強化人間部隊ヴェスパーの9人目   作:ねむい

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6話 “壁”

 

 

 

 

 青年は若かった。博徒でもあった青年は、ある時自身の人生に掛けられた価値以上の勝負に負け、半ば人であることを辞めさせられた。

 

 ───第4世代型強化人間。

 

 生還者が一割にも満たない第1世代型とは違い、その施術による危険性こそは格段に下がったものの、それでも二人に一人が死ぬとまで噂された。青年は、賭けに負けた代償に、第4世代型の強化人間手術を受けさせられたのだ。

 

 元々荒かった気性は、その時を皮切りに更に激しさを増し、青年にとって親友と呼べる男だけが互いの支えだった。

 

 二脚とタンク、確かに相性の良いコンビだったろう。守りに長けるタンク型は、同時に火力にも優れ、正しく移動砲台と呼ぶに相応しい。二脚は、移動能力に優れ、また火力携行にも一定の適性を示す。彼らは二人で一人と言っても良かった。

 

「ミ、ミシガン!!」

 

「どうしたイグアス! ……決定された作戦に今更抗議でもするつもりか!」

 

「あたりめえだろ、このクソ親父……たったAC2機で壁を落とせる訳ねえだろうが!!」

 

「フン……そんなのは分かりきっている。分かったらとっとと準備にかかれ!」

 

「クソ、この……!!」

 

 イグアスは乱暴にミシガンの執務室の扉を閉める。

 

「まったく狸共め、俺の部下を使い捨てさせるとは。気に入らん。 ──ナイル、応答しろ」

 

『聞こえている、ミシガン。あんたも悪い男だ』

 

 

 

 

 

 

 

 

 ヴォルタとイグアスがレッドガンに拾われたのは、もう7年前になる。総長ミシガンの顔面に一発喰らわせる、という目標を未だ高く掲げ続けるイグアスと、対照にもう諦めて小手先の商売を学ぶヴォルタだったが、どちらも優れたACパイロットだった。

 

 だが、そんな彼らも壁という大きな敵の足元にあっては型なし、絶体絶命の危機に陥ろうとしていた。

 

「クソッ! ヴォルタ、まだくたばってねぇな…!?」

 

『当たり前だろ、こんなところで死ねるか!』

 

「とにかく、壁ん中に入らねぇとやべぇ。行けるか?」

 

『合図で行ける! まずはあの四脚だよな?』

 

 強力な火砲を満載し、対面の敵を火力を以て叩き潰す。それがヴォルタだとすれば、敵の攻撃をいなし続け、プレッシャーを与え、隙を生み出す。守りに長けた存在。それがイグアスだった。

 

 ずる賢く、しかし土壇場でこそ強くなる。

 

 イグアスだけがその時、壁をまともに落とそうとしていた。戦闘中のせいで硬直してしまいそうな脳をフルで働かせ、策を練る。

 しかし、壁外から飛んでくるグレネード弾が味方のものであると分かると、とうに火砲の中で斃れたと思い込んでいた部隊からの信号がまだ生きていることにも気付く。

 

「MTがまだ生きてんのか!?」

 

『ああっ、クソッ! なんとか生きてるぜ、G5! 俺たちはいつ突入させてくれんだ!』

 

「このクソバカ共、生きてんなら言えッ!! ……いいか、俺とヴォルタが砲台を破壊したら、一斉に市街に散らばれ。壁上のグレネード砲……アレはACでもまともに喰らえばヤバい。テメェらはとにかく雑魚を潰せ、俺たちで上に行く」

 

『OK、イグアス!』

 

『……やれるぜ』

 

「よし……行け!」

 

 

 ガトリング砲台が市街手前でMT部隊の侵入を阻む。イグアス達市街侵入組で、主力となるMT部隊を支援する必要があった。そして咄嗟に立てた作戦、それが街区における砲台の全破壊及び、敵主力となる四脚MTの破壊だった。

 ヴォルタが陽動役を取り、素早く動けるイグアスが砲台を破壊するのだ。イグアスの駆るACヘッドブリンガーから放たれたリニアライフルとマシンガンの弾丸が、いくつも砲台に吸い込まれていく。

 

 それは火薬に引火したか、それとも燃料に引火したか。とにかく砲台が破壊され、主力MT部隊は市街に入り込んでいく。

 作戦の第一段階は完了した。

 

『イグアス! やべぇ、上から何かが見てやがる!』

 

「砲台だ! グレネードが来る、散開しろ!!」

 

『撃ってきた! カバー急げ! 早くし───』

 

「……おい、どうした? ……クソッ!!」

 

 壁上砲から放たれた大口径グレネードに巻き込まれ、数機のMTが瞬く間に溶ける。前線の突入部隊にはシールドを持っていた機体も配備されていたはずだが、あの馬鹿げた火力の前にはお構い無しらしい。

 

 素早く前進し、イグアスがMTを排除しながら砲台の下へと進んでいく中、ヴォルタは正面で敵の攻撃を一手に引き受けていた。街区中央道へは流石にグレネードも飛んでこないようだが、狙撃用に出力を高めた大型リニアキャノンが山ほどヴォルタを仕留めようとレーザーサイトを伸ばしている。

 

『イグアス! 流石にこれ以上はキャノンヘッドが持たねぇ! どうにかなんねぇか!?』

 

「待ってろ……あのクソ共、纏めて吹き飛ばしてやる…!」

 

 壁の真下に張り付くことに成功したイグアスが見つけたのは、垂直射出カタパルト。それに飛び乗り、彼が機体とカタパルトとを同期させると、一挙に飛び上がった。自由落下手前になって砲台の姿を視認し、アサルトブーストを始動して機体を飛ばすと、壁側面に建設された足場にマウンティングされる移設砲台を破壊して回る。

 

「死ねッ! このクソ野郎共が、俺のダチに手ぇ出してんじゃねえぞ!!」

 

『助かったぜイグアス……次はテメーだ四つ足野郎!』

 

『くっ、企業の狗どもめ! “灰被りて、我等あり”!』

 

『うるせぇッ! 聞き飽きてんだよそれ!!』

 

 ヴォルタのACキャノンヘッドと、バズーカを装備する四脚MTとがぶつかり合う。装甲以上に火力が物を言う戦いだ。四脚MTは、総重量こそAC以上だが、局所的にACより優れた火力、またAC並みの出力を誇るジェネレータを搭載可能だった。空を浮かび、機動戦闘を全く考慮しないのであれば、この壁を垂直に飛行して飛び越えることも技術的には可能だ。

 

 だが、そんな事は意味を成さない。相手はタンク。汎用兵器の中では、火力と装甲において比肩するものはないほどの超重装甲。超火力。双方を併せ持つのだ。

 

『邪魔してんじゃねーぞボケ……死ね』

 

『帥父……! 申し訳ありま───』

 

 ショットガン、グレネードキャノンと、ACにおける最大の火力を代表するような武装をありったけぶつけられた四脚MTの末路は、もはや語るに及ばずだった。

 

 後衛の主力を片付けたヴォルタは、眼前の正門にハッキングを仕掛けようとするが、どうにも動かない。というよりはアクセスポイントが無い。旧式の構造でしか開かないらしく、ACを通さないには充分な機構だ。

 市街制圧は主力MT部隊に任せるとして、この正門は開きそうになかった。ヴォルタが立ち往生している時、イグアスが全ての砲台を破壊して合流する。

 

「市街はこれで落ちたか」

 

『終わりか? 生き延びたのか、俺たち』

 

「バカ、まだ上にいる」

 

『そうだった。 けどよイグアス。上になんざどうやって行くんだよ。俺もお前も飛べねえぞ』

 

「……アレを使うぞ」

 

 そう言ってイグアスが指し示すのは、垂直カタパルト。

 

「…ああ……」

 

「足場に隔壁が備え付けられてた。多分あん中に入ってけば屋上に着くんだろ」

 

 提案通り、カタパルトで順番に飛び上がるイグアス、ヴォルタ。足場に到達すると、ヴォルタが警戒している間にもう片方が隔壁のハッキングを試みる。ACのOS内に組み込まれたハッキングシステムを以てすれば、解放戦線の貧弱なプロテクトでは扉の開閉権限を守ることもできないだろう。

 

 壁内部へと侵入し、汎用兵器や軽MTの類など瞬く間に殲滅して進んでいく二人。いよいよリフトに到達し、これを昇れば恐らくは屋上に辿り着くだろう事が想像に難くない。

 

 壁内部の詳細を一切把握出来ていないベイラムと、そんな本社の下した指示に従うしかないレッドガンの二人としては、これ以上に無いぐらいに順調だった。このまま上手く行けば、レッドガンによる壁越えは果たされる。

 

 ……上手く行きすぎていたと、思うべきだった。最上階へ到着したリフトを降り、警戒を続けながら、壁上砲のいるだろう屋上へ続くシャッターを上げる。

 

 ハッキングを終え、いよいよ二人は突入する。

 

 

 

 

『……やれやれだ。そう簡単にはいかないか』

 

『第4隊長、確認しました。レッドガンのACです』

 

 爆発と共に、2機のACがジャガーノートの裏から飛び出してくる。片や実弾に、片やENに、それぞれ装備が偏重していた。フレームからも、その戦闘スタイルが撹乱とヒットアンドアウェイが主だと窺わせた。

 

『気を抜くなよ、ノイン。少なくとも下の主力部隊を下してきたACが相手だ』

 

『了解』

 

 

 屋上に待っていたのは、ボロボロに打ち壊され、無惨な姿となった壁上砲(ジャガーノート)の姿。そして、2機のAC。

 双方が特徴的なシュナイダー製フレームに身を包む事からも、その出自や所属は容易に想像できた。

 

「テメェら……ヴェスパーだな。 何のつもりだ?」

 

『なんの事は無い。利用させてもらっただけだ、君達をね。スネイルにとっても予想外だったようだが、君達を倒せば壁はアーキバスのものになる』

 

「どうでもいい事までべちゃくちゃ喋りやがって、鬱陶しい……! ヴォルタ! サクッと潰すぞ!」

 

『おう…こいつら、スカしやがって気に入らねえ』

 

 壁上にてヴェスパーとレッドガン、ルビコンに進駐した二大星外企業の精鋭が揃った。敵対企業の手先同士が触れ合えば、どうなるかは簡単にわかる。

 

 イグアスが第4隊長ラスティに食らいつき、ヴォルタの2連装8分裂ミサイルが同機へと飛翔する。

 ラスティはリニアライフルとマシンガンによる被弾を最小限に抑えつつミサイルを寸前で躱し、反撃のためにハンドガンとプラズマミサイルをイグアスへと撃ち込んだ。

 

 もう一度イグアスを支援したかったヴォルタだが、最初の支援攻撃以降ラスティへ手を出す事ができずにいた。ヴェスパーのもう一方たる第9隊長、ノインに攻撃されているからだ。

 

『クッソが……邪魔すんじゃねえ!』

 

『悪いけど、抑えてないと好き放題されそうだし』

 

 タンクと軽量二脚。ACという枠組みの中で、まさに対極にあたる存在同士の戦い。当てればほぼ勝てるが、その()()()()が当たらない。逆に決定打にかける軽量機は、如何に当たることなく敵を撃ち続けられるかが肝だ。

 

 その点においては、ノインに軍配が上がった。

 

『クッ、この……ちょこまか動くな、殺すぞ!』

 

『ノイン、やらせるなよ』

 

『わかっています、第4隊長』

 

「ヴォルタ! そんまま粘れ!」

 

『あたぼうよ、イグアス……。 こんな、ふざけた連中に転がされてたまるかってんだ!』

 

 4機の火線が交差し続ける中、()()は現れた。

 

 

 

 

『……まだ戦闘が続いていると思って来てみれば……。 イグアス、ヴォルタ、随分と手間取っているようじゃないか』

 

「……! …ナイル、何しに来やがった?」

 

『ミシガンが援軍として俺を寄越したんだよ。いいからさっさと終わらせるぞ』

 

 

 ノインはレッドガン勢に加勢しに来た3機目を分析する。ラスティもその正体は把握していたようで、手の動きを止めて後退する。

 

 

『やれやれ……副長ナイルか。忙しいな、ノイン』

 

『不利ですが……継続しますか?』

 

 

 

 

 

 

『当然だ。後詰にもう一人呼んでいるからな。これで3対3、フェアじゃないか』

 

 

 

 

 

 “壁”に、6機目のACが到着する。

 

 アーキバス、ベイラム、RaD、ファーロン。様々な装備で機体を固め、まさに独立傭兵と呼ぶに相応しいその機体は、最近になって頭角を現し始め、機体を次々と更新しながら戦果を挙げ続ける傭兵のものだった。

 

『621、始めろ』

 

『───メインシステム、戦闘モード起動』

 

 

 

 独立傭兵、レイヴン。今注目される独立傭兵の中でも、トップレベルの能力を持つとまで噂される存在。

 

『来たな、ハンドラー・ウォルターの子飼い』

 

『レイヴン…? いつの間に呼んだのです?』

 

『スネイルが予防策として寄越した。フロイトは別件で居ないからな。相場より安く、相場より強い。ベイラムはつくづく勿体ない真似をしていると思うよ』

 

 レイヴンはラスティとノインの傍に立ち、仕切り直された戦線に立つ。向かい合う先に立ちはだかるは、ベイラム専属のAC部隊レッドガンの副長、G(ガンズ)2、副長ナイル。同じくレッドガンの4番機ヴォルタ、5番機イグアス。

 

『テメェ…あん時の野良犬じゃねえか…』

 

『丁度いいぜ、いつぞやの礼を───』

 

『わかっていると思うが、アレ1機で不意打ちとはいえお前ら二人を倒す実力者だ。やる時は全員でかかるぞ』

 

『チッ…ったりまえだ。こんな奴にやられてたまるか』

 

 レッドガンとヴェスパーの睨み合いは、ヴェスパー側の独立傭兵、レイヴンが先陣を切ってミサイルとレーザーライフルを連射しながら近づいていったことで火蓋は切られた。

 

 ヴォルタがレイヴンを迎撃する間、主力たるナイルとイグアスは敵陣営でも最大の脅威と思われるラスティを排除しようと動く。

 

『これは───おっと!』

 

 ミサイルの弾幕の中に織り交ぜられた、リニアライフルのチャージによって加速される弾道を躱すラスティ。ナイルのACディープダウンには、弾幕で敵を圧殺する目的のもと三種ものミサイルが搭載されている。重装甲との両立のため、支援から前線での戦闘のどちらにも適応可能だった。

 

『避けるか。流石は番号付き…!』

 

 ラスティのカバーに、ノインがレーザーハンドガンとパルスガンでナイルを狙い、横槍を刺す。それを嫌ったナイルが距離を離すようにクイックブーストで回避機動を取り、彼をカバーするようにイグアスがパルスシールドを構えてノイン機の正面に立つ。

 

『やらせるかってんだよ……!!』

 

 イグアスがシールドを解除し、リニアライフルとマシンガンによる弾幕でノインに牽制射撃を加え、一時撤退させた。

 

 

『ぐっ、この……!』

 

 一方、レイヴンと一人で撃ち合い続けていたヴォルタはかなり手痛い損傷を受けていた。ショットガンやミサイルなど、EN不足で動けないところに撃ち込めば命中が見込めた装備で削れてはいたものの、グレネードのような低弾速高威力の弾頭など当たりそうにもなかった。

 

『621、タンク型と真正面から撃ち合うな。避けられる攻撃は確実に避け、徹底した刺し返しで削り切れ』

 

『はい…ウォル、ター…』

 

 自律しての思考が単純化しやすいレイヴンの頭脳とも言えるウォルターが彼女に適切な指示を通す事で、前回での戦いから忘れていた記憶を想起させ、動きを最適化させていく。

 

 レイヴンもまた、第4世代型強化人間であるが、それまでの失敗作達とは一線を画すほどに高い能力を示していた。

 

『だ……ダメだ! 機体が……クソッ!!』

 

『ヴォルタッ!』

 

 レイヴンの背後から急速で迫り、ブーストチャージを喰らわせるイグアス。スタッガー状態をこそ免れたものの、衝撃蓄積によるACSの許容が限界まで近づいていたのだろう。レイヴンは、イグアスに倣って後退してきたナイルとの弾丸の応酬を途中で切り上げ、味方の元まで後退した。

 

 ノイン、ラスティ共にミサイルの弾幕を回避し切れず、それなりの損傷を受けている。特にまだ対ACに習熟したとは言い難いノインはダメージが顕著で、もう一度交戦しようとすれば機体の破損は免れない状態だった。

 レイヴンもある程度の機体損傷は認められたが、戦闘の継続は可能のようである。

 

 対するレッドガンはほとんどが相応のダメージを負い、特に機体装甲を活かしてレイヴンと一分以上に渡って殴り合い続けたヴォルタは、既に戦闘の続行が難しい状況だった。

 イグアスとナイル双方も、防御性能に富む機体でこそあるものの、レーザーやパルス弾からかなりの痛手を負っている。特にラスティからのレーザースライサーによる斬撃を受けたナイル機は、既にAC用リペアキットの予備さえ尽きていた。

 

『チィッ………』

 

『悪ぃ…イグアス……!』

 

 

 

『……はぁっ……はぁ…』

 

『無理はするなよ…第9隊長』

 

『いえ……まだ、やれます…』

 

 

 またも互いを見合う構図になってしまう。イグアスが再度仕掛けようと踏み込んだ時、ナイルからの静止が入る。

 

『あぁ? 邪魔すんじゃねえよ、ナイル……!!』

 

『黙れ、ミシガン総長からの通達だ。帰るぞ』

 

『はぁ!? ボコボコにやられて黙って帰れってのか!?』

 

『下で街区を制圧していたMTが、別のヴェスパーにやられた。ここで粘っても一網打尽になるだけだ』

 

 ナイルの言葉をそのまま受け取るなら、ラスティは独立傭兵だけでなくACの増援までもを呼んでいたことになる。“壁”は確かにアーキバスとベイラム間におけるコーラル調査競走の障害となる存在だったが、これを仮に物語とするなら、まだ序章も序章だろう。いつ見つかるかも不明なコーラル湧出地点の為に主力AC部隊を使い潰すような真似は愚行と言えた。

 

 だが実情は、戦力をどれだけ出すかのチキンレースになっていた。現にそれに勝ったラスティは、もう間もなく来るだろうヴェスパーの三人目を合わせれば、ACだけで4機用意していた事になる。

 3機しか用意していないレッドガンがより一層不利になるのは、目に見えていた。

 

 それを好機だと見たか、あるいは任務を達成しようと動いたか。とにかく追撃しようとするノインとレイヴンを諌めたのは、意外にも彼女らを召集したラスティだった。

 

『やめておけ。あれでもいつか使えるものだ』

 

『敵がです?』

 

『そうとも。労力は少ない方がいいだろう?』

 

 手を出してこないことを訝しみながらも、3機のACが撤退していく。

 

 見た目こそ単純な戦力を活かした横取りでしか無い戦いだったが、アーキバスがこの“壁”を手に入れた事で、今後のコーラル調査に大きく進展が見られるようになるのだろう。

 

 

 

 

 

 

 

 

 全部が終わったあと、MT部隊進駐と同時に屋上で待機していたノイン、ラスティに合流してきたのは、ヴェスパーの第7隊長スウィンバーンだった。

 カタパルトを使わずとも驚異の滞空性能を駆使して壁上まで登ってきたスウィンバーンは、激しい交戦の後とジャガーノートの残骸を発見し、口を開いた。

 

『これを二人で?』

 

『ジャガーノートはな。我々だけでレッドガンを相手するのは骨だから、独立傭兵と……後詰として君を呼ばせてもらった』

 

『助かります、スウィンバーン』

 

『それはいいのだが。 そうだ、レッドガンは逃がしたのか、第4隊長?』

 

『ああ。お互い損傷が激しくてな。あのままやり合えばどっちかは死んでいた。なあ、ノイン』

 

『え? ……ええ、そうですね。 レッドガンは強かったです。あのレイヴンでさえ少なくないダメージを受けてましたし』

 

『レイヴン……ああ、あの任務達成率100%とかいう嘘くさ───』

 

『それは断じてない』『ありません』

 

『えっ、えっ……』

 

 急に否定されて怯むスウィンバーン。そのまま下でやることがあるからと言いながらそそくさと降りていくのをよそに、ラスティは目を閉じてさっきまで渦中に身を置いていた戦いを想い起こす。

 

 確かにレッドガンは強かった。タンクや重量二脚も相当にやる実力派だったが……。

 思うところがあったのだろう、口を閉じて思案する。

 

(あの二脚の男……短時間とはいえ私のスティールヘイズに食らいついてみせた)

 

 高機動で撹乱し、スライサーによる溶断で一気に削り切り、倒す。そういう戦い方を押し付け、反撃には柔軟に対応する。少なくともラスティにはそれを実現するための技量があった。

 

 だが、あの二脚の男───解析データによるとG5 イグアスというらしいが───からは鬼気迫る何かを感じた。決して負けまいとする意地、それにも似た何かを。

 

 

『仕事は終わりだ。同じシュナイダー仲間の(よし)みだ、帰ったら一杯……』

 

『ですから、私は飲めません、第4隊長』

 

『ああ、そうだったな。レイヴンも帰ってしまったし……礼は後で言うとして、今はとりあえず帰って休もうか、第9隊長』

 

『はい』

 

 

 機体が巡航を始める。

 その日、シュナイダーACが2機、空を舞った。

 

 

 

 







 G2 ナイル
 古くからベイラムに身を置く生粋の軍人。42歳。
 レッドガンに所属するナンバー2であり、今のレッドガンを形成したミシガンとは古い付き合いである。ミシガンと共に、下位ナンバー達を纏める役目も持ち、前線における指揮権限を担っている。実力も申し分ないが、戦闘スタイル自体は正面からの格闘戦に臨めるものではなく、味方を最大限活用するための司令塔としての趣が強い。

 G4 ヴォルタ
 レッドガンに所属する若いAC乗り。25歳。
 同じくレッドガンでACパイロットを務めるイグアスと同年齢であり、同部隊随一のタンク乗りでもある。彼が手ずからアセンブルした乗機キャノンヘッドは、火力投射能力・近接防御能力の双方に長けるパワータイプ。良くも悪くもベイラムの掲げる“物量と火力による制圧”の理念を体現している。

 G5 イグアス
 レッドガンに所属する若いAC乗り。25歳。
 ヴォルタと同い年であり、同時に第4世代型の旧式強化人間でもある。7年前にベイラムの支配する街の一角でミシガンにヴォルタ諸共拾われて以降、AC操縦技術への高い適性を活かしてACパイロットとなる。基礎教育と長い訓練過程を終えて実戦に投入されたのが僅か一年前であり、著しい能力の向上によって調子に乗ることを危惧したミシガンから、日夜強烈な扱きを受けている。

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