楽しく読んで頂ければ幸いです……
四日も経てば彼との仲も良くなる。
最初は寡黙な青年と思っていたが、案外おしゃべりな一面もあった。
それは彼の幼少期に関係していると思う。
「九ッ……じゅ、十…!!」
アルベールは僕が自作した懸垂用の器具から手を放す。
生成魔法とはつくづく便利なモノである。
足りないものを即席で作れるし、解体も容易だ。
「よし!三セット目終了!!午前の稽古は終わりだ」
「ハァハァ……はい…」
肩で息をするアルベールに水を差し出す。
それを受け取り、数回と分け、時間を掛けて飲み干した。
飯や酒でも一気に摂取するのは危ないからね。僕がそう指導した。
「午後は接近術の稽古をするよ。剣はまだだね」
「じいさん…。どうして、先に…接近、術なんです…?」
「そりゃあアレよ」
息が整ってきたアルベールを横目に言う。
「騎士団だからだよ。騎士団は民を守らないといけない。例えば…民から緊急の連絡が入るとする。どうやら……盗賊が襲ってきたようだ。キミは助けにいくだろう?」
「ああ、民を守る為の…騎士団だからな。最速で現場に行く」
「うんうん。で、到着した。
「人質を取る…のか」
「正解正解。盗賊は幼女を盾に言うだろう。武器を捨て馬車を用意しろ、と」
「何故人質が幼女なんです?」
「別にいいだろ。例えだ例え」
ゴホンと咳をして話を戻す。
「幼女奪還の為、アルベール。キミはどうする?武器を捨てるか?逆に剣を振るうか?……申し訳ないが、キミの剣が盗賊に当たる前に、幼女の首にナイフが先に刺さぞ」
「……答えは出てますね」
「まぁ、そういう事だ。あとキミは今後、室内、洞窟、荒野に泥地、森の中で戦う事になるぞ?果たして満足に聖剣が振るえるかな?」
「……」
「僕が言いたいことは、『使える武器を増やせ』ってこと。適材適所。この世の全ての戦には、それぞれ最適解の武器がある。それを状況に応じて選択する事が大切なのさ」
僕は弓矢を作り構え、空を飛ぶ鴨を射る。急所に的中した鴨は、翼をはためかせ落下した。
その後近くの木を狙い、一発放つ。パスッと音を立て、幹に矢が刺さる。
「ね?弓矢は鳥を穿てるが、木は倒せない。当たり前の事実だけど、とても大切なことなんだ」
僕は仕留めた鴨の元に行き、拾い上げ戻る。
一旦地面に置き、再度弓を木を狙い構える。
「ただし──」
僕は自身と弓矢に強化魔法を付与し、指を放した。
空を切る音。先ほどよりも強力な一矢は、木を軽々と倒した。
「強大な力ならば、その有象無象は一掃できる。……まぁつまりは……」
一気にダサくなった。でもしょうがない。火力は正義なのだから。
こうして僕のクソダサ講義は終わり、鴨を捌いて焼いて食べた。
美味しかったです。
◇◇◇◇
食事を終え、近場の町に進もうと荷物を整理していた。
そこに思いがけない人物から声が掛かった。
「そこの御仁、少し時間を頂いて宜しいですか?」
馬に跨った二人組。黒いマント姿で、深くフードを被っていた。
その一声を皮切りに下馬し、フードに手を掛けた。
「私は蒼天の翼騎士団。その団長のクラリスです」
そう名乗る彼女は、細かく美しい装飾で彩られた兜を外した。
とても綺麗な人で、薄水色の長い髪は結われており、紫水晶のような瞳が僕を覗いた。
入団試験の際に遠目だが、その素顔は確認していた。
しかし、こうやって間近で見ると恐ろしい程に認識が変わった。
「竜血帝と相まみえたアナタに興味を抱きまして、こうして入団祭を抜け出して参りました」
「……僕に?……彼じゃ無くて???」
背を向け、この場からゆっくり退散しているアルベールの背中を指さした。
「……!?」「あ!アルベール君じゃないか!?僕だよ僕!覚えているだろう???」
案の定、クラリスは面白い程に反応した。
一瞬目を反らし口元が緩んだ。可愛らしい団長だこと。
つうか、その横のモブ。オマエ誰だよ?場合によっては首を刎ねるぞ。
クラリスの横。背の高く爽やかな若人は、アルベールの下に駆け寄った。
旧知の友の如く、アルベールの首に腕を回し、その男は笑った。
「ルーカスさん……お久しぶりです」
「覚えてくれて嬉しいよ~。一年ぶりだね~元気そうで良かった!!あ、でも…試験に来てたっけ???」
「確かに居ましたよ、ルーカス。彼は最後まで剣を振り続けました。……我が騎士団の一員として、恥ずかしき言動です。訂正なさい」
冷ややかに、甲冑の音を鳴らしながらクラリスはルーカスに迫る。
「……分かったよ、お嬢。悪いな、アルベール」
「いえ、目立った実力が無かった俺がいけないんです」
ルーカスはポンポンと青年の背を叩くなり、クラリスに言う。
「じゃあ俺は、灰髪旦那の聞き取りをするわ!旦那…一本どうだ?」
懐から取り出すは、タバコのケースだった。
それも一個二個三個四個と様々な種類のタバコが出てきた。
「嗅ぎタバコ?噛みタバコ?パイプ?葉巻にシガレット。どれにする?」
「え……じゃあ……シガレット…で」
「ほいほい、はいドウゾ。では、タバコ嫌いなお嬢から離れますか、旦那」
僕はタバコを貰いクラリスを見る。
ルーカスを見下す様な、冷酷な視線を送っていた。
タバコ嫌いじゃなくて、オマエ嫌いなんじゃないのか……?
そうして僕とルーカスは、お二人の風下。
しかもえらく離れた木の下で、タバコに火をつけた。
深く吸い込み、ハァとため息交じりに吐きだしたルーカスは僕に言った。
「で?旦那は何者なんだ?」
先程までの調子の良い姿は此処にはなく、クラリス以上に冷淡な視線を僕に向けた。
警戒以上、敵視未満。そんな感じだ。
「何?コレが本心ってことか?」
「お嬢の為ならば、道化を演じるなんざ安いモンさ」
「大変そうだな」
「それはお互い様だ。
僕は少し身構えた。
まだ名を名乗っていないハズなのに、僕の名を知っている。
竜血帝との遊戯でも、自身の名は明かしていない……
ならば、僕の身の回りを探った、って事だよな…
「宿舎の台帳で旦那の名を調べた。あと他も……」
そう言うとルーカスは調書をポーチから取り出した。
「
「随分……ヒマそうで……」
「まぁウチはワケ有りでね。少しヒマなんで、部下を総動員して調べ上げたのよ」
硬貨の純度率だって????そんなとこまで頭が回るワケ無いだろ!?
クソォ…ヘルマンから貰ったお金が裏目に出た……
正直に話すか……
「信じて貰えないと思うが──」
僕はこれらを伝えた。
古竜狩りの隠れ弟子であること(嘘)。
弟子に技術の継承をしていること(本当)。
竜血帝。ヘルマンの知り合いで、お金を恵んで貰ったこと(半分嘘)。
それが上手くいくかは、全くの未知領域だった。
◇◇◇◇
彼にとっては、口からタバコが落ちる程、衝撃な内容だったらしい。
自身を落ち着かせる為に二本目のタバコを取り出し、火を付けた。
「だ、だが…!しかし、それなら筋が通る……!竜血帝との一戦も、他団長の呟きも……!あぁ、信じよう。なんせ旦那は……アルベールから信用されているからな」
「アルベールの信頼が凄まじいな」
何故か許された。
これ以上面倒事に巻き込まれないと思うと、安堵の息が出た。
この男、ルーカスと言ったか。やけにアルベールに対して熱が有るな……
「勿論だとも!!…ノーゼフさんが、自慢の息子の様に接して居たからな」
「ほぉー。失礼を承知で聞くが、そのノーゼフ氏は?隠居されたか?」
その問いを聞いてルーカスは顔を上げた。
タバコの灰を落とし、再度吸い直すと口を開いた。
「……亡くなった。アルベールと別れて数日後に。ある貴族が毒を盛りやがった…許せるワケがねェ…」
「貴族が毒を……」
「ああそうだ。ノーゼフさんは貴族出でよ…それが気に入らなかったらしい」
首を何度も横に振りタバコをふかす。まるで嫌な過去を思い出すかのように。
そして語った。
「ノーゼフさんが死んで、お嬢は後を継いだ。私が成るしかない、って言ってよ。今ですら、二十に満たないガキなんだぜ?……周りからの卑しい言葉に屈せぬ様に、傷つきながら立ってるんだ…」
「あぁ、だから『氷の女』なのか」
「そうだ。まるでゴーレムのように感情が無い。冷酷な女だとさ。……ふざけやがって」
長いため息と共に、煙も吐かれる。
その後、数秒の時を経て笑った。
「だが見ろよ旦那。お嬢が笑ってるぜ?あの時…村に療養していた以来の顔だ」
「ん~おぉ、本当だ。結構可愛いじゃん」
「おっと~旦那ぁ?手ェ出したらタダじゃ置かねぇからな?」
「へいへい。あ、僕の聴取はもう終わりか?」
「おぉ、そうだった。もう終わりで良いだろ。捏造しておくか?ただの一般人ってよ」
「大丈夫。そのままでいいさ。あっ……!!」
聖剣関係で唐突に思い出した。ヘルマンに伝えたい事があったことを。
「どうした?」
「えっと…。キミは竜血帝に合う事は出来るか?伝言を頼みたいんだが……」
「団長経由なら問題ない。要件は?」
「それがな…生前、僕の師匠が口酸っぱく言っていたんだけどさ──」
古竜狩り。かの英雄の『工房』には入らないで欲しい──
「『工房』だぁ?山に籠って技術を練り上げた、って聞くが……初耳だ」
「どこかに隠されてるらしいけど、そう簡単に見つからないと思う……。もし発見したら、竜血帝に管理して欲しいんだ」
「了解。必ず伝えておく」
「ありがとう」
僕は彼にそう伝え、遠くから二人を眺めた。
何か話している。楽しそうだ。
「旦那、春先にまた試験が行われるんだ。…大丈夫だと思うが、頼むぞ…。彼はお嬢の光なんだ」
「任せとけ!超絶一級品にして送り出してやる」
「……。すまない。そして、ありがとう」
「そう畏まるなよ、気持ち悪い。…なぁルーカス、葉巻を貰えないか?久しぶりに吸ってみたくて」
「!?あぁいいぜ。なら俺も吸おう。そういや、まだ聴取が終わってなかったわ」
彼から葉巻を受け取り、指先から生じさせた炎でゆっくり火を付けた。
こりゃあ葉巻が終わるまで聴取が続きそうだ。
今日の午後の稽古はお預けにしよう。
オッサンはオッサンらしく、彼らの青春の成就を願おうじゃないか。
お疲れさまでした。
いかがでしょうか?
今の時点でアルベールは16歳。クラリスは18歳です。
クラリスは歴代最年少で騎士団長となりました。
彼女の団は、他の団よりも規模が少なく、評価もボチボチなのです。それを覆そうと、日々頑張っている女の子です。
ルーカスは幼少期、クラリスの父であるノーゼフに拾われました。
その為、ノーゼフ亡き現在、恩返しもありクラリスを支えている柱でもあります。
クラリスを思うストレスで、ヘビースモーカーに成りました。
タバコ臭が大嫌いなクラリスに若干嫌われています。可哀そうな男。
今回はこれで終わりです。
次回も読んで頂ければ嬉しいです!!!
では、また~