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「じいさん。俺が火を付けとくよ」
「頼んだ。僕は旅道具の掃除でもしてるわ」
騎士入団試験まで一か月を切り始めた。
アルベールへの筋トレと体技、様々な武器での稽古は順調に進んだ。
僕らは最終目的地の『ベリタス』という街に向かっている。現在、街道宿*1の一室を借り一息付いているのだ。
最低限の設備しか無いが、安価で夜風は防いでくれる。春の気配が無い今、外での野宿はリスクしか無い。
アルベールが小さい暖炉の薪に火を灯すと、心なしか部屋が暖かく感じた。
汚れたガラス窓から空を覗く。
灰色の雲が覆い薄暗く、葉が落ちた枝と杉が風で揺れていた。
「今日はここで一泊だな。長い距離走ったし…もう休もうか?」
「いや、外で素振りして来る。俺は、じいさんの弟子だからな。恥かかせる訳にはいかない」
「分かった分かった。暗くなったら戻って来いよ?……お湯沸かして待ってるぞ」
「ありがとう」
あの時、蒼の団長クラリスと出会ってから目付きがガラリと変わった。
良いことだ。目標があって、成すべき事が有るとこは……
聖剣も模して作った稽古用の剣を携え、アルベールは早々に出て行ってしまった。
まだ聖剣での稽古はしていない。と言うか、彼の聖剣は僕が持っている。
所持するだけで身体能力が上昇する聖剣は、今の彼には却って成長を阻害してしまう。
「だけど…もう時期いいだろうか?う~む」
鞘から彼の剣を抜きマジマジと見つめた。
濁った水晶の様な見た目。それが
制限・拘束された状態の姿とでも言おうか。
聖剣と魔剣は、一本一本ごとに設定された『条件』がある。
数ある担い手の一部は、条件を判明できず生涯を終えた人間もいる。
そもそも血
ただ純粋に、
「しかし……『条件』が分かんないんだよな~」
制限解放された聖剣との稽古を構想してみる。
身体能力が
彼女の再生能力は真祖由来だから…アルベールは頑丈になるだけか…?
僕が思いっきり蹴り飛ばしても、生きてる耐久度だよな…
「ん~???」
捕らぬ狸の皮算用とはこの事か。
アルベールの基礎は十分に出来上がっている。
ならば、聖剣の本領発揮に関しては、彼に任せても良いだろう。いい子だしな。
リュックや靴のメンテナンスを終え、僕は湯を沸かし始めた。
外は寒いが、汗だくになって彼は帰ってくるだろう。
温かいスープも作ろうか。野菜とお肉をマシマシのやつを。
耳を凝らすと、ブンッ…ブンッ…!と素振りの音が聞こえる。
窓を叩く風の音に負けぬ程に力強く。
きっと入団試験では最低ラインを優に超え、蒼の彼女に大きくアピールできるだろう。
「さてさて、まだ一か月あるぞ……。ガンバレガンバレ」
そう呟いて聖剣を鞘に納めた。
◇◇◇◇
木々の枝には新芽が芽吹き始め、もう時期に春の季節が訪れると察した。
僕らは順調に日々を積み重ね、無事に会場であるベリタスに到着した。
ベリタスは、古竜が住処としているアウルム山脈から程ほどに離れている為、対古竜軍事都市の一つとして栄えてきた。
ポートゾール同様に『壁』が多く乱立されている。
様々な種族、様々な宗教を持つ者どもが、古竜を殺す為に集い生活をした。
その為この街は現在も、エルフやドワーフと言った亜人が暮らし、本来相いれない宗教が形を変え手を繋いでいる。
宗教差別・種族差別が少ない為、この街を『第二の<オロ・ファロス>国』と呼ぶ者も居る。
しかし光が有れば闇も有る。
このベリタスを『
その一つが人間至上主義を掲げる<サテリーゼ法国>である。
竜王国と法国は昔から仲が悪い。騎士団が出来てからは、最早相容れぬ敵国と成った。
だが、ここに住むう亜人は皆、健康で各々が個人として生きている。
これは竜王国の王都の近郊にある所為でもあるし、竜血帝が宣言したのだ。
『この国を愛し、この国に住まう“民”ならば、騎士団は君たちを守ろう』と。
カッコいい事を言っているが……それが原因で、現国王と仲が少し悪い。ザマァ見ろ。
何故僕がここまで熱をもって解説してるのには理由がある。
それは、多種多様な種族・宗教が生み出した『美味しい食べ物』が有るからだ!!!!
「よしアルベール君。入団試験にも手続きに時間が掛かるだろう?僕は……」
「じいさんは露店で時間を潰しているんだろ…。分かってるよ。じゃあまた後で合流しよう」
「おぉ、話が分かる弟子でありがたい。じゃあそう言う事で」
手を軽く挙げ、アルベールは一目散に走って行ってしまった。
よし!!まずは甘未類から制覇だ!!!!
と思っていたが、その一言で制された。
「よお?相変わらずオマエは変わらんな…。俺にもその元気を少しだけ、分けて貰いたいもんだ」
知った声が背中から耳に届く。
ゆっくり振り返る。
その姿を見て僕はため息を漏らした。
「オマエ同様に俺も…甲冑が本体らしい。すこし悲しいもんだ。なぁキニス?」
「ヘルマン……。何の用?僕は忙しい」
「ほー、あれがオマエの弟子か?逞しい青年だ。服の上からでも、綺麗に割れた腹筋が見える…」
顎に手をやり、物色するようにヘルマンは言った。
彼の悪い癖が出ている。昔から何一つ変わっていない…
「あぁそれと──」
ヘルマンはゴホンと仕切り直す。
「蒼の団長から聞いたぞ。…オマエの工房。それを『管理』とな。どういう理由だ?」
「古竜狩りが死んで……僕の遺品や集めた文献には…価値がでてくると思う……。少しの間、各地を放浪して思いついたんだ。僕に関係した曰く付きの地は荒らされる…ってね」
僕は硬貨が入った袋を取り出し歩く。
それに続いてヘルマンも観光を装って隣に着いた。
「工房で……古竜を殺す研究などしていた…。ヘルマン程の能力が有れば関係無いが……他の者共は違うだろう?」
「ほぉ?うーむ……。もし俺が、俺より弱かったら、か…。そうさなぁ……あぁ、軍事利用するな。オマエの武器や防具の性能は段違いだからな」
「そうなれば僕らは再び、大量の血を拝むことになるぞ」
「そりゃあイカンな…。しかしキニス。オマエが国々の行く末を案じるとは……。大人に成ったな?」
「僕の弟子には『やってもらいたい事』がある。そんな下らない事で死なせはしないさ」
「動機が不純。やはり何一つ変わらんな……」
甘い匂いに誘われて、エルフ族の菓子屋に着いた。
羊のミルクをレモンで固めたチーズ。そこにナッツとハチミツ、カラメルで彩ったスイーツだ。
それを二人分買い、ヘルマンと食いながら話を進めた。
「僕の工房は竜王国にある。所在は言わん。そこの資料やアイテムは全部持って行っていいぞ。だけど、もし見つけても…ヘルマン以外の調査は控えてくれ」
「それは何故だ?俺の騎士団がそんなにも不安か?」
「お前程度が推奨レベルなんだ。当然、知識も居る。「よく判らないケド、何かの封印を解いちゃった。てへ♡」なんて起きてもダメだからな…」
「では何故に…その工房を燃やさなかった?安全に処理できるのはオマエだけだろう?」
「それが出来たら苦労はしねぇ」
僕らは次々と食い物を漁った。
甘い物、辛い物。お肉や魚。熱い物や冷たい物。
そうしている内に陽は傾き始めた。
アルベールの受付は完了しただろうか?
お土産を買っていこう。
「もうこんな時間か…。オマエの話はよ~く分かった。古き戦友であるこのヘルマンが、しかと受け持とう」
「宜しく。……これで貸し借り無しな?」
「お、俺のトラウマの負債が無くなるので有れば……易いモノよ…」
こうしてヘルマンと別れた僕は、買い物を済まして宿に戻った。
入団試験までは五日ほど猶予がある。
アルベールには美味しいモノを食べて英気を養ってもらわなければ…!!
「すんません。コレ下さい」
「はいよぉ!!」
そうして時間は一刻一刻と流れて行った。
お疲れさまでした。
次回、入団試験の内容となります!!
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では、また~