錠前いや、アリウススクワッドがベアトリーチェに心の底から忠誠を誓っている訳ではない事は分かりきっていた事だが今まで恐怖で縛り付けられていた彼女が、自らの選択でアリウスの破壊を望むまでに成長していたとはな……いや、621もそうだったか。
「錠前。その選択の果てにお前は何を望む?」
俺達はコーラルを燃やす選択を取った。
それは友人達の遺志に報いる為ではあったが、それを成し遂げた先の未来で何をするべきかそれを俺やカーラは持っていなかった……いや、持つべきではないと未来を閉ざしていたと言うべきか。
己の目的のためとは言え、多くの命を使い潰した『悪い大人』である俺達が目的を果たした先で幸せを享受するなど、到底認める事が出来なかったのだから。
「既存のアリウスを壊す……なるほど、より良い未来を望むのなら可能性のある選択だと俺は思う。だが、この道筋は決して楽な道のりではない。お前が望む結果を得る為に多くの命が犠牲になるかもしれない。それでもお前は望むのか?」
己ではない、他人の人生を変えるというのはどの様な結果になろうとも心に何かを遺す。
俺達はそれが重みとなり縛られたが故に、ルビコンで大切なものを見出したアイツと共に空を飛ぶ事は出来なかった……その結果に後悔がある訳ではないが思うところがあるのは事実、故に俺は問わなければならない──破壊者としての道を歩んだ先達者として。
「……何が待っていても後悔をしない選択だと言えるか?錠前サオリ」
トリニティで感じていた甘く暖かい空気とは違う冷たく、乾ききった風が俺の頬を撫でる。
ゆっくりと振り返った俺から視線を逸らす事はない錠前だが、しっかりと俺の言葉を噛み砕いて理解している様ですぐに返事をする素振りは見せない。
一分、二分、三分とたっぷりと時間をかけ、その間も一瞬たりとも俺から視線を逸さなかった彼女は姿勢を正し今まで以上に熱の宿った瞳で俺を射抜いた。
「私はまだ貴方の様に多くの経験を積んではいない。だから、この選択が本当に正しいものなのかどうかは分からない」
……俺はただ生き残ってしまっただけで、お前が尊敬する様な大人ではない。
「──それでも」
まるで俺の心の内を見透かした様に重ねられた言葉と共に一際、強い風が吹き上がり枯葉が空高く舞い上がり──
「今のアリウスは間違っている。マダム……いや、ベアトリーチェを倒さなければ私達が笑って過ごせる未来は絶対に訪れないと思うんだ」
──カーラと重なって見えた。
「……そうか。笑えるか」
「あぁ。不思議な理由だったか?」
小首を傾げる錠前にはもう、カーラは重なって見えてはいなかった。
あくまであの一瞬だけ……歳を取ったことで見た思い出に引き摺られた幻覚の様なものなのかもしれないがそれでも俺はアイツに背中を押されたという自覚は残っている。
カーラ……お前がここに居ればきっと今以上に笑えていたのだろうな。
「いや。笑えるのは良いことだサオリ」
「ッッ……ウォルター!」
「スクワッドの面々にはお前の口から説明すると良い……まぁ、彼女らがお前に同意しない未来はないと思うが」
今此処で話すべき話は終わった。
これ以上、深く踏み込んだ話をするのなら他のスクワッドの面々も必要となるだろう……彼女達を猟犬として認めたのは俺だがこの世界でもまた、猟犬を率いて戦う時が来るとはな。
621……お前が良ければ後輩達を見守ってやってくれ。
俺ではなく、お前が見守ってくれるのなら俺も安心出来る。
そんな俺の願いを聞き届ける様にアリウスがある方向から、熱を帯びた風が頬を撫でサオリの方へと吹いていった。
「ハンドラー・ウォルター……まさかこれ程の短時間で彼女らを口説くとは思いませんでしたね」
吹けば容易く折れる様なご老人だと初見の印象に引き摺られ過ぎた私の失策ではありますが、私の狙い通り未来を見る力すら失った彼女らに等しく熱を授ける程の『練炭』であったとは。
「クックックッ、自ら火種を抱え込むとは貴女らしくありませんねベアトリーチェ」
「何処から入ってきたのです黒服」
「不思議な事を尋ねますね。我々は同じ組織に所属する謂わば、仲間ですよ。何か警戒する必要があるとでも?」
全く白々しい……確かにゲマトリアとして同じ机を囲んではいるものの私が疎まれている事ぐらい気が付いていますとも。
だからこそ、ウォルターから聞き出したコーラルの情報も隠しているというのに。
「そうでしたね。それで?わざわざアリウスに足を運んで何をしたいのです?」
ですが今は合わせておきましょう。
ウォルターに続いて、ゲマトリアまで敵に回す様な真似をすればいよいよ私の身が危ないですからね。
「貴女が拾った老人。確か、ウォルターと名乗っている方に見せたいものがあるんですよ」
指で摘めるほどの小さな小瓶が一体なんだと……ッッ、怪しく光る血の色の如き赤い液体はもしかして。
「黒服!!」
「クックックッ……らしくない反応ですね。その反応が見れただけでもこの『不思議な液体』がなんなのか分かった気がしますが……さて、マダム。私を彼に会わせて貰えますか?」
私の混乱を愉しむように黒服の蒼白い炎がユラユラと揺らめくのがなんとも腹立たしい!!
「ッッ……わかり、ました。手配しておきましょう……!!」
「クックックッ」
それでもあの『赤い液体』いや、
オリ主以外って難しいなと書くたびに思うけど、YouTubeに上がってるウォルターボイス集聞きながらウォルターを深めていきたい。