キミの魔王になりたくて   作:赤い靴

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第19話 三人目の弟子、聖女マルレーネ

「レーネ!!あのトカゲは焼いて煮れば美味しいぞ!!後ろから飛び込むように捕獲しろ!!首元と腹を掴むんだ!」

「はい!騎士くん!!」

 

 レーネは忍び足で、一匹の灰色のトカゲの後ろに着き、ドサーと音と砂煙を上げトカゲを捕獲した。

 体長20センチ程度。しかし食べる分には十分の大きさだ。

 

「よし!!じゃあ僕が()め方と解体を教えるぞ!」

「うわぁ、美味しそうですね、この子!」

 

 ◇◇

 

「おいレーネ!!このいかにも雑草のように見える草…この長細い葉と葉脈は何でも合う香辛料だ!」

「おぉ!ではいっぱい掘りましょう!」

「あぁ、掘り方もレクチャーしてやるぞ」

 

 根茎を傷めないように周りの土と石を退け、慎重に採取する。一見、生姜のような見た目だが、その効能は非常に良い。空気中のマナ濃度が高い為、この植物は根茎に沢山の栄養と魔力を蓄える。

 ゲームで言うマジックポイント回復アイテムの素材だ。しかも美味しい。

 だが存じの通り、この地は禁足地であり危険地帯だ。故にこの素材は高く売れるだろう。しかしまぁ、今回の目的はコレでは無いので、少し残して食べてしまおう。

 

「騎士くん!!いいものが採れました!!」

「よし、少し煎じて飲んでみよう」

 

 ◇◇

 

「レーネの必殺技…祖父からの魔法だが、まだ改善点があるぞ」

「えぇっ!?どこがですか?」

 

 僕が放つ温風で髪を乾かす彼女に言う。

 

「確かに君の祖父、聖槍ガージスは素晴らしい魔法使いだろう。けれど」

「けれど?」

「上手く使えていない。ほら、あの時…。僕が食らった時があっただろう?」

「い、嫌な思い出を思い出させてくれますね騎士くんは」

「まぁ聞けって。で、あの時、聖槍を無力化させたんだけど、一本一本の強度に大きなバラつきがあったんだよ」

「バラつきですか」

 

「そうそう」と僕は返す。

 ガージスは一つの先鋭隊の長であった。部下を魔物や脅威から守る為に敢えてバラバラに、広範囲に設定しているのだろう。だがそれは甚大な魔力を消費する。つまり、地下より出づる白雷の聖槍(イズ・ラ・ソンド・マグナ)はガージスだけが、最高のパフォーマンスで使える魔法なのだ。

 アイツは魔力量が優れた男だったが、その子の子。レーネは違う。魔力量こそ劣るが、柔軟な発想と聖槍の血筋…それこそ、槍の様な中距離の戦闘とカウンター才がある娘だ。

 現に初夜、何度も押し寄せた亡霊との戦闘で、僕の助太刀こそ有るが見事に生還している。それも祖父とはまた違った強みがあるからだ。

 

「まぁ教えたい事は沢山有るが……どうだこの標高の生活は?案外、慣れてきただろう?」

「そうですね~、マナが濃い所ですから最初は『酔い』が有りましたけど……今はいい感じです!!」

 

 ペラと(ページ)を捲る音。拠点とするこの洞穴には、香り良い花の硬石鹸の匂いが充満する。

 匂いにより敵に気づかれる可能性もあるが、レーネの体調も良くなった今、戦闘は安心して出来るし、彼女のリフレッシュも兼ねて簡易なシャワーを浴びたのだ。

 本当に魔法は便利だ。水は魔力とマナが有れば湧くし、髪を乾かす温風も同様だ。きっと魔法が無ければ僕は古竜すら…いや、あの家から出る事すら出来なかっただろう。

 

「そうか。だがまぁ、万全の状態で臨みたいから、もう2日程度ここで身体を慣らそうか」

「いいですね!今日のお昼は何を食べますか?」

「そうだな…」

 

 

 

 ◇◇◇◇

 

 

 

 この山に入り1週間たった。

 最初こそ、この山の厳しさと目の当たりにしたレーネは意気消沈していたが今や『騎士くん騎士くん!!』と、肌身離さずにいる『本』を開きながら指を差す。

 どうせロクでもも無い……()()()()()()()なのだろうが、しかし、そのお陰で草むらにて動く虫や、空を駆ける鳥の名も分かる様になった。その生態であったり、植生であったり。

 まるで図鑑を片手に、大自然にて動植物を探しているような感覚だ。若いころの……それこそ、この異世界にて自我を取り戻したかのような新鮮さが押し寄せる。

 

 しかしここは禁足地であり、危険地帯だ。だから僕はレーネに「じゃあ、真面目に行こうか」と杭を刺した。

 その言葉の真意を理解している彼女は、はぐらす事無く本を仕舞い、腰に装備する魔導書と聖鈴の位置を治し、そして登山用の杖を持つ。

 準備は万全。この山の環境にも慣れた彼女は真っすぐ僕の方に向き「行きましょう!!」と元気よく言った。

 

 マルレーネの目的地。古竜の褥はここから1キロ先だ。標高が高いと言うのに温かい。それも、この地が異常である証である。

 通常の山は、標高が高い山ならば雪が降り積もり真っ白に化粧されているが、足場は依然と黒と灰の岩と石、それから地衣類がチラホラと見られた。時折地面から露出した鉱物や、結晶化した色とりどりの魔石。

 

「騎士くん……アレは何でしょうか?」

 

 レーネは指を差す。それは全長1.5メートルはある半ば半壊した人工物だ。そのあちこちに小さな魔石が形成させていた。

 

「大砲だよ。錆びて朽ちているけれど、古竜大戦の遺物だ。この先には古竜の業火で岩と共に溶かされた大砲や武器などがあるぞ」

「ではこれは、実際に使われたものなんですね」

「らしいな。けど、古竜には何のダメージも入らなかったらしいが…」

 

 当時の火薬は粗悪品でしかも品質も悪かった。とくに火薬の原料の硝石(天然の硝酸カリウム)の産地は限られていて、僻地に追いやられた人類はそれの大量生産は出来なかった。

 僕が駆け出しの頃は、よくゴブリンやオーガなどを狩ると、その遺体は回収されて錬金術師の工房に送られた。その工房では、家畜などから出た排泄物と共に管理し、硝石を取っていたそうだ。しかし魔法の発達に伴い、火薬の存在は薄くなった。

 

 硝石繋がりだが、近年では硝石を用いた保存食も増えているらしい。たまたま硝石が多く取れる土地に住む人間によって編み出された食料の保存方法は、外敵が少なくなった今、技術は様々な地域に広がった。以前、吸血鬼にミラが食べたベーコンを筆頭に、ハム、ソーセージなどなど…。

 牛歩だが確実に、僕が居た現代に向かって歩んでいる。100年先はどうなっているのだろうか?

 

 適度に休憩を挟み山を進み続ける。時折、黒く太陽光を吸収する焦げ跡が目に着く。目的地は近い。

 そして3時間かけて僕にとっては因縁の地であるソコに辿り着いた。

 

 なんど調べても年代不明、解析できぬ文字を持つ半壊の遺跡と、有り得ない方向に歪曲した石柱や巨岩。

 地面が発光しているのか、それとも太陽に近いからか…天井の星々に近いからなのか、とても明るい。

 微かに黄金の光に包まれているソコは、確かに古竜の褥であった──

 

 

 

 ◇◇◇◇

 

 

 

「おぉ!!騎士くん!!ようやく着きましたよ!!アレはなんですか!?遺跡ですかね?」

「知らん。…ここは此処に住まう生物にとっても聖域なのか近寄ってこない。まぁ……安全だから、羽を伸ばせるうちに伸ばせば良いさ」

「へぇー!じゃあ少しだけ見に行ってきます!!」

「はいはい、お気をつけて」

 

 ビューンと砂煙を立てて遺跡に走っていった。相変わらず騒がしい奴め。

 一人残った僕は周りを見渡す。その中で、今も記憶に残っている黒く焼けた壁の方に足を動かした。その近場で荷物を降ろし壁に背を預けて座り込む。

 

「懐かしい……こうやって炎に耐えていたっけ」

 

 僕が居る()()の壁は(すす)に汚れているが、積み上げたレンガの様な模様は確認できる。しかしその()()は真っ黒で、溶けたガラスが固まったかの様な模様だ。古竜の業火に焼べられた、あらゆる物が溶け混ざった黒色だ。きっとこの色の中に、数人分の人間が混ざっているだろう。

 第一次古竜狩りの記憶。へなちょこな僕が奇跡的に生還できた大戦だ。

 

 目を瞑ると昨日の様に思い出す。

 眼前で顔なじみが声すら上げないまま炭と化し、下半身が失ったというのに痛みを忘れ懸命に助けを求める友人。一時のパーティーメンバーでさえも、大きな顎でひと噛みで終わってしまった。

 だがそれでも……古竜は美しかった──

 

「騎士くん……あの遺跡は私には、良く分かりませんでした……。騎士くん、聞いてますか?」

「ん?へ?…あぁ。で、どうだったんだ?」

「やっぱり聞いてないじゃないですか!?」

 

 呆れるレーネを横目に僕は立ち上がり「でさ、ここで何をしたいの?」と聞いた。

 その一声を聞き、モゾモゾする彼女は大きなバックを背から下ろし、その奥に大事そうに仕舞われた包みを取り出した。

 それをゆっくり捲り開けると、丸く結晶製の容器があった。その後レーネは、聖鈴をカランと鳴らすと封が開いた。

 

「……」

 

 僕は言葉を飲んだ。飲み込まざるを得なかった。その中身は、灰と炭…つまるところ遺灰であった。

 誰のものかは言われなくともわかる。聖槍ガージスのものだろう。

 

「幼いころの記憶ですが祖父は、自身の灰はアウルム山脈、その頂きに撒いてくれ…とよく言ってましてね」

「そういう事か…。少しだけ借りても良いか?」

「ええ!あの古竜狩りの弟子である騎士くんならば!祖父も喜んでますよ!!」

 

 そう言ってレーネは僕の手に、それを貸してくれた。

 軽い。恐ろしい位に軽い。これがアイツの…燃え残った全てなのだろう。そして彼の想いも何となく、分かって来た。

 この場所でもう一度、コイツは死にたいのだ。未だ死に切れぬ執念。それが孫のマルレーネを駆り立てた。まったく、相変わらず罪深い男よな…

 

「どうもありがとう。これが名高い聖槍か…まったくこの山は、古竜はヒトを惑わせるな」

「そうですね。ですけど私は、祖父の残した想いを恨んではいませんよ?こうやって騎士くんと出会えましたし!!」

「そうだな。きっとあの世で聖槍も喜んでいるだろう」

「そうですかね?祖父は最期まで古竜狩り…英雄さまの事を『スカした野郎だ』といってましたから。きっと天国で騎士くんとの出会いを、爪を噛んで悔しがってますよ!」

「うえ……。そんなに嫌われていたのか…」

「多分きっと、逆張りだと思いますけどね!」

 

 逆張りかい。悲しんで損したわ。

 はぁー、と俯きため息をついた僕は、レーネに視線を上げる。そんな彼女は何か言いたげに目を動かしていた。そして──

 

「騎士くんは…本当はあの…!!古竜狩りでは無いんですか…!?」

 

 それを聞き僕は、嘘偽りなく返した。

 

「僕は彼じゃ無い。アイツは確実に死んだし、()()()()()()()()()

 

 全てをカミングアウトしたミラならば『言葉が足んない』と怒るだろうが、マルレーネには言う訳にはいかない。と言っても、嘘もつきたくない。

 こうやって僕の取っての事実を断片的に語るのが正解だと思った。

 その解に対してレーネは「そうですよね」と笑って言った。

 

「では祖父の葬送と行きましょう!!本当は墓地に遺体を安置する意味ですが、祖父にとっては此処が本当の意味の墓場でしょう!!」

 

 そう言ってマルレーネは、暖かい風が吹く黄金の光の中、遺灰をゆっくりとその風の中に溶かし始めた。

 ここ近年、人口が増えたために土葬がメインだった法国ですら火葬を取り入れている。……ガージスは法国にとっては厄介者。だが法国の創立メンバーの一人だ。そんな彼が土葬では無く火葬により灰となった。

 恐らくマルレーネの父と共に、老いぼれたガージスは法国を追われたのだろうか?それとも祖父とだけ?……これ以上、考えるのは辞めておこう…

 

 結晶の容器は空になり、マルレーネの使命は終わった。

 

「騎士くん、本当にここまでありがとうございました」

「なんだよ今更…気持ち悪いな」

「そんな照れないで下さいよ。騎士くんは私の恩人なんですから」

「君の頑張りが、ここまで実を付けたんだよ」

 

 この場所は明るいが故に時間経過が判り難い。一度ここで休憩をするか。

 空は無数の星の様なモノが輝いている。

 明日の早朝を目指し、僕らは長い長い休息に入った。

 

 

 

 ◇◇◇◇

 

 

 

「騎士くんは本当に要らないんですか?あんなにマジマジと見ていたのに」

「あぁ大丈夫だ。面白そうな内容は頭の中に入っているからな」

「では全巻、いただきますね」

 

 アウルム山脈、その麓に戻った僕たちは、オロ・ファロスの宿場にいる。あれから禁足地を守る兵に見つかりかけたが、事なきをえて現在に至る。

 葬送以降、マナ濃度の高い山頂付近にてレーネと稽古もしたので、彼女の魔法は出会った頃とは別人の様に昇華した。いつの日か食らう聖槍の技が楽しみだ。

 

「これでお別れになりますが騎士くん、また私たちは会えますかね?」

「どうだろうな?また、美味しいものを食べに各地を渡り歩くつもりだからな。その土地その土地の特産品でも漁っていれば、また会えるんじゃないかな」

「では塩の渓谷はどうでしょうか?レベルの高い地ですが、騎士くんならば朝飯前ですね。そこは塩漬けした魚やお肉で有名だそうですよ?」

「え、塩味はもう…大丈夫です。胃が死ぬ……」

 

 軽く笑いながら僕は荷物をまとめる。

 

「騎士く──、いえ…ねぇキニスさん」

「なんだ?僕はもう行くぞ」

「最後にご飯を食べに行きませんか?お腹が…ペコペコで」

 

 一つタイミングを置いて僕は言った。

 

「いいね、行く店はもう決まってるんだろう?奢るぜ?お嬢ちゃん」

 

 

 





お疲れさまでした。いかがでしたか?
誤字脱字など有りましたら連絡いただけると嬉しいです。

これにてマルレーネ編は終わりになります。
ここまで読んで頂きありがとうございます。

では、また~
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