強化人間部隊ヴェスパーの9人目   作:ねむい

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 おわび

 タイトルを間違えて投稿しておりました。
 以下の通り訂正致しました。

 誤“戦闘データ回収”

 正“捕虜回収護衛”




7話 捕虜救出護衛

 

 

 

 

 

 先日での“壁”の一件以降、アーキバスとベイラム間での武力衝突頻度は日に日に増していた。現状はまだ小競り合いで済んでいるとはいえ、AC同士がぶつかり合う事も最早珍しくなかった。

 

『ツィイー…遅れてすまない』

 

『いいさ…まだ生きてる…。 少し休んで、またやり返そう』

 

 それは、二つの企業に蹂躙される運命にあったルビコニアンにも酷く影響を及ぼしたのだ。

 ベイラムやアーキバスによるルビコニアンの()()。一方的な戦力差による非人道的な扱い。捕虜とした原住民を拷問し、彼らが求める“コーラルの井戸”の位置を吐かせるのだ。

 

 独立傭兵レイヴンは、そんなベイラムの虜囚となってしまったルビコニアンを単身救出する輸送ヘリの護衛任務に当たっていた。

 

『同志ツィイーを収容した。独立傭兵レイヴン、引き続き、護衛を頼む』

 

『──任務の継続を了解』

 

 コンピュータの無機質な返答に、解放戦線のヘリパイロット、アーシルは心強さを覚える。

 レイヴンは強い、と……。彼だけではない、他の独立傭兵や企業所属戦力もレイヴンの事を正当に評価し始めていた。

 確実な任務の遂行───それの示すものとは、すなわち敵対者の確実な“死”。

 アーシルは、一時的にとはいえレイヴンという絶対的な能力者を味方に引き入れられた事を幸運に感じていた。これが仮に、ヘリを撃墜するための敵として現れていたら…そう思うだけで、背筋から凍りつく勢いだった。

 

『ポイントBに到着。同志メッサムを救出する』

 

 BAWS製の歩兵用マシンガンを装備した救出部隊が、救助ポイントに取り付いたヘリから降下し、建物に突入する。その間もレイヴンは、彼が操縦するヘリをベイラムのMTから守っていた。

 しばらく後、救出部隊からの通信を受けたアーシルは彼らに返答する。

 

『……了解した』

 

 レイヴンがMT複数と交戦している間に、捕虜の救出は完了していたらしい。しかし、第二ターゲットの救助に成功したはずのアーシルの声は、彼女には落ち込んでいるように聞こえた。

 

『同志メッサムを収容した……拷問を受けて酷く衰弱している。ペースを上げなくてはならない、レイヴン、どうか最後まで頼む』

 

『メッサム…! 助かって良かった……!』

 

『おぉ……井戸の場所、話さなかったぜ……』

 

『──任務継続を了解』

 

 レイヴンはヘリ周囲の敵を排除したことを確認すると、直ぐに進路上の敵を排除しに掛かった。

 メッサムは、ルビコン解放戦線に加わった若い兵士だ。ツィイーやアーシルとも年齢が近いのか、仲が良いらしい事を言葉の節々から推察できた。

 

『そうだ……ノインのやつは、どうした……? あいつも、捕まってるんだろ……?』

 

『───メッサム、それは……』

 

 アーシルがそれに答えようとして、言葉に詰まった。ツィイーとメッサムの二人は捕まっていて知らなかったのだが、話せずにいる彼だけはノインが今どうしているかを知っていた。

 

『ノインは…確か、アーキバスに捕まってるって。でもあの子は強いから、きっと大丈夫さ…』

 

『そうか…だと、いいが……』

 

 そのやり取りに、アーシルは答えてやれずにいた。

 

 

 

『……ポイントCに到着。同志……帥父ドルマヤンを救出する。レイヴン、最後だ、どうか頼んだ』

 

 飛び交うミサイルがいくつもの砲台を破壊していく。マルチロックされた複数の弾頭が、MTに突き刺さっていく。敵は殲滅されようとしていたが、レーダーで増援を捉えたアーシルが叫ぶように伝えた。

 

『レイヴン! 後方にMT輸送機だ、迎撃を!』

 

 その言葉を言い終わるか終わらないかぐらいに放たれたリニアライフルの強化射撃による弾丸は、正確無比に輸送機を撃ち抜いた。機体を真正面から貫通された輸送機は、満載したMTを切り離す事も出来ずに墜落し、爆発する。

 

『……流石の腕前だ。帥父ドルマヤンも救出できた、あとは脱出するだけだ、レイヴン』

 

『…レイヴン……意志の表象……』

 

『師父?』

 

『だが、全ては消えゆく余塵に過ぎない……』

 

 並々ならぬ様子のドルマヤンに困惑する一同だったが、早めに立ち直ったアーシルだけがレイヴンに引き続きの指示を下す。

 

『…とにかく、本機はこれより戦域を離脱する。援護してくれ、レイヴン』

 

『──了解』

 

 先行し、敵を殲滅しているレイヴンを背を追うように、ヘリを飛ばす。戦闘エリアの離脱まで、あと少し──そんな焦りが、アーシルを襲う。

 しかし、どのような任務だろうと上手いこといかないというのが世の常だ。今回においてもそれは例外に無く、広域レーダーに敵の反応が複数現れたのを確認して顔を青く染めた。

 それは明らかにAC反応。ベイラムの擁するACなど、ひとつしか考えられない。

 

『AC確認! …あれは、レッドガンのAC!』

 

 汚染市街をもうすぐ抜けられるはずだったが、それを崩壊してくるのが敵の仕事だろう。大方応援要請を受けて緊急招集されたか。少なくとも、レイヴンにとっての撃破対象となる事は確定だった。

 

『捕虜奪還に、単機で護衛とはな。 その蛮勇は認めるが…通らんよ、それは』

 

『だめだ、この状態では被害が出る……レイヴン、脱出ルートの確保を頼む!』

 

『──ミッション更新確認。敵を排除』

 

 レイヴンとレッドガンのAC……確認したところによると、G2 ナイルのようだった。漏れて使い物にならなくなったオイルに塗れた汚染市街で、2機が踊るように互いの弾を避けながら撃ち合う。

 

『なるほど…ミシガンが買っているだけはある。 …ッ!?』

 

 不意にレイヴンが繰り出してくるパイルバンカーの刺突を、すんでのところで回避するナイル。冷や汗が彼の額を伝った。隙があれば確実に仕留める、これはその布石だと言わんばかりの攻撃に、その場の誰もが息を呑んだ。それは、ヘリに備えつけられたマシンガンで援護射撃をするアーシルも同じだった。

 

『危険だな……そんな感覚だ。イグアスとヴォルタがケツを蹴り上げられたのも納得だ』

 

 ミサイルを複数装備し、とにかく弾幕による撹乱に特化したナイルの機では、突破力に優れるレイヴンの攻撃を凌ぎ切ることは不可能だった。やがてその猛攻に押し切られると、機体から火が吹き始める。

 

『やるな……各員退却! やられた奴は機を捨てて逃げろ、俺もそうする……!』

 

 ナイルは仕方なしに脱出レバーを引いた。

 

 

『これ以上の追撃は…無さそうか。独立傭兵レイヴン。あなたの協力に感謝する』

 

 ヘリが戦域を離脱していくのを、レイヴンは見届けていた。戦闘が終了し、やることも無くなったあの独立傭兵は、自らの主と連絡を取っているのだろう。

 

 …このままアジトまで帰ろう、アーシルは満身創痍となっている三人の同胞達を連れ、ヘリを全速で飛ばしたのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

「…ありがと、アーシル。おかげで助かったよ」

 

「気にしないでくれ。あの独立傭兵…レイヴンが手助けをしてくれなければ、私だけじゃ不可能な作戦だった」

 

 若年の兵士たちの詰所にある寝室で、幼なじみの三人が集まっていた。ヘリ操縦手アーシル、ACパイロット“リトル・ツィイー”、重MT乗りメッサムの三人だ。

 メッサムはかなりの重傷だったこともあって療養中……尤もそれはツィイーも変わらず、彼らが眠るベッドに挟まるように、アーシルが椅子を引っ張ってきているという状態だ。

 

「本当に幸運だった…俺ももう少しで死んでたかもって…」

 

「でも生きてるじゃないか、メッサム。あたしもあんたもさ」

 

「…そう、だけどよ…ツィイー、全員が無事じゃない」

 

 三人は……正確には、()()()の今を知るアーシルを除いてなので二人が、四人目の事に思いを馳せる。

 

「………」

 

 暫し三人の間に痛々しい沈黙が流れる。それを破ったのは、唯一四人目……ノインの有り様を知るアーシルだった。

 

「……ノインは今、ヴェスパーのナンバー9だよ」

 

「え……?」

 

「ち、ちょっと待て……それってよ、つまりノインのやつは俺達を……ルビコニアンを裏切ったってことなのか?」

 

「……わからない。アーキバスにはファクトリーって更生施設があるだろう?」

 

「まさか、それに……?」

 

「可能性はある。でも、そうだとして何だっていうんだ。私も君たちも、もうあの子には手も声も届かない。ヴェスパーはアーキバスきっての精鋭だ。いくら師父ドルマヤンが戻ってきてくださったとはいえ……」

 

「……そうだよ、帥父ドルマヤンが戻ってきたんだ!! 帥叔フラットウェル司令もいるし、ダナム叔父さんも…そうだ、六文銭だっているじゃんか! みんなで力を合わせれば、きっとヴェスパーなんてやっつけてノインを取り返せる!!」

 

「そうだぜ、アーシル……希望は捨てちゃいけない。ダナムさんも言ってたじゃねえか。“灰被りのルビコニアンは、灰も被らぬ軟弱には負けない”ってよ……」

 

「……だといいが…私には、どうしてもこの後が恐ろしくて仕方ないんだ。ノインと殺し合いなんて、私は……みんなしたくない。こうなってしまったら、コーラルがあっても──」

 

「それ以上はやめておけ」

 

 聞こえるはずのない四人目の声に、三人は部屋の外へと振り向く。そこに立っていたのは、それこそ先程ツィイーから名前が出てきたミドル・フラットウェル司令官その人だった。

 

「帥叔! …すみません、こんな失言を」

 

「構わない。が、他者の前でそれを言うのは控えておけ。大体は聞かせてもらった。伝える事がある、悪い話になるがな」

 

「フラットウェル司令、悪い話とは……?」

 

 少し息を吐いたあと、フラットウェルは続けた。

 

「お前達と仲の良かったノインは、自らの意思でアーキバスに寝返っている。ベリウス南部の戦闘区域に遺されていたログから、アーキバスの進駐部隊に投降する様子がハッキリと映っていた」

 

「そんな……! ノイン…」

 

「恐らく、彼奴の肉親の死がトリガーだろうが……とにかく、もはや連れ戻せるとは思うな。戦場で出会ったら逃げるか……躊躇わず殺してやれ。それが手向けの花となろうよ」

 

 息を殺す三人を痛ましく思ったのか、フラットウェルもそのまま黙ってしまう。やがて、時間になったのだろう。帥叔は部屋を後にしようと席を立つ。ドアノブに彼が手をかける瞬間、ツィイーがフラットウェルを呼び止めた。

 

「…それでも……。 …あたしたちはノインを諦めたくありません、師叔」

 

「……好きにしろ。だが、お前達の命はもうお前達一人だけの物ではないと心しておけ」

 

「はい……」

 

 今度こそ部屋を出るフラットウェル。

 アーシルら三人は、この場に集まれなかった最後の一人ノインの事を、どうやって取り戻すのか、そればかりを話し合っていた。だが、無謀な案、現実的な案、どれを取っても不可能に思えてならなかった……。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ノイン、スネイル閣下が呼んでいましたよ」

 

「また呼び出しですか、メーテルリンク」

 

「そのようです。閣下もお待ちでしょうし、早いところ向かった方が良いと思います」

 

「ありがとうございます、すぐ向かいますね」

 

 

 

 

 ドアをノックする音。続いて許可と、ドアが開く音。

 

 

「お待たせ致しました、スネイル第2隊長」

 

「まあ、概ね時間通りです。さてノイン…貴方には明後日、幾らかの部隊を連れて惑星封鎖機構の監査部隊を攻撃してもらいます」

 

「惑星封鎖機構を? はぁ…それは構いませんが、何故私に? 私よりも腕が立って部隊指揮の上手な隊長はいます。ほら、それこそオキーフさんだとか、ラスティとか」

 

「全て説明してやらねば気が済みませんか?

 フロイトはレッドガン主力との交戦任務、私はその陣頭指揮。オキーフはBAWSへの諜報任務、ラスティはベイラム戦力の偵察、ホーキンスはペイターと共に西部の調査、メーテルリンクは南部で解放戦線の部隊排除、スウィンバーンはヴェスパー下部部隊の訓練。

 

 ……と、現状で空いている手は貴方しか無いのですよ。わかったら返事を。無論、報酬も妨害した機数に応じて加算します」

 

「……分かりました、第2隊長。そこまで仰るのなら、僭越ながら私がその任を遂げてみせます」

 

「良い返事です。さあ、今日は備えて休んでおくことです。明日には合同訓練がありますから」

 

「はい、第2隊長」

 

 

 

 

 

 

「ちぇっ、スネイルのやつ、また面倒臭いこと押し付けてきたなぁ」

 

「……それを俺の部屋の中で言うのかよ、ノイン」

 

「だってさぁ、いいじゃん。部下だよ部下。私がどれだけ好きに扱ってもいいんだよ」

 

「うっ…。 命を救われた手前、俺が何も言い返せないのをいい事に好き勝手しやがる……」

 

 チョコレートの味がするレーションをトーマスの机から取り上げ、ぱくりと一口摘む。ノインが甘いものが好きだったが故の失敗である。トーマスはそれをソファの下にでも隠しておくべきだった。

 

「チョコレートレーションは惜しいが……それよりも」

 

「ん?」

 

「ノイン、変わったよな」

 

「……何を」

 

 言うの。

 そこまで言おうとした言葉は、トーマスに遮られた。

 

「だってよぉ、一ヶ月半ぐらい前のお前って、話し方が冷たかったじゃねえかよ。ナイフみたいだった。でも今はそんな感じしなくてさ。トゲが抜けてきたって感じ?」

 

「……馬鹿な事を言わない。これからもこき使ってやるからそのつもりでいなさいよ」

 

「げっ、やめてくれよぉ…」

 

 

 

 

 

 






 サム・ドルマヤン
 ルビコン解放戦線の総司令官。69歳。
 青年期をドーザーとして過ごし、アイビスの火を経験する。その時の体験が元になってコーラル神秘主義者となったドルマヤンは、星外から攻め込んでくる星外企業の支配や弾圧に抵抗するため、ルビコン解放戦線を創立。“コーラルよ、ルビコンと共にあれ”という警句の下に集った有志を率いて、戦いに身を投じるに至った。またルビコン解放戦線総司令という立場でありながら、ACパイロットとしても優れた能力を持つ。これは操縦適性よりも年齢を重ねた事による豊富な経験から来ており、解放戦線の主力として敵を苦しめた。

 アーシル
 ルビコン解放戦線の若き兵士。18歳。
 解放戦線の団員の中でも若く、親のいなかったアーシルにとっては解放戦線こそが家族だった。正確には解放戦線の前身となる原住民達が、だが、その質素な暮らしはアーシルが若くして成熟した精神を持つようになる理由としては充分だったと言える。兵器類の操縦適性は見出されなかったものの、何かしらの形で解放戦線に貢献したいという思いは、彼をヘリパイロットとして成長させ、同時にヘリガンナーとしてもある程度の能力を得るに至った。だが、成熟した精神というものは彼を少しずつ諦観主義として蝕んでいった。

 ツィイー
 ルビコン解放戦線のパイロット。17歳。
 アーシル、メッサム、ノインと幼なじみのACパイロット。惑星封鎖機構に撃墜された船から奇跡的に生還した赤子のツィイーは、幼少をミドル・フラットウェルに、青年期をかつての職工ダナムに育てられた。やがてACを駆るようになると、ダナムと共に解放戦線に加わり、サム・ドルマヤンやミドル・フラットウェル、ドルマヤンの付き人リング・フレディに倣って、ダナムはインデックスを、ツィイーはリトルの名を受けた。

 メッサム
 解放戦線MT部隊の兵士。17歳。
 BAWSから派兵されて元鞘たるルビコン解放戦線に戻ってきた兵士。ベイラムとの戦いに身を投じた末捕縛され、小規模なコーラル湧出反応のあったエリアの情報を吐くよう拷問されていた。結果として井戸の場所を吐くことなく救出されたが、あと一日遅ければ死んでいたほどに衰弱していた。ベイラムの物量を前にしては、堅牢さを取り柄とするBAWS製重MTも形無しだったのだろう。運良く生還したものの、ノインの姿が無いことで素直に喜べずにいた。






 おまけ

 メッサムさんはミッション捕虜救出の際に助けられなかった、ツィイーとドルマヤンの間にいる二人目の人です。
 今回ではレイヴンがレッドガンの壁越え時点でアーキバス主力と共に壁を制圧したため、救助が急遽前倒しになり、そのおかげで命からがら生還できました。よかったね。



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