キミの魔王になりたくて   作:赤い靴

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第14話 春の息吹

「じいさん。俺が火を付けとくよ」

「頼んだ。僕は旅道具の掃除でもしてるわ」

 

 騎士入団試験まで一か月を切り始めた。

 アルベールへの筋トレと体技、様々な武器での稽古は順調に進んだ。

 僕らは最終目的地の『ベリタス』という街に向かっている。現在、街道宿*1の一室を借り一息付いているのだ。

 最低限の設備しか無いが、安価で夜風は防いでくれる。春の気配が無い今、外での野宿はリスクしか無い。

 

 アルベールが小さい暖炉の薪に火を灯すと、心なしか部屋が暖かく感じた。

 汚れたガラス窓から空を覗く。

 灰色の雲が覆い薄暗く、葉が落ちた枝と杉が風で揺れていた。

 

「今日はここで一泊だな。長い距離走ったし…もう休もうか?」

「いや、外で素振りして来る。俺は、じいさんの弟子だからな。恥かかせる訳にはいかない」

「分かった分かった。暗くなったら戻って来いよ?……お湯沸かして待ってるぞ」

「ありがとう」

 

 あの時、蒼の団長クラリスと出会ってから目付きがガラリと変わった。

 良いことだ。目標があって、成すべき事が有るとこは……

 

 聖剣も模して作った稽古用の剣を携え、アルベールは早々に出て行ってしまった。

 まだ聖剣での稽古はしていない。と言うか、彼の聖剣は僕が持っている。

 所持するだけで身体能力が上昇する聖剣は、今の彼には却って成長を阻害してしまう。

 

「だけど…もう時期いいだろうか?う~む」

 

 鞘から彼の剣を抜きマジマジと見つめた。

 濁った水晶の様な見た目。それが()()()()聖剣の特徴でもある。

 制限・拘束された状態の姿とでも言おうか。

 

 聖剣と魔剣は、一本一本ごとに設定された『条件』がある。

 数ある担い手の一部は、条件を判明できず生涯を終えた人間もいる。

 そもそも血(なまぐさ)い争いが心底嫌な者は、コレクターに高価で売却するそうだ。

 ただ純粋に、()()()()()()としても価値がある。

 

「しかし……『条件』が分かんないんだよな~」

 

 制限解放された聖剣との稽古を構想してみる。

 身体能力が吸血鬼(ミラ)と同等となる。……?

 彼女の再生能力は真祖由来だから…アルベールは頑丈になるだけか…?

 僕が思いっきり蹴り飛ばしても、生きてる耐久度だよな…

 

「ん~???」

 

 捕らぬ狸の皮算用とはこの事か。

 アルベールの基礎は十分に出来上がっている。

 ならば、聖剣の本領発揮に関しては、彼に任せても良いだろう。いい子だしな。

 

 リュックや靴のメンテナンスを終え、僕は湯を沸かし始めた。

 外は寒いが、汗だくになって彼は帰ってくるだろう。

 温かいスープも作ろうか。野菜とお肉をマシマシのやつを。

 

 耳を凝らすと、ブンッ…ブンッ…!と素振りの音が聞こえる。

 窓を叩く風の音に負けぬ程に力強く。

 きっと入団試験では最低ラインを優に超え、蒼の彼女に大きくアピールできるだろう。

 

「さてさて、まだ一か月あるぞ……。ガンバレガンバレ」

 

 そう呟いて聖剣を鞘に納めた。

 

 

 

 ◇◇◇◇

 

 

 

 木々の枝には新芽が芽吹き始め、もう時期に春の季節が訪れると察した。

 僕らは順調に日々を積み重ね、無事に会場であるベリタスに到着した。

 ベリタスは、古竜が住処としているアウルム山脈から程ほどに離れている為、対古竜軍事都市の一つとして栄えてきた。

 ポートゾール同様に『壁』が多く乱立されている。

 

 様々な種族、様々な宗教を持つ者どもが、古竜を殺す為に集い生活をした。

 その為この街は現在も、エルフやドワーフと言った亜人が暮らし、本来相いれない宗教が形を変え手を繋いでいる。

 宗教差別・種族差別が少ない為、この街を『第二の<オロ・ファロス>国』と呼ぶ者も居る。

 しかし光が有れば闇も有る。

 

 このベリタスを『()()()()都市』と名指しする国もある。

 その一つが人間至上主義を掲げる<サテリーゼ法国>である。

 竜王国と法国は昔から仲が悪い。騎士団が出来てからは、最早相容れぬ敵国と成った。

 

 だが、ここに住むう亜人は皆、健康で各々が個人として生きている。

 これは竜王国の王都の近郊にある所為でもあるし、竜血帝が宣言したのだ。

『この国を愛し、この国に住まう“民”ならば、騎士団は君たちを守ろう』と。

 カッコいい事を言っているが……それが原因で、現国王と仲が少し悪い。ザマァ見ろ。

 

 何故僕がここまで熱をもって解説してるのには理由がある。

 それは、多種多様な種族・宗教が生み出した『美味しい食べ物』が有るからだ!!!!

 

「よしアルベール君。入団試験にも手続きに時間が掛かるだろう?僕は……」

「じいさんは露店で時間を潰しているんだろ…。分かってるよ。じゃあまた後で合流しよう」

「おぉ、話が分かる弟子でありがたい。じゃあそう言う事で」

 

 手を軽く挙げ、アルベールは一目散に走って行ってしまった。

 よし!!まずは甘未類から制覇だ!!!!

 と思っていたが、その一言で制された。

 

「よお?相変わらずオマエは変わらんな…。俺にもその元気を少しだけ、分けて貰いたいもんだ」

 

 知った声が背中から耳に届く。

 ゆっくり振り返る。

 その姿を見て僕はため息を漏らした。

 

「オマエ同様に俺も…甲冑が本体らしい。すこし悲しいもんだ。なぁキニス?」

「ヘルマン……。何の用?僕は忙しい」

「ほー、あれがオマエの弟子か?逞しい青年だ。服の上からでも、綺麗に割れた腹筋が見える…」

 

 顎に手をやり、物色するようにヘルマンは言った。

 彼の悪い癖が出ている。昔から何一つ変わっていない…

 

「あぁそれと──」

 

 ヘルマンはゴホンと仕切り直す。

 

「蒼の団長から聞いたぞ。…オマエの工房。それを『管理』とな。どういう理由だ?」

「古竜狩りが死んで……僕の遺品や集めた文献には…価値がでてくると思う……。少しの間、各地を放浪して思いついたんだ。僕に関係した曰く付きの地は荒らされる…ってね」

 

 僕は硬貨が入った袋を取り出し歩く。

 それに続いてヘルマンも観光を装って隣に着いた。

 

「工房で……古竜を殺す研究などしていた…。ヘルマン程の能力が有れば関係無いが……他の者共は違うだろう?」

「ほぉ?うーむ……。もし俺が、俺より弱かったら、か…。そうさなぁ……あぁ、軍事利用するな。オマエの武器や防具の性能は段違いだからな」

「そうなれば僕らは再び、大量の血を拝むことになるぞ」

「そりゃあイカンな…。しかしキニス。オマエが国々の行く末を案じるとは……。大人に成ったな?」

「僕の弟子には『やってもらいたい事』がある。そんな下らない事で死なせはしないさ」

「動機が不純。やはり何一つ変わらんな……」

 

 甘い匂いに誘われて、エルフ族の菓子屋に着いた。

 羊のミルクをレモンで固めたチーズ。そこにナッツとハチミツ、カラメルで彩ったスイーツだ。

 それを二人分買い、ヘルマンと食いながら話を進めた。

 

「僕の工房は竜王国にある。所在は言わん。そこの資料やアイテムは全部持って行っていいぞ。だけど、もし見つけても…ヘルマン以外の調査は控えてくれ」

「それは何故だ?俺の騎士団がそんなにも不安か?」

「お前程度が推奨レベルなんだ。当然、知識も居る。「よく判らないケド、何かの封印を解いちゃった。てへ♡」なんて起きてもダメだからな…」

「では何故に…その工房を燃やさなかった?安全に処理できるのはオマエだけだろう?」

「それが出来たら苦労はしねぇ」

 

 僕らは次々と食い物を漁った。

 甘い物、辛い物。お肉や魚。熱い物や冷たい物。

 そうしている内に陽は傾き始めた。

 

 アルベールの受付は完了しただろうか?

 お土産を買っていこう。

 

「もうこんな時間か…。オマエの話はよ~く分かった。古き戦友であるこのヘルマンが、しかと受け持とう」

「宜しく。……これで貸し借り無しな?」

「お、俺のトラウマの負債が無くなるので有れば……易いモノよ…」

 

 こうしてヘルマンと別れた僕は、買い物を済まして宿に戻った。

 入団試験までは五日ほど猶予がある。

 アルベールには美味しいモノを食べて英気を養ってもらわなければ…!!

 

「すんません。コレ下さい」

「はいよぉ!!」

 

 そうして時間は一刻一刻と流れて行った。

 

 

 

*1
街道などに孤立する宿舎




お疲れさまでした。

次回、入団試験の内容となります!!

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今回は以上になります。
ここまで読んで頂きありがとうございます。

では、また~
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