくらいはきっと許されるはずだ。

 

『すみません…隊長…』

 

 パイロットの僅かな呻きと輸送ヘリのローターの駆動音、目的地に到着するまではもう、それらしか聞こえていなかった。

 

 

 

 

 

 

 

『──援を!繰り返す、救援を要請!!』

 

 どこかからか拾った、叫びのような救援要請で目が覚めた。直ぐにACのシステムを起動し、戦闘モードに切り替えられるよう準備する。

 

「こちらV.IX、何が起きている?」

 

『独立傭兵の襲撃です! 座標を送信、救援を───』

 

 マーカー情報が送られてきたと同時に、通信士からの連絡が遮断される。距離8,000、今からではもう間に合わないだろう。舌打ちをし、パイロットに降下準備を促す。

 

「聞いていた通りだ、用意を」

 

『はい、隊長! 発進準備が整いました!』

 

 後は機を見て降下するだけだ。

 距離……7,500…6,000…5,500………4,500…。

 

『降下まで40秒!』

 

 後部ハッチが開かれ、一面の銀世界がモニタに映し出された。しかし、すぐに目の前が爆発で照らされる。敵の傭兵からの対空砲撃だろうか。幸いにして直撃はしなかったものの、当たれば撃墜は免れ得ない。

 

『降下タイミング、5秒!!』

 

 ACと、ヘリとを繋ぐストッパーが外れる。前に少し移動してやれば、後は自然に落ちるだけだ。

 ブースターを強く吹かしてヘリから飛び上がる。

 

『隊長、ご武運を───』

 

 落ちる瞬間、ヘリからの通信はノイズで遮断される。振り向いた時には、炎と黒煙を吹き上げて墜落していた。

 

「…! くそっ…!!」

 

 死んでしまったら何もかもおしまいじゃないか。手前からおろし、安全に後退すればよかったのに、どうして……。

 

 そんな思いを振り払い、今は戦闘に専念する事とする。確認できるACは2機。オペレータからの通信が入る。

 

『ノイン隊長、敵機2機のスキャンが完了しました。一方はFランク、ランク圏外、ACパワードナックル。もう一方はEランク、ランク26。あの悪名高き借金王、ノーザークです』

 

「何が悪名高いの?」

 

『文字通り借金のです。独立傭兵らしく、各部パーツは様々な企業の製品でバランスよく纏められています。無名とはいえ何名かのACパイロットが返り討ちに遭っている事からも、腕はあるようです』

 

「了解。グレネードを撃ってた方は?」

 

『ランク圏外、パワードナックルの方です。手には何も持っていませんが、強力なグレネードを一門、パルスシールドを搭載していま───』

 

「それだけ聞ければ充分!」

 

 あのパイロットは職務に忠実であっただけ。それでも私の部下だ。落とし前はつけさせてもらおう。

 

 アサルトブーストの推力を以て、ACへと高速で近付く。距離が2,000を切った事に加え、短距離通信を利用していたのだろう、混雑した無線から敵ACの会話が聞こえてくる。

 

『来るぞ、ブロッカー君! 君が前に出たまえ!』

『ふっざけんじゃねぇ! てめぇが前に出やがれ、クソ借金王!』

 

『そちらこそふざけないでもらおう! 私の機体に傷がつくという事はだ、私の積み上げてきた信用そのものにも傷がつくという事だ! そんな事を容認できるわけがないだろう!』

 

 訳の分からないやり取りをしているうちに眼前まで到着する。手始めにレーザーライフルをチャージし、収束させたレーザー光弾を両手フリーの怨敵に当てる。

 

『ぐっあ!? 来てんじゃねえか、クソが!』

 

『これは……ヴェスパーか、相手が悪いな』

 

 ノーザークが少し引き気味にレーザーハンドガンとバーストライフルを撃ってくるが、さしたる脅威でもない。目の前のACのグレネードキャノンにだけ気を配っていれば、あのレッドガン部隊と殴りあった時に比べても全く恐れることは無かった。

 

『クソ、こいつ速えぇ……おいノーザーク! 援護を──って!!』

 

『ハッハッ! 一流とは、引き際を弁えているものだ! ブロッカー君、その点においては君は二流だな。失礼させてもらおう!!』

 

 目の前のACが援護を要請した時には、ノーザークのACビタープロミスは既にかなり遠くへと逃げていた。その徹底ぶりたるや、脇目も振らずという言葉が可愛く見えるほどに。

 

『逃げんじゃねえっ、クソ野郎ォッ!!』

 

 見捨てられたこの男には多少の同情もあるが、それでも部下の仇には他ならない。

 

「お前は隼の住処をつついたのよ。命で贖え」

 

 拳とグレネードが取り柄なだけのACなど、道端の石ころも同然だ。そのままレーザー二種による圧力を加えていき、スタッガーに持ち込んだところでハンガーからレーザーブレードを取り出して前方へ推進、上下に両断するかのように横へ向けて薙ぎ払った。

 

『ちっ…くしょう……!!』

 

 それでもACの戦闘能力を奪うに十分以上だった。敵機は膝を折って倒れ、そのまま爆発する。

 

 ノーザークに関しては、まあいいか。

 生き残った人がいないか、短距離無線で無差別に通信する。

 

「……生存者は応答せよ」

 

『こちら調査拠点輜重部、以下11名…救援に感謝する』

『第九隊長殿ですね? こちらは研究調査班です。おかげで助かりました』

 

 結果、死亡したのはほとんどが戦闘要員やMTパイロットなどで、事務員には被害がさほど見られなかった。かなりの破壊行為を行われていた割には生存者が多い事も考えるに、避難用に前もってシェルターか何かを作っていたのだろう。

 

 助かった命が多かったことに安堵した。

 だけど、それは私のおかげではない。私を状況へ迅速に対応させるため危険を冒してまで突入したヘリパイロットの判断が正解だったからだ。

 

 

 

 

『───こちらはヴェスパー第二隊長、スネイル。各職員は通常業務に戻りなさい。失った人員の補填は追って行います。繰り返す、こちらはヴェスパー第二隊長────』

 

 前線で失われた命を“補填”する。にべもなくそう簡単に告げるスネイルに、少しばかり嫌気が差した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 最近、義足の調子が良くない。義足が、というだけではない。心がしんどいというか、とにかくそんな感覚がずっと付きまとっていて、全体的に身体が動かしにくい感じがするのだ。

 

 それは結局、中央氷原にやって来て二日立った今日も変わらなかった。難しい事務仕事はできないので、私がすることといえば近づいてくるベイラムの戦力を排除したり、MTパイロット達を相手にVR訓練をするくらいなものだ。

 

 しかし、仮眠を摂ってみても、気晴らしに体を動かしても、空気を入れ替えてみても体調は優れない。

 

「第九隊長殿」

 

「入っていいよ」

 

「はっ、失礼します」

 

 入ってきたのは秘書官のベック。オペレータが戦闘中のサポートを務めるのだとすれば、彼は専ら私がやるべき事務作業を担ってくれる人だ。ベックはいくつか書類を纏めてくれたらしく、私が座る椅子と、その机の上に書類を置いた。

 

「隊長自身の確認が必要な書類を纏めました。確認とサインをお願いします」

 

 

 一枚目は、戦闘で破壊された施設の修繕に必要な資材の搬入要請。これはもちろんOKだ。サインをして提出する。

 

 二枚目は、フロイト第一隊長からのVR空間における模擬戦闘訓練の依頼……何してるんですかフロイト隊長。

 依頼報酬は───450,000コーム!? ……どれだけ付き合わされるかは分からないけど実入りは多い方がいいだろう。渋々サインをする。

 それを見たベックはこいつマジかと言わんばかりの驚愕を顔に出す。余計なお世話だ。

 

 三枚目は、調査部隊が時折遭遇する、稼働中の所属不明MTに対する戦力の補充要請。これもサインをする。

 

「所属不明MT?」

 

「ええ。なんでもパルスシールドにブレード、ガトリングガンを装備し、バリエーションの豊富な機体が少数からなる部隊を形成…我が方の調査部隊に攻撃を仕掛けているそうで」

 

「どうにかできてるの?」

 

「犠牲は多いようですが、無力化も充分可能だとのことです。人員補充の件は…」

 

「する。手が空いてる人は全員向かわせて。こんなところで失うのが馬鹿らしいぐらいの貴重な人員よ」

 

 サインをし、提出する。

 

 

 

 

 結局二十枚ほどが私の検討が必要な書類だった。その全てにサインをし終えた私は、まだ少し休みたいのでベックに人払いをするよう頼み、静まった後に眠る。

 

『──ほっ、報告! 惑星封鎖機構が…封鎖機構の強襲艦隊が襲撃してきました!!』

 

 …眠りたかったのに。

 仕方なしに、私は敵戦力迎撃の為にガレージへと向かうのだった。

 

 

 







 ブロッカー
 AC、パワードナックル
 ランク外の独立傭兵。安価なBAWS製フレームに身を包み、強力なグレネードキャノンを購入するも、金欠の為手持ち武器に手が伸びず、適当な依頼を受けて回ることで金を稼いでいたところ、戦闘中に増援として現れたノインに排除された。


 ノーザーク
 AC、ビタープロミス
 下位ランクに収まる程度の腕の独立傭兵。借金王の二つ名でも知られるほど独自の金銭感覚を持っており、その借金を踏み倒した上で買い揃えたパーツで組まれた機体を“信用の拡大”と嘯く。借金取りや、それらのけしかけるACを撃退する程度の腕はあり、それが彼をより一層厄介な存在たらしめている。文字通り実力で踏み倒せてしまう事こそが、借金王たる所以。



 ベイラム・インダストリー
 独立傭兵レイヴンが行った独自のルート開拓を利用し、比較的安全に中央氷原へ進出。戦力の移動もある程度は完了している。

 アーキバス・コーポレーション
 複数の調査部隊の犠牲を経て安全なルートを開拓。中央氷原への進出に伴い、ヴェスパー隊長ラスティ、ホーキンス、メーテルリンク、ペイター、ノインら五名とその直属部隊を駐屯させている。

 ルビコン解放戦線
 未だ動きは無し。

 惑星封鎖機構
 ヒアルマー採掘場における襲撃を受け、中規模の戦闘を継続していたアーキバス所属MTと独立傭兵レイヴンと交戦。その後、何らかのトリガーを引いた事で本隊となる強襲艦隊を配備・出撃させた。



 ヘリパイロット
 名も無きパイロット。ノインの部下だった。親友が死んだことでノインに仇を討って欲しいという思いによって、危険なエリアまで突入しての強襲降下に至った。グレネードキャノンによる直撃を受け、生死不明。

 ノイン
 体調の悪化を隠し、出撃を続ける。部下を受け持つようになってから、少しずつ他者に心を許し始めているが、実働部隊という立場上人員の入れ替えと人死が激しいことに、心を痛めてもいる。

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