想妖匣-ソウヨウハコ-   作:桜桃 

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第26話 「覗かせてもらうぞ」

 明人の口の動きを見て、すぐに波打つ心臓を抑えカクリは駆けだした。

 

 近付いて来るカクリに気づいた魔蛭は、開いている方の左手でカクリを止めようとした。だが、左手が届く前に、カクリは大きく右手を振り上げ小瓶を投げつけた。

 

 ガシャン

 

 一個目の小瓶が魔蛭に直撃、大きな音を立てて割れ、中の液体が彼に降り注いだ。

 

『ぎゃぁぁぁぁぁぁあああ!!!!!』

 

 途端に魔蛭が苦し気な声を上げた。

 明人を掴んでいた右手が離れ、床に落とされる。

 

「明人!!」

 

 明人は解放されたが、むせてしまいその場から動けない。首を抑えながら息を整え、口から流れる唾液を拭きながら顔を上げた。

 

「ごほっ、やっぱりな」

「なぜ、あの者は突如苦しみ出したのだ……」

 

 液体がかかった部分から白い煙が立ち上り、黒い部分が削られている。まるで浄化されているように見え、明人が微かに笑みを浮かべた。

 

「もう一本、あいつにかければ動きを止める事が出来るはずだ。その隙にあいつの匣を覗き込む。おそらく、一瞬の隙を突かなければならんが、出来るか?」

 

 横目でカクリを確認する明人。不安など一切感じさせない真っすぐな瞳。カクリを信じているという強い想いが伝わる。

 

 カクリは、明人の想いに答えるように力強く頷いた。

 

「よし、動くぞ」

「わかった」

 

 明人の声にカクリが返答。お互い頷き合い、同時に走り出した。

 

 魔蛭は二人に気づき、まだ白い煙が出ている右手を振り上げ明人を狙う。勢いよく下ろされた右手を躱し、明人は魔蛭の懐に入り込んだ。

 すぐさまカクリが小瓶の蓋を開け、中に入っている記憶の欠片をぶつけるように放つ。

 

 明人に気を取られていた魔蛭は、カクリの動きに対応しきれずまともに食らう。大きな声と共に体がふらついた。

 その隙を逃さぬよう、明人が顔を近づけ無理やり目を合わた。

 

 魔蛭の赤い瞳に、明人の五芒星の刻まれた漆黒の瞳が映り出す。

 

「覗かせてもらうぞ、お前の記憶。ここまでの事態を起こした強い想いをな――……」

 

 明人が呟くと、魔蛭は意識を失ってしまった。明人も同じく意識を手放し、二人はその場に倒れ込む。

 

 カクリは二人の顔を覗き込み、本当に寝たかを確認。息使いが聞こえ、目を閉じている二人を目に安堵の息を吐いた。

 狐の姿に変わり、明人の顔近くで体を丸めいつものように想いの中へと意識を入れた。

 

 ☆

 

 明人は光も何もない、暗闇の中で目を覚ました。周りを見て、いつもの空間に入れたのだと安堵。ホッと胸をなでおろし、目線だけを漂わせる。

 

「無事に入れたな、あいつの記憶探すとするか」

 

 漂わせていた目を閉じ集中し始める。すると、徐々に周りの光景に色が付き始め、変化していった。

 

 暗闇に現れたのは、見覚えのない一つの公園。そこには、茶髪の男の子が藍色の髪の男の子と言い争っている光景がある。

 真ん中では困り顔で二人を止めようとする、腰まで長い茶髪の女の子。

 

 会話を聞くだけでわかった、二人の少年が一人の少女を取り合い喧嘩をしていることが。

 

『やだ!! おとちゃんと遊ぶのは僕なの!!!』

『なんでなのさ!! 今日約束してたのは僕だもん!!』

『ずるい!! だってそうちゃん、昨日もおとちゃんと遊んだじゃん!!』

『そう言うまーちゃんだって、一昨日一緒に遊んでたじゃん!!』

 

 少年二人はお互いの髪を引っ張ったり、頬をつねったりと。子供ならではの喧嘩を繰り広げている。そんな二人に痺れを切らした少女が『いい加減にしなさい!!』と、大きな声で叫びながら少年二人の頭を叩いた。

 

『『いったーい!!!』』

 

 そうちゃんと呼ばれた少年は、叩かれたあと不貞腐れたようにそっぽを向き、まーちゃんと呼ばれていた少年は自身の頭を抑えながら、涙目になっていた。

 

『今日は三人で遊ぶの!! ほら、おすなば行こ!! 今日はおしろを作るの!! そうちゃんとまーちゃんと私で住むおしろだよ? 大きく作らないと!!』

 

 おとちゃんと呼ばれた少女は、二人の手を握り砂場へと向かいながら楽しげに話す。そんな、子供の思い出ビデオのような光景を目にしている明人は、表情一つ変えず見続けた。




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