強化人間部隊ヴェスパーの9人目 作:ねむい
ACなどとは比べ物にならないほどの…それこそ、AC単機の上昇推力では頂上にさえ届かないほどの大きさ。そう言えば、かの機械の巨獣を少しばかりでも形容出来るかもしれないだろうか。
「レーダーに捉えました」
私のスキャナーとその共有映像越しに、ペイターもその怪物の
巨大な多脚歩行艦………それは、かつてルビコニアン達の手によって製造された、二隻のコーラル採掘移動輸送艦。その片割れ“ストライダー”だった。
『相当な大きさ…武装されているのか?』
「武装は把握できていませんが…近づきますか?」
『そうですね、お願いします。ただ無理はしないよう』
「了解」
ノインは言葉を返しながら機を前に進める。砂塵の舞うボナ・デア砂丘には何十ものMTが散開していた。機体間の距離を広く取り、索敵及び接近する敵機の排除のためだろう。
ただ、砂埃の量が凄まじいために敵はこちらを捉えられておらず、ノインもまたカメラの性能のみでは敵を見ることも出来ない。偵察をするためのスキャナーを前方遠距離のみに狭く絞る事で、敵の姿をようやく捕捉できていた。
視界の悪さのおかげでどうにか見つからずに済んでいたが、敵艦の武装を把握できない内は帰るわけにはいかなかった。
『見えますか?』
「いえ、何も……」
ストライダーを遠巻きに偵察するノイン機の背を、1機のMTが捕捉していた。発見したのは偶然に過ぎなかったのだろうが、それでも敵を見つけたという一瞬の間に、味方に対して発見報告を出すくらいはできたのだ。
『…所属不明…いや、シュナイダーAC!? 艦長、アーキバスAC部隊が……!!』
「! しまった……見つかったか!」
すぐさまMTにパルスガンを撃ち込んで無力化する。しかし、既に伝達は完了していたらしく、採掘艦から巨大なエネルギーの反応を検知する。機体システムが警告と、それに対して回避を促していた。
『ACか…各員は第一戦闘配置につけ。アイボール照射!』
『了解! “コーラルよ。ルビコンと共にあれ”』
『“ルビコンと共にあれ”』
青い光が大地を裂きながら近付いてくる。それが敵兵器によるものだとわかった瞬間には、既に機体は回避機動を取っていた。
光が通っていった場所がドロドロに融解しているのを見て、もしそれが自分に掠ったらと想像してしまうが、頭を振ってそのイメージを払う。
「攻撃の正体がわかりますか? 私は見たことがないです」
「見たところ、レーザー兵器ですね。データ照合します」
ペイターがノインのカメラに映っていた映像と、それからの攻撃の映像をデータベースに保存されている既存兵器の中から照らし合わせている間、ノインは次々降りかかるレーザーを横に飛んで回避していた。
(出力はAC用の比じゃない……喰らったらまず死ぬ)
幸いにもコーラル代替技術によって最適化された神経系と脳の処理により、敵機からのレーザーは回避出来ていた。
だが、熱反応が突如として迫ってくると、ノインはレーザーではない何かからの攻撃を敵機接近として一瞬処理してしまう。敵か、武器を構えるが、それは……いや、
(複数……? ……うっ!?)
足下が爆発する。その次にも続々と飛翔してきた何かがぶつかり、炸裂する。ノインはそれを嫌って上に飛ぶが、一瞬の隙を突いたレーザーと飛翔体の同時攻撃によって、レーザー自体は回避できたものの飛翔体の直撃を受け、機体が硬直してしまう。
「……ミサイル…ミサイルか! V.VIII、敵は大型ミサイルを複数発射可能! 対ACミサイルです!」
『こちらもわかりました、レーザーの正体は“巨大EN照射器アイボール”。高出力レーザーを照射可能な砲台です。重装甲の……それこそベイラムのタンクACですら、直撃には耐えられません。これではコーラル調査は不可能……作戦を練らねば』
「もう少し踏み込みましょうか?」
『いえ、帰投してください。あなたを万一にも失えば、我が隊の大きな損失です』
「……了解。V.IX、帰投します」
その後も幾度となく照射されるアイボールのレーザーキャノンを寸前で回避しながら、作戦領域を離脱。その頃にはアイボールからの砲撃は止み、ミサイルも飛んできていなかった。
基地に帰ってきてから、どっと疲労が襲ってくる。自室のソファにもたれかかって、ペイターからの報告を待つ。
違和感に気付き、部屋を見渡す。
……そういえば、トーマスはもう自分の部屋を割り当てられていたか。この前のようにまたクッキーを食べに来るかと思ったのだが、ふと端末にメールが来ていることに気付き、携帯端末を開く。
送り主はトーマスだった。
『シュナイダーが公示を出していたから稼いでくる』
らしい。私の専属では……とノインは考えるが、そもそもがアーキバスの系列企業シュナイダーからの依頼で、つまり敵対勢力の依頼を受けた訳では無いので問題ないか、と納得させる。
しかし、あの“壁越え”が控えているというのに、戦力を疎らに使っていていいのだろうか。機動戦力相手にはACが必須。MTはMT同士でのぶつかり合いでしか有効たり得ず、また相手が同じMTであったとして、歩兵の延長線上の存在でしかないMTは人死にが激しい。
ACが相手であっても、今のトーマスなら上手いこと戦えるだろうが……どうにも不安が拭えない。
早く帰ってこないかな。
そう考えている自分に、ノインは気付いていなかった。
ノインが寝ているときに、端末は鳴った。急いで起き上がって携帯端末を手に取り、通話を開始すると同時に耳に当てた。
『もしもし。こちらはV.II、スネイルです。今回のべリウス西部におけるルビコン解放戦線の主力戦艦“ストライダー”の処理を、貴方に任命します。アイボールや大型ミサイルといった脅威も然ることながら、今回敵には独立傭兵が二人、護衛に当たっているとのこと。これの排除も並行して行うように』
「了解です、第2隊長」
返事と同時にスネイルからの連絡は切れる。
ストライダー破壊……シュナイダーがコーラル調査を行う予定だったらしい地域で猛威を振るう武装採掘艦を破壊せよという指令だ。
分かりやすく単純で、また攻略に難儀する相手でもある。遠距離ではレーザーとミサイルが、中距離ではMT部隊が、近距離ではACが。それぞれ相手になる。
弾薬もそうだし、機体損傷もそうだが、消耗の激しい戦闘が続くのは間違いない。独立傭兵がどのような機体構成で作戦に臨むのかはわからないが、私にできることはない。
ベストを尽くそう。
出撃準備を整えるべく、もはや日課となりつつある、クッキーと共にフィーカを終え、私はガレージへと勇み足で向かったのだった。
『V.IX、レーザーが来ます! 回避を!』
『突入ルート計算。レーザー兵器起動確認。アイボール照射開始。回避を推奨』
「くっ……!」
ノインは夜間の作戦に従事していた。ストライダーの眼を暗闇で誤魔化すはずの作戦だったが、なんとストライダーはMTによる偵察によってノインの位置を捕捉し、その地点にレーザーキャノン“アイボール”を撃ち込んできたのだ。
ペイターの咄嗟の指示により、どうにか回避には成功するが、パルスシールドも持たず、まともな装甲にも期待できないこのACでは、レーザー砲が至近距離を照射して通り過ぎていく度に冷や汗をかかされていた。
しかし、そんなことはこの期に及んではさほど問題では無い。そうこうしている間にも距離は縮まり、もうじき射程圏外に突入できるからだ。
それよりも、予想外なのが、敵が味方への誤射を恐れない事だったからだ。今、ルビコニアンは
ルビコニアンだった頃には同じ年齢の友人だっていたし、仲の良い子もいた。けれど……ここはもう、私の生きていた
『アイボール停止確認。突入。作戦目標スキャン完了。メインシステム、戦闘モード起動』
コンピューターのシステムボイスが止まると同時にFCSがアンロックされる。ここはストライダーの根元。もうミサイルも、レーザーさえ飛んでこない。
砂塵が止み、目の前に2機のACが現れる。
『照合完了。ランク外、モンキー・ゴード。及びランク27/E、レイヴン』
「レイヴン、ペイターとオキーフの言っていた……お前が……」
『………』
『……敵はヴェスパーの新参……V.IX ノインだ。621、油断はするな』
『……わ、かった…』
1機はRaD製のフレームに身を包む傭兵“レイヴン”。
あらゆる装備を使いこなし、場合によっては脚部ごと換装する事も躊躇わないという。それだけでなく、各社の様々なパーツをまるで継ぎ接ぎのように組み合わせ、その様相は独立傭兵と呼ぶにふさわしいものとなっている。
もう1機はアーキバスやシュナイダーのフレームを採用し、武装をベイラム製マシンガンやメリニットの小型バズーカを携行する独立傭兵“モンキー・ゴード”。
正直、ランク外なので問題にはならないと思うが、すぐに排除しなくては、レイヴンと協働で動かれる間、それだけ不利になる事は想像に難くない。
レイヴンが全く動かず、こちらの出方を窺っている間、モンキー・ゴードはこちらを品定めするようにロックオン可能距離外から狙っていた。
『ふんふん、ヴェスパーの第9隊長さんねェ。本当に強ぇのかね?』
『……番号は若くとも、あれはヴェスパーの一人。シュナイダー製フレームともなれば、機動力は圧倒的だろう。僚機を上手く使って数でかかれ、621』
『モンキー…ゴー、ド…』
『んあ? 何だい嬢ちゃんよ。もしかして怖ぇのか? 安心しな、このモンキー・ゴード様が守ってやるぜ』
『違、う……敵を、知らない……油断…だめ』
『……なんだそりゃ。見たところEN兵器しか持ってねぇみてえだし、俺が庇って嬢ちゃんが削りなよ。怖がることなんざねえさ』
会話をしているのか、作戦会議をしているのか。AC戦を制した後にはストライダーも控えているので、なるべく損害を抑えたいのだが……いっそ今攻めてしまおうか。
そうしよう。
レーザーハンドガンをチャージし、アサルトブーストで一気に彼我距離を縮める。
近距離に寄っていくにつれて敵機体との混線が始まる。広域での電波が強いタイプなのだろう、会話が漏れ聞こえてくる。
『こいつっ、突っ込んできやがったぜ!』
『621、応戦しろ』
『───了解です、ハンドラー・ウォルター』
酷く機械的な声がレイヴン。調子の良さそうな声の持ち主がゴードだろう。バズーカとミサイルの弾幕を躱し、まずはモンキー・ゴードにレーザーハンドガンとパルスガンを叩き込んでいく。
『チィ…やっぱり狙ってきやがるか! 嬢ちゃん、早いとこやってくれ!!』
『───了解。対象を排除します』
レイヴンがゴードに指示をされると同時に、ミサイル弾幕がパタリと止み、リニアライフルとアサルトライフルによる連続射撃が飛んでくる。
リニアライフルはまだいいが、アサルトライフルは厄介だ。継続した被弾はACSに大きな負荷を蓄積させ、やがて致命的な隙を晒す。ゴードのマシンガンも厄介極まりない。当たりやすいということは、それだけ被弾が増えることでもある。
『じわじわ追い詰めてこうぜ、レイヴン!』
「クッ、面倒な……」
撃ち合いは不利、手数で負けている。となれば一撃のパンチ力で押し切るしかない。スタッガーを取り、レーザーブレードで一気に叩く。これが最適解だろう。
レーザーショットガンを撃ち、レイヴン機に衝撃を与えてACSの負荷限界へと近づかせていく。
『621、下がれ』
男の声が聞こえる。621、一体誰の事だ。思考に一瞬ばかり手が止まるが、余裕がなくてすぐに考える暇も無くなる。
『やれるっ! やれるぜ、レイヴン!!』
「チッ…面倒くさい……!!」
レーザーを当て、パルスガンを照射し、敵弾を回避して損傷を抑えようとする。しかし、レイヴンの腕は尋常ではない。いくら回避しようが絶対に連続して撃たれ、反撃は当たらないか命中しても掠っただけで大した打撃にはならない。
オマケにこちらがシュナイダーの最新フレームなのに対してレイヴンはジャンク屋と呼ばれるRaD、そんなところが出した探査用AC、つまり戦闘用でさえない。
『V.IX、押されています! 注意を!』
「わかってます、V.VIII!!」
レーザーハンドガンを再度溜めながら、パルスガンで牽制する。次に足を止めたやつにバースト射撃をぶち込んでやる───
『待て、護衛対象が襲われているぞ!』
───そう考えていた時、“ストライダー”は爆発する。
『なっ、なんだ…この機体は!?』
『お…臆するな! 我々はルビコンの戦士──』
凄まじい爆煙を上げ、船体の半ばから折れるように倒れ、またその時にジェネレータが暴走したのだろうか。一際大きな爆発と共に、艦は壊れて微量のコーラルが漏れ出ていき、その傍から全てが焼けている。船は燃えたのだ。
「どういう、こと……?」
ノインは思索する。私達の他にも、艦を破壊したい勢力がいるのかと。もちろんそうなれば犯人はベイラムに絞られるのだが、奴らはべリウス西部には手をつけようとはしていなかった。
狙いが変わったのだろうかと思ったが、にしたって今は唐突すぎる。少数精鋭よりも“物量と火力による制圧”を社是とするベイラムの作戦とは思えないのだ。こんな……敵対者を陽動のように使った隠密作戦などは。
ふたつの赤い光が、艦体から飛び降りてくる。
『621、V.IXと回線を繋げ』
『わか…った…』
『…聞こえているか。敵はシュナイダーのMTではない。C兵器……旧世代の異物だ、話し合いの余地は無い。手を組まねば共倒れだ。異論は無いな?』
「……無い。仕方がないけど、こちらからあなた達に友軍識別信号を交付する。受理して」
『……したぞ。621、言った通りだがC兵器は話し合いの通用する相手ではない。迎撃しろ』
『───了解です、ハンドラー・ウォルター』
ハンドラー・ウォルターと呼ばれた男の部下の機体と、モンキー・ゴードが友軍識別信号を受け取り、味方として登録された。
『ノイン、どうなっているのですか!? 敵の……いえ、それよりもストライダーを破壊した犯人は…』
ペイターが焦る様な声で尋ねてくる。
「わかりません、ペイター。敵はC兵器と呼ばれる兵器らしいですが……データベースに問い合わせてください。私は原意の独立傭兵と協働して迎撃します」
『わかりました…死なないでください、ノイン』
『大丈夫です』
通信が切れ、ペイターがC兵器とやらをデータベース内情報から調べようとしている間、ノインは撃ち合いで使っていた武器たちをクールダウンさせながら敵機の接近を待った。
狙撃兵器が流行れば今の戦場も変わっているかもしれないが、複雑な地形とゲリラ的戦術を多用するルビコニアンへの対処の為に接近戦に耐えうる兵器が流行した。だからお互いに近づかなければ戦えなかった。
だが、突然警告音が鳴り響く。レイヴンとノインは寸前で横に逸れて回避したが、間一髪で間に合わなかったモンキー・ゴードのACが大きな損傷をフレームに受けた。
『ぐおっ……!?』
「こんな遠距離から……グレネード!?」
『621、敵の動きを見逃すな。敵は機動力に優れる高速機動戦タイプだ。一度見失うと背後からやられるぞ』
ウォルターという男のアドバイスを聞き流しつつ、動き回って敵を包囲する。レイヴンが左、私が右、ゴードが真正面からそれぞれ近づこう、と。
あの光の数がそのまま敵なら、二体だけ…やれないことはない。ノインはそう考えていた。
燃えるストライダーの黒煙の中から飛び出してきた2機の敵。MT…とは思えないほどの、それこそACすら凌ぐ機動力がノイン達を襲った。
(下手をすると……いや、この時点で既に私の機体も越えてる)
想像以上の機動力で撹乱しつつ、ライフルで牽制。ミサイルとグレネードで致命となる打撃を狙う。戦法はACにも通じるものがあるが、その機動力は桁違いだった。まさかシュナイダー製高機動フレームで固めたこの機が…そう考えながらもノインは必死に食いつく。こちらで1機引き付けている間に向こうで1機倒してくれればいいのだが。
どうにか接近できたタイミングでレーザーを射撃する。しかし、どう考えても貫通する距離で、威力が低いハンドガンとはいえ装甲に弾かれて霧散していった事が、敵がただ足が速いというだけでは無いことを証明していた。
「硬い…っ!?」
エネルギー兵器と言えば、近から中距離であれば一定のダメージを約束するのが特長だ。実弾以上の威力も相まって強力な兵装としてのお約束だが、どうやらC兵器にはその法則も通用しないらしい。だが、見た感じでは速度があるだけで装甲が重厚というようには見えない。何がC兵器の頑強さを高めているのか。
策を思案していた時、それは起こる。マルチロックされたレイヴンの12連装垂直ミサイルのうち数発がC兵器に命中。装甲が剥げたのだ。
それで分かった。
武装にはそれぞれ属性と言うべきものがある。弾頭の勢いで装甲を貫徹する実弾、熱エネルギーを用いて装甲を溶解させるEN、炸薬の炸裂で装甲に衝撃を与える爆発。
そのうち、C兵器にはENが通らなかった。この様子だと実弾も通らないだろう。だが、爆発だけは装甲に損傷を与えられていた。
つまり、対爆装甲が十分ではない。
「レイヴン、ミサイルを! 実弾もエネルギー弾も弾かれる!」
『───了解』
レイヴンが……正確にはレイヴンの搭乗しているACのコンピューターが返事をし、ミサイルが連続して撃ち出される。モンキー・ゴードも今ので話が大体わかったようで、バズーカを主軸に据えることにしてくれたようだ。
今回の戦いではノインは陽動くらいにしかならないと悟る。あの独立傭兵二人がキーになるのは不本意だが、仕方がない。そう割り切って、残ったもう一方のC兵器の足止めに努める。
向こうでも実弾が弾かれていたことは承知だったようで、敵の弱点が割れてからは早かった。どうやら向こうはジェネレータの容量全てを使い切るまであの機動力を維持できるらしく、使い切った時に足が止まるようだ。そこを叩けば勝機はあった。
必死に噛み付いて行く間に、モンキー・ゴードが雄叫びを挙げている。どうやら向こうで1機仕留めたらしい。
『よっ…しゃあ! ひとつ潰したぜ!』
『まだ油断はできない。621、確実に殲滅しろ』
『───了解です』
レイヴンが先に駆けつけて来、少し遅れてモンキー・ゴードも到着する。機動力に優れる機体のおかげで損傷こそ受けていないが、同時にこの敵を倒すことも出来ていなかった。
「……すまない、こいつも倒してほしい」
『任せな!』
『───ターゲットを攻撃』
悔しいが、こればかりは相性が最悪だった。三人で一斉攻撃を加えている途中に、ペイターから通信回線が開かれる。
「ペイター。どうでした?」
『データがありませんでした。C兵器で検索をかけても、それらしい機体は一切………。 とにかく、その敵を倒してください。主目的は達成しています。生還を第一に考えてください』
「了解です、ペイター」
敵機の足が止まった瞬間に蹴りを入れ、それを皮切りにゴードとレイヴンがミサイル、バズーカ両方をありったけ撃ち込んだ。
一斉射撃を受ければ流石にC兵器とやらも無傷ではいられず、衝撃によって硬直したところにノインがレーザーブレードで両断する。
機体が爆発する。だがそれは普通のジェネレータが用いられている機体とは思えないほど
「これは……コーラル!? 馬鹿な…!」
コーラルをジェネレータに使う。そんな事をすれば、機体が壊された時に小規模なコーラル燃焼が発生し、パイロットはまず生きて帰れない。
……生きて帰る必要が無い?
ノインは嫌な思いを脳裏に巡らせる。パイロットが必要無ければ、ジェネレータにコーラルを用いて莫大なエネルギーを推力に変えることも出来る。そしてそれは、きっと無人機なのだろう。
コーラルを用いた技術を実地運用可能な勢力など、ひとつしかありえない。昔、ルビコニアン達と争い、勝利して手に入れた土地で開発を進めていたという、“ルビコン調査技術研究局”。ルビコン調査技研、技研とも呼ばれる組織だ。となればC兵器とはすなわち、
それに、技研は、既に半世紀前にアイビスの火で滅んでいたはず───そう思ったところに、またも敵反応が出現する。ノインは辟易しながらもその方向を向く。
『まだだ、反応が出た。 ───これは…ヘリアンサス型だと……?』
「ヘリアンサス? 先程のC兵器の件といい、この件といい、何を知っている、ハンドラー・ウォルター?」
『その話はあとだ、第9隊長。ヘリアンサス型は危険な相手だ。転倒させて確実に潰せ、621』
『は、い……ウォルター……』
その言葉を言い終わるか終わらないかぐらいに、ヘリアンサス型と呼ばれたMTは……いや、MTとも呼べない明らかな無人兵器が襲ってきた。
見た目こそは車輪に近い。だが、その全容を覆う刺々しい針と、飛翔してくるミサイルがその脅威を最も良く物語っていた。
まっすぐ向かってくる敵機にバズーカを撃つモンキー・ゴードだったが、破壊が間に合わず、車輪に機体が挟まれていく。
『や、やっべぇ……うわぁぁああっ!!』
「しまった……やられた!」
車輪の威力はやはり凄まじく、巻き込まれたモンキー・ゴードが反撃の間も無くバラバラにされる。文字通り欠片が残る程度だ。
『やられたか……。 621、来るぞ!』
次はお前だ、とでも言わんばかりに4機のヘリアンサス型が突進してくる。しかし動きをよく見ていれば単調な動きをしかせず、回避も容易い。それに先程の敵よりも方向転換の頻度……つまり、動きを止める回数も多い。狙っていけば楽──のはずだった。
「なっ!? また、こいつもか……!」
至近距離で放つレーザーショットガンは簡単に弾かれる。回転中だけでなく、どうやら表面装甲それ自体が頑強であるらしい。今回もミサイルを持つレイヴン頼りか、そう思ったが、ヤケになって放ったレーザーハンドガンが弾かれることなく貫通した。
そこは、車輪の目となっている敵機の中心部だった。装甲に守られていない部分がある。
「レイヴン! 敵の中心は装甲に覆われてない! 実弾兵器で狙うならそこを!」
『りょう……か、い…』
レイヴンが返事をすると同時に、ミサイル攻撃を継続しつつもリニアライフルとアサルトライフルによる中距離射撃戦に切り替える。
ノインは変わらずEN兵器による弱点部への攻撃で対処しようとするが、幾ら隙が多いとはいうものの、ヘリアンサス型にはそれをカバーするための攻撃手段があった。
「ぐっ! これは、火炎放射……近づかれた時の為の近接防御手段…!?」
機体が半ば融解するほどの熱放射。明らかに危ういものだ。機体を横に飛ばして炎熱から逃れ、後ろに回り込んでレーザーブレードを抜き、一閃する。これで先ず、1機……。
しかし周囲を取り巻くように、まだ3機のヘリアンサス型が残っていた。
『621、ミサイルで攻撃したあとは武器による転倒を狙え。1機ずつ確実に仕留めろ』
レイヴンが転倒させた敵をさらに追撃し、破壊する。装備……特にフレームさえ整えば、腕は間違いなくアリーナトップにも匹敵するだろうが、だからこそ何故こんな奴が無名ランカーとして燻っているのかが分からない。
……それはそうとして、だ。一度やり方が分かってしまえば容易い。ヘリアンサス型の接近を拒むため、ミサイルをぶつけ続けるレイヴンと、逆に誘い込んで一網打尽にするノイン。対照的な対抗策を講じる二人だが、戦果は等しく挙げられていた。
「これで……2機っ!!」
『───敵機体、撃破確認』
ノインとレイヴンの撃破報告を最後に、敵の姿は無くなった。念の為広域にスキャンをかけるものの、やはり敵影も敵反応も現れず、そのまま数分が経った事でようやく緊張の糸が切れる。
『……殲滅したか、621。よく生き残ったな』
ハンドラー・ウォルターの労いの言葉を聞き流し、ノインは彼に尋ねる。
「邪魔をするけど、なんであんな兵器の詳細を知っていた? アーキバスのデータベースにもあんなものは…」
『詳しい事は言わん。だが、これだけは知っておけ、第9隊長。深く関わるようなら、俺たちはお前を殺すこともできるということを』
「───わかった。今日のところはそれで手打ちとしよう。幸い、ストライダーを破壊するという目的も達成された事だし」
『……そうするといい。621、背景はこちらで洗っておく。お前は帰って休め』
『───了解です、ハンドラー・ウォルター。強化人間C4-621、休眠モード移行。オートパイロット開始。帰投します』
巡航モードによってレイヴンの機体が飛び去り、それと同時に友軍識別信号も、ハンドラー・ウォルターとの無線通信も遮断される。
ペイターに報告しなくては、と通信回線を開く。
『……ノイン、無事でしたか。なによりです』
「データベースをもう一度洗ってください。出てきたC兵器……もう一方はヘリアンサス型と呼ばれていました。それと、ある男についても調査を願います。名前は“ウォルター”。
『分かりました。ハンドラー・ウォルターの素性についても私が調べておきます』
「頼みました。早く帰って休みたい………」
『……察するに余りある激戦でしたね。もしかすると、近く打診があるかもしれませんよ』
「昇格って事ですか? 私はここに所属できているだけ幸運ですから、結構です」
『そうですか……まあ、帰投してください』
「了解です。V.IX、作戦完了、帰投します」
あのストライダーを破壊するなど、並の機体では無いと思っていた。まさか、爆発衝撃以外のほとんどの武装を無効化するなどとは思いもしなかった。
C兵器……コーラルを用いた、技研の遺物。
そして、それを知っていたハンドラー・ウォルター。その駒である独立傭兵レイヴン。
きな臭くなってきている、私は、自身を取り巻き始めているこの状況にそう思わざるを得なかった。
後日のトーマスいわく、大した装備の無い大豊のテストパイロットとそのACを倒してきたとの事だった。当面は維持費も自分で賄えると嬉しそうにしていた。
そんな事よりも、お互いに生きて会えた事の方が嬉しく思う。
「おかえり」
「戻りました、であります、第9隊長!」
トーマスが敬礼を返す。私は、普段そんなことなんてしなさそうなトーマスが出した、不意を突く所作に笑ってしまう。
「……なにそれ」
「ふざけてみただけさ。今回の仕事は楽勝だったぜ〜? なんせ……───」
今は、この命がある事に感謝したい気分だった。
私はアーキバスに身を寄せている幸運を噛み締めた。
モンキー・ゴード
因果が捻れ、偶然に生き延びた傭兵。22歳。
軽量コアを主軸に中量フレームで組んだAC“サーマルリンク”を駆る傭兵だった。マシンガンとバズーカで手数と火力を両立させた機体で、それなり程度には腕も立つものだったが、最後に受けた依頼を最後に消息を絶つ。後日、ベイラム西部ボナ・デア砂丘中央部付近にて死亡確認。
ハンドラー・ウォルター
冷徹で落ち着き払っている、初老の男性。年齢不詳。
密航者と思われるレイヴンの活動が目立ち始めた時期を前後に、その名が認められ始めた。配下が独立傭兵らしく、様々な依頼を請け負い、敵対する者同士の依頼を一手に受けたこともあって悪名と共に名声も広まっている。
部下の女傭兵は現状、任務遂行率100%を誇る。