強化人間部隊ヴェスパーの9人目   作:ねむい

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 2話と3話の間に挟むための小話です。
 軽い日常回のようなものです。





2.5話 ヴェスパー第4隊長と第2隊長

 

 

 

 

 せっかくの休日だった。休むだけなのも何だか勿体ないと感じていた私は、ただ行く宛ても無く宿舎の廊下を歩いていた。宿舎はヴェスパー隊長やその直属の部下が宿泊の為に用いる施設だ。

 

 それにしても、身長が低いせいで道行く人ほぼ全員に迷子と間違えられるのが悔しい。もう子どもじゃないが。

 

 そうして歩いていると、ペイターと鉢合わせた。書類を幾つか脇に挟んでいて、どうやら書類を運ぶ最中らしい。それでも緊急の用事ではなかったのか、足を止めて挨拶をしてきた。

 

「お疲れ様です、ノイン。何か用事ですか?」

 

「ペイター。いや、特に何も無いです。暇だなと思って」

 

 正直に言う。別に隠すものもない。

 

「ふむ、暇ですか。 ……そうだ、そういえばノインはまだ、第4隊長殿と言葉を交わしたことが無いのでは?」

 

「……言われてみれば、確かに……そうですね」

 

 V.IV ラスティ。その実力は第1隊長フロイトにさえ食らいつくほどの腕と称されている。

 能力の高さ、任務遂行率の高さ、そのふたつが合わさっているラスティは、ヴェスパーという最高戦力の一人に数えられるだけある全体能力の高さを持っていた。

 

「ラスティはどこにいるんですか?」

 

「そこの私室です。疲れているご様子でしたが、多分話くらいは出来ると思います」

 

 ペイターはその部屋を指差すと、では私は用があるので、と言って廊下奥の会議室に入ってしまった。

 このまま廊下に棒立ちでも仕方ないのでラスティの私室のドアの前に立ち、ノックする。

 

『どうした』

 

 ドア越しのくぐもった声が聞こえる。

 

「ヴェスパー第9隊長ノインです。挨拶をと」

 

『ああ、例の。入ってくれ』

 

 許可を得ると同時にドアノブに手をかけ、ゆっくりと開く。アーキバスといえば技術の塊のようなイメージがあるのだが、こういう所は存外テクノロジーとは無縁なのかもしれない。

 

「失礼します」

 

 ドアを開け、中に入って一礼する。中でソファに座っていた男性は、軽く手を挙げて会釈をすると、対面の椅子に座るよう目配せをしてくる。私はその通りに椅子に座ると、目の前の青年がグラスにワインを注ぐ。

 

()むか?」

 

「……私、お酒は()めないので」

 

 そうか、と言いラスティは微笑む。見た目未成年だからわかるとは思うが、忖度してくれたのだろうか。

 

「悪いね。プロファイルを見たので呑めないと知ってはいたが、誘っておかないと怒るかと思ってね」

 

「ラスティ、私を…子どものように扱うのはやめてください」

 

 私はもうヴェスパーの隊長です。そう続けるが、ラスティは笑みを崩さない。

 

 少し拗ねながらも背もたれに寄りかかる。深く息を吐き出し、リラックスする。

 この数日間、新設されたヴェスパー第9隊のスタッフへの挨拶回りや追加の仕事、トーマス・カークとの模擬戦闘訓練など、やる事は山積みだった。休日、休める時は休んでおきたい。

 

 それならラスティに逢いになど行くなという話であるが、この貴重な機会を逃すのも癪だった。

 

「経歴を見た。ルビコニアンだったんだな」

 

「……えぇ、まあ」

 

「どうだった。再教育は苦しかったろうに」

 

「それが…何だと言うのですか?」

 

「……いや。聞いただけだ。他のルビコニアンも多くセンター送りにされたと聞いていたが、ファクトリーから出てきてパイロットに……しかもヴェスパーの隊長にまでなったのは君が初めてだ。興味があったのさ」

 

「まあ……痛くなかったと言えば嘘になりますけど。術後も身体が痛みますし」

 

「だろうな」

 

 私に揶揄う為に注いで、意味の無くなったワイングラスを持ち上げ、匂いを香りながら一口に飲み込む。

 

「これはいいぞ。喉に溶けるんだ……きっと、君も気に入るだろう」

 

「ですから、私はまだ17です。飲めません」

 

「オススメしただけさ。 ……壁の話は聞いたか?」

 

 ラスティが話題を変える。

 

 ()。ルビコン解放戦線の防衛拠点であり、また奴らの交易上における要衝となるポイント。私もこの件はスネイルから聞かされている。近々、ヴェスパーの擁する戦力で壁を攻略する予定なのだという。

 現在は偵察を行う段階であり、まだ細かなプランは立案されていないようだが、壁を落とすという点は確定している。

 

「聞いています。“壁越え”ですよね」

 

「聞いていたか。そうだ、ヴェスパー主導のもとアーキバス主力部隊で壁を攻略する。 ……その第2隊長スネイルから近く呼び出しがあるだろう。偵察に向く機体に乗っているのは私か君だけだからな」

 

 綿密に計画を練らなくてはならないのだろう。戦力を必要最低限に抑えて突破しなければ、手隙となった部隊へ対し、ルビコニアンやベイラムが攻撃を仕掛けてくる可能性も考えられる。

 スネイルは苦労しそうだ。こういった作戦立案や、そうでなくとも大まかな部隊の行動方針に関しては殆どスネイルが担当している。

 

「そういえば、ラスティ。あなたも休日ですか?」

 

「? あぁ。 ちょうど用事が終わってね、帰ってきたところに君が来た」

 

「そうでしたか。それではお休みのところを失礼します、と言うべきでしたね」

 

「構わないさ」

 

 そう答えてきた後、しばしの沈黙が流れる。

 

「スネイルは、あなたのような実力がある人を休ませないと思っていたんですが。何だか──」

 

「イメージと違う、か」

 

 私の率直な疑問に彼は答え、その答えに私は首肯する。スネイルは言葉の節々から有能な人材をこき使ってやろうという気が感じられる。そんな男が、ヴェスパーの第4隊長という優秀な人材を数日、あるいはたったの一日でさえ野放しにしておくとは思えない。

 

「私もヴェスパーに入ってひと月経つまではそう思っていたよ。イメージと合わないともね」

 

 と言うからには、そのイメージを払拭するほどの何かがあったのだろうか。ラスティに続きを促す。

 

「ヴェスパーは基本的に、ACの直接戦闘よりもMTと協働した作戦行動を前提に動く。スネイルは、私に単機で動くよう命令した。隊を半ば私物化しているような人間がだ。より効率的に操ろうとしている……ということだろうけど、意外だろう?」

 

「確かに……なんだか、鞭を打って奴隷にビシバシ働け、と強要するイメージですね」

 

「ははっ……私もそう思う。どうせなら長く使い潰していきたいという心算だろうが、それを抜きにしても休みがあるのは有難いと思うよ」

 

「やっぱり休みがあると身体が落ち着きますからね」

 

「そうだとも───おっと」

 

 部屋にノック音が響く。続いてラスティを呼ぶ声。この声はスネイルのものだ。

 

「入ってくれ」

 

「……おや、ノインも居たのですか。ちょうど良い、二人に近日中の予定を伝えに来ました。交易の要衝、壁の保有する戦力を調査します。2機で威力偵察を行いなさい」

 

「やり方は任せてもらってもいいか、第2隊長?」

 

「構いません。あなたは手網を離していた方が有効に動きますから。ノイン、あなたも第8隊長ペイターの指揮の下、第4隊長ラスティと協働で動くように。ルート設定や調査内容の細かい調節はこちらで行います。基本的な作戦行動は偵察に留めなさい」

 

「了解した、第2隊長」

「わかりました、スネイル」

 

「……では、私はこれで。ノイン、スウィンバーンの事はなんと呼ぼうと構いませんが、私には肩書きを付けて呼ぶように」

 

「わかりました、第2隊長」

 

「よろしい」

 

 そう言ってスネイルは部屋を出ていく。ラスティが、スネイルが行ったのを見届けてから、くすりと笑う。

 

「叱られたな、第9隊長殿」

 

「そういうこともあります」

 

 適当に返事を返す。が、今回の件に関しては私にも非がある。今後スネイルの事は第2隊長と呼ぶことにしよう。

 そろそろ他にやりたいこともある、一度部屋に戻ろうか。

 

「では、私もそろそろ行きます。ごきげんよう、第4隊長」

 

「おや、行くのか。次はオレンジジュースを用意して待っているよ、第9隊長」

 

「むぅ………ではっ!」

 

 少し強めに扉を閉める。面白がってからかわれるのは慣れていないからやめて欲しい。

 けれど、たぶん良い人だろう。センスはともかくユーモアがあるし、人に警戒させない優しい話し方をする。からかわれなければ、話していて落ち着く人だった。

 

 自室に着き、扉を開けた。

 

「ん? …ああ、ノイン。戻ったのか」

 

「うん。あなたの部屋も数日で用意されるらしいから、それまでは私と訓練で。いい?」

 

「えぇ〜……う、睨むなって…わかったよ…」

 

 これでよし。私はトーマスを鍛えてACにも慣れていける。トーマスは純粋に強くなれる。win-winだ。

 

「じゃあついてきて。今からやるよ」

 

「はっ!? 今からかよ……!?」

 

 早速トーマスの手を引いてガレージに行き、数時間程度の模擬戦闘を行ってから今日という休日を終えた。

 

 

 

 







 V.IV ラスティ
 アーキバス指折りの精鋭の一人。26歳。
 人材公募プログラムによって見出され、ヴェスパー部隊では通常用いることの無い実弾兵器も携行し、わずか半年で異例の戦果を叩き出すことで上位に登り詰めた凄腕。その実力からヴェスパー下位に位置するメーテルリンクやペイターからの模擬戦闘訓練を希望され、これを受けている。
 何かしらの事情から、ノインの事を気にかけている。

 V.II スネイル
 精鋭部隊ヴェスパーの次席総隊長。33歳。
 アーキバスの先進開発局に太いパイプを持っており、最新鋭の装備に身を固めている。またスネイルは第8世代型強化人間“ニューエイジ”であるが、それ以降の世代の強化人間手術が普及していく度に再手術を繰り返し、その為現行最新の強化人間でもあると言って差し支えない。そのヴェスパー上位としての実力も然ることながら、ヴェスパー部隊の情報整理や戦略指揮を一身に引き受け、アーキバスのフレーム開発等にも意見を通すことが出来るため、その権限は企業上層の中でも相応に高く位置する、と噂されている。

 トーマス・カーク
 最近新しい部屋ができるらしい。21歳。
 ノインとのマンツーマン模擬戦闘訓練を重ね、着実に実力を伸ばしている。しかし慣れているからという理由でA-J-120シリーズ、通称BASHOシリーズフレームから乗り換えるつもりはなく、また武装もバーストライフルとハンドミサイル、両肩の6連装ミサイルから取り替えるつもりはないらしい。ノインはこれに対し、私のエネルギー兵装とあなたの実弾・爆発装備で噛み合っていて良い、と容認している。

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