ずっと前から好きだった幼馴染の女の子に、「男の子って、こういうのが好きなんでしょ?」と詰め寄られて、いろいろとされちゃうお話。

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幼馴染に男の子ってこういうのが好きなんでしょと詰め寄られた

 

 俺――春日井(かすがい) 裕真(ゆうま)には、すっごく可愛らしくて性格も良い、とっても素敵な幼馴染がいる。

 その幼馴染の名は、竹村(たけむら) 千春(ちはる)

 物心ついた頃から、ずっと一緒にいて。ユウくんユウくんと言いながら、いつも隣で笑いかけてくれる。

 子供の頃から、一緒にいることが当たり前になっていて。

 小学校に入るときにクラスが別になったときは、お互いに不満を爆発させるほどだった(今では黒歴史だ)。

 俺達が中学校に上がる頃には、既に明確に魅力的な女の子として意識していて。

 中学を卒業する頃には、彼女に恋人としてずっと隣にいて欲しいと思うようになっていた。

 

 俺も千春も無事に志望していた高校に合格し、晴れて高校生になってもうじき一学期も終わろうかという時期。俺は未だに千春に告白できずにいた。

 自分でもいつまで引き延ばしているんだとは思うが、この告白は絶対に失敗できないのだ。

 千春とは家族ぐるみで仲が良く、俺が告白して振られたりしたら、俺と千春が気まずくなったり、疎遠になるだけでは済まない。

 春日井家と竹村家の関係まで、気まずくなりかねないのだ。

 それに自分でもどうかと思うが、千春にもし振られたら、ひとしきり落ち込んでから、次の恋に生きよう! なんて思える気がしない。

 俺は千春と恋人になって、そのままずっと恋人として過ごして、結婚して。家族としてずっと一緒にいたいのだ。

 

 ……うん、重いぞこいつと自分でも思う。でも仕方ない。それぐらい俺は千春のことしか見えてないのだから。

 ともあれ、なんとしても千春への告白を成功させるために、俺は慎重かつ真剣になっていた。

 千春に相応しい男になるために、今まで以上に勉強や運動に取り組んだし、今まであまり頓着していなかったファッションやコミュニケーションの学習にも取り組んだ。

 そうして、俺は自己研鑽に取り組みつつ、千春への告白のタイミングを計っていたのだが――

 

「ユウくん……ユウくんがいけないんだよ?」

 

 なぜか俺の部屋で、俺の大好きな幼馴染に詰め寄られていた。

 どうしてこうなった。

 

「ち、千春? い、いけないってなにがだ? 俺が千春になにかしたのか?」

 

 そう千春に訊くが、特に思い当たることがない。

 千春は、少なくとも俺に対しては、なにかあればすぐに言葉で伝えることが多かったはずだ。そのため、ささいな不満ならともかく、こんな風に詰め寄られる程のことには心当たりがなかった。

 

「うん、私は最近ちょっと不満です」

 

 互いに床に座った状態で、顔をすぐそこまで近づけて、ふくれた様に不満を告げる千春。

 可愛らしい顔と、こちらを見つめる澄んだ目に胸が高まる。

 ……ああ、やはり俺は、この子が好きなんだと再認識してしまう。

 

「ユウくん、最近私に素っ気ないよね?」

 

「……うん?」

 

 俺が千春に素っ気ないって? ははは、好きな女の子に素っ気なくするわけがないだろう。

 

「前はお勉強するときはいつも二人でしてたのに、隠れて一人で勉強してたり!」

 

「え、ちょっと待って? なにその理由」

 

「ユウくんだけ期末テストで上位取ってずるい!」

 

「理不尽!? 千春だって平均以上は取れてただろ!?」

 

「私は上の下くらいだもん! ユウくんは上の中ぐらいだったもん!」

 

「たいして違わなくない?」

 

「中学生の頃はずっと同じくらいだったのに!」

 

 まあ、小学一年生からずっと一緒に勉強してれば、そうなるのも当たり前というか。

 

「あと私を誘わず、一人でトレーニング始めてみたり!」

 

「もしかして、一緒にしたかった?」

 

「それもそうだけど、なにか始めるなら一人より二人の方が楽しいし、長続きする気がするでしょ?」

 

「まあ、それもそうだけど……」

 

 千春に相応しい男になりたいから、始めたことだからなあ。まさか、正直に理由を言うわけにもいかないし、その経過を千春にマジマジと見られるのも恥ずかしい。

 けれど、千春が勉強やトレーニングを一緒にやりたいなら、適当な理由をつけて、誘えば良かったかもしれない。その分、一緒の時間が増えるわけだし。

 

「ともかく。ユウくんは、最近私に構う時間が少ない気がします」

 

「それはごめん」

 

「うん、だけどね。それは私も至らないところがあったかなって」

 

「それはないと思うけど」

 

「だからね、私もユウくんの気を引けるように、いろいろと勉強したの」

 

「そうか……うん?」

 

 勉強って、なにを?

 

「ちょっと大変だったけど、ユウくんが――男の子が好きそうなこと」

 

 今までも距離が近かった千春が、更に顔を近づけて、俺の耳元でささやく。

 恋心を抱いている女の子の、すぐ間近からの声に、背中がぞくりと震えた。

 

「私、一杯勉強したから……私に任せて、ユウくんはじっとしてて、ね?」

 

 千春の手が、俺の顔に触れる。

 

「ねえ……男の子って、こういうのが好きなんでしょ?」

 

 その言葉に、俺はなにも考えられず、頭が真っ白になり――

 

 

 

 数十分後。俺と千春は、肩を寄せ合って――ロボットアニメを見ていた。

 

「いやなんでだ!?」

 

「わあっ!? 急にどうしたのユウくん!?」

 

「ごめん、つい今の状況にツッコミを入れてしまった」

 

「ふふっ、しょうがないなあ、ユウくんは」

 

「そこで微笑ましいものを見るような目で、しょうがないなあって言わないでくれる?」

 

「でもほら、男の子ってロボットアニメが好きなんでしょ?」

 

 確かに女子よりも男子の方が、ロボットアニメが好きな割合は多いかもしれないが、一概にそうとも言い切れないと思う。

 

「私も、あんまりロボットアニメは詳しくないんだけど、勉強したんだよ?」

 

「そうなのか?」

 

 そもそも、俺もあんまりロボットアニメに詳しくないんだけど。

 

「ほら、才能を秘めた新人の主人公が載ったピーキーな性能の試作機と、主人公の面倒を見てくれるベテランパイロットが操る量産機のカスタム型がコンビで、敵のエース機と戦っているじゃない?」

 

「……ああ」

 

「男の子って、こういうシチュエーションが好きなんでしょ?」

 

「……くっ!?」

 

 なぜだ。あんまりロボットアニメに詳しくないのに、なんだか燃えるシチュエーションだと思わされてしまう!

 

「ふふっ、ユウくん……燃えてるね?」

 

「そ、そんなことはないぞ?」

 

「隠さなくても良いんだよ? ユウくんも男の子だもんね」

 

 なんだか釈然としないが、千春が楽しそうなので、まあいいやと思う。

 これが惚れた弱みと言う奴か。

 

「ところでユウくん。そもそも、なんでここで敵の援軍が来ないんだっけ? 加勢したら主人公達もやばそうなのに」

 

「ああ、それは敵の組織内でも派閥争いがあって……ちょっと待て、勉強したんじゃなかったのか?」

 

 事前にこのアニメを視聴して前情報を仕入れているなら、俺が分かるようなことは、千春も理解しているはずだが。

 

「うん、なんだか複雑で良く分からなかった!」

 

「笑顔で言うことじゃないよね!?」

 

 満点の笑顔で、今までの全てをぶった切るようなことを仰る千春さんであった。

 

「だって設定とか多すぎて良く分からないんだもん! キャラクターだって一杯いて、誰が誰だか分からなくなるし」

 

「まあ、ロボットアニメってそういうもんだろうしなあ……大勢力同士の戦争を描く以上、どうしたってそうなるんじゃないか?」

 

 詳しく知らないけど。

 

「うーん、男の子はこういうのが好きだと思ったけど、ユウくん的にはイマイチ?」

 

「個人的に、人がどんどん死んでいくのはちょっと苦手かなあ」

 

 戦争アニメだから、むしろ死なない方が不自然なのだろうけど。

 

「うん私も!」

 

「じゃあなんでこれ選んだの!?」

 

「むう……ロボット戦争ものじゃあ、ユウくんのハートは掴めなかったか」

 

「なんかごめんね」

 

 どことなく罪悪感がある。けど、好きと嘘つくのもなんだしなあ。

 まあ、千春自身に既にハートを掴まれているわけだけど……何言ってんだろう自分。

 

「いいよ、私が好きでやっていることだし」

 

 そう言って、にこりと微笑んでくれる千春。かわいい。

 人気があり、長年続いているジャンルだから、良いものには違いない。単純に俺と千春の感性が合わないだけなのだろう。

 

「よし、じゃあ次行ってみよーっ!」

 

「次あるの!?」

 

「ふっふっふっ、次こそ男の子のハートを、ガッチリキャッチしちゃうものだよ! ユウくんも心して掛かるべきだと思うよ?」

 

「ほう、なかなか自信がありそうだな」

 

「うん、まあね。それじゃあ、今度はこれを一緒に見よう!」

 

 

 

『マスター。現在のワタシの状態では、敵勢力に勝てません。整備をお願いします』

 

 全長5mほどの無骨なデザインのロボット――しかし、全身がボロボロで、無傷な部分が見当たらない状態のロボットが、側にいる壮年男性に向かって告げる。

 

「駄目だ……! たとえ万全の状態のおまえでも、あの数のロボットに勝てる可能性はほぼゼロだ!」

 

『ですが、今戦えるのはワタシだけです』

 

 そのロボットの近くには、壊されつつも、完全には破壊されずになんとか運び込んだロボット達が佇んでいた。

 修理をすればまた動けるようにはなるだろうが、それには長い時間がかかるであろう。

 

『ワタシがここで戦わなければ、どのみち人類は終わりです。マスター、整備をお願いします』

 

「なぜだ……なぜおまえが、そこまでする必要がある!? 戦うことをやめれば、あいつらも同じロボットのおまえに攻撃は加えないだろう! おまえは戦い続けて、もうボロボロじゃないか! ここで逃げたって、だれも文句は言わない! いや、言わせるものか!」

 

『それが、ワタシが造られた理由だからです。この星を守るために、この星の敵勢存在を滅ぼすようにプログラムされた最終破壊兵器が、人類にその脅威を向けたとき。そのときに人類を守るために造られた機械――それがワタシです』

 

「……だから、希望のない戦いにも赴くのか? 例え、自分が壊れたとしても」

 

肯定(ポジティブ)。そうしなければ、ワタシはワタシの存在理由を失ってしまいます』

 

「おまえは、命令に従い、望みのない戦いに殉ずるというのか……? それだけのために?」

 

『……肯定(ポジティブ)。それがワタシが造られた理由ですから』

 

「……すまない。おまえが造られた意義を否定することは、おまえ自身を否定することになるのかもしれない。だが、それでも言わせてもらう! おまえが遙か昔に与えられた命令に従い、死ぬ必要はどこにもない! 逃げるんだ! おまえだけでも、生き延びてくれ!」

 

『……いいえ、それだけ(・・)ではありません』

 

「……っ!?」

 

『ここの人達はとても良くしてくれました、特にあなたには。ワタシには、人間は地球のために滅ぶべき存在とは、とても思えません。そして、ここで機能を停止している戦友達。ワタシが逃げては、彼らは永久に修理されません。だから……ワタシは、ワタシ自身の意志で戦います。お願いします。今一度、ワタシに戦う――アナタ達を護る力を』

 

「……分かった。だが、一つだけ条件がある」

 

『なんでしょうか?』

 

「約束してくれ。必ず、生きて戻ると」

 

『……敵勢力は強大です。約束はできません』

 

「……そうか」

 

『ですが、全力を尽くします。敵を倒し、ここに帰るために』

 

 

 

 そして……最後のロボット(守護者)の奮戦により、人類の抹殺に動いていた兵器達は破壊された。

 人類の味方をしてくれたロボット達により、平和が戻ったのだ。

 しかし……基地に戻されて、修理されてからも、佇み動かないロボット。

 ――敵を倒すために最後の力を使い果たし、機能停止した、人類を救い英雄となったロボットである。

 

『なんで動かないんだよ! 俺達はちゃんと直してくれたのに、どうしてこいつは直せないんだよ!?』

 

 英雄となったロボットともに、戦ったロボットの内の一機が壮年の男性に詰め寄る。

 

「……すまない。私達にも、分からないんだ」

 

『そんなのって!』 

 

『よせ! いちばん辛いのはマスターだ!』

 

 もう一機のロボットが、詰め寄るロボットを抑える。

 

『……悪かった』

 

『……きっと彼は、使命を終えたのさ。ボロボロになるまで戦い続け、人を、地球を――そして、俺達ロボットも守った。だから……』

 

『だから……造られた意味を、命令を果たしたから、動かなくなったってことかよ! そんなのって……!』

 

「それは違う……。だって彼は、ここに帰ってくると言ったんだ。ここに帰るために全力を尽くすと」

 

 その時。今まで全く動かなかったロボットの目に、確かに光が宿った。

 

『……マスター』

 

「っ!?」

 

『動いた! いま確かにこいつ動いたぞ!』

 

「良く戻ってきてくれた……!」

 

『……遅くなりました。ただいま、マスター』

 

 

 

「……ひっく、良かった。良かったよぉ」

 

 千春さんが、ガチで感動していらしゃるんですが。

 

「えっと。俺のハンカチで良ければ使うか?」

 

「ありがとぉ……ロボットさん、無事に帰ってこられて良かったね……マスターと仲間達と幸せにね……」

 

 勧めてきた本人が、ハートをガッチリキャッチされてる件。

 まあ、純粋に感動できる千春はかわいいし、とっても良い子だなあと胸が温かくなるけど。

 

 ともあれ、しばらく千春の頭を撫でたりしながら、千春が落ち着くのを待つ。

 そして、十分ほど待ってから。千春がおずおずと、こちらに声をかけてくる。

 

「……えっと」

 

「うん」

 

「こ、これでユウくんのハートはガッチリキャッチできたねっ!」

 

「どう考えても千春の方がキャッチされてたよね!?」

 

「あ、あれー。男の子って、こういう人類を護るための最終決戦とか、大切なものを護るためにたった一人で戦うシチュエーションに燃えるんじゃないの?」

 

「確かに燃えるものはあるし、グッと来るところはあったけど」

 

「そうだよねそうだよね!?」

 

「でも、千春の方が感動してたよね?」

 

「なんで!?」

 

「俺に聞かれても」

 

「もしかして……私は男の子だった……?」

 

「そんなわけあるかい」

 

 千春みたいな、かわいくて魅力的な男の子がいてたまるか。

 

「うう……また失敗かあ。上手くいかないなあ」

 

「良く分からないけど、別に無理してこんなことしなくても良いんだよ?」

 

「ううん。これは、私がやりたくてやっていることだから」

 

「そっか」

 

 それなら、千春の気が済むまで付き合うとするか。

 

「と言うわけで――」

 

 千春が鞄からなにやら取り出し、こちらを見て意味深に笑う。

 ちなみに全然怖くないし、むしろかわいい。

 

「カタパルトシステムオールグリーン! カブトムシ発進、ぎゅーん!」

 

 カブトムシ(のおもちゃ)を持ちながら、いきなり突進してくる千春。

 

「何事!?」

 

「ふっふっふっ、男の子が好きなもの第三弾! 昆虫だよ! 特にカブトムシは大人気だよね!」

 

「虫は、好き嫌い結構分かれると思うな」

 

「カブトムシが嫌いなら、クワガタもあるよ?」

 

「むしろなんで持っているの!?」

 

「クワガタも気に入らないなら、モンシロチョウか! ええい、ユウくんはワガママさんだなあ!」

 

「理不尽なワガママ判定!? そしてだからなんで持っているの!?」

 

「じゃあ私はカブトムシで、ユウくんはクワガタ役でどう?」

 

「なにが!?」

 

 そして、なぜか俺は高校生にもなって、好きな女の子と二人きりというシチュエーションで、昆虫(おもちゃ)大戦争を十数分もの間、繰り広げた。

 ……本当になんでだ?

 

 

 

「あー楽しかったね、ユウくん!」

 

「そうだな」

 

 なんだかんだ言いつつ、俺も楽しそうな千春と一緒に、童心に帰って遊ぶのを楽しんでいたりするから、文句はないんだけど。

 

「それじゃあ、そろそろお昼ご飯にしよっか」

 

「俺も一緒に作るよ」

 

「うん! ふふっ、ユウくんとお料理ー」

 

 いつも楽しそうなのが、千春の大きな魅力の一つだ。

 ちなみに、休日にウチの両親が出かけているときは、たびたびお昼ご飯を一緒に作って千春と食べている。

 

「それでですね。今日は、男の子が好きそうなメニューなのですよ」

 

「ほう、それは楽しみだな」

 

「ふふふ……ユウくんのその余裕も今のうちだよ」

 

「むう、そうとうな自信があるようですな、千春さん」

 

「いえいえ、それほどでもありませんよユウくん」

 

「で、結局何を作るんだ?」

 

「海軍カレー!」

 

「カレーか。確かにカレーは好きだけど、なぜそれを選んだんだ?」

 

「男の子が好きなカレーと、海軍のコラボレーションだよ! ほら、男の子ってカレーも、軍艦とか戦艦とかも好きでしょ? 好きが二つ合わさって、魅力倍増だよ! ふふっ、覚悟すると良いよ?」

 

「そうか、それは覚悟しておかないとなあ」

 

「でしょ? ふはは-、お腹を空かせて待っておくと良いぞー」

 

「なぜ悪者風に」

 

 まあ、既に千春の魅力にやられているわけだけど。

 

 

 

「聖剣包丁セイバーで、ニンジンさんとタマネギさんを八つ裂きにしてくれるわー! そしてその後は地獄の業火で熱して、美味しく炒めてあげるとしよう! ふはは、熱かろうー!」

 

「勇者なのか魔王なのか、はっきりするべきだと思う」

 

「沢山作れば、夜ご飯にもできるよね。ユウくんのお父さんとお母さんにも、食べさせてあげて?」

 

「急に素に戻ったな!? でも、ありがとうな。そうさせてもらうよ」

 

「うんっ!」

 

 

 

 

「さて、ユウく――男の子のハートを掴む作戦、第四弾、行ってみよう!」

 

 お昼ご飯の後。ドヤ顔をしながら、こちらを見てそんなことを言う千春。

 そんな表情をしても、かっこいいよりもかわいいが先に来るんだけどな。つまりかわいい。

 

「やっぱり、さっきの失敗は、未知のジャンルにうかつに手を出したことが敗因だよね」

 

「しかし隊長。新たな分野を開拓することなしに、新しい発見はないかと思われます!」

 

「はっ!? それもそうだね! さすがユウくん、良いこと言った! いえーい!」

 

「いえーい」

 

 妙なノリのまま、ハイタッチを交わす。

 

「……で、なんの話してたんだっけ?」

 

「聖剣包丁セイバーと天空竜のまな板で、海軍カレーを進化させたところだった気がする」

 

「ああ、そうだったそうだった……ってなにそれ!? そんな話してないよ!?」

 

「ナイスノリツッコミ。いえーい」

 

「いえーい!」

 

 またまたハイタッチ。

 

「話が進まない!? もう、ユウくんってば!」

 

「ははは、悪い悪い。で、今度はなんだんだ?」

 

「やはりここは王道で攻めるべき。というわけで、ここにファンタジーアクションRPGがあります」

 

「それ、俺が昔やりこんだゲームじゃないか。それがどうしたんだ?」

 

「男の子が好きな定番と言えば――剣と魔法、それに大冒険だよね!」

 

「……なるほど?」

 

「むう、ユウくん乗り気じゃない? 水の都に古の本が眠る大図書館、失われた技術が使われた古代遺跡、実在すら不確かな天空にある城とか、ワクワクしないかな?」

 

「いや、今回は概ね同意するよ?」

 

 たしかに剣と魔法、それに冒険ものはかなりの男の子が好きだと思う。でも好きだから、でその後が続かない。

 どう反応したらいいのだろうか?

 

「じゃあ、実際にやってみようよ!」

 

「まあ、久しぶりにやってみてもいいかもな」

 

 昔かなりハマったゲームだし、久しぶりにやってみるのもいいかもしれない。思い出補正が入っている可能性も否めないけれど。

 でもまあ、千春がやる気なのに反対する理由もない。

 

「ほら、ユウくん早く早く!」

 

 ゲームソフトを本体に入れて、早く起動するように促す千春。

 もしかして、千春がこのゲームやりたいだけじゃないだろうか?

 

「これこれ、そう慌てなさんな。ゲームは逃げないぞ」

 

「それはどうかな? もしかしたら足を生やして逃げるかもよ?」

 

「怖いわ!? ゲームソフトに足が生えるって普通に気持ち悪い光景だな!?」

 

「それとも足じゃなくて、翼が生えて飛んでいくかも?」

 

「翼を生やして大空を舞うゲームソフト達……怪奇現象まったなしだぁ……」

 

 

 

「よし、今だ千春! ぶちかませ!」

 

「りょーかい! いっけー! 究極魔法!」

 

 千春の操作で魔法が発動し、ボスに直撃する。

 ちなみに、千春が操作しているキャラはたしかに魔法を使っているが、その魔法は別に究極魔法という名称ではない。

 

「これぞ、火・水・風・土・光・闇のいずれでもない……かつて失われ、現代に蘇った第七属性魔法。燃えるシチュエーションだよね!」

 

「まあ、王道と言えば王道だよね。ごく一部の重要キャラにしか使えない魔法属性って」

 

「時とか空とか虹とか星とか、あと深淵とか! なんか特別って感じがするワードだよねえ」

 

「ゲームによっては結局、基本的な魔法の方が強かったりする場合があるけどね」

 

「むう……それはそれで、がっかり感があるなあ」

 

「基本を極めたら最強になるのも、結構かっこいいと思うぞ」

 

「言われてみたら、たしかにかっこいいかも! でも時というかそういう魔法は大概強いよね」

 

「敵を止めたり、行動順を遅らせたりするのは反則的だからね」

 

「それで、時の魔法を発動させたときに、時計や歯車がおぼろげに見えるとかっこいいよね!」

 

「それはなんとなく分かる」

 

「そうだよね、ユウくんも刻を『トキ』と呼んじゃうお年頃だもんね」

 

「どんなお年頃だ。言わんとすることはなんとなく分かるけど」

 

「それとも、ユウくんはやっぱり聖剣とかの方が好きかな?」

 

「魔法とどっちが好きとか、今まで考えたこともないけど、どっちも好きかなあ」

 

「なるほど。ユウくんは剣も魔法もどっちも好きなんだ。少年の心の持ち主さんだね!」

 

「それって、暗に子供っぽいって言ってない?」

 

「もう、そんなこと言ってないよ?」

 

 そう笑いかけてくる千春の顔からは、からかってるような色は見えない。

 どうやら純粋にそう思っているようだ。

 

「千春は千春で、純粋な心の持ち主だと思うよ」

 

 さっきもロボットものを見てたとき、ガチで感動してたし。

 

「ふえ!? そ、そんなこと言われると恥ずかしいよ!」

 

「本当にそうだと思うから、恥ずかしがることないのに」

 

「うう~」

 

 ジト目でこちらを見てくる千春。やっぱりかわいいなあ。

 

「ってああ-!? 私の操作キャラが戦闘不能になってるーっ!?」

 

「千春がよそ見してるから」

 

「うう……こうなったら、ユウくんには絶対生き延びてもらわないと! ユウくんも倒されたら、ゲームオーバーだよ!」

 

「でもこいつ強いし、一人だと結構きついんだよなあ」

 

「この程度の相手に苦戦してるんじゃない! ユウくんを倒すのはこの私だ!」

 

「なんで、ベタなライバルキャラのセリフを!? というか俺、千春に倒されるの!?」

 

「一度言ってみたいセリフだよね、これ!」

 

「言ってみたかっただけ!?」

 

「でも、こういうライバルキャラ、男の子好きでしょ?」

 

「ああ、そこに戻るのね」

 

「原点回帰って奴だね!」

 

「このゲーム、リメイクしてくれないかなあ」

 

「シリーズの他の作品は、リメイクしているんだっけ?」

 

「なんで、一番好きなこのタイトルだけ、リメイクしてくれないんだ……」

 

「うう……かわいそうなユウくん」

 

「それはそうと、ほい千春復活」

 

 アイテムを使って、千春の操作キャラを復活させる。

 

「私が復活した!? よし、ユウくん! 今こそ、私とユウくんの合体攻撃だよ!」

 

「そんな技存在しないよ!?」

 

「えー。ロマンがないなあ。仲間の力を集めた究極の必殺技! って言うのが熱いのに。ミナデインとか、元気玉みたいな」

 

「そういう技はここぞというときに出すからこそ、ロマンがあると思うんだ」

 

「そうだよね! で、このゲームはいつになったら、そういう技を出せるのかな?」

 

「それはだな」

 

「それは?」

 

「……」

 

「……ないんだね」

 

「……そうとも言う」

 

「それ以外にあるの?」

 

「ない」

 

「じゃあなんでもったいぶったの!? って、ああーっ!? また私の操作キャラが、戦闘不能になってる!?」

 

「よし千春! 仇は取ってやるぞ!」

 

「うん、ユウくん任せた!」

 

 そう言って、千春が俺の背中に抱きつく――ってええっ!?

 

「ちょっと待て千春!? いったい何があった!」

 

「ゲームで協力技ができないから、リアルでユウくんの応援だよ! 私のエネルギーをユウくんに注入するんだよ! 頑張れーっ!」

 

 千春が応援してくれている……! なら、頑張らないとな……やっぱ無理!

 背中に感じる柔らかい感触とか、首に触れるくすぐったい髪の感触とかに気を取られて、集中どころじゃない!

 

「ユウくん、操作止まっているよ!? ああーっ! ユウくんがやられたぁ!」

 

 耳元で声を出さないでください。変な気分になります。

 

「……ユウくん? どうしたの、ユウくん?」

 

 千春が俺の頬を指でつつく。その際に更に体を寄せてきたので、背中に当たる感触がますます強くなる。

 落ち着け春日井裕真。ここでユウくんのユウくんが反応して、千春に嫌われたら告白どころじゃないぞ……!

 

「臨・兵・闘・者・皆・陣・列・前・行……!」

 

「なんで、いきなり九字切ってるの!?」

 

「男の子はな、時に無理矢理にでも、明鏡止水の心にならなきゃいけないときがあるんだ」

 

「そ、そうなんだ……良く分からないけど、男の子も大変なんだね?」

 

「ああ、そうなんだ」

 

 男子小学生の様なスキンシップしてきながら、超高校級の柔らかな感触を背中に押しつけてくる、千春のせいだよ!

 ……とは言えない。言ったら間違いなく引かれる。

 

「というわけで千春さんや。そろそろワシの背中から降りてくれんかのう」

 

「もう、しかたないですねえ、ユウくんは。今回だけですよ」

 

 そう言って、千春は俺の背中から離れる。ざ、残念なんて思ってないからな。 

 ちなみになんでこんな口調なのか。そして千春の言う今回だけとは、なにがなのか。それはたぶん、お互いに分かってない。

 

「というわけで、お邪魔しまーすっ」

 

 そして、今度は俺の前に座って体を預けてくる千春。

 

「……あの、千春さん?」

 

「んー? どうしたのユウくん?」

 

「なぜ私めの前にお座りなのでしょうか?」

 

「お答えしましょう。座り心地が良さそうだったからです!」

 

「……そうですか」

 

「駄目だった?」

 

 頭を俺の胸に預けたまま、軽く振り向きつつこちらを上目遣いに見る千春。

 かわいい……かわいいし、千春の頼みとあれば、ぜひ聞いてあげたい。

 だが。俺の心臓が持ちそうにない。ここは心を鬼にして、穏便に離れてもらうしかないだろう。

 非常に心苦しいが、きっとそれがお互いのためだろう。

 

「いや、千春が良いなら良いよ」

 

 なんで了承しているんだ、バカか俺は!? つい欲望が上回ってOKしてしまった!

 

「ふふっ、ありがとうユウくん! えへへ、落ち着くなあ」

 

 なにが落ち着くだ、人の気も知らないで! こっちは心臓バクバクだよ! でもかわいいから許す!

 

「でねでね、ユウくん!」

 

「今度はなんだね千春くん」

 

「これ見て見て! はい!」

 

 そう言って、自分のスマホの画面を見せてくる千春。

 千春のスマホに映っていたのは、建物の外にある、所々で塗装が剥げ落ちた非常階段。

 

「それからね……」

 

 千春がスマホの画面を、ゆっくりとスワイプしていく。

 日本刀、なにやらギザギザした機械、屋根裏部屋に続く階段、なにやらカッコよさげな銃火器等々……

 

「どう? ユウく……男の子の心を揺さぶるでしょ?」

 

「たしかにワクワクしてくるのは、間違いないな」

 

 千春に密着されて同時にドキドキしているせいで、イマイチ強く実感できないけど。

 日本刀を持った千春、非常階段に腰掛ける千春、自分の体と比べると大きめの銃火器を構えた千春……うん、かわいい。あかん、千春と重ね合わせて想像してしまう。

 

「んー、この辺りは男の子が好きそうな画像とは、ちょっと外れるかな?」

 

 だんだん、虹とか紫陽花(あじさい)とかピアノの画像など、趣旨が少しずつズレた画像になってくる。この辺りは千春の趣味だろう。

 虹を見上げる千春、紫陽花を愛でる千春、ピアノの前に座って演奏する千春……ああ、想像するだけで癒やされる。

 ちなみに千春はピアノは弾けない。でも良いんだ。想像するだけならなにも問題ない。

 

「この辺りはどちらかというと、綺麗な画像になっちゃうね」

 

「ああ、(妄想上の千春が)綺麗な画像だな」

 

「あれ……? なんかユウくんの返答に、違和感があるんだけど……?」

 

 鋭いな千春!? くっ、さすが幼馴染! 俺の隠していた思考を読み取るなんて、朝飯前ということか!?

 

「そんなことないぞ」

 

「そう? まあいいや……あ、懐かしいな。ほら、子供の頃良く遊んだ公園のブランコ」

 

「どれどれ……確かに懐かしいな。けど、今でもちょくちょく見るよね」

 

「でも、もう遊んだりはしないよ?」

 

「もう高校生だから、なかなかね」

 

「そうだよね……」

 

「……千春?」

 

 どこか寂しそうな千春の声に、俺は千春の様子を伺う。

 

「……こうやって、ユウくんと無邪気に遊ぶことも、だんだん少なくなるのかなぁ」

 

「……なんでだ?」

 

「だって最近、ユウくんと一緒にいる時間少なかったし……子供のころは、毎日ずっと一緒だったのに」

 

「朝は毎日一緒に登校してるし、夜の勉強だって毎日とはいかなくても、それなりに一緒にしてるだろ?」

 

「そうだけど……」

 

 今日、千春が多少強引にでも『男の子ってこういうのが好きなんでしょ?』と詰め寄ってきた理由が、なんとなく分かった気がする。

 自惚れでなければ、俺と子供の頃のように朝から夕方まで、はしゃいで遊びたかったのだろう。

 その思いの源が、近しい幼馴染へ向ける寂しさか、親しい男友達に向ける友情か、はたまた気になる異性への恋心であってくれるのか――そこまでは分からないけれど。

 もしくは、どれか一つではなく、複数の想いか。もしかしたら、そのいずれでもないかもしれない。

 

「俺は今日、千春と一緒に遊べて楽しかったぞ」

 

 でも、それは今は重要ではない。重要なのは、俺が原因で千春に寂しい思いをさせてしまったことだ。

 

「ユウくん……?」

 

「悪かった。いろいろと思うことがあってさ。一人で勉強の量を増やしたりいろいろとしてたんだけど、千春にもちゃんと説明しておくべきだったよな。ずっと、一緒に勉強とかしてたんだから」

 

「ゆ、ユウくんは悪くないよ! 私達ももう高校生なんだから、勉強や運動とか、それ以外もいろいろと頑張るのは当然なんだし!」

 

「それはそうだけど、もうちょっときちんとしておけば、千春を寂しい思いをさせずに済んだのは確かだし」

 

 千春への恋心を直接伝えることはできなくとも、それを避けて説明するとか、やりようはあったはずだ。

 まあ、千春とは今のところ恋人でもなんでもない関係なのだから、千春と一緒に勉強する時間以外に勉強時間増やしたり、一人で体鍛える時間増やすからとか伝えても、千春に「だからなに?」と冷たく言われる可能性も十二分にあったし、後知恵なのは否めないけど。

 ……千春にそう言われることを想像したら、胸が痛くなってきた。

 

「そ、そんなことないよ! 私が勝手に寂しがってただけだし……で、でもね?」

 

 千春が少し言いよどむが、続きの言葉を告げる。

 

「ユウくんさえよければ、私も一緒にユウくんと頑張りたいなって……ダメかな?」

 

「ダメなわけないよ。千春さえよければ、一緒に頑張ろうか?」

 

「うん!」

 

「でも、あまり無理はしないでね? 千春のペースで良いんだぞ?」

 

 千春もこう見えて、かなり真面目な頑張り屋さんだ。千春のペースで頑張っても、成績でもその他の面でも悪いことにはならないと思う。

 

「ふっふっふっ、それはこっちのセリフだよ。ユウくんは私についてこれるかな?」

 

「言ったな、ついてくるのは千春の方だぞ?」

 

 お互いに笑顔で、軽口を交わしあう。

 

「これからもよろしくね、ユウくん」

 

「こちらこそよろしくな、千春」

 

 そう言い合った後、千春はこちらに向き直り、頭を俺の胸に預ける……って、ちょっと待て!?

 

「えへへ、やっぱりユウくんのここは安心するなあ」

 

 だから勝手に安心するなぁ!? こっちは心臓飛び出るかどうかの瀬戸際なんじゃい!

 俺の心臓が飛び出たら、どうする気なんですか、千春さん責任取ってくれるんですか!? それともここから入れる保険があるんですか!? なんの保険だよそれ!?

 

「でも……安心するだけじゃなくて……なんか、ぽかぽかする」

 

 頭をぐりぐりと押し付けながら、とろけた声でなにやらつぶやいてくる。

 あかん。この子、本気で俺の命を狙ってますよ。

 

「そうですか、それはなによりなのです」

 

 緊張のあまり、口調が変になっている。

 でも仕方ないだろう。千春にこんなことされて平静でいられるやつは、きっと男じゃない。

 もしそんな男がいたら、名乗り出ろ。絶対許さん。千春に抱き着かれて、胸に頭をぐりぐりとされるのは俺だけの特権だ。

 ……ダメだ。さっきから思考がおかしなことになっている。落ち着け俺。

 

 ――待てよ。もしかして、今が告白のチャンスなんじゃないか?

 そうだ。一緒の時間が少ないと言われて、もっと一緒にいる時間を増やそうねとお互いに約束して。

 そして、千春から抱き着いてきた状態。これ以上のシチュエーションは、ないんじゃないか?

 

「……あのさ、千春。俺、千春に伝えたいことがあるんだ」

 

 俺は人生で一番緊張しながら、千春への言葉を紡ぐ。

 

「俺、ずっと前から千春のこと――」

 

「……すー」

 

 ……寝ていらっしゃるよこの子!

 人が、一世一代の告白をしようとしたときに、寝ていらっしゃいますよこの子!

 なんて奴だ! 千春以外だったら絶対許さないところだぞ! 千春だから許すけど! そもそも千春以外に告白しないから、意味のない仮定だったな!

 

「……まあ、仕方ないか」

 

 千春を寂しがらせて、疲れる原因を作ったのは俺だ。ならば、この状況も甘んじて受け入れるべきなのだろう。

 俺は起こさないように、そっと千春の頭をなでる。

 

「えへへ、ユウくん……」

 

 寝言で俺の名前をつぶやく千春。やはりこの子は俺の命を狙っているらしい。

 

「……待てよ? ひょっとして、千春が起きるまで、この体制のままか?」

 

 今の状況を振り返ろう。

 俺のベットの上で、最愛のかわいくてスタイルも良い、仲の良い幼馴染の女の子(ただし付き合っていない)が、俺に抱き着いて寝ている。

 ちなみに、現在七月で千春は薄着である。

 

 ……生殺しか!?

 

「煩悩退散、邪念撲滅、心頭滅却、六根清浄、怨敵退散……!」

 

 千春の信頼を裏切る真似は絶対できない。そんなことをしようものなら、俺は一生後悔する。

 千春が起きるまでの一時間。俺は自身の煩悩との、辛く苦しい戦いを強いられるのであった。

 

 

 

 後日。俺は無事に千春と付き合えることになるのだが、それはまた別の話である。




幼馴染同士の息のあった掛け合いが大好物です。

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