【第一章完】からくり始末記~零号と拾参号からの聞書~   作:阿弥陀乃トンマージ

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第2話(1)団子屋にて

                 弐

 

「仙台、みちのくですか……」

 

「うん、うん……」

 

「この季節は良いかもしれませんね」

 

「うん……」

 

「まだ桜が見られるかも……いや、さすがに遅いですかね」

 

「ん……」

 

「というか食べ過ぎじゃないですか⁉」

 

 楽土が声を上げる。藤花が何皿めかの団子を食べ終える。

 

「……そうですかね、普通ですよ」

 

「いいや、普通じゃないですよ!」

 

「そうかしら?」

 

 藤花が首を傾げる。

 

「一体何皿平らげたんですか?」

 

「十皿からは数えていないですね」

 

「ええ……」

 

 楽土が困惑する。

 

「ご心配には及びません」

 

 藤花が右手の掌を広げて、前に突き出す。

 

「え?」

 

「それくらいの持ち合わせはありますから」

 

「いや、別にそれはそこまで心配はしていませんが……」

 

「十分に路銀はもらってありますので」

 

「路銀という言葉の意味、分かっていますか?」

 

「食事代だって入るでしょう」

 

 藤花がややムッとしながら答える。

 

「それにしたって限度というものがありますよ……」

 

 楽土が頭を軽く抑える。

 

「難儀なもので、こういう体でもお腹は空くのです。楽土さんは違いますか?」

 

「いや、それがしにも食欲はありますが……」

 

「そうでしょう」

 

「それでもやはり限度がありますよ」

 

「腹が減ってはなんとやらと言うでしょう」

 

「しかしですね……」

 

「ここのお団子が美味しいのがいけないのです!」

 

 藤花が机をドンと叩く。

 

「や、八つ当たり⁉」

 

 楽土が困惑する。周囲の客の注目が集まる。藤花が頭を下げる。

 

「失礼、お騒がせしました……ほら、楽土さんもちゃんと謝って」

 

「な、なんでそれがしが⁉」

 

「ほら、早く」

 

「……どうも失礼を致しました」

 

 楽土が周囲に向かって、丁寧に頭を下げる。

 

「……お茶をどうぞ」

 

 年老いた女性がお茶をそっと二杯置く。藤花が礼を言う。

 

「あ、ありがとうございます……」

 

「いいえ……お嬢さん、随分とまたお召し上がりになりましたね、びっくりしましたよ」

 

「そうですか?」

 

「ええ、この店を開いてからもう五十年近いのですが……こんなにお召し上がりになるのは女の方では久しぶりです」

 

「へ、へえ……」

 

「あれはまだ戦国の世だった頃でしょうか……ちょうどこれくらいお召し上がりになった女の方がいましたね……」

 

「ふ、ふ~ん……」

 

「ただね、何かゴタゴタと騒ぎがあって、食い逃げに近い形になってしまったのですよ……なんだか雰囲気が似ているような……」

 

「ごほん! ごほん!」

 

 藤花がむせる。年老いた女性が慌てる。

 

「ああ、早くお茶を……」

 

 藤花がお茶を飲む。

 

「……ふう」

 

「大丈夫ですか?」

 

「ええ、大丈夫です。ここのお団子が美味しいのでついつい食べすぎてしまいました」

 

「それはありがとうございます……あ、ご注文ですか? ただいま参ります……」

 

 年老いた女性がその場を離れる。楽土が呟く。

 

「食い逃げはマズいですよ……」

 

「ひ、人違い、もとい、人形違いです……」

 

「本当ですか?」

 

 楽土が冷ややかな視線を向ける。

 

「た、多分……」

 

「多分って」

 

「違うんじゃないかな?」

 

「違うのですか?」

 

「まあ、ちょっと覚悟はしておいてください」

 

「なんの覚悟ですか……」

 

「と、とにかく、ちゃんとお代は支払いますよ」

 

 藤花が懐から取り出した袋をチラッと見せる。

 

「それなら良いのですが……」

 

「このお茶を頂いたら失礼しましょう」

 

「それにしても……」

 

「はい?」

 

「仙台に向かうのならば海路もあったと思うのですが……」

 

「別に急ぎの旅でもありません、それに……」

 

「それに?」

 

「船上で襲われたりしたらちょっとばかり面倒です」

 

「……妨害はありえますかね?」

 

「恐らくは」

 

「ならば、それこそのんびりはしていられないのでは?」

 

「慌てても良いことはありません。一休み、一休み」

 

「それはそうかもしれませんが……」

 

「すぐに仙台藩に入るのも危ないです」

 

「そうでしょうか?」

 

「そうです。その為に……」

 

「その為に?」

 

「情報を収集しつつ、ゆっくりと北上します」

 

「ふむ……」

 

 楽土が腕を組む。

 

「ご納得頂けました?」

 

「もう一つよろしいでしょうか? 何故仙台に?」

 

「特に理由はありません」

 

「ええ……?」

 

「冗談です。外様大名の中では油断出来ない家の一つですからね。それに……」

 

「それに?」

 

「かの独眼竜が開発したとかしないとか言われている『ずんだ餅』というのを食してみたいと思いまして……なんでも枝豆を使っているとか……」

 

「……食い逃げは無しですよ」

 

「しませんよ!」

 

 楽土のからかいに対し、藤花が声を上げる。

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