想妖匣-ソウヨウハコ-   作:桜桃 

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第25話 「二人を」

「なーんてね」

「なっ!!」

 

 ベルゼが振りかぶった大鎌を、ファルシーは片手で楽々受け止める。

 よく見ると、大鎌はファルシーの手に当たっておらず、触れる直前で止まっていた。

 

 下唇を舐め、影のある笑みを彼に向ける。

 

「私は堕天使よ? こんな物に臆する訳ないじゃない。それに、貴方より私の方が長く現世をさ迷っているのよ? 舐めないでちょうだい」

 

 妖艶な雰囲気を纏わせ、ファルシーは受け止めている大鎌にフッと息を吹きかけた。すると、先程の霧のような物が大鎌の周りを漂い始める。

 

「何を──」

「見ていればわかるわ」

 

 ベルゼは驚きに目を見開き引こうとするも、ファルシーがしっかりと掴んでおり動かす事が出来ない。徐々に包まれてしまう大鎌を見続けていると、いきなり床へと()()()()が落ちた。

 

「なっ──」

 

 ボタボタと。大鎌自体が溶け始め、ベルゼの手からずるっと落ちる。

 

「まさか、この霧──」

「勘が鋭いのね。でも、遅いわよ。貴方を現世から地獄へと送り届ける。これが、私の出来る事」

 

 ファルシーは、不敵な笑みを浮かべながら彼へと手を伸ばし、そっと腕を掴む。

 

「さぁ、私と一緒に行きましょう? 地獄の底へ──」

 

 腕を掴まれたベルゼは、ファルシーの狂気じみた表情を見た瞬間顔を凍り付かせ、咄嗟にその手を振り払い距離をとった。

 

「これが堕天使か、確かに実力を見誤っていたらしい。今日はこれで失礼しよう」

「なっ、待ちなさい!!!」

 

 逃がすかと言うようにファルシーは急いで手を伸ばすが、遅かった。

 彼女の手は空を掴み、ベルゼは床に映る自身の影に体を潜り込ませその場から姿を消す。

 慌てて床に降り立つファルシーだが、今はもう変哲のないただの床になっていた。

 

「少し、油断したわね……」

 

 ファルシーが立ち上がると同じタイミングで、隣から人の動く気配。横目で気配の感じた方に目を向けると――………

 

「へぇ、あの男。ここまで読んでいたの? それとも偶然?」

 

 歓喜の声を零すファルシーに儚く、今にも消えてしまいそうなか細い声が届く。

 

「お、願い。二人を、力を――……」

 

 ☆

 

 小屋の中では、明人が必死に魔蛭の攻撃を避けていた。

 

 次から次と繰り出される鋭い爪の猛攻に、明人は手で促したり最小限の動きで避け対応していた。

 

「っ、ち!」

「明人!!」

 

 明人は壁に気づかず背中をぶつけてしまう、目の前に黒い大きな爪が迫っていた。

避けようとすると、隣から木製の椅子が飛んでくる。

 

魔蛭は右手は木製の椅子を弾き、彼の隙間を縫い、明人は挟まれている状態から抜けだした。

 

「大丈夫か、明人よ」

「問題ねぇよ、それより……」

 

 目の前に立つ魔蛭を見て、言葉を止める。険しい表情を浮かべ、舌打ちをした。

 

「結構、厄介だな。動きは遅いが、その分力がある。一発一発が重いから振動もぱねぇし、手がしびれてきやがった」

「なにか、出来ないのかい?」

「……せめて、一瞬でも動きを封じる事が出来れば――あ」

 

 明人は奥へと繋がるドアを見て、何かを思い出した。

 

「どうしたのだ?」

「……カクリ、奥の部屋から記憶の欠片を数本、持って来い」

 

 明人の意図がわからないため質問しようとするも、魔蛭が彼へと走り拳を振るったため聞けなくなってしまった。

 

 後ろに回避した明人は、カクリに向かって叫んだ。

 

「早く行け!!!」

 

 明人よりカクリの方が奥へと繋がるドアは近い。目をさ迷わせるが、魔蛭の意識が明人に集中している今ならと、記憶保管部屋へと駆けだした。

 

 すぐさま記憶保管室に行き、ドアを開けた。

 部屋の中は薄暗く、光は棚に置かれている小瓶から放たれているものだけ。その小瓶の中には、さまざまな色に輝く液体。

 棚に乗っかている輝く液体が、今まで明人が抜き取ってきた依頼人の記憶。綺麗に輝くものもあれば、黒く濁り、光を失っている小瓶もあった。

 

 カクリは慌てて部屋の中を見回し、目的の物を探す。

 

「数本、二、三本あればよいという事だな……」

 

 カクリがギリギリ届く棚に置かれている小瓶を三本胸に抱え、再度明人の元に走った。

 

「明人よ、持ってきっ――……」

 

 カクリの言葉が途中で止まる。理由は、壁に押し付けられ黒い手に首を絞められている明人の姿を見たから。

 

 ドクンと、心臓が大きく跳ねあがり、小瓶を落としそうになった。

 体がわなわなと震え過呼吸一歩手前となり、苦し気に呼吸を繰り返していると、戻ってきたカクリに気づいた明人が、五芒星の刻まれている目を向け、口を動かした。

 

 

 ま ひ る に か け ろ

 




ここまで読んでくださりありがとうございます
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