キミの魔王になりたくて   作:赤い靴

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6話目です。

誤字脱字など有りましたら報告頂けると嬉しいです!


第6話 我が家

 ミラを弟子にとってから半年が過ぎた。

 

 その間、国々の動きは緩やかで、僕が居なくなった王国も随分頑張っているようだ。

 しかし戦線は徐々に押されており、騎士長の蒸発も相まって劣勢だそうだ。

 

 だが今は安息期。

 穀物の収穫の時期、国家間の戦いは原則禁止となっている。

 それは長い年月、古竜により飢餓を味わった人間種の苦い歴史によるものだ。

 

 安息期を経て王国も力を取り戻すだろう。

 今回の場合、安息期までに滅ぼせなかった敵国が気の毒に思う……が、まぁどうでもいいや。

 

「お師匠!!このお肉!美味しいです!!」

 

 と、ウィンナーを頬ぼるミラは僕に言う。

 

「そうかそうか……」

 

 吸血鬼の威厳はどこに行ったんだ?

 しかし…ミラは元人間だ。その辺、純粋な吸血鬼とは訳が違うのか。

 

「お!お嬢ちゃん、良い食べっぷりだね!!ほら、コレもお食べ」

 

 カウンター席の向こう側。髭姿の男が、ベーコンが乗った皿をミラに差し出した。

 

「うわ…いただきます!……!おいしい!!」

「だろだろ?最近、家畜用の飼料が開発されてな。より旨い肉を提供できる様になったんだ!!」

 

 男は豪快に笑うと、僕に手を差し出した。

 

「旦那ァ!銀貨一枚!!」

「はぁぁああ!!!高すぎだろ!!??」

 

 銀貨一枚は、兵士が一日稼ぐ給与だ。

 暴利すぎる…!こんなベーコン一枚でか!?

 

「最近旦那は羽振りが良いと噂でな。商品開発にも『声』が欲しいんでな」

 

 頼むよ!!と男に懇願される。

 ミラの方に首を動かした。……全部食べてやがります。僕の分は?

 

「…仕方ない……。ほらよ」

 

 巾着袋から銀貨を取り出しカウンターに乗せる。

 それを受け取った男は「まいど!!」と言い、裏手に消えていった。

 

「……。ミラ、もう出ようか」

「今日は複数戦の稽古ですか?」

「あー。うん、そうしよう」

 

 酒場の扉を開き外に出た。

 空は赤く染まり、東の空は暗くなってきた。

 夕時。少し冷たい風が吹く。

 僕らは歩いて家に向かった。

 

 いつもの様に稽古の準備をし、真っ暗な山の中に入る。

 そして僕は、剣を抜いた。

 

 

 

 ◇◇◇◇

 

 

 

 最近の愛弟子は一日中活動できるようになり、日中は金稼ぎ。夜間は稽古と、かなりハードな生活になっている。

 これはミラが言い出したスケジュールで、もう寝なくても良くなったらしい。

 それと、吸血の回数も減った。「舌が肥えるから我慢」と言っていた。

 寂しさを若干感じつつ、今日も稽古に精を出す。

 

 ザンッ!とミラが振るう剣により、次々にゴーレムが倒される。

 古竜とまではいかないが、その辺のドラゴンの一撃を確実に耐える程に耐久を高めたゴーレムを……だ。

 その身体を霧を化し、まるで瞬間移動しているかのように、背後から剣を振るっている。

 

 初見のクセに弱点を見切っている。次は機動力に特化した人形をだすか……。

 

「次行くぞ」

「……はい!!」

 

 僕は地面に手を置く。

 ミラの稽古なので、創造物の性能をセーブしなければならない。

 故に呪文は唱えられない。あえて質を落とす為に、無詠唱でやってきた。

 

 ……。本音を言うと舌を噛むから。

 ……カッコよくないし、ダサい……。あと殴った方が強いし早いし……ね……

 

 ゴボゴボと重たい音を出し、地面から三体のゴーレムが湧いて出た。

 先程の耐久型は、厚い装甲に包まれていたが、今回は違う。

 

 ゴーレムの弱点であるコアをむき出しで、武器もマチェットと軽装だ。

 しかし、猫の様な立派な脚とトカゲの様な尻尾が特徴だ。

 胴体、頭部は虫をイメージしており、最低限の耐久と重量を追求した。

 我ながら気持ち悪い、キメラのようなデザインだが……案外戦いに役に立ったのだ。

 

 このゴーレムにも思い入れが有り、それは古竜の炎に焼かれた若き時に遡る。

 壊死した脚を切り落とした僕は、食事に困っていた。

 

 当時はまだ魔法は未知の領域だったので、木に止まる小鳥や、猪や狸などは獲れなかった。

 その時に食いつないで居たのが昆虫──

 

「お師匠!!」

 

 ミラの一声で我に返った。

 ふと、彼女の方に顔を上げた。

 

「うお」

 

 声が出た。

 三体のゴーレムは無残に転がっており、ミラは傷一つ無く手を振っていた。

 

「見てましたか?私、分身して…トウトウ!トオ!!と」

 

 剣を振り自慢気に言う。

 

「もう何も言う事が無いよ。上出来だ」

「そう…ですか」

 

 ミラには、沢山の弟子を取るために各地を転々とする事を伝えている。

 勿論、別れのことも。

 

「な……なんだか寂しいですね。強くなればなるほど……お別れが早く……」

「まあ、そんな悲しそうな顔すんなさ。まだ教えたいことが山ほどあるからな。残りの半年、ゆっくりやろう」

「そうですね……師匠」

 

 鞘に入れた黒い剣を抱きしめるミラの頭をポンポンと手を置く。

 もう夜も明け始めた。

 

 ミラの食事を簡単に済ませ、僕らは帰路に着く。

 空には赤や青、白に輝く幾数をも星が輝いていた。

 

 

 

 ◇◇◇◇

 

 

 

 暗く冷たい石室に蠟燭の火がユラユラ揺れる。

 一人の老夫が座る椅子の下には、彼のものでは無い血だまりが出来ていた。

 

「いい加減、認めたらどうです?……『ワタシは脱税し、しかも敵国に金を横流しした』と。それと……贋金」

 

 その老夫は壮年期で商売が成功した、遅咲きの男であった。

 王国の都市に移り住む前は、山の麓にあるボロく小さな家で妻と暮らしていた。

 

 当時男は、真鍮を用いて装飾品を細々と作って暮らしていた。

 彼に転機が訪れたのが、三十を越えた時であった。

 とある商人から贋金の作成を誘われたのである。

 男の繊細な手仕事と、金属の豊富な知識が買われたのである。

 

 彼の贋作は非常に精工で見抜けぬ者は居なかった。

 贋作による大量の資金により商売を興し、成功した。

 その後、男に耳打ちした商売人を闇に葬った。

 

 彼の人生は最後まで薔薇色が保証されていたはずだった。

 

「だが、ワタシがアナタを嗅ぎつけた」

 

 王国の資金調整と拷問を受け持つ<ベター>は、老夫の髪を引っぱり顔を上げさせた。

 

「敵国の取引相手は?精工な贋金の作成方法は?……是非、教えて頂きたい」

 

 ニヤリと口角を上げたベターは、血に汚れた小柄のナイフを取り上げた。

 そしてソレを、老人の頬に当て続ける。

 

「毎日、良い食事をしている。……ほら、肌の張りがワタシとは違う。戦火で焼けたワタシとは大違いだ……」

「やめてくれ……」

「今は亡き英雄殿……。古竜狩りの顔も拝見しましたが……ワタシよりも(みにく)いと言うのに、ワタシよりも高貴な魂をお持ちでした……」

「やめてくれ!!」

 

 息を荒げ老人は大きく身体を揺さぶった。

 ガチャガチャと拘束具が鳴る。その度、鼻水と汗と涙が顔から滴り落ちた。

 

「貴方も……彼女の様にはなりたく無いでしょ?ほら、言ってしまえば良いのですよ?」

 

 ベターは蝋燭台を高く持ち上げ、部屋の隅を照らす。

 そこには、顔の皮膚を剝がされた小柄の死体があった。

 手錠で固定されている腕は、骨が見える程に削がれており、その遺体の隣。そこには防腐処理を施した頭部が、マネキンの様に鎮座していた。

 白く長い髪は結われ、古めかしい髪飾りをしている。

 

「……あぁ!!……いざ、べ……ら……」

「貴方もワタシのコレクションに入れたいですが……王国の未来の為に我慢しています。さて、ご老人……」

 

 ベターは老人の背中を摩り、耳元で囁いた。

 

「すべて……洗いざらい話して頂きますよ?」

 

 

 

 ◇◇◇◇

 

 

 

「結構です、有難うございました。……贋金の作成方法、とても興味深かったです」

「では、ベター様。調書の作成できましたので、我々はこれで」

「はい。お疲れさまでした」

 

 拷問室から二人の兵が出て行った。

 部屋に残るは二人と死体は一体。

 

「まだ……俺には……良い情報が……ある、ぞ」

「はい?」

 

 項垂れる老人にベターは振り向く。

 

「その情報で……俺を…自由にして、くれないか……」

「内容によって…ですが……。王国に泥を塗ったアナタを解放に至るまでの情報……。一応、聞きましょう。どうぞ……」

「古竜狩り……その剣を……振るう人間がッ…

「どこです!!!英雄の死の混乱に紛れ!宝剣を盗んだ愚か者がッ!!!」

 

 ベターは老人の襟を掴み揺さぶった。

 

「長く生きとると…珍しい事も、ある……。…一度、古竜狩りを、馬車で送った事が、ある……。だから、彼の……黒い剣は目に、焼き付いている…!」

「ですから!何処です!!場所を!!」

「俺を…逃がしてくれると…約束しろ……!!」

「ええ分かりました。約束致します」

 

 力強く握る手の力を抜き、老人を宥める様に肩に手を置くベターは、優しく言った。

 

「…………。俺と、妻が…昔暮らしていた家……。王都南部の山の麓……。灰色の髪の……青年……」

「……。情報ありがとうございました」

 

 ベターは足早に拷問室から出ると、側近に事の経緯を話した。

 斥候を送りその後、兵を編成し盗人から宝剣を取り戻す……と。

 

「ベター様……。あの老人は…?贋金作りは重罪で……」

「老婆の遺体と共に燃やしておけ」

「はい。承知しました」

「それと…協会の者も呼んでおけ。暴利だが…仕事はする。……そうだ、贋金の試しといこうでは無いか」

「しかしベター様……。贋金は……」

「敵国の硬貨で作れば良い。今は安息期。戦争が出来ない以上、これ以上に敵国を蝕む手段は無いぞ?」

 

 螺旋状の石階段を上りつつ、今後の方針を語る。

 石壁の窓から朝日が差し込んだ。

 

 ベターは手をかざし、光を遮った。

 

「もう朝なのですね……。良い空だ」

 

 雲一つない澄んだ空を見て呟いた。

 その美しい空はまるで、神が彼を祝福しているようだった。

 

 

 




お疲れさまでした。
いかがでしょうか?

ミラ編の終わりも近くなってきました。
これからも読んで頂ければ嬉しいです。

以下蛇足

またキニスLOVE勢が出てきました。
その経緯を少し……。

何度も書いて申し訳ないのですが、古竜が居た時代、人間は満足して暮らせませんでした。食事も同様です。
ですので、今現在の食事の価値観は『食事を残す・無駄にする=ぶん殴る』という教育が多いです。
騎士長やベターは親から、『古竜狩りのお陰で満足に暮らせている』と日々、洗脳をするかのように聞きながら成長しました。
ですので、キニスを狂った様に信仰(?)しているのです。

今回ベターの場合『顔面に火傷跡がある』という共通点により、さらに熱狂的な人物になりました。

以上です。

ここまで読んで頂き有難うございます。

では、また~
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