「彼?あぁ、彼ね……話したのはほんの数分だけど、変わった人だったわ」
「あいつか……なんか、どこか奇妙な奴だったぜ。上手くやってるといいが……」
「フン、あいつほど自由で掴みどころの無い奴は初めてよ、全く」

彼女達は彼の事を口を揃えてこう呼ぶ……
「ダービー・ザ・ギャンブラー」と。

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ダービー・ザ・ギャンブラー 【リターンズ】

この世界……「幻想郷」と外の世界を分け、楽園を作り出す「博麗大結界」。その結界を管理するのが当代の巫女、「博麗霊夢」である。彼女がすむ博麗神社は幻想郷の東端にあり、彼女の知り合いを覗いて人が訪れる事はあまり無い。だが、そんな神社の居間には、霊夢と一人の男が机を挟んで対峙していた。

 

「ここに人が来る事自体珍しいのだけれど……あなたはもっと珍しいわね。初対面の私に『チョットした賭けでもしませんか?』なんて」

「私はくだらないスリルが大好きでしてね……何、あなたが損をする事じゃあ無いでしょう」

「えぇ……確かに、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()……これほどまでに賭けとして破綻している事は無いわ。そう思うでしょ?魔理沙」

「あぁ、確かにな……よっぽど自信があるとしか思えないぜ」

 

二人の間では、霊夢の友人である「霧雨魔理沙」が困惑した表情を浮かべている。友人と雑談していたらいきなりやって来た男が「賭けをしよう」なんて言い出したら誰でもそうなるだろう。

 

「おっと、その前に……自己紹介がまだでしたね。私はダービー……『ダニエル・J・ダービー』。好きなように呼んで下さい」

 

ダービーは紳士然とした服装を着こなし、目元から頬にかけては横縞の模様が彫られている。一件して温厚な人物のように見えるが、どこか奇妙な印象を与える事も魔理沙が困惑する一因となっていた。

 

「それで、どうします?賭けを始めるも良し、私を不審者と判断してここから追い出すも良し」

「確かにあなたは怪しい。けど、そこまで余裕ぶった態度を取られてはこっちも来るものがあるわ。……その賭け、乗りましょう」

「グッド!」

「霊夢、いいのか?」 

「私が負けても何も無いから安心して。もし何かしでかそうってんなら即成敗よ」

「それは怖い……では、『丁半博打』なんてのはどうです?時間も取りません」

「一体どんな賭けなの?」

 

ダービーはポケットからサイコロを一つ取り出す。それを机に置き、説明を始めた。

 

「サイコロを笊か何かに入れ、適当に転がします。そして、笊を取った時に上に見える数が偶数か奇数かを当てるものです。偶数なら『丁度割り切れる』から丁、奇数なら『半端な数』なので半です」

「中々面白そうじゃない。……魔理沙、笊が無いからあんたの帽子を貸してくれない?」

「ええ!?」

 

予想外の頼みに、魔理沙は困惑を通り越して呆れ始めた。しかしこのまま貸さずに場を伸ばす訳にも行かないので、渋々帽子を差し出す。

 

「私の帽子を貸すぜ。ただし条件がある。私にサイコロを振らせてくれ」

「?」

「やっぱり怪しいぜ!こんなに自信があるのは大体がイカサマ師か、それかただの博打狂いだ」

「フフフ……よく言われます。だが、こんなにストレートに言われたのはあなたが始めてだ。私は構いませんが……」

「私もそれでいいわ」

「それじゃ、いくぜ……」

 

机に置かれたサイコロに、魔理沙の帽子が被さる。帽子を揺さぶると、中からはカラカラとサイコロが転がる音が鳴り響いた。両者が黙って見つめる中、帽子の動きが止まる。

 

「振り終わったが、どっちに賭けるんだ?」

「そうね……私は丁に賭けるわ」

「では私は半ですね」

 

帽子がゆっくりと上がる。そこから出て来たのは、六……「丁」が上に来たサイコロだった。

 

「おや……残念ですが、私の負けでしたか。それでは約束通り、これを」

「えぇ、ありがたく貰わせて頂くわ」

 

ダービーから受け取ったお金を、霊夢は素早く懐に入れる。魔理沙は(よっぽど取られたく無いんだな……)と呆れながら帽子を被り直した。

 

「さて……そろそろお暇するとしましょう」

「あら、もう帰るの?」

「まだここに来てから短いですから。誰か、このダービーの賭けの相手になってくれる人がいればいいんだが」

「……それなら、人里から見て北に行けば『紅魔館』という館があるわ。そこの主は最近退屈してたから、丁度良いんじゃない?」

「おい霊夢、あそこに人間一人で行かせるのは無茶だぜ!」

「馬鹿ね。誰が一人で行かせるなんて言ったのよ。どうする?そこに私と一緒に行くか、人里に帰るか」

 

ダービーは考える素振りすら見せず、彼女の問いに即答した。

 

「勿論、その紅魔館とやらに行かせて貰いましょう。……久々に楽しめそうだ」

「決まりね。じゃ、行くわよ」

 

霊夢は外に出て、ダービーの腕を掴む。彼が気付いた時は、二人の体は既に宙に浮き上がっていた。

 

「一つ言い忘れた事があるわ。その主、人間じゃ無いから気を付ける事ね」

「……人間じゃ無い、か……」

 

霊夢はダービーを吊り下げ、紅魔館の方向へと飛び立って行った。魔理沙はそれを不安げな表情で見つめたままである。

 

「大丈夫かな……」

 

 

 

 

◇ ◇ ◇ ◇

 

 

 

 

「ほら、見えて来たわよ」

「あれが……」

 

遠方に見えて来たのは、湖のそばに佇む紅い館。雄大な自然の中に建てられた紅魔館は、昼夜問わず強大な存在感を放つように見えた。

 

「そろそろ着地するわよ。門番がいると思うから、私から紹介されたと伝えて頂戴」

「分かりました。もしも拒否された場合は?」

「な〜に、ここの主は新しいものを拒否するような性格じゃ無いわよ。もし拒否されたんなら私が人里まで送るわ」

「それはありがたい。では行って来ますよ」

 

ダービーは湖のほとりを歩き、紅魔館に向かい始めた。この辺りを人間が一人でうろつこうものなら即妖怪達の餌食だが、今は博麗の巫女の監視があるおかげかダービーを襲う者はいない。

 

(やはり、まだ()()()か……)

 

ダービーは自らの手のひらを見る。だがそこには、かつて見えていたものは何も見えなかった。

オシリス神……それは、彼に与えられた「能力」の名。敗北した人間の魂をコインにして閉じ込める能力。だが、その力はもう目を覚ます事は無い。かつて、主の為に戦った時……百戦錬磨の自分が、日本の高校生のハッタリに敗れた。そして、恐怖の余り精神が崩壊したのである。意識を失ってからいつの間にかこの地で目を覚ました時、彼の心は既に「魂を賭ける覚悟」を失っていた。

 

「果たして、どんな賭けになるか……」

 

誰にも聞こえない程の声で、小さく呟いた。

 

 

 

「……どちら様でしょうか」

 

紅魔館の門番を務める「紅美鈴」の前にダービーが現れたのは、彼が湖を出発しておよそ二十分後の事だった。

 

「はじめまして。私はダニエル・J・ダービーと申します。実は、博麗霊夢さんからの紹介を貰いまして……ここの主は、どうやら最近退屈されているとか」

「なるほど、霊夢さんの紹介ですか……少々お待ち下さい」

 

美鈴は館の中に入って行った。ダービーはやる事が無くなったので、立って待ち続ける。

 

(人間じゃ無い主……まるであなたのようだ、『DIO』様)

 

彼の手は小刻みに震えていた。DIO……その名を思い出すだけでも、彼の心には恐怖の嵐が吹き荒れる。

しばらくして、眼前の門が開いた。中からは美鈴ではなく、銀髪のメイドが出て来た。

 

「お初にお目にかかります、ダービー様……私はこの館の主、レミリア・スカーレットの従者、『十六夜咲夜』と申します」

「こちらこそ。それで、あなたの御主人様はなんと?」

「是非お会いしたい、との事です。どうぞお入り下さい」

ダービーは館内へと通された。そこに広がっていたのは、やはり一面の紅。中は薄暗く、まるで外を拒絶するかのような造りもDIOの館と通じる所がある。咲夜の案内で彼は客室に招かれた。

 

「お前が、霊夢の紹介を貰った人間ね?」

「お初にお目にかかります、スカーレット様」

 

ダービーは頭を深く下げて一礼する。この館の主、「レミリア・スカーレット」は幼い外見からは想像も出来ない威圧感を放っていた。

 

「私を目の前にしても動揺しない人間は霊夢と魔理沙くらいだと思っていたけれど……取り敢えず、そこにかけなさい」

「失礼いたします」

「さて、霊夢からある程度は聞かされてると思うけれど……一体どんな物を見せてくれるのかしら」

「そうですね……」

 

ダービーはポケットからトランプを一束取り出す。それをテーブルに置くと、手で綺麗な円に広げた。一枚を指で弾くと、トランプは一斉に互いを支え合って立ち上がる。

 

「中々上手じゃない。ね、咲夜?」

「はい。私も彼のようなテクニックは見た事がありません」

「お褒め頂き光栄です。だが、本日は手品を見せに来た訳ではありません……」

 

ダービーは拳を握り、人差し指と中指を開く。その指には、一枚のコインが挟まっていた。

 

「スリル溢れる時間を過ごせる事を保証しますよ?」

「……お前、ギャンブラーね」

「はい。大方はギャンブルで生活費を稼いでいます」

「下らないわね」

「……」

「花火のような人生でも送りたいのかしら?勝てば生きれるけど、負ければ破滅。何も残らないわ。なんなら、どこかの戦場で特攻して一人でも殺せればそっちの方が仲間に貢献出来るわよ。……命のやり取りも知らない人間風情が私にスリルを味わわせる?無礼も甚だしいわ」

 

その言葉を聞き終えた瞬間、ダービーは確かに感じた。自分の中に何かが戻って来る感覚を。その何かを心の中で探り……確信する。長い間忘れていた、「命のやり取り」を。

 

「やはり、ここはいい場所だ。スカーレット様、あなたが言ったその侮辱の言葉で、ようやく目覚めたようだ……私の『能力』がッ!」

「口だけは達者ね」

「いいやッ!あなたはこれから『命のやり取り』をする事になるッ!」

 

そう啖呵を切ったのはダービー……いや、正確には()()()()。彼の能力、「オシリス神」が背後に現れていた。それを見た咲夜は、反射的にナイフに手を伸ばす。

 

「待ちなさい、咲夜。少し興味が湧いたわ」

「私が欲しいのは目が眩む程の大金や宝石なんかではない……あなたの『魂』だ。そしてこの『オシリス神』なら、それが出来る」

「……さっきの言葉、訂正するわ。お前は命をも賭けるギャンブラーという訳だわ」

「そうです。勿論あなたが魂を賭けてくれるというのなら、私もそれ相応の物を……私の命を賭けましょう」

「決まりね」

「お嬢様!」

「手を出さないで、咲夜。いいでしょう、ダービー・ザ・ギャンブラー。その賭けに……『私の魂』を賭けるわ」

「グッド!」

 

トランプが五十二枚、ジョーカーが一枚ある事を確認して、互いに二十枚のチップが配られた。ダービーが山札を入念にシャッフルする。

 

「ディーラーを決めましょう。山札を適当な所で分け、出た数字が大きい方がディーラーです」

「……クラブの7」

「ハートの10。私がディーラーですね。それでは……

 

 

「「OPEN THE GAME!」」

 

 

「……と、言うんでしょう?」

「よく分かってらっしゃる。カットをどうぞ」

 

レミリアは山札を半分に分け、順序を逆にした。その上から、ダービーがカードを配り始める。 

 

「スカーレット様へ、私へ……!?」

「動かないで下さい」

 

三枚目を配ろうと山札に手をかけたその時、ダービーの首に咲夜のナイフが向けられた。レミリアもこれには唖然としている。

 

「手を出すなと言ったでしょう、咲夜!」

「お嬢様、山札をよく見てください」

 

山札からは、配られる筈だったカードが半分程飛び出している。だがそのカードは一番上からではなく、二番目から飛び出していた。

 

「……なる程」

 

レミリアがダービーの手札を確認すると、見事に10のスリーカードが揃っていた。再びダービーを見る。

 

「予想を超えたイカサマね……けど、咲夜がいる限りはイカサマは不可能と言っていいわ」

「まさか、私のセカンド・ディールを見破るとは……」

「ここからは、私がディーラーを務めます」

「……いや、それはご遠慮願いたい」

「自分はイカサマをしといて、ディーラーは決まったから交代出来ない、なんて言うつもり?」

「いいえ……自分で言うのもなんだが、私のセカンド・ディールは人間の目では捉える事が出来ません。ギャンブルを知らない人間が捉えるのは尚更です」

「つまり……咲夜がギャンブルに精通してると言いたいの?」

「はい。勿論可能性に過ぎませんが……」

 

レミリアは少し考える素振りを見せる。

 

「なら、そこの妖精メイドに頼みましょう。でも、引き続き咲夜にはイカサマの監視を行って貰うわ。もうお前がイカサマを行うのは容易ではない事を断っておく」

「いいでしょう……」

 

ダービーに代わり、妖精メイドがカードを配っていく。五枚目を配り終えた所で、参加料にコインを一枚出して互いに手札を確認した。

 

「二枚チェンジ」

「私は……四枚」

 

再び一枚払われたコインを受け取り、妖精メイドが手札を交換していく。

 

「そうですね……ここは様子見で三枚賭けましょう」

「……同じく三枚賭けるわ」

「「勝負ッ!」」

 

互いに手札を公開する。レミリアは9と10のツーペア、対してダービーは10と11のツーペアだった。ダービーが笑みを浮かべる。

 

「ここまで僅差とは……少しヒヤッとしましたよ」

「冗談はよしなさい。内心は余裕の癖に」

「どうでしょうね……」

 

ダービーは計十枚のコインを手元に引き寄せる。これでレミリアの残りは十五枚、ダービーは二十五枚になった。

 

「……そう心配しなくてもいいのよ、咲夜。さ、NEXT GAMEよ。配って頂戴」

 

新しく五枚の手札が配られる。咲夜は刻一刻と主の魂が削られているのを見ている事しか出来なかった。

 

「……ご安心を。スカーレット様を救いたければ、あなたが私と賭けをすればいいのですよ……まぁ、負ける気は有りませんが」

「もう勝った気になってるとは、やはり傲慢な人間風情ね。三枚チェンジよ」

「これは失礼、私は……二枚チェンジ」

 

ダービーはカードを抜き取り、妖精メイドに渡す。配られたカードを合わせた自らの手札を見たダービーは、危うく笑みを浮かべる所だった。

 

(危ない危ない……しかし運はこのダービーに来ている!まさかイカサマでクイーンのスリーカードを狙うつもりが……()()()()()()()()()()()()()()()()()()()とはッ!!)

 

彼は先程カードを抜き取る時、袖下に仕込んでいた二枚のクイーンを手札に加え、それ以外の二枚を袖下に隠していた。この複雑な動作を一瞬で終わらせるあたり、ダービーは一流のギャンブラーだろう。

 

「さて、ゲームをゆっくり楽しむのも大切ですが……監視の目を付けられては私も緊張が出るもの。余り引き伸ばしたくは無い……私はこの勝負に!八枚賭けようッ!」

「!?」

「……よほど自信があるわね。なら同じく八枚でいくわ」

「フフフ……勝負!私はクイーンのスリーカード、5のツーペアでフルハウス!」

「チッ……キングのスリーカード」

「ここからが山場ですよ。築き上げた優位が一気に崩れ落ちる……それが賭けの魅力ですから」 

「それは未来を予言しているのかしら。……これがFINAL GAMEになりそうね」

 

緊張が走る中、カードが配られる。

 

「……!」

 

ダービーの手元は、スペード、ダイヤ、ハート、クラブのエースとスペードの6だった。なんと、彼の元にはイカサマ無しでフォーカードが流れ込んで来たのだ。

 

「……一枚チェンジしよう」

 

来たのはクラブの9。

 

(クラブの9か……だが!そんなもの最早どうだっていいッ!万が一、いや億が一これで負けたとしても、俺にはまだ三十枚ものコインが残っているッ)

「……このままで良いわ。チェンジしないで勝負よ」

 

ダービーがレミリアを見たのは、その時だった。「このままで良い」この言葉が、彼にあの日の敗北を思い出させる。

 

『答えろと言っているのだ!承太郎!』

『こ…この自信ッ!!こいつまさかッ!私の気付かぬ瞬間にスタープラチナでカードのスリ変えをッ!』

 

「どうしたの?ダービー。手に力が入ってるみたいだけれど」

「ハッ!」

 

ダービーは手札を見た。確かに彼は力強くカードを握り締めており、端のカードが少し折れ曲がっていた。

 

「これはこれは……お見苦しい所をお見せしてしまいました」

「構わないわ。さてと、私は三枚のコインを賭ける訳だけど……咲夜、妖精メイド、頼みがあるわ」

「なんでしょう?」

「あなた達の『魂』を!追加で一人十五枚づつ!()()()()()()()()()。出来るかしら、ダービー?」

「お嬢様!?」

「……あなたが一筆書いて証明して下されば、私の能力は動く事が出来ます」

「……何か、策がお有りなんですね?お嬢様。それなら、私共からは何も言う事は有りません。私共の魂、お嬢様に預けさせて貰います」

 

妖精メイドも頷く。それを見たレミリアは、紙に文を書き始めた。

 

『私、レミリア・スカーレットは従者、十六夜咲夜と妖精メイドの魂を賭けに負けた場合差し上げます レミリア・スカーレット』

 

「これで良いかしら」

「構いません。しかし……随分と忠実な従者ですな、彼女は」

「私の自慢の従者よ。私は咲夜を信頼しているし、その逆も当然。だから賭けられるの。それと……イカサマはお前の専売特許じゃあ無いわよ」

「!?」

 

ここに来てダービーは一つの可能性を見過ごしていた。レミリアがイカサマをしない、なんて事は断言出来ないのだ。彼女は人外。見た目こそ少女だが、実際のスピードは予測も付かない。その可能性を、ダービーは失念していた。

 

(もしや……いやッ!!)

 

彼の心は一瞬、疑心暗鬼に陥った。だが、瞬時に平常に戻る。そして次に湧いて来たのは、レミリアと自分への怒りの感情だった。

 

「イカサマは専売特許じゃあ無い、か……舐めないで頂きたい。私は!私は百戦錬磨のギャンブラーだッ!例え人外であろうと、この世界のどんな生物がイカサマをしようとこのダービーの目を誤魔化す事なんぞ出来やしない!!あなたが賭けたのは計三十五枚ですね……。では……同じくッ!三十三枚!私の全てを賭けるとしよう!」

「……かかってきなさい」

 

「「勝負ッ!!」」

 

「私はエースのフォーカードだ!」

「……フォーカード、ね。私は……スペードの10、ジャック、クイーン、キング」

「……!」

「そして、スペードのエース。ロイヤルストレートフラッシュよ」

「ば、馬鹿な……ロイヤル、ストレート……フラッシュ……」

「復唱感謝するわ。それにしてもお前はフォーカードだったとは……配られる順番が逆だったと思うと……やれやれ、ゾッとしたわね」

「ゾ、ゾッとした、だと……」

 

ダービーの目には、レミリアは見えていなかった。正確には、宿敵と重なって見えていた。かつて自身のプライドと精神をズタズタに崩壊させ、再起不能寸前まで追いやったあの男……

 

(承太郎……空条承太郎!!)

 

性別も体格も反対だが、彼にはその姿がはっきりと重なって見えていたのだ。

レミリアはテーブルに積み上げられたコインを腕を使ってゆっくりと引き寄せていく。そして、それが手元に達した時、彼女は宣言した。

 

「この賭け、私の勝利ね」

 

 

 

 

 

 

 

片付けが終わったテーブルを挟み、レミリアとダービーは向かい合っていた。

 

「さてと、お前が賭けた物……忘れたとは言わせないわよ」

「……私もギャンブラーだ。賭けた物はしっかりと払います」

「……それは良かった。では頂くとしましょう……お前の『命』を」

 

レミリアが取り出したのは、ダービーのノートホルダー。かつて彼が敗北者の魂をコレクションした物である。彼女はそれを宙に放り投げると、空中で四つに切断した。切断されたノートホルダーは散り散りとなってテーブルに散乱する。

 

「……?」

「これに魂をコレクションしてたって所かしら……良い?お前はこれからここで働きなさい」

「……え!?」

「そんな物賭けて無いとは言わない事。だって咲夜と妖精メイドの魂を賭けたんだもの。お前こそ新たに二つ賭けるってのが平等だわ。私が要求するのは、『ここで働く事』、『二度と能力を使用して賭けをしない事』。この二つ。そして私はお前の『ギャンブラーとしての命』を奪ったわ。これでこの賭けは終了よ」

 

ダービーは唖然としてレミリアを見つめた。話が急展開すぎて付いていけない。だが、次第に事を理解していく。

 

「フフ……フハハハハハ!!そうきましたか!確かにこれはこのダービーでも読み切れ無かった!いいでしょう、賭けた物はキッチリと払う!それが私です。このダービー、スカーレット様に忠誠を誓いましょう!」

「物解りが良いじゃない。これからこき使うから、覚悟しておく事ね」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「美鈴、ダービーはどうなったの?」

 

時刻は既に夕方。険しい山々が、夕日を受けて明るく輝いていた。昼過ぎにダービーを連れてきたにしてはやけに遅いと感じた霊夢は、再び紅魔館を訪れていた。

 

「それが……ダービーさん、ここで働く事となりまして……」

「……はぁ!?」

「あら霊夢、来ていたのね」

 

門を開けて、咲夜に日傘を持たせたレミリアが出て来る。霊夢はすぐさま彼女に詰め寄った。

 

「ちょっとあんた!ダービーが働くってどういう展開なのよ!?」

「あいつは私との賭けで負けた。だから私の新たな従者となったのよ。最近ちょっと人手不足と思ってたから、丁度良いわ」

「……まぁ、あんたらの賭けに口出しはしないけど。雇ったのならしっかり面倒見なさいよ」

「紅魔館はホワイト企業よ。安心しなさい」

「はいはい」

 

霊夢は夕日に染まる空を飛んで帰って行った。

 

「さて、明日から教育で忙しくなるわね……。ダービー・ザ・ギャンブラー(博打打ちダービー)ならぬダービー・ザ・バトラー(執事ダービー)って所かしら?」

「彼にふさわしい名ですね。お嬢様」

 

 

 

 

一ヶ月後

 

 

 

 

「ちょっとダービー!何ポーカーしてるのよ!」

 

二階のバルコニーから、日傘をさしたレミリアが飛んでくる。正午の休憩時間、紅魔館の庭園では咲夜とダービーと美鈴がテーブルでポーカーをやっていた所だった。

 

「ただのポーカーです。スカーレット様」

「お前、賭けた物はキッチリ払うんじゃなかったの?」

「勿論。あなたが『能力を使用して』賭けをするなと言われた事は覚えています」

「は?」

「私達が賭けているのはこのお菓子。先程魔理沙さんから頂いた物です。何も能力は使用していません。でしょう?お二方」

「はい」

「えっと、そういう事になりますかね……あはは……」

 

咲夜と美鈴はそれぞれ答える。

 

「〜〜〜〜ッ、ダービー!お前にはダービー・ザ・ギャンブラーの方がお似合いよ!この博打狂い!!」

「お褒めに預かり、まことに光栄です。スカーレット様」

「褒めてな〜い!!」

 

紅魔館で一時のギャンブルブームが巻き起こったのはまた別のお話。


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