強化人間部隊ヴェスパーの9人目 作:ねむい
───ルビコンが近い そいつを起こしてくれ
───《了解です、ハンドラー・ウォルター》
───《脳深部コーラル管理デバイスを起動》
時刻は午後2時16分。
私は先行しているラスティに合流するべく、カタパルトから作戦地域ベリウスの中部へと打ち出され、そのまま巡航を続けていた。ペイターは今日は緊急の指令が下った為いない。ホーキンスと協働作戦に当たっているとの事だ。
私の後ろには数百メートル離れてトーマスがついて来ている。今回の作戦にも同行したいとの事で、スネイルに直談判する事で許可を得たから連れてきた。今回の任務は敵MTを破壊する事で報酬が加算される歩合方式で、彼を連れての作戦行動とは相性が良い仕事だった。
『V.IX、そろそろ到着しそうか?』
「はい、V.IV。ノイン、及びトーマス・カークは間もなく到着します」
『トーマス? ……ああ、君の副官だな、君も頼りにしているぞ』
『えっ、ヴェスパー上位に頼られっ…!? いや、へへ…オレも強くなったってこ───』
「世辞に決まっているでしょ。もう着く、戦闘準備」
『え? あ、え…おっ、おう……了解!』
戦いが始まるというのに若干抜けているトーマスを叱咤し、システムを戦闘モードに切り替える。遠方に防衛拠点“壁”が見えており、その手前から友軍識別信号をキャッチする。
「ラスティ、見つけました」
『わかった。スティールヘイズで迂回して撹乱する。それまで君達で正面から圧力をかけてくれ』
『わかったぜ、第4隊長!』
「了解、ラスティ」
雪原に私とトーマスのACが降下する。
「V.IX、ヴァンダーファルケ現着」
『
挙げた右腕を前方に振り下ろしてトーマスに突撃を命じ、私自身も壁前方部の市街へ機体を走らせる。
私が機動力で撹乱、トーマスが後ろから圧力をかけて挽き潰す。私が考えて共有した作戦だ。
「敵戦力、確認。MTの駐屯部隊。 ……四脚MTが数機、ガトリング砲台も六基ほど確認できる」
『砲台6!? 四脚複数!!? ……やれるのかな』
「やるだけだよ、私達は。ヴァンダーファルケの速度なら捉えられない。あなたはミサイルで一機一機に集中して」
『り、了解!』
アサルトブーストを中断して足を止め、連装ミサイルとハンドミサイルを手当たり次第に乱射するのを見届け、最寄りの四脚にレーザーハンドガンのチャージ連射を見舞う。完全な奇襲だったようで、ミサイルと私の攻撃が同時だった事もあってか敵は初動で複数の軽MTを失い、四脚のうち1機にダメージが蓄積していた。
『!? な、なんだ!!?』
『敵襲!! ACが2機!!』
さすがに戦力の把握は早い。だが、戦力は削れている。四脚MT3機がバズーカやグレネードキャノンを撃ち込んで来、隣接している四脚MTはレーザーブレードを展開して振り払ってくる。
それを後ろへのクイックブーストで回避すると、逆にこちらがハンガーのレーザーブレードを握り締め、ブースターによるブレードホーミングを活かして離れた分の距離を縮め、切り払う。そのまま右手のレーザーショットガンのチャージ刺突でMTのコクピットを穿ち、無力化する。
『ノイン! 雑魚の軽MTはやった!!』
「四脚を惹き付けて! 挟撃する!」
トーマスがアサルトブーストで四脚の1機に近付き、勢いを乗せた強力な
トーマスの方に流れたのはグレネードキャノンとマシンガンで武装し、シールドで身を守るガードタイプ。私を見続けているのは9連装バズーカを搭載する火力バカの化身のような支援砲撃タイプ2機。
シールドを持つガードタイプが向こうへ流れたのは重畳だった。エネルギー兵器で固めた私は弾頭の衝撃硬直能力が実弾や爆発弾頭に比べて貧弱だ。トーマスはミサイルで固めているので、その点では私のヴァンダーファルケより数段優れている。
1機目のバカバズーカとガトリング砲が同時に火を噴く。私はそれを難なく横に逸れて回避する。燃費こそ悪いが、回避能力ならスティールヘイズクラスだ。2機目のバズーカも回避し、1機目へレーザーブレードで斬り掛かる。
BAWS四脚MTは、重武装重装甲と引き換えにその劣悪な機動力で知られている。ブレードを回避なんてできるはずもなく、直撃で大きく硬直し、制御不能になる。私はその隙を逃さずパルスガンを照射し続ける。肉眼で捉えられるほどの超高周波振動パルス弾が、敵の機体装甲をボロボロに破壊する。
硬直から立ち直る前にはもはや虫の息であり、トドメとばかりにレーザーハンドガンをボディに撃ち込む。
1機撃破。
『ノイン! こっちも仕留めた!』
「よし。防壁上のガトリング砲を破壊しに向かって。こいつをやったら向かう」
『わかった!』
良い返事と共にトーマスは“壁”前部の市街防壁上へと飛んでいく。四脚MTがトーマスの方へバズーカを飛ばすが、それを蹴り飛ばして止める。
「あいつじゃないでしょ。私でしょ、あなたは」
『ぐっ……貴様、よくも同志グローニクを!!』
「アーキバスに投降するべきだったね」
『……っ!! 決して許さん!!』
吶喊しながら私に向かって全ての武装を乱射する。当たらない以上は恐れる必要も無い。そのまま後ろに回りこみ、コアのパルス放射機能を解放し、アサルトアーマーを展開する。
私の機体を直径の中心としたパルス爆発は、実弾以上の衝撃をもたらし、四脚MTさえも破壊する。
『な……き、貴様……俺たちの星から…これ以上───』
奪うな、だろう。
そんなのは私だって言いたい。けど力が無い。力をつけるには、より力のある団体に取り入るしかない。私のいた場所はアーキバスの方が近かった。だからアーキバスの軍門に下った。それ以上に説明する必要は無い。
『こちらV.IV ラスティ。派手にやっているようだな、ノイン。壁に侵入した、内部の戦力を測った後に脱出する。それまで外で敵を惹き付けてくれ』
「わかりました、ラスティ。トーマス、聞こえた?」
『バッチリだ。やる事はやろうぜ』
「当然でしょ」
防壁上のガトリング砲台をいくつか破壊する。残るは道路に残された二基及び、市街のMT中隊だが……。
機体を進めようとした途端、ラスティから緊急通信が入る。敵の主力を発見したのだろう。
『BAWS製の重装機動砲台を発見。型番はHA-T-102 JUGGERNAUT』
「ジャガーノート……了解です、ラスティ。撤退しますか?」
『ああ、そうさせてもらおう。ちょうどスネイルから敵増援の報せが来たところだ。弾も減っている。補給無しだとここらが限度だな』
「わかりました。トーマス、もう充分。撤退しよう」
『えーっ!? もっと稼ぐ機会じゃねーのか!?』
「それが出来ないから帰るの。いいから撤退」
「ちぇっ……わかったよ、帰ろうぜ」
V.IV ラスティが壁内部より飛び去るのを確認して陽動を終え、私とトーマスも戦闘モードを終了し、飛行能力に特化した通常巡航モードに切り替える。
敵の追撃は無かったため、帰りはのんびり帰投できた。
『さて、ここまでの情報を纏めましょう。“壁”に確認された戦力は相当数の軽MT、防衛用重火砲、BAWS四脚MT。並びに、重装機動砲台HA-T-102という事で間違いは無いな、ラスティ?』
『ああ、間違いないとも第2隊長。それで……この情報はどう扱うつもりだ?』
『無論我々で厳正に管理し、然るべき時に活用します』
『落とすのか、壁を』
『当然です。コーラル調査及び採掘には、壁の存在が邪魔です。アレを落とすに足る戦力を用意するには時間も手間もかかりますが、いずれは実行します。これは決定事項です』
『第2隊長閣下、その作戦には是非私を起用して頂けますでしょうか』
『まだ選定の段階にはありません、メーテルリンク。しかしその気概は買っておきましょう』
「なあ、ノイン……オレたち何もしなくていいのか?」
「静かに。ヴェスパーの全隊長が集まる会議だから私達も出なきゃいけないのは当然でしょ」
『で……今回も私が計画立案をして構いませんね、フロイト?』
『………ん? あぁ、聞いていなかった。なんだって?』
スネイルの一際大きなため息が聞こえた。あまりにも露骨すぎて少し面白かったが、フロイトの人となりがだいたい分かった。凄い自由人だ。
『スネイル第2隊長殿が今回も作戦立案等を担当するが、よろしいか、と! フロイト第1隊長殿!』
『おお、そうか。ありがとうペイター。そうだな、今回も概ねそのままで構わない、スネイル』
『………よろしい。では、本日の定例会議は以上とします。何か質問は?』
『ある』
『オキーフ。何か?』
『耳に挟んでおいてもらいたいことがある。また
『はっ! 第3隊長殿!』
『では、今度こそ終了する。各自、翌日以降の作戦行動に備えておきなさい』
そこで通信回線は遮断される。深夜に始まる定例会議は通称“お茶会”とMT乗り達の間で揶揄されている。会話内容を外部の人間が聞く事はセキュリティ上出来ず、それでいてメンバー全員が必ず集まっているから、だそうだ。
ちなみにそれを外部に流したのは、ホーキンス曰くラスティの前のV.IVだそう。スウィンバーンが内部告発を受けて再教育センター送りにしているらしい。私よりも前に収監されて、私が出たあとも出てきていないということは、つまりそういう事だろう。
モニターから目を離す。
同じ部屋で同じモニターを見ていたトーマスにも、明日ようやく新しい部屋が宛てがわれ、それで名実共にヴェスパー傘下となる。拾い物としか思っていなかったが、訓練と実戦を積ませればパイロットは強くなるという証明にもなったし、どことなく愛着も湧いてきた。
「終わったー! 毎日夜遅くにこれやんの疲れねぇか…?」
「疲れ……うん。 疲れる」
ぽつりと本音を漏らす。何も深夜にやらなくともいいとは思うが、緊急出撃を受けない限りこの時間が唯一全員集まれるらしい。もちろん実際に顔合わせをする訳ではなく、アーキバス社の自社ネットワークサーバ内での顔合わせとなる。
それにしても、オキーフが言っていたことが気になる。密航者という事はコーラルが目的なのだろうが、少なくとも惑星封鎖の目を掻い潜る能力と、それに追撃してきたサブジェクトガードの重戦闘ヘリを撃ち落とす実力はあるということになる。
それなりの腕があるとなると、少し面倒だ。
会敵する時は有利な環境下で戦うことを心がけたい。
考えていて疲れた。
「そろそろ寝る」
「そうだなぁ…疲れたしな、今日は」
「うん。おやすみ」
「あぁ……おやすみ」
例に違わず、ソファの上で横になる。
明日からはまた一人で寝るのか。そう思うと、疲れていたはずなのになかなか寝付けなかった。
私は寂しいのだろうか。
わからなかった。
ノイン
ヴェスパー指折りの精鋭の一人。17歳。
第8世代型強化人間であり、同世代型の中でも相当に高い戦闘能力を有するが、肉親を喪失しており、精神面に若干の不安定さが見受けられる。ヴェスパー入隊当時はペイターによる監視を活動条件に定めていたが、専属傭兵トーマス・カークの雇用によって精神は高い安定度を有している。
父、母、兄を確認済み。ベイラム部隊との交戦によって解放戦線兵士だった家族は戦死している。
トーマス・カーク
ヴェスパー第9隊長ノインの直属。21歳。
戦闘スタイルは変わらず、訓練による戦闘能力の向上が見込まれている。既に“壁”の威力偵察では通常の独立傭兵にも劣らない戦果を挙げている。少なくとも自身の修理費と弾薬費でノインの経費を圧迫している様子はない。
ノイン隊長は男を引き入れて同棲しているんじゃないか、などという噂を出した人間を調査して特定するのがここ最近の目的。