強化人間部隊ヴェスパーの9人目   作:ねむい

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CHAPTER 3
12話 脱落


 

 

 

 

 

 

 

 最近体の調子が優れないなとは思っていた。けれどそれは一時的なもので、すぐに良くなるものだと考えていたのに。

 

 

 

 

 

「お疲れ。ノイン隊長の容態は?」

 

「お疲れ様です。スキャニングの結果ですが、やはり適性を無理矢理引き上げたことで免疫が低くなっていたようです。術後間もなくウイルスに侵入されて潜伏していたらしく、同時に合併症も見られますが…こちらの方がより深刻でしょうな」

 

「ああ、了解した。隊長は私が見ておくから、君は今のうちに休みたまえ」

 

「ありがとうございます、失礼します。 それとトーマス。この方も先生だから、言うことを聞いて指示通りにな」

 

「わかったよ…もうぶり返さないでくれ」

 

 

 

 苦しみと眠気に抗っている中で、先生…つまり医者が交代された。がっぺいしょうとかいう病気か何か。そのせいで私は今苦しい、そう話していたように思う。

 

 苦しくてずっと口を開けて喘いだせいで喉が渇いた。

 

「うぅ…みず……」

 

「ほら、落ち着け……飲めるか?」

 

 目の前で霞むように揺らぐコップを捕まえようとするが、残念な事にコップに逃げられて掴むことができなかった。

 トーマスが私の体を起こして水を飲ませようとしてくれたのはわかるが、何故か体が受け付けてくれない。

 

 水を吐き出し、そのまま胃の内容物まで嘔吐する。

 …最悪だ……。

 

 服から悪臭が漂い、じっとりと湿り気を帯びてくる。交代で来る医者に衣服を取り替えてもらっている間、トーマスが背中を向けてくれた。

 

「……がっぺい、しょうって…なに…」

 

 聞いた事のない単語が脳裏から離れない。

 

「そんな事は後でいいだろ? 今はゆっくり休めよ」

 

「そうですよ、第九隊長殿。軍人は身体が資本、スネイル閣下に捨てられてしまいますよ」

 

「うう…それは、いやだ……」

 

 確かに身体を休めなければ戦うことも出来ないし、戦えなければ第二隊長に捨てられる。解放戦線に居場所が無い以上、こうしてアーキバスに与するしかないのだ。その繋がりが断たれるような事態を招くのはまずい。しかし、体調を崩した事で戦闘行動が困難となってしまっているのも事実だった。

 

 止むことの無い苦しみに、やがて意識は落ちた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 場所はバートラム旧宇宙港。

 

 一機の灰色をしたACを囲むように、数々のMTが倒れていた。

 その武装は多種多様に及び、通常のMTのみならず、BAWS四脚MTなど多くの大型兵器が攻勢をかけ、レッドガンACこそ来なかったもののベイラムに雇われた独立傭兵のACさえ攻め寄せてくる大攻勢であった。

 

 大方、バートラムを取る事で封鎖機構やアーキバスに対して優位性を保ちたいというベイラム本社の考えだろう。

 

 昔に独立傭兵の仲間から聞いた話だが、ベイラム専属AC部隊であるレッドガンは、そのほとんどがナイルの拾い物で構成されていて、その中には元々ファーロンにいたというミシガンも含まれているらしい。

 そしてその肝要のミシガンがルビコンでの戦闘に消極的な為、本社からの強制命令という形で侵攻が進んでいるのだとか。

 

 その話が本当か、はたまた嘘かは測りかねないが、もし真実だとすればミシガンも副長ナイルも困った上層を持ったものだと憐憫を覚える。

 なら、その脆弱さが唯一の付け入る隙だ。

 レッドガンの結束はミシガンの下に寄ることで非常に固いのだが、ベイラム本社とは意見が対立しがちらしい。故に、ミシガンは虎の子ACを出し渋る事も多い。

 

 例え寄越すとして、それは全体的な戦闘力に優れるイグアスや、正面火力に比するもの無きヴォルタ、或いはミシガンやナイルのような強者ではないだろう。

 こんな……安価なBAWS製旧型ACに身を包むような、木っ端の雑兵ばかりだ。

 

 

 

『これで全てのベイラム戦力、及び独立傭兵を排除しました。お疲れ様です、トーマス()()

 

 警戒を解き、戦闘によって発生した被害額を計上する。被弾は最小限に抑えられたものの、弾薬の消耗が激しく、二度に渡る補充の合計を計算するだけで嫌になりそうだ。

 だが、それこそが傭兵となった身分の人間に課せられる仕事なのだ。それも一生物の、である。

 

「しめて120,360コームか…嫌になるな。 ベイラムの奴らめ、俺の財布を消耗させる作戦ってわけか」

 

『それはないと思いますよ、代理』

 

 冗談の通じないオペレータにジョークを飛ばしつつ、帰投準備を始める。と言ってもやることは周囲のスキャンによるクリアリングだけなのだが。

 

 スキャニングが完了し、敵の殲滅を改めて確認する。その辺もオペレータが居ればその人に任せて帰れるらしいが、彼女はノインの専属で、俺のことは代理として簡易的なサポートに留めるのみだと前以て説明されていたので仕方ない。

 

 仕事が終わったなら、あとは帰るだけだ。

 軽量級ACならそのまま直接飛んで帰っても良いのだが、比較的重量があり、かつ重厚なBASHOシリーズフレームに相応の重武装を搭載したこの機では、自分の脚で帰るとなるとかなりの時間がかかってしまう。

 

 暫く暇だ。

 

 金を稼ぐという意味でも、敵を減らしておきたいという意味でも、こういう時間は極力減らしたいものだが、これは仕方ない事だ。同じ人間は同じ時間に、別の場所で存在できない。シンプルかつ当然の事実である。

 

 

「しかし、ノインのやつはまだ元気にならねえのかな」

 

 その独り言に誰も答える者は無く。

 静かになった調査拠点に、不穏な影が迫っていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 目が覚めても体の不調は改善しそうになかった。注射器で色々体に効く薬を投与されたりしたおかげで、これ以上段階的に悪くなるような事はなかったけれど、それでもACに乗って戦うような真似は出来そうにはなかった。

 

 専用の機材が幾つも並ぶ病室で、私の意識は朦朧としつつも何処か冷静に思考ができている。まるで主となる頭とは別の、二つ目の頭があるように。

 

 …我ながらなんて気持ち悪い例え方だろう。ふつう、頭は一人につきひとつだ。

 

 けれど、この例えもどこか的を射ているように思える。具合が悪いのは紛れもない事実だ。けれど、今は頭の中にある今後のプランがスラスラと羅列されていた。

 

 今後はどうしようか、その次は何をしようか、そんな他愛もない、アーキバスの事などなんの関わりもない事ばかりだ。

 

 例えば、みんなに会いに行きたい。ツィイーにアーシルにメッサム。友達のメーテルリンクを連れて行ってみたい。私の友達だよ、と紹介してみれば、もしかしたらみんなで遊べるのかも。

 そうなったら、きっと素敵なんだろうな。

 

 みんなのいる、私だけの幸せな世界を胸に、また少し眠った。

 

 

 

 

 

 

 

 扉を開ける音と共に、男の声がした。

 

「失礼する」

 

「……ああ、スウィンバーン。会いに来てくれたの?」

 

 入ってきたのは我らがヴェスパーの第七隊長だった。冗談をひとつぶつけてみれば、少し息を荒らげて目の前のスウィンバーンは否定した。

 

「断じて違う、業務報告だ!

 ……お前、ずっと寝ていてメッセージを見ていないだろう? スネイル閣下がわざわざ私に言伝をと頼んできた程だから、相当だな」

 

 ふんっ…と勝ち誇るように笑いながら、少し垂れてきた黒い前髪を乱雑にかき上げつつ私に端末を見るよう促してくる。言われるとおりに見てみると、二つほど未読のメッセージが届いていた。

 

 ひとつは、トーマスが私の代理として活動する旨。

 

 もうひとつは、私に施された強化人間手術を再施術し、世代を更新する事の案内。

 

 特に二つ目の世代更新に関してのメッセージは、かなり重要だと言わんばかりにタイトルに《必読:強化人間施術による世代更新の案内》と書いてある。

 

「世代更新って?」

 

「なにっ!? ノイン、貴様まさかそこまで優遇されているのか? このスウィンバーンでさえ第8世代型への転換手術の打診が来ていないというのに、貴様には来ているのか!?」

 

「うん。メール見る限り、第8世代から第9世代への転換みたい」

 

「しかも私より1世代上だと…? それは許せんぞ、ノイン!貴様と私では何が違うというのだ…!」

 

 スウィンバーンの先程までの笑みは消え失せてしまい、明らかな敵対心が向けられてきた。髪を掻きむしりながら端末を持って画面をポチポチと触っている。ブツブツ呟きながら、おそらく文字を入力しているところを見るに、多分スネイル隊長へ自分も第8世代に転換したい旨を提案しているのだろう。

 

「…よし! 我ながら非常に良い出来栄えだ。閣下もこれで私という貴重な戦力のひとりをより高位の存在へと昇華させて下さることだろう。 ノイン、見ておくがいい、このスウィンバーンがより一層の力を手に帰ってくる様を! ───おおっ、もう返答が来たぞっ!」

 

 そう言って嬉しそうにメッセージの内容を目で追っていっていた様子も、何やら不都合な事と一緒に書かれていたようで嬉しそうな顔をしたと思えば落ち込んでもいる。器用な人だ。

 中身を覗き込もうと起き上がってみる。

 腕を支えに上半身を起こしてみるが、その腕に力が籠らなくて滑ってしまった。肩を機材にぶつけて少し痛めた。その音でこちらを見たスウィンバーンは、心配とは程遠そうに話しかけてくる。

 

「! …ノイン、まだ動けんなら無茶はやめておけ。逸る気持ちはわからなくもない。だが、隊長のひとりとは言えお前はまだ子供だ。

 このスウィンバーンがお前の分も成果を挙げてやるから、後から追い上げてくるのだな」

 

 そう言いながら彼は部屋を出ていく。去り際に、またベリウスで仕事が出来たからな、そう言い残していった。単純な戦闘能力でしか動けない私と違って、スウィンバーンには様々な業務をこなす能力があるんだろう。少し羨ましい。

 どうせなら、もっと高い地位を狙ってみたいものだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 目の前が明るい。手術室まで移送されて、今は手術台の上で光に照らされている。数人の医者が私を囲んでいた。

 

「よし、施術を始めるぞ」

 

「第九隊長に執刀するのは久しぶりですね」

 

「そう──いや……スネイル閣下とこの子が特殊なんだ。オキーフ隊長も元は第2世代だったと聞く」

 

「あの方が? 知りませんでしたよ」

 

「俺が執刀医だったからな。技術的に可能とはいえ、第2世代から第9世代への転換手術なんぞ初めてだったものだからな。いやに緊張したのを今でも思い出す」

 

 

 

「───あの」

 

「どうしました、ノイン隊長?」

 

「手術とか、怖いのと痛いの嫌なので早く手術してほしいです。ほんとにお願いします…」

 

「おお、これは申し訳ない。では、始めようか」

 

 麻酔が投入されて、私は一瞬で昏倒した。

 

 

 







 第9世代型強化人間
 被施術者としてはオキーフが該当する。コーラル管理デバイスを要さず、代替技術によって高度な機体制御能力と柔軟性を揃えた第7世代型以降の新型強化人間は、企業の資本によって初めて本格的な研究と軍事運用が可能になったという過去も手伝って、旧世代型を含めた際の相対数はかなり少ない。

 ノイン
 コーラル代替技術の施術による合併症を引き起こして倒れた。これには元々の身体が、体力の少ない未成年女性のものだったからという理由が大きいと推察された。

 トーマス・カーク
 第九隊長の代理人として活動中。

 トーマスのAC
 レーザーキャノンが主力となる。フレームはBASHOフレームシリーズから変更されていないが、ジェネレータが出力の高いVP-20Cに変更されたことで高い汎用性と共にEN射撃兵装への適性を得る。
 バーストマシンガン、パルスブレード、連装グレネードキャノンで基本を固め、レーザーキャノンを用いた火力の高い射撃は、汎用性のみならず突出しての火力投射能力にも恩恵を齎している。
 ブースタもまた、BAWSのものからシュナイダー製中量機用ブースタ、FLUEGEL/21Zへ換装され、上下機動への高い適正を得た一方、ブレード展開時の推力には劣る。

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