キミの魔王になりたくて   作:赤い靴

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16話目です。
タイトルの通りです。
楽しんで読んで頂ければ嬉しいです。

誤字脱字など有りましたら連絡下さい。





第16話 痴女(聖女)

 雨が降っている。激しくは無いがこの丸二日の間、降りっぱなしだ。

 雲は黒に近い灰色で、山中というのに虫や鳥の鳴き声一つ聞こえない。

 しかも足場はグチャグチャ……

 

 雨水が染み込み重くなったフードを少し上げ、視界を広める。

 小道の脇。長草や蔓、木の葉によって隠された家を見つけた。

 いや、家と言うには身窄(みすぼ)らしい。朽ち崩れたボロ屋。それが妥当だった。

 草をかき分け、蔦を引きちぎり、立てかけてある扉を退け中に入った。

 

「おじゃまします……」

 

 頼りない、と思う程に虫によって喰い尽かされた数本の柱。

 室内は所々雨漏りをしていて、コォォオと隙間風が鳴っている。

 床はほぼ乾いているが一部腐って土と化している。

 しかしそれ以外の点に置いては、野宿場としては最高だった。

 

 リュックサックを床に置き、僕は修繕作業へと移った。

 軟弱な柱や基礎は、創造魔法で補修を施し、水・風魔法で室内を簡単に掃除した。

 穴の開いた壁や屋根も柱同様に塞ぎ、腐っている床を剥がし石を周りに置き、そこで火を焚いた。

 針金と手ごろな木材でハンガーを作り、濡れた服を火の近くで乾かし始めた。

 

「まぁ火の魔法を使えばすぐに乾くけど…こうやって、スローライフに時間を溶かすのもいいよな……」

 

 ポットに水魔法で満たし、いつもの調子で沸かし始めた。

 その間は暇なので、薪や寝床の準備を始めた。上半身裸で。

 

「あらあら?」

 

 面白いモノを見つけた。

 部屋の隅の机。その引き出しの中に本が数個あった。

 暗い為、中身は分からなかったが、表紙は読めた。

 

『人間の営み』『亜人の営み』『動物の営み』『虫の営み』『魚類の営み』『総括』

 

 合計六つの本が出てきた。

 どうやら誰かの研究をまとめた書らしい。

 

 僕は食べることが好きで、色んな種族・様々な宗教によって発展していった料理が好きなのだ。

 きっとコレを書いた人も、そう言った事情で研究し、書き示したのだろう。

 自身と通ずる影を感じ、僕は敬意を称した。

 

 今現在僕は、アイスを食べようとオロ・ファロス国に向かっている。

 しかし、生憎の雨で遠回りしている。最短ルートの山道が崩れたのだ。

 ならば、遠回りなりに、ゆっくり行くのも良いだろう。

 鼻歌交じりに焚火の前に座り、『総括』と書かれた本を一冊開いてみた。

 

『この私。シュロゼガー・カーロリゼが生涯を掛けて蓄えた知識をここに記す。この本を手に取った幸運のキミ。もし、私の見分が素晴らしいモノと判断したならば、是非、この世にこの著書を広めて欲しい』

 

 ほうほう?中々面白そうじゃないか?

 何処となく僕と似ている。今、彼は…もうこの世に居ないのだろうな……

 もし素晴らしいモノならば、竜血帝に渡して製本して貰おう。

 さてさて……次なるページは如何かな?

 

『この私は、人間の男として産まれた訳なのだが、幼きころから、虫の交尾やら動物の交尾やらを大変興味があり、挙句の果て十二歳の頃、塩の渓谷の南、そこに分布する太く丸長い、まるで巨人の×××のような木を見、母なる大地を感じ、かの古竜が住もうた地、アウルム山脈の如く、壮絶に勃起したのを今でも昨日の様に覚えている』

 

 読み飛ばしたか????

 なんか……変な単語があったが……気の所為なのか?それとも、僕の眼が腐っているからか?

 適当にページを捲り、僕は読み始めた。

 

『淫魔による××××は非常に心地良いモノであった。まず最初に舌で私の──』

 

「ただのエロ日誌じゃねぇか!!??」

 

 その後もペラペラと捲った。そのどれもが、シュロゼガーと言う男の『体験』をまとめた本であった。事細かく、しかも満足度を数値化して……

 では……残りの五冊は一体……?

 その内の一冊。『人間の営み』と手に取り、読み始める。

 

「あー」

 

 挿絵と文章が添えられた内容。種族の特徴と、性行為に関して長文で書かれている。

 最早、官能小説といっても過言では無い。

 評価できる点は、シチュエーションが豊富だったこと。何故に???

 これ以上、読むのは辞めよう……頭痛が痛い。

 

 つまる所、これ等全ては『そういう本』だ。

 なんだよ『虫』どか『魚類』って……

 守備範囲が広すぎるだろう…上級者じゃん。

 なんなら最終ページでは、無から有を生み出している……。恐ろしすぎる……

 

「……。燃やすか」

 

 そう思考変換したのも無理な話では無い。

 この呪物は燃やさなければならない。それが僕の役目だと……今、この瞬間に悟った。

 そして忘れよう。何も見なかった、そう胸を張って言えるように。

 

 パチパチと音を立てる火に向かって、本を重ね持ち上げた。

 良い薪になりそうだ。

 

 そして僕は、六冊の本を火に焼べようとした──その時だった。

 

「すみません……。外から火の明かりが見えて……私も少し雨宿りをさせて頂けませんか?」

 

 僕は光より早く、まるで思春期の少年が親により開け放たれたドアに向かって振り返る様に、声の元に首を回した。

 そこには一人の修道女が居た。服でそうだと確信したのだ。白色がベースで、黒や青色が所々に見られた。

 

 巡礼者と思ったが、彼女以外の気配は感じない。

 基本的に巡礼は、複数人かつ教団の兵士が付いている。

 盗人や山賊などから身を守る為だ。しかし、彼女にはそれらが見当たらない。

 彼女は一体……

 

「あっ!?な、なんと……破廉恥な……。私を襲っても…()()()()()()()……アッ…!?お恥ずかしい……!!」

 

 顔を赤らめ、そう言った。

 何を言っているんだコイツは……

 

 僕は一旦、本をリュックの影に隠し、彼女に弁明した。

 雨で濡れていたところ、偶然にもこのボロ屋を見つけて暖を取っている、だから上裸なんだ。

 そう言うと、彼女は室内を見渡し納得した。

 火の近く。ポタポタと水が滴り落ちる服を見て「あぁそういう事で」と呟いた。

 

 その後、彼女はもう一度言い直した。

 

「雨宿りをさせて頂けませんか?」

 

 拒む理由が見当たらない。

 僕は快く承諾した。

 そして後悔することとなった。

 

 あの本が彼女の手に渡ってしまったのだ……

 

 

 

 ◇◇◇◇

 

 

 

 冷めた紅茶を目の前に、彼女は息を荒げていた。

 

「はぁぁあ…はぁ…!!…な、なんと……破廉恥な…」

「じゃあ読むの辞めれば?」

「何故か出来ないのです……。目が、釘付けに……。あぁ…!!」

 

 そう言いながら彼女が読んでいるのは『魚類の営み』である。

 僕はオマエが恐ろしい…

 意味わかんねぇ……。なんの営みだよ……。

 鱒?鮭?ヒトデ?海蛇?もしソレならば、彼女は超越者じゃん。

 

 僕も『超越者』と呼ばれた時期があったけど……次元が違う。

 僕はオマエが分からない……

 

「なぁ…どんな内容なんだ…?」

 

 恐る恐る聞く僕に、彼女は言った。

 

「イヤですわね…貴方様のモノではないですか…。…セクハラが、お好み…なのですね…?」

「だから!!僕のじゃ!!無いって!!!!」

「…そこまで恥ずかしがらなくてもいいではないでしょうか……。……。……。人魚と…半魚人との……アレです……わ……。は、恥ずかしい…!」

 

 人魚と半魚人は、亜人の分類なのでは????

 良かった……。まだ真っ当な内容だ。

 もし、正真正銘、その辺の魚の内容だったら僕は逃亡していた。

 いや…現に脱げ出したい。

 

 早く雨よ!!止んでくれぇぇぇ!!!!!!

 

 僕の祈りは神に届く事無く、一晩中雨が降り続いた。

 

 

 

 ◇◇◇◇

 

 

 

 朝。雨が止み、服や靴は完全に乾いた。

 道の状態はやや悪いが、行けなくも無い。

 出立の時である。

 

 昨夜、彼女と話しをした。本から遠ざけると言う理由もあった。

 だが本命は『何故一人なのか』という疑問を晴らす為だ。

 そして彼女は語った。

 

 オロ・ファロス国。そこからアウルム山脈に入りたい、とのこと。

 それ以上、深くは話してくれなかったが、目的地は僕とほぼ一致していた。

 

『聖鈴』による魔法も見させて貰った。僕が言えるとこは「素晴らしい」の一言だった。

 しかもその魔法は、まだ成長の余地が見られ、僕の心を射止めた。

 

 その豊満な身体でよくここまで一人で来れた理由が分かった。

 ただ単純に、その魔法をもってして振り払ってきたのだ。

 性格に難あるが……それは目を瞑ろう。

 

 そして僕も、彼女に話したのだ。

 アルベールと同様に、技術継承の為に弟子を探している、と。

 アウルム山脈は中々手強い地帯だ。

 乗りかかった船と言う事で、僕は彼女の目的達成までの間、師匠となった。

 

「それで…私は貴方様の事を…なんとお呼びすれば…?」

 

 白色の服と長く結われた金髪が揺れる。

 その青い眼が僕を見る。

 

「なんでも良いよ」

「なんでも良くではありません!肩書…身分は重要です。しかも、()()()()()()()()オロ・ファロス国に入国するのですから」

「あー。そうだな…」

 

 アウルム山脈の入り口がある唯一の国。オロ・ファロス国は多種族国家だ。

 それ故、法国とは相性最悪。

 彼女は「法国とは宗派が違う」と言っているが、事実、一目で見切るのは難しい。…確かに、身分は重要だ。

 

「あ、ならさ…騎士で良くないか?よく巡礼関係の書物で目にするぜ?」

「書物…昨夜のぉ……ハッ!?……。いいと思います。ではその設定で参りましょう。では『騎士くん』、改めて自己紹介を……」

 

 そう言って彼女は、神に祈りを捧げるように手を組んだ。

 

「<マルレーネ・アンデ・ノイラート・クリスタラ>と言います。気安く『レーネ』とお呼び下さい。私の騎士くん」

 

 三人目の弟子が出来た。

 聖女なのか痴女なのか…良く判らない娘。

 正直言って僕は…レーネが怖い。

 

 何故僕を見て、息を荒げているんだ。

 その理由は……聞かない方が良さそうだ……

 

 

 




本当にお疲れさまでした。
いかがでしたか?

三人目は聖女様です。
彼女は聖鈴を魔法の触媒として使います。
りんりん、と鳴らします。当然ですが、他の武器も持っています。
鞭とか、木の棒どか。


~以下蛇足~

話が暗くなる予感がしましたので、このキャラクターが生まれました。
実際に書いてみて少し後悔しています。

キニスが行動する度に「はぁはぁ…なんと破廉恥な…」となるので、話が進まない(泣)。
でも書いていて楽しいので気合で端折ってます。

×××はモザイクと思って下さい。今後も登場します……

『営みシリーズ』を書いたシュロゼガー・カーロリゼは、今は珍しき生物学者です。
もう亡くなっています。死ぬ間際、地球と相対して、果て死にしました。


以上になります。

ここまで読んで頂いて有難うございます……

では、また~
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