強化人間部隊ヴェスパーの9人目 作:ねむい
銃口から、最後の一発が放たれた。
レーザーの青い光条はLC機体を貫き通し、破壊させる。エネルギーの尽きたレーザーハンドガンをパージし、ハンガーからブレードが取り出されて自動で装備される。
二時間。
その間ずっと惑星封鎖機構の猛攻に晒され続けたヨルゲン燃料基地は、既に戦力の過半を失っており、それはヴェスパー直属の部隊であっても同様だった。
『敵、第五波接近!』
強襲艦が更に二隻迫り、拡散レーザーを無造作に照射しながら、こちらが制圧されて物陰に隠れた隙にLC機体やMTを複数機投下してくる。
『またLC機体が降りてくるぞ!!』
『クソッ、こんなところで死ねるか!』
パイロット達が削り合いを続けていたが、限界が近付いていた。半数以上の仲間がやられれば士気も下がり続け、既に何人も戦場から逃げ出した機もいる。それでもなお残った者が戦い続けているのは、ひとえに立ち上がり続けるノインの姿があるからだ。
『隊長! もう…これ以上は!』
「他のエリアでも戦闘が続いてる。ここで戦わないと、どの道生き残れない!」
『取り付かれた! 援護を───』
また一機、MTがやられる。既に防衛の要となる四脚MTは全て破壊されており、主要の敵戦力を惹き付けつつ味方MTが敵の汎用兵器やMTを破壊していく、まさに泥沼の合戦だ。
いくつもの敵を倒してきたが、主力兵装のレーザーハンドガンは既に弾切れしていた。
レーザーライフルも、もうすぐ弾が切れてしまう。そうなれば残る装備は副兵装となるレーザーショットガンとブレードのみになってしまうだろう。
被弾を避けたい現状では、近接戦闘でしか効力を発揮できないそれらのみになってしまうのは避けたかったが、そうも言っていられない状況だった。
味方部隊の増援が来てくれる、そう部下達を鼓舞し、ブレードで射撃型LC機体を破壊する。地上に降りてきた戦力は、ACがあれば対処自体は可能だ。だが、それをさせてくれないのが強襲艦の存在だ。
強襲艦に付きっきりになると、敵の地上戦力に味方MTは撃破されてしまう。かといって強襲艦を放っておくと、今度はミサイルやドローンやらの支援攻撃で確実に痛手を被る。
二者択一の決断に迫られ、より犠牲が少ない方を選ばなければならない。味方MTは再編し陣形を構成してはいるものの、LC機体単機の突破力が高いことも相まって殲滅目前だ。
選んだのは、MTの殆どを犠牲に強襲艦を破壊する苦し紛れの策だった。LC機体を味方に任せ、脇目も振らず強襲艦へと肉薄する。
そして、戦線を支えることの出来る戦力は今の友軍には無い。敵機が押し寄せてくると、いよいよ部下を後退させることしかできなくなった。
「各員は橋梁まで後退!私が戻るまで持たせて!」
『どうか、頼みます……!』
ミサイルの弾幕を掻い潜り、主砲の直撃を避け、艦橋の眼前に到着する。飛び上がってレーザーショットガンで砲台を全て潰す。
ブレードによる斬撃で艦橋を破壊する。エネルギー制御が不可能となった強襲艦は、ゆっくりと墜落していく。
これで攻撃してきた船は、その片方が落ちた。
艦橋から離れるように飛び上がり、味方を攻撃する強襲艦の二隻目を落としに行く。
流石に続けて飛んでいれば、ENも尽きる。宿り木のように崖際に止まる事でエネルギーを回復させ、引き続き二隻目を目指す。
ミサイルによる攻撃が止まないものの、ここは上空ではない。足場や遮蔽物を使えば、いくらでもやりようはある。
ミサイル弾幕を全ていなしたノインは、そのまま二隻目の艦橋に取り付き、破壊しようとする……。
しかし、自機システムから受けた警告音に反応して咄嗟に飛び退いたせいで、艦の破壊は成らなかった。艦載グレネード砲による警告で一瞬の気を逸らした敵が次に繰り出してきたのは、無数のレーザードローンだった。
正確にはレーザー兵器搭載型無人攻撃機、とでも言うのが正しいんだろうが、鬱陶しいという点では変わりない。
もちろんその数は有限だが、いちいち相手にしていては弾などあっという間も無く尽きる。だから巻き込む。すぐに艦橋を破壊すると、致命的なダメージとなるグレネードの直撃だけを避け、爆発する艦の上空に留まり、接近するだけの単純なAIしか組まれていないドローンを誘引し、そして自分だけが退避した。
ドローンは艦の爆発に巻き込まれ、諸共吹き飛ぶ。
強襲艦自体は全て破壊できた。だが、奴らが投下したLC機体やMTは未だに交戦を続けている。
アサルトブーストを駆使してLCの一機に手早く接近し、機体質量を載せた蹴りで体勢を崩す。そのままレーザーブレードによる一閃で両断した。
『隊長、味方の反応です!』
「ようやくか…!」
レーダーを見てみれば、遠くから一機が急速接近し、その更に後方ではMTが隊列を形成していた。となると、この接近してくる味方機は…!
『ノインっ! 悪い、遅くなった!』
「トーマス…無事で良かったよ」
封鎖機構主力との交戦開始時点では、ノインとトーマスの双方は全く違う地点にいた。ノインはヨルゲン燃料基地に、トーマスはそこから離れたアーキバス調査拠点、バートラム旧宇宙港に。
同時に攻撃を受けたが、トーマス・カークが自身の給与口座から独自のルートで独立傭兵の部隊を雇って防衛に当たった為、被害は軽微で済んだという報告があった。
それが、第五波が襲撃してくる直前。
今このタイミングでの増援は、まさに渡りに船だった。
トーマスのACカラーレスは、武装や内装を一新していた。青く輝く燃料噴射口に、肩に背負われた一本のレーザーキャノンは、火力を前面に押し出す彼の戦い方と相性が良かった。
その為により効率的な敵の撃破が可能だったという点も、彼のバートラム防衛成功に寄与していたというべきだろう。
そして、その戦闘能力は連携の取り易いノインとのタッグで発揮された。
ノインが撹乱、トーマスが火力投射。
高い攻撃能力と装甲を併せ持つトーマス機が敵を狙いやすいよう、自身のACにLC機体の目を釘付けにする。そうして連携し攻防一体となる二機のACによる機動射撃戦は、恐らく破れる者はいないだろう。
そうしてLC機体は破壊される。敵による火力の集中から解き放たれた友軍機MTが、敵のMTへマシンガンやミサイルで一斉攻撃を仕掛ける。遮蔽物から乗り出し、橋の先端まで追い詰められていたMT部隊は敵部隊への攻勢をかける。幸いにして弾薬は有り余っていたらしく、使い切る勢いで乱射していた。
反攻に転じるV.IX直属部隊は、現下敵部隊を制圧中だった。
後続のMTが地域制圧に赴いたことで、やがてこのエリアでの戦闘も終了するはずだ。少なくともこれで近隣の安全は確保できる。
「…はぁ」
また書類仕事が増える──と言ってもさっと目を通してサインをするだけの簡単な仕事だが──と、ノインはため息を吐いた。全て秘書に任せたい気持ちもあるが、彼とノインとでは権限に差がある。
負担軽減のためにも、やることはやっておこう。
「しかし、驚いたね。まさかスネイル第二隊長が直接来るとは思わなかった」
「まぁ俺達の部隊は特に消耗が激しかったらしいからな。兵器鹵獲も視野に入れてるんだろ?」
「うん。第二隊長が今後の議題に戦力の向上を挙げてて、一番直接的な方法として兵器鹵獲を想定してたらしいから、多分それで視察に来たんだと思う」
寒冷地の刺すような寒さに震えながら、体を温めるようにフィーカをする。甘いチョコクッキーでざらついた舌を熱いコーヒーで洗い流すように、ゆったりと熱さに慣らしていく。
テーブルの向かいでは、トーマスがミールワームのステーキに齧り付いている。懐かしい料理ではあるが、クッキーの甘さを知ってしまうと流石に食指は進みそうになかった。
「んで───コーラルは運び出せてるって話だったけどよ。どうなんだ?」
外では補充要員として詰めていた後詰の人員が派遣されており、密閉された容器の中にコーラルを詰め込んでヘリでの輸送準備を整えている。私達は夕方……つまり今から一時間もしない内に、ヴェスパーの中央氷原駐屯基地に出頭の予定だ。既に部下のMTも向かっていて、私達が最後だった。
「まあ、想定量に比べると圧倒的に少量だけどね。それでも決して少なくない量って聞いてるよ」
「ふ〜ん……なぁ、ノインはよ」
トーマスが最後のひときれを飲み込んで、改まって向き直る。
「コーラルを見つけて上位の隊長になったら、金も権力も手に入る。そうして何をしたいんだ?」
「何を? 何って……なんだろ」
確かにコーラルを発見すれば勲章と一緒に上位隊長という地位も貰えるだろう。
だが、その先……何をしたいかなんて思い浮かびもしなかった。確かにお金は手に入るだろうし、ヴェスパー上位ともなれば、下位中位の隊長を使ってある程度自由に動かしもできるようになる。
でもアーキバスの中でだけだ。それに、その権威が何時までも続くとは思えない。何より私を採用したスネイルに背く事にも……?
「ん……、なんか…わかんないな。まあ、ある程度やりたい事は出来るようになるでしょ。今できることは頑張る事だけかな」
「そうか。いや、それならいいんだ。ふと思ったんだよ、もしかしたら金とか力を手に入れたら、どっかに雲隠れするんじゃねーかって。でも杞憂だったかもな」
トーマスが窓の外を見る。私も同じように見ていれば、外を歩くのは封鎖機構のMTやLC。しかしそれらはもう味方だ。鹵獲された兵器を転用し、アーキバス製ACジェネレータの廉価品を載せることで、低コストで運用可能としているらしい。
既にいくつかの機がアーキバス先進開発局に送られ、技術解析も始まっているそうだし、ベイラムとルビコニアンはより一層の苦戦を強いられる形になる。
…それにしても──
「夢か」
「ん?」
「いや…考えておこうかなと思ってさ。やりたい事。 ──あっ、逆にトーマスは何かあるわけ?」
「俺の? 俺は……そうだなぁ、せっかくここまで生き延びて来たし、どうせならログハント報酬とか全部頂いてみてえな」
「ログハントって?」
「あぁ、傭兵じゃないから知らないのか。ルビコンだと傭兵は《オールマインド》っていう傭兵用支援システムに加入するんだけどさ、そのオールマインドが欲しがる戦闘ログを持っている奴を倒せば報酬が手に入るんだよ。
最近のミッションじゃログハント・プログラムにハマっててさ、腕と…脚………ああ、あとバズーカ! これが弾薬費は馬鹿にならないけど強いんだよなぁ」
そう言いながら端末の画面を見せてくる。そこには今までオールマインドに譲渡した戦闘ログの個数と、ランクの高さが表示されている。赤、青、黄色、白……というふうに上昇順で得られるポイントが増すようで、黄色を1、青を4、赤を15個獲得している。
黄色はCランクまでのアリーナランカーが該当するらしい。
「……え? ということはランカーAC倒したことあるの!?」
「おぉ、六文銭とかいう独立傭兵をな。二機がかりで攻めてきた上に連携の取り方も上手かったせいで片方は逃がしちまったけどな。もう一ヶ月ぐらい前か?」
六文銭。アリーナデータベースにはそのような名前が見当たらない。死亡が確認されてから時間が経つとアリーナデータベースから抹消されるようだ。これは密航してくる傭兵がズルをしない為だろうか?
「へぇ、2対1で勝ったのね……強くなったね」
「あったり前よ、もう凄い数の実戦を積んでんだ、並のやつにゃ負けねえぜ」
そう豪語するトーマスのアリーナランクは、出会った時が26/Eで、今が22/D。確かにこの辺りに名を連ねている人間はスウィンバーンやホーキンスなど、実力を持つ者ばかりだ。
「え、スウィンバーンとメーテルリンク抜かしてる?」
「ああ、追い抜いた!」
隊長の立場が危ぶまれる…。
そんな失礼なことを考えていた矢先、トーマスが二人を擁護するように補足した。
「あーいや、違うんだ。ランキングの算出方法が特殊みたいでよ、前にそんな戦ってないのに高めのランクだった奴もいたぐらいだ。だから単純な実力には因らないと思う」
「ああ…なんだ」
てっきり二人を追い抜かすほど強くなってたと思ったのに……いや、でもそれで独立傭兵二人相手に戦って片方撃破、もう片方を撃退したとあれば十分のはずだ。
それはそうと気になっていた事がある。
「ところで、これって私は登録されてる?」
「おう、されてるされてる。確かこの前消えてた独立傭兵の枠に収まってたな。えーっと……あ、あったあった」
───V.IX ノイン。AC// ヴァンダーファルケ。
15/C。
「確かスッラとかいう奴がいたんだよ。バッタリ話を聞かなくなったと思ってたけど、死んでたとはなぁ」
スッラという男がここにいたのだろう。そして死亡し、ランクインした。しかし最初からランク15などということがあるのだろうか?
これではペイターにスウィンバーン、メーテルリンクどころか、ホーキンスまでもを抜かしている形になる。
「相対的な強さじゃないかって言われてる。ランキングに乗らないFランカーの間でも噂されてて、なんでもオールマインドが一定以上の脅威と認識する事でランクが上がるって話だ」
相対的な強さ。
私は着実に力をつけているんだ。それが自信にも繋がったような気がした。
ノイン
何故か消えていた独立傭兵スッラの後釜に座るようにアリーナへとランクイン。ランクは15/C。
トーマス
確実に能力が高まってきている。現在は22/Dで、近いのはレッドガン五花海やスウィンバーンとなる。