キミの魔王になりたくて   作:赤い靴

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第20話 別れと出会い

 師匠であるキニスと別れたマルレーネことレーネは、オロ・ファロス国の王都に居た。

 当初キニスからは『その修道服の所為で危害が有るかもしれない』と杭を打っていたが、胸に輝くブローチと、正式に入国した書類があるので今まで彼女の危害は無く、今もこうやって心から安心して深紅のワインをあおっていた。

 そこに「どうしたんだい?ヤケ酒かい?」と、酒場のカウンター、少し濃いめの化粧を施した、しかし美しい40代の女性はレーネに言った。

「いや!聞いてくださいよ!!」酒によって顔が紅潮した彼女は続けて言った。

 

「私の騎士くんが…!!お師匠が!!いなくなっちゃったんですよぉ!!!!」

「なんだい?その騎士はアナタを置いて行っちまったのね?酷い奴だ」

「そうじゃないんですけどぉ…!でも、そうなんですよぉ!!」

「……。ほら、もう夜も深くなってきたから、それを飲み終えたら宿に帰るんだな。いいかい?」

「えー!!…今夜は飲み明かします!!」

 

 呆れた店主はため息を漏らし、レーネに小さく切られた3種類のチーズを渡した。「おまけだよ」

 若かれし頃、失恋を体験していた店主は、泣きながらワインを飲むレーネに同情していた。このおまけは、彼女の粋なサービスであった。

「あ”り”がどう”ござい”ま”ず…!!」と、その一つを口に放り込んだ。レーネにとって師匠キニスとの思い出の大半は、その地域の特産品や美味しい物であった。

 

『このオロ・ファロス国は酪農が盛んで、乳製品が美味しいんだ──』

 

 ふと師匠の言葉を思い出した。そしてまた泣いた。

 

「ぞういえば!騎士くんは”、アイスクリームばっか食べてまじだ…!!」

「はいはい、アイスクリームは銅貨2枚よ?」

「下さ”い”」

 

 いくらレーネに同情するから、と言ってもここは商売屋であるから、これ以上のサービスは出来なかった。だが本来、銅貨3枚の値段を銅貨2枚にしたのは内緒の話だ。

 そんな聖女が泣きわめく店内に新たな客が訪れた。キィイとドアを開け、外から一瞬だけ風が室内を駆け巡った。

 

「あぁ、いらっしゃい。好きな所に座って~」

 

 それを聞いた少女は、カウンター席。レーネと椅子を一つ開けた場所に座り、ワインを頼んだ。

「よいしょ」と座り直すと、彼女の黒いミディアムの髪が揺れた。そして鼻歌交じりに注文を待った。

 

「……ッ!?」

 

 そんな新たなる客である黒髪の少女をマジマジ見たレーネは、あることに気づき小さく驚愕した。

 ヒトでは無い──。それもノスフェラトゥ……吸血鬼であった。

 聖職者であり、かの聖槍の孫である彼女は『あるべき道を外れた者』に対し異様に鼻が利く。敵意はまるで無く、天敵である聖職者……修道服を纏った自身にすら興味を抱かないその様は、まるで百戦錬磨の(つわもの)のように感じた。

 その吸血鬼にバレないように自身に出来た死角にて魔導書を広げて、状態異常回復(キュワー)の魔法をかける。光も音も発しない、祖父から譲り受けた特別な魔導書で──

 

 人々は「魔法は万能だ」と言うが実際問題、万能な魔法は存在しない。レーネが唱えた状態異常回復(キュワー)ですら例外では無い。必ず、傷や状態異常を魔法で治すと副作用が襲う。

 今回の場合、体内に巡った酒……アルコールの除去という低レベルのものとなる。酩酊状態から覚めたレーネに、喉の渇きと言う副作用が訪れた。なのでマルレーネは──

 

「お水を頂けませんか?」

 

 と、吸血鬼に対しワインを置いた店主にそう言った。

 

「あぁ、そうね。ちょっと待っててね」

 

 そう言って彼女は奥の方、厨房の方に行ってしまった。そこからはグラスに氷を落とす音が響く。レーネは横目で少女を見つめる。

 歳は自分よりも少し下だろうか?いや、吸血鬼に外見は関係ない。ひょっとすると何百年と生きた可能性すらある。いまここで……いや……

 

「はい~お待たせ。あら、顔色が良くなっているみたいだけど…今日はもう終わりにするの?」

「あ、ありがとうございます。そうですね…少し急用を思い出しまして…」

 

 レーネはグラスを受け取ると水を飲み干した。

 そこに丁度「こっちも追加注文たのむ~」とテーブル席に座る3人のうちの一人が手を挙げた。それに返す様に「少しお待ち~」と歩んでいった。

 至近距離に人が居なくなった今、レーネは椅子を一つ横に移動し、ワインを飲む少女に小言で声掛けた。

 

「あなた、吸血鬼ですよね?…目的は?」

「えっ…!?…えっと」

 

 自らの存在を看破され戸惑う少女に、レーネは間髪入れずに続けた。

 

「私はこの外見の通り聖職者です。人々を守るのが私の役目です。あなたに敵意が無いのならば見過ごします。それで──あなたの目的は?」

「え、えっと…ご、ご飯が美味しいと…師匠に教えて貰っていて……流される様に……この国に…」

「師匠?あなたを吸血鬼にした主ですか?」

「ち、違います…。お師匠は人間?です…。それと…私を吸血鬼に変えた主は居ません」

「???」

 

 彼女は戸惑った。普通吸血鬼は、人間や亜人の首に牙を立て自身の配下…眷属にする。

 しかし、目の前の少女は『私を吸血鬼に変えた主は居ません』と言った。で、あるならば──

「真祖…?」とレーネは小さく呟いた。

 

「あ!そうですそうです!私のお師匠も言ってました~」

 

 鼻歌交じりにワイングラスを傾ける少女は、足をパタパタと動かしながら上機嫌に言った。

 

 この少女が真祖と確定した今、この店内の人々を完全に守り切る事が難しい、と判断したマルレーネは、上機嫌な彼女に合わせるように話を続けた。

 出来うる限り、戦いなくこの場を収めたいという願いの元であった。

 

「へぇ、そうなんですか。そのお師匠様は人間だと…。どう言った方なのです?」

「ええっとね。意気地なしで、ヘタレで、優柔不断で……でもカッコ良くて…!」

「ほぉ。実は私にも、そんなようなお方が短い期間ですが、師に就いてくれましてね。つい5日前に別れてしまいました」

「そうなんですか…私も同じです。半年ほど色々と教わったんですけど…何も返せていない……」

 

 もの寂しくグラスを見つめる彼女の目には、自身と同じような感情があると理解したマルレーネは「ええ。私もそうです。教わったばっかりで…」と返した。

 そして──

 

「「ん?」」

 

 その二人は同時に顎に手を当てた。何か通ずる過去に、ある一人の男の顔が浮かんだのだ。

 

「ねぇお姉さん……私はミラって言います。お姉さんの事を…なんてお呼びすれば」

「あぁごめんなさい、遅れました。私はマルレーネ……気安くレーネと呼んで下さい」

「じゃあレーネさん」

「…はい」

 

 ミラと言う名の吸血鬼は、聖女マルレーネにこういった。

 

「そのお師匠ですが……キニスという方ですか?」

 

 

 

 ◇◇◇◇

 

 

 

 共通の師を持つミラとレーネは瞬時に意気投合し、しかし、これからの会話は人目に触れたくない、と合意しこの酒場の店主に無理を言ってワインボトルを購入し会計を済ませた。

 深夜ともあり大通りの人気(ひとけ)は無く、まばらに行き交う影ばかり目立った。

 酒場を後にした二人は、そんな大通りを抜け、レーネが宿泊している宿の椅子に腰を下ろした。そしてコルクを抜き、宿に供え付いていたグラスにワインを注ぎ、長い長い夜の幕があけた。

 

「ほー、ミラちゃんは今年で16歳ですか……。なんか…色々とショックです…」

「いえいえ…レーネさんこそですよ。私より3つ上なだけですから」

「その3つが大きいのですよ?…いいなぁ、このもっちりとした頬ぉ~」

 

 レーネは両手でミラの頬をこねる様に回した。

 

「うがうわ…。レーネさん(れーへはん)酔ってるんですか(よっへるんへふは)?」

「今日だけ~、明日からは禁酒するから~」

そうですか(ほーへふは)

 

 ミラはふと過去を思い出した。

 自身もまたキニスと別れた日、レーネと同じような気分を味わった事に。

 頬をこねられるのは余り気分の良いモノでは無いが、彼女を思うとそれを抑えようとする腕が動かなかった。

 

「本当にゴメンね~、今日だけ、今日だけ…」

「うわうわうわ…」

 

 

 

 ◇◇◇◇

 

 

 

 翌日。朝食と摂ろうと二人は、流行の髪型に沿ったエルフの夫婦が経営するカフェの様な食事場に足を運んだ。

 昨夜はレーネが酔いどれ、肝心な会話が出来なかった。それと酒に酔ったレーネを介抱したミラへのお礼ともあり、少し高そうな店をマルレーネは選んだのだ。

 冷たい水と共に、色とりどりの野菜とハムが挟まれたサンドイッチが運ばれた。

 

「……。昨日はごめんなさい、ミラちゃ……ミラさん。吸血鬼だからって警戒して、そして介抱まで…」

「いえいえ、大丈夫です慣れてますから!それと呼び方は楽にお願いします。…こういう私も…()()()()()()()()()()()()()()()()…敬語ができないんですよね……」

 

 あははは、とミラはグラスを手に取った。

 それと同時にレーネは、ミラの一言の意味を受け取った。恐らく貧民街の出生だろう、と。

 

「あ、私からも質問していいですか?レーネさん」

「えぇ、答えられるものならば」

「ええっと…その…」

 

 少しモジモジした後、ミラは言った。「お師匠、キニスさんは何処に行ったか分かりますか?」

 

「確か、法国を横切って『塩の渓谷』を越えて共和国に向かう、と。……。会いに行きたいのですか?」

「いや!?ち、違いますッけど???。……。いえ、会いたいです。でも…約束したので会えないんです」

「約束?それはどんな?」

「うえっ!?…そんなところまで聞くんですか!?」

 

 いちいち大げさに反応するミラを、まるで子猫の様だなと思いマルレーネは笑みを浮かべて質問した。

 

「えっと……いつかお師匠を越えて……け、眷属……私の眷属にしたいな~、と」

「眷属に?まるでキニスさんを…あの英雄の様に高く見上げるのね?」

「英雄…?」

「ミラちゃんは知らない?ほらあの…絵本によく書かれる…かの『古竜狩り』の事。キニスさんは、その古竜狩りの隠し弟子と言ってましたよ?」

「古竜狩りの隠し弟子???……。あぁ、そういうこと…」

 

 ミラはキニスの、いつか言っていた言葉を思い出した。

 ──僕の正体は秘密にしてくれよ?

 きっとお師匠は自身の正体を隠す為に、そういう嘘をついている事を理解したミラは、マルレーネに悟られないように笑顔を作り話を進めた。

 

「そう言えばそうでしたね!お師匠との稽古によって自然と古竜狩りを重ねてました!!あははは」

「まぁそうよね。私だって騎士くん……キニスさんの事を古竜狩り本人だと思っていたけれど…あの英雄は1年ほど前に亡くなってますからね。現に竜王国には、彼を代表する防具を保存していますからね」

「ほぉ、そうなんですか。初耳です」

 

 確か師匠と別れる前の稽古は、師匠の愛用していた防具を着込んだ王国の人間とだった。あれはとても手強かった、とミラは少し苦い思い出と共にサンドイッチを口にした。

 パリっとレタスの良い音と、少しだけ辛いソースが口内に広がった。

 

「そういえばミラちゃんは、どうしてこの国に?キニスさんを追っていないのは、さっき聞いたけど」

「…。……!!…?」

「せめて飲み込んでから言いなさいよ」

「……。ふぅ~。あ、それでですね、私がこのオロ・ファロス国に来た理由ですが」

 

 グラスに入る冷水を一度飲み、慎重に、そして重々しく言った。

 

「吸血鬼狩りです」

 

 マルレーネには理解できなかった。

 眼前の少女は吸血鬼というのに、その同族を討ち果たすという理由が──

 だとしてもこんな幼い少女に……しかも同じ師を持つ身として、ミラを放っておく事は出来なかった。

 

「ねえミラちゃん、もしよろしければ私も同行出来ない?聖職者として役に立てると思うの」

「いいんですか…?私としては嬉しいんですが……」

「大丈夫よ、これでもキニスさんに色々とぉ……いやいや、戦闘や薬草の調合など教わりましたから」

「分かりました!では、背中は任せます!!なのでどうか……」

 

 死なないで下さいね──

 

 ミラはマルレーネに対し、そう言った。

 

 

 




お疲れさまでした。
誤字脱字など有りましたら連絡下さい。

今回から、ミラ&マルレーネの話が始まります。

マルレーネに関しては今回は聖女モードになります。
ミラに対し信頼や信用が出来た時に痴女モードを発動するかも知れません。

これで終わりになります。

では、また~

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