楽しんで読んで頂ければ嬉しいです。
それから一週間経った──
ミラの力量は見違えるほど変わった。
「ミラ!そっちに追い込んだぞ!あとは頼んだ!!」
「はい!!」
彼女の心地良い声が、木漏れ日を差す森の中で響いた。
血を飲み真祖の能力が増幅したのか、日中でも活動できるようになった。
ミラと比べ僕の眼は、闇の中でも景色を鮮明に見れるほど性能が良くないので、日中の行動は非常に助かっている。
まぁ見えなくとも如何にもなるのだけど……
僕らが今追っているモノは、ブロングラムと言うトカゲだ。
全長四メートルを超え、全身の白く美しい鱗が特徴的で、繊細な構造もあり高温に高い抵抗がある。
よく地位が高い騎士の装飾品としても使われる。その為、高価で売買される。
ミラは素早く高低差が有る地を駆け、その身体を霧と化した。
霧は煙幕のように揺らぎ流れ、トカゲを覆う。
その場に止まり反撃の構えをするブロングラムに、ミラは身体を実体化させ剣を振るった。
しかしトカゲはミラの一撃を強靭な爪で受け止め、素早く尾で叩きつけた。
土と木の破片が空を舞う──
常人なら即死。吸血鬼のミラですら、その一撃は重いものだ。だが……
「とう!!」
トカゲの死角から全力で放たれた鋭い突きは、堅い鱗を貫き心臓を貫いた。
素早く剣を抜き暴れるトカゲから距離を取ったミラは、僕の下に駆け寄った。
「上手くいきました!!……あの霧の中ですけど……私の完璧な分身を創れる様になりました!」
「おーよしよし。良かったな、良かったな」
砂煙を上げながら暴れ狂うトカゲは、徐々に力を失い絶命した。
よし、剝ぎ取るか。
「ミラ、解体の仕方を教えるから……一緒にやろう」
「はい!お師匠!!」
本当に良かった。この霧を使いこなすまで苦労した……
何度貫かれたか……
僕はベリベリとナイフで、硬い皮膚に切り込みを入れながら思い出した。
そうあれは、六日前の事だった──
◇◇◇◇
「吸血鬼。その強みは怪力だ。今のオマエはもう……十分引き出したと、僕は思っている」
「え!?まだ鉄の兜を割るぐらいしか……」
「十分すぎるわアホ。その辺の剣じゃあ、素振りするだけで曲がるだろうに……。そのためにワザワザ行きたくも無い城に忍び込んで、僕の剣を持って来ただろう?」
「イェイ!!お師匠の愛剣ゲットー!」
「……」
ミラは黒ずんだロングソードを空に上げ、まじまじと見つめた。
魔法で作成した練習用の剣が悉く曲げられ、折られ、欠けた。
いちいち作るのも馬鹿らしく思い、僕の剣を取り戻しプレゼントしたのだ。
一生懸命に僕が指示した稽古に励んでいる。将来を見越しての投資だ。
その黒い剣は、古竜を殺す為に僕が作成した一振り。
最初は防具と同じく白銀色だったが、古竜の業火に焼かれ黒く変色した。
その場の土や鉱石、濃厚なほど魔力が満ちた空間、自身と好敵手の血や体の一部……。様々なモノが付着し灼熱の炎で焼き付いた。
結果、僕でも再現出来ぬほど強力な一品に仕上がった。
しかしまぁ……最後はほぼ裸で戦ったんですけどね……
その焼き付いた色も、僕の異名の一部になった。
「まあいい。素の力が発揮出来た以上、次は能力を磨く。霧や虫、カラスや蝙蝠。或いは、肉体を武器に変える。……つまり、吸血鬼には自身の身体を好きなように変身できる」
「虫はイヤです」
「ワガママ言うな」
そう言って僕は、地面に手を刺し魔力を注ぐ。
その後、モゾモゾと地面から十体のゴーレムが湧いて出る。
「ミラが本気で切れば壊れる強度にしてある……。その身体を霧にして見事に壊してみろ」
「えぇ、そんなのやった事ないですよ!」
「奇遇だな。僕も教えたこと無いし、やった事ない。……だけどミラは僕の一番弟子、しかも真祖と来たもんだ。……出来るさ」
ポンと彼女の小さな背中を押す。
「……!!や、やってみます!!」
「ガンバレ」
ゴーレムの中心辺りまで歩いたミラは、目を瞑り剣を握る。
すると少女の輪郭が薄くなり、辺りに薄ら白い霧が立ち込めた。
凄いな…やれば出来る娘じゃないか。
「よし!次は攻撃だ!狙った獲物の死角に意識を集めて実体化しろ!」
と、我が物顔で僕は言う。
だってしょうが無いだろ?そんな真似できないんだから……。
その数秒後「やっあ!!」と声を出し、ミラは標的を貫いた。
「どうですか!おし……しょう……」
ミラは自身の行いを理解し、青ざめた。
無理も無い。その放った剣は、僕の背中から刺さり、右肺辺りで突き出ていた。
軽々と僕の骨も断つとは。吸血鬼はフィジカルが凄いな……再認識したぞ。
ミラは、ドスっとその場で尻もちした。
「良い、ゲフッ……一撃だった……。なんなら…その場で…グッフッ……。断ちぎっでも、いい”…ぞ…」
逆流する血によって声が阻まれる。聞き取れたのか?
僕は身体を貫通する剣を、無理やり引っこ抜く。ブチブチと音を鳴らしながら。
「はーあ、息が楽になった。で、ミラ…この様に往生際が悪い者も偶に居るから……気ぃ付けな?」
「お、お師匠は……無事……なのですか…?」
「こんな程度じゃまず死なん。……というか、死に方が判らん」
「そうなんですか……」
血が付いた剣を、服で拭いミラに手渡す。
「さぁさぁ!今日の稽古は始まったばかりだ!!こんなしょうも無いことでめげんな。ほらやるぞ!!」
◇◇◇◇
「お師匠!!この鱗……ホントに綺麗ですね!!幾らで売れるんですか!?」
「ん~……大銀貨三枚分?そんなもんじゃない?」
「わお…大金……」
私より高い。そうミラは小さく呟いた。
ジョークのつもりか、本当に不意に出た言葉なのか。
「これであの家の借金ですが、返せそうですか?」
「十分足りるよ。早く払わないと、あの婆さんに怒られるしな……」
助かった、と心から思った。
どうやら本当に、無意識な呟きだったようだ。
「では早く行きましょう!!夜になったらお店が閉まってしまいます!!」
「そうだな……あ、そっち引っ張って。そう……ゆっくりね……」
「あッ!!千切れちゃいました……」
「???なんて???」
その後、街に出かけ売却した。
勿論、正規の商売屋ではない。足が付くのを恐れたからだ。
その金で、あのボロ家の借金を返済し、ついでに簡単な家具も買った。
ミラには、まだ教えたいことがタンマリある。
当初の計画では半年を見ていたが、一年に延びてもいいだろう。
それだけ伸びしろが有る。
それだけ期待している。
「あ、師匠!!お酒…ワインを買って帰りましょう!!飲んでみたいです!!」
「まだお金に余裕があるとは言え……まぁいいか」
今夜は久しぶりに酒を飲んだ。
ミラは僕の血を混ぜた、高級カクテルと銘打って美味しそうに飲んでいた。
ホントに、赤色が似合う様になって来た……
いかがでしたか?
誤字脱字など有りましたら連絡頂けるとうれしいです。
では、また~