【第一章完】からくり始末記~零号と拾参号からの聞書~   作:阿弥陀乃トンマージ

41 / 50
第10話(4)からくり侍、そして……

「だ、大丈夫かね……」

 

 技師が不安そうに後ろを振り返る。

 

「今は進むしかありません!」

 

 楽土が声を上げる。

 

「進むたって……楽土さん……」

 

「え?」

 

「この先にあるのは本丸だよ⁉」

 

「そうですね……」

 

「そ、そうですねって……」

 

「しかし、ここまで来たのなら逃げるのも容易なことではありません!」

 

「だ、だからと言って……」

 

「万が一の時は、なんとか技師さんだけでも逃がします!」

 

「! た、頼もしい……!」

 

 技師が目を輝かせる。

 

「むっ⁉」

 

 楽土が周囲を見回す。

 

「なんだ⁉」

 

「曲者じゃ!」

 

「出あえ! 出あえ!」

 

 周囲の建物などから侍たちが大挙して飛び出してくる。

 

「くっ!」

 

 楽土と技師はからくり牛の進軍を停止させる。侍たちが取り囲む。

 

「ど、どうします⁉」

 

「どうしましょう⁉」

 

「ええっ⁉」

 

 問い返されたことに技師は驚く。

 

「……こやつらは何者だ?」

 

「そ、それがしたちは決して怪しい者ではございません……」

 

「怪しいだろう! 思いっきり!」

 

 楽土の言葉に侍たちが反応する。

 

「こやつらは例のあれだ……江戸から差し向けられたという連中だろう……!」

 

「! なるほど……」

 

「いやいや、江戸から来たのはこの方だけです! 私はなんの関わりもございません!」

 

 技師が楽土を指差す。

 

「技師さん⁉」

 

 楽土が愕然とする。

 

「万が一のことがあれば逃がすって言っていたでしょ……⁉」

 

 技師が小声で囁く。

 

「そ、そういうかたちは想定していません……!」

 

 楽土が応える。

 

「楽土さんは最新のからくりなんだから、悪いようにはされないって……!」

 

「そ、そうでしょうか?」

 

「た、多分……!」

 

「多分って……!」

 

「何をごちゃごちゃと言っている!」

 

「珍妙な牛?に跨っている時点で同じ一味だろう。捕らえる!」

 

「つ、捕まるわけには参りません!」

 

 楽土が声を上げる。

 

「抵抗するというのなら、死んでも知らんぞ⁉」

 

「やれるものならやってごらんなさい!」

 

 楽土が大きく両手を広げる。

 

「! かかれ!」

 

 侍たちが楽土に斬りかかる。

 

「えい!」

 

「むん!」

 

「うわっ⁉」

 

「せい!」

 

「ふん!」

 

「うおっ⁉」

 

「てい!」

 

「ぬん!」

 

「どわっ⁉」

 

 楽土は盾で防ぎ、すかさず侍の着物を掴んで投げ飛ばしていく。

 

「馬鹿正直に一人ずつで行くな! 槍を持っているもの、集団でかかれ!」

 

「うおおっ!」

 

「むうん!」

 

「どわあっ⁉」

 

 楽土が盾を豪快に振り回し、起こした風の圧で集団を退ける。

 

「ちいっ、弓隊、構え!」

 

「どっせい!」

 

「のわあっ⁉」

 

 楽土が地面を拳で砕き、飛び散った土塊が前に出た弓隊に当たり、弓隊は倒れる。

 

「お、おのれ……!」

 

 侍たちは少し後退する。

 

「ふう……」

 

 楽土は小さくため息をつく。

 

「……楽土さん、手加減してません?」

 

「……殺生は出来る限りしたくありませんし、仙台藩のお侍を下手に殺めてしまうと、ことが大きくなってしまいますから……」

 

 技師の問いに楽土が答える。

 

「なるほど……でも、このままだとジリ貧では?」

 

「それはそうですね。どこかで突破口を見出したいところです……」

 

「あ、あの山伏はやはりからくり人形なのでは⁉」

 

「そ、そうか! ではこちらも……! おい、連れて来い!」

 

「はっ!」

 

「むっ……」

 

 侍たちの後方から少し大柄な侍の恰好をした者が現れる。技師が呟く。

 

「あれは……」

 

「いけ! からくり人形にはからくり人形だ!」

 

「……!」

 

「!」

 

 からくり侍が刀を抜いて、素早く斬りかかるが、楽土が盾で防ぐ。

 

「……‼」

 

「くっ!」

 

 初太刀を防がれたからくり侍が二の太刀を振るう。楽土の盾が弾かれる。

 

「楽土さん!」

 

「! ! !」

 

「うっ! くっ! むっ!」

 

 からくり侍が連続で太刀を振るう。楽土は盾を持ち直して、なんとか凌ぐ。

 

「いいぞ! 向こうは防戦一方だ! やってしまえ!」

 

「ら、楽土さん!」

 

「……」

 

「ちょ、調子に乗らないで頂きたい!」

 

「⁉」

 

 楽土が腰に提げていた杖を持ち出し、からくり侍の首のあたりを貫く。からくり侍は動きを停止させる。技師がすぐに気付く。

 

「頭から体へと動きを伝達させる仕組みの部分を壊した……お見事!」

 

「はあ……」

 

 楽土が先ほどより大きいため息をつく。

 

「楽土さん、杖も武器だったのですね……」

 

「滅多に使いませんけどね……」

 

「それほどの相手だったと……さすが仙台藩の切り札のからくり人形……」

 

「いいえ、この方は違うと思います……」

 

「え?」

 

「攻撃は素早かったですが、一撃がそこまで重くない印象でした……太刀筋も素直で軌道が読みやすい……それ故に対応するのはそこまで苦ではなかった……」

 

「と、ということは……?」

 

「番号が付いているからくり人形は別にいます……」

 

「へえ、そいつを倒したのか、やるもんだな……」

 

「‼」

 

 楽土たちが視線を向けると、散切り頭で、艶々とした美しい黒髪で、中肉中背の男がそこには立っていた。若々しい顔立ちの男は小首を傾げる。

 

「狙いはおらだろ?」

 

「恨みはないですが……お覚悟!」

 

 楽土が盾を振るう。

 

「いや、杖じゃないの⁉」

 

 技師が戸惑う。

 

「むっ⁉」

 

「……盾で攻撃とは……なかなか面白えなあ……」

 

 男は斧で楽土の盾を防ぐ。

 

「くっ、びくともしない……⁉ 体格では勝っているのに⁉」

 

「おめえさあ、腰が入ってねえんだよ……」

 

「それならば!」

 

 からくり牛に跨った藤花が猛然と突っ込んでくる。

 

「‼ 藤花さん!」

 

「これでも食らえ!」

 

 藤花がからくり牛に体当たりをさせる。

 

「……」

 

「なっ……⁉」

 

 からくり牛が粉々に砕けたが、男は全く動じていない。藤花は受け身を取って、すぐに立ち上がり、男から少し距離を取る。男が笑みを浮かべながら呟く。

 

「根を張ってねえからだ。だからそうやって軽く吹っ飛ぶ……」

 

「根……?」

 

 藤花が首を捻る。

 

「まあ、これは例え話みてえなもんだ……」

 

「ぐっ……」

 

「そろそろこっちから仕掛けさせてもらうぜ!」

 

「どおっ⁉」

 

 男が斧を盾から離して、またすぐに振り下ろすが、楽土が盾で防ぐ。楽土の後方の地面が割れる。それを見て技師が驚く。

 

「そ、そんな……⁉」

 

「へえ、結構丈夫だなあ、盾もおめえさんも……」

 

「それが取り柄なもので……」

 

「名前は?」

 

「楽土です……」

 

「番号は?」

 

「拾参です……」

 

「おめえが拾参? ってことは……」

 

「隙有り!」

 

「おおっと⁉」

 

 爪で斬りかかった藤花の攻撃を男がのけ反ってかわす。

 

「! 今のをかわす⁉」

 

「おめえが零号か! 名前は⁉」

 

 体勢を立て直した男がどこか楽しげに問う。着地した藤花が応える。

 

「……新参者が先に名乗るべきじゃない?」

 

「! おらを新参者扱いするとは……こりゃあ参ったな……」

 

 男が苦笑しながら後頭部をポリポリと搔く。

 

「実際そうでしょう。私よりも後に造られたのだから……」

 

「……おらは弐号、通称『大樹たいじゅ』だ」

 

「大樹……」

 

「いやあ、番号付きのからくり人形二体と会えるとは……長生きはしてみるもんだな~今日はせっかくだから楽しもうぜ……」

 

「加勢するぞ!」

 

 周りの侍たちが武器を構えて、藤花たちをあらためて取り囲む。

 

「別にいらねえって……野暮なことすんな……」

 

 大樹がため息交じりに呟く。

 

「そういうわけにもいかん!」

 

「ちっ、仕方ねえなあ……」

 

 大樹が斧を構え直し、藤花たちにゆっくりと迫る。

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. 閲覧設定
▲ページの一番上に飛ぶ  X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。