戦え! 超強化生命体傭兵レイヴンちゃん!【本編完結】   作:ゼフィガルド

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1周年記念:『彼女の夏休み』 おま毛

「この惑星に足を運ぶのも久しぶりですね」

 

 レイヴン達が夏休みに立ち寄ってから、それなりの時間が過ぎた頃。自社製品の原料の交渉の為に、スネイルはルビコン3へと足を運んでいた。

 傍に控えさせているペイターと1317は重苦しい表情をしていた。先日、起きた事件のことを思い出しているのだろう。彼らが訪れたのは『グリッド086』だ。

 シンダー・カーラによってまとめられたドーザーを中心とした技術者集団であるが、最近は色々な人材を取り入れたこともあってあっちこっちの業種に手を出しており、変異ミールワームの養殖なども行っている。

 

【ボス。スネイル達が来たぞ】

 

 彼らを出迎えたのは、カーラの右腕とも言える『チャティ・スティック』だった。

平坦で抑揚のない事務的な対応であるが、今まで慇懃無礼や遜った態度を多数見て来たスネイルにとっては、久しく癇に障らない物だった。

 ゲートが開き、毛髪再生局一同を迎え入れた。外に向けた商売をする様になっても環境が改善されることはなく、未だに雑多とした構造をしている。申し訳程度に転落防止の柵は立っているが、中毒者(ドーザー)達を止めるには心許なかった。

 

「ここは何時まで経っても変わりませんね。ベイラムの連中も環境改善を提案しないのが不思議な物です」

 

 不満を口にしながら奥へと進んで行く。道中にはミールワームを口に咥えたまま、寝転んでいるドーザーが多数散見された。

 ただ、自堕落な状態を良しとしない者も少なからずいる訳で。メガストラクチャーの職工であるインデックス・ダナムは喝を入れていた。

 

「起きろ!! ようやく、ルビコンに平穏が訪れたのだ! 次代に繋いでいく為にも、1分1秒も有効に使うべきだと言うのに、昼間からコーラルを吹かして恥ずかしくはないのか!」

「ぷぅぷぅ、ぴゅあぴゅあ」

 

 彼の熱意は悲しい位に響いていなかった。スネイルは特に感慨も無い彼らをスルーしようとしたが、説教されていたドーザーが彼の方を見て噴き出していた。

 

「おひゃはやはやあ! 相当キテいるみてぇだ! お偉いさんの髪が増えてやがる!!」

 

 ペイターと1317は噴き出していた。ダナムも意味が分からず、スネイルの方を中止した瞬間、全身を硬直させていた。

 V.Ⅱスネイル。かつて、アーキバスグループの強化部隊第2隊長に所属していた男である。この部隊の特徴として、所属しているパイロット達は強化手術を施されている。スネイルは自らの力を高めるために何度も手術を繰り返し、非常に高い適性を得ている。

 ただ、代償が無い訳ではない。日常生活に支障が出るような後遺症が無いにしても、手術というのは身体に負担を掛ける物である。

 神経系などを調整する関係上、開頭手術も繰り返した結果……彼の毛根はルビコン3めいて荒涼としていた。

 

「おい、貴様。何がおかしい」

 

 だが、1人の少女がルビコン3に未来の種を蒔いたように、彼の頭皮にも希望と言う種は撒かれていた。広かったデコにはフサァ……という擬音が出そうな位にキューティクルヘアーが躍っていた。

 ダナムは不幸だった。彼は清廉で人の痛みに対して敏感になれる人間である。故に、彼の額に生えたキューティクルヘアーについて言及することが、どれだけ残酷かと、察してしまったのだ。

 

「い、いや。その、なんだ」

 

 ペイターと1317に助けを求める様に視線を投げたが、彼らは俯いた。いや、ペイターだけは笑いを堪えた結果、すんごい顔になっていたが。

 誰か、この緊張を解決してくれ! そう、髪に。いや、神に祈らざるを得ない事態になったが、清廉な彼の行いに報いるかのように新たな人物が通りかかった。

 

「おい、ダナム。今度、増設するストラクチャーの区画についてだけどよ」

 

 現れたのはG4と呼ばれていた男、ヴォルタだった。重量級のAC使いでもあるが、最近は建造にも熱を入れている為、ダナムと絡むことの多い彼は、こんな場所に迷い込んでしまった。

 かつて、『壁』と呼ばれる場所に、単独で放り込まれた経験もある位に、彼は運が悪かった。

 

「どうしたんですか? そんな、スタッガー状態で一撃を食らったような顔をしてからに。何か、私に言いたいことがあるなら言いなさい」

 

 公明正大に相手に意見を求めたが、口にすることはできない。

 ヴォルタも粗野な性格はしているが、触れてはならない場所を知っている。しかも、相手はビジネスパートナーとしてはかなりの上客だ。無礼を働く訳には行かない、という考えが既に無礼だったかもしれない。

 

「ボスと商談だろ? このまま奥に進んで行けや」

 

 ダナムは同志の健闘ぶりに深く頷いた。全ての話題を逸らした上で業務的なことを述べた彼の活躍たるや、称賛に値する。

 

「そうですね。どうにも、ここは脂ぎった空気をしていましてね。さっさと、話を付けて帰るに限ります」

 

 業務やスタッフの関係上、油と脂ぎった場所になるのは仕方がないことなのだ。自身の髪質を保つ為に、スネイルは懐からコームを取り出して髪を梳いていた。ぴょこん、と不自然に生えた髪が跳ねた。

 

「ブッ」

 

 耐え切れずにペイターが噴出していた。別に自分達の過失では無いのだが、彼への追及が自分達にも波及しかねないということを察して、ヴォルタがわざとらしくせき込んでいた。

 

「ったく、ゴミゴミして嫌になるぜ」

「クリンリネスはしっかりしなさい。私達と取り引きするからには、貴方達にも気品が求められますからね」

 

 彼のフォローにペイターと1317が静かにグッジョブを送っていた。

 波乱の様な遣り取りが過ぎ、進んで行った先ではRaDの工廠が広がっていた。探索用のACから廉価なMT。また、パーツなども開発している区画であり、武器開発は『ミサイル』等も取り扱っている為、元・ファーロンダイナミクスに所属していたミシガンが煩く言っていた。

 

「真っ当なミサイルの開発は連中に任せておけ! ここでしか開発できない玩具箱のような物を作るんだ! そう、ミサイル界のイースターエッグだ!」

「流石です、ご友人。変わり種の武器思想は差別化にも繋がりますからね」

『実際、普通のミサイルを作ってもシェアを取れる訳ではないしな』

 

 彼の思想にブルートゥが深く頷き、カエサルも同意する中。スネイルが声を掛けた。

 

「よろしいですか? 貴方達のボスは、この先にいますか?」

「特に出掛けるという用事を聞いたりはしていない! 先に進むと良いだろう!」

 

 ミシガンがごく普通に言っているが、ブルートゥは穏やかな笑みを浮かべている。周りのスタッフ達も一瞬スネイルを見た後、気まずそうな顔をして作業に戻っていた。そんな折である、間が悪いことに定評のあるレッドガン部隊の面々が帰って来たのは。

 

「ミシガン。BAWSとの業務提携の件についてだが…………」

「おや。毛髪再生局の社長ではありませんか。社長と商談ですか?」

 

 ナイルが言葉に詰まったので、五花海が直ぐにフォローに入った。こういった時に、彼の詐欺師だった経歴は十全に活かされていた。場を取り繕う力に長けているのだ。

 

「はい。新製品の売れ行きが良いので、もう少し生産ペースや安定供給が出来ないか。私も現場を一目見ておく必要があると踏みました」

「素晴らしい業務努力です。やはり、社長自ら効能なども良く知っておくことは大切ですから」

 

 何故か、えげつない位に攻め込んでいた。藪蛇をかましそうだったのでナイルが、何とかして話を打ち切ろうとしたと言うのに。

 

「うぉおおお! イルブリードⅣの製作も決まったんだってよ!! 今度は、ACで競技だってよ! ホラー要素何処だよって感じだよな!! いや、むしろ。そう言うのだからこそ、ホラーが映えるのかもな!!」

 

 藪蛇所から地雷原でタップダンスもかくたるやと言わんばかりに、ハイテンションのイグアスが突っ込んで来た。

 よく見れば、目の下にクマが出来ており、何かの作業に夢中になっていたのだろう。こうなったらもう歯止めが利く訳がない。

 

「ふん。レイヴンでさえ落ち着きを取り戻したと言うのに、貴方は全く改善す気配がありませんね」

「毛生えだぁ? おぉ! お前、メッチャ前髪が生えているじゃねぇか!」

 

 スネイルの前頭部で踊っているキューティクルヘアーをデコピンで弾いていた。コレには堪らず、ミシガンもイグアスにヘッドロックを極めて落としていた。

 

「コイツは後でよく教育しておく」

「人前に出すなら躾位はしておきなさい」

 

 もはや、怒りを通り越して冷静にすらなっていた。バカの洪水を乗り越えた先、ようやくカーラと対面することになったのだが、何故か部屋にはラミーが居た。

 

「ボス。コーラル吸う金が無くなったから、給料上げてくれよぉ」

「バカ言ってんじゃないよ、ウンコ製造機が。戦力も整っているから、いつでもクビニして良いのをよしみで雇い続けてやってんのに調子に乗るんじゃないよ」

 

 最悪のタイミングで抗議に来ていた。ドーザーは無法なんだから当たり前だとしても、あまりに酷くはないか。

 

「商談の方はよろしいですか?」

「そうだね。おい、ラミー。アンタの話は後だ。部屋から出てろ」

 

 立場の悪さを悟ったのか、ラミーは渋々と言った様子で部屋から出て行った。

 商談自体は概ねスムーズに進んでいた。新製品の原材料であるルビコニアンカイコの解説や生産量を増やす方法など。

 

「コイツらを生育させる為に使う『コジマ粒子』の扱いは、新入りに任せている。従来のミールワームにどんな配合で食わせたら良いかってのは、こっちも図っている」

 

モニタにはノーカウントを動かしているパッチの様子が映し出されていた。

ただ、禿げあがっていたハズの頭部には不自然なキューティクルヘアーが生えていた。機体が揺れるごとにピョンピョン跳ねるので、ペイターと1317が噴出していた。そして、己の境遇を呪う様にコックピットで叫んでいた。

 

『意味分からねぇよ! こんなのノーカウントだ! 畜生、でも頭部はフルカウントじゃねぇか!』

「ブホッ」

 

 ひょっとして、自分は笑ってはいけないルビコン24時に突っ込まれたのだろうかとペイターが己の功罪を呪う中、別のモニタでは遠く離れた惑星の映像が再生されていた。

 

『カーラ。お前が届けてくれた、赤子だが。既にレイヴンと同じ背格好になっている。どういうことだ』

『……』

『コジマちゃん。ウォルター、今お話し中』

 

 ウォルターの隣に全身アルビノ少女がジィっとカメラを見ていた。レイヴンが部屋に入って来ると、彼女の手を引いて去って行った。

 

「本当にこの物質は未知数なんだ。今は調子いいかもしれないけれど、後々何が起きるかは分からない」

「長期に渡った時の影響については、自身でも試している」

 

 今まで、一隊長だった頃は他者の犠牲を見てからでも遅くはなかったが、会社を牽引して行く以上、自らも体を張る必要はある。ということで、スネイル自身も被験者になった訳だが、周りへの被害は大きかった。

 

「代表自らが安全性を実証して行くって言うんなら、こっちも手を抜けない。じゃあ、配合率に関しても詰めて行こう」

「出来たら、本人の体質に合った髪を生やせるように。生えれば良いって物ではありませんから」

 

 前頭部でピョコピョコ踊る前髪を人差し指でクルクルしていた。やっぱり、本人も気になっていたらしい。

 

「気に行っている訳じゃないのかよ!!」

 

 堪らずペイターが叫んだ。と、同時にスネイルから脇腹を突かれた。これは、夏休みの後に残された大人達の宿題の話である。

 

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