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ミラを弟子にとってから半年が過ぎた。
その間、国々の動きは緩やかで、僕が居なくなった王国も随分頑張っているようだ。
しかし戦線は徐々に押されており、騎士長の蒸発も相まって劣勢だそうだ。
だが今は安息期。
穀物の収穫の時期、国家間の戦いは原則禁止となっている。
それは長い年月、古竜により飢餓を味わった人間種の苦い歴史によるものだ。
安息期を経て王国も力を取り戻すだろう。
今回の場合、安息期までに滅ぼせなかった敵国が気の毒に思う……が、まぁどうでもいいや。
「お師匠!!このお肉!美味しいです!!」
と、ウィンナーを頬ぼるミラは僕に言う。
「そうかそうか……」
吸血鬼の威厳はどこに行ったんだ?
しかし…ミラは元人間だ。その辺、純粋な吸血鬼とは訳が違うのか。
「お!お嬢ちゃん、良い食べっぷりだね!!ほら、コレもお食べ」
カウンター席の向こう側。髭姿の男が、ベーコンが乗った皿をミラに差し出した。
「うわ…いただきます!……!おいしい!!」
「だろだろ?最近、家畜用の飼料が開発されてな。より旨い肉を提供できる様になったんだ!!」
男は豪快に笑うと、僕に手を差し出した。
「旦那ァ!銀貨一枚!!」
「はぁぁああ!!!高すぎだろ!!??」
銀貨一枚は、兵士が一日稼ぐ給与だ。
暴利すぎる…!こんなベーコン一枚でか!?
「最近旦那は羽振りが良いと噂でな。商品開発にも『声』が欲しいんでな」
頼むよ!!と男に懇願される。
ミラの方に首を動かした。……全部食べてやがります。僕の分は?
「…仕方ない……。ほらよ」
巾着袋から銀貨を取り出しカウンターに乗せる。
それを受け取った男は「まいど!!」と言い、裏手に消えていった。
「……。ミラ、もう出ようか」
「今日は複数戦の稽古ですか?」
「あー。うん、そうしよう」
酒場の扉を開き外に出た。
空は赤く染まり、東の空は暗くなってきた。
夕時。少し冷たい風が吹く。
僕らは歩いて家に向かった。
いつもの様に稽古の準備をし、真っ暗な山の中に入る。
そして僕は、剣を抜いた。
◇◇◇◇
最近の愛弟子は一日中活動できるようになり、日中は金稼ぎ。夜間は稽古と、かなりハードな生活になっている。
これはミラが言い出したスケジュールで、もう寝なくても良くなったらしい。
それと、吸血の回数も減った。「舌が肥えるから我慢」と言っていた。
寂しさを若干感じつつ、今日も稽古に精を出す。
ザンッ!とミラが振るう剣により、次々にゴーレムが倒される。
古竜とまではいかないが、その辺のドラゴンの一撃を確実に耐える程に耐久を高めたゴーレムを……だ。
その身体を霧を化し、まるで瞬間移動しているかのように、背後から剣を振るっている。
初見のクセに弱点を見切っている。次は機動力に特化した人形をだすか……。
「次行くぞ」
「……はい!!」
僕は地面に手を置く。
ミラの稽古なので、創造物の性能をセーブしなければならない。
故に呪文は唱えられない。あえて質を落とす為に、無詠唱でやってきた。
……。本音を言うと舌を噛むから。
……カッコよくないし、ダサい……。あと殴った方が強いし早いし……ね……
ゴボゴボと重たい音を出し、地面から三体のゴーレムが湧いて出た。
先程の耐久型は、厚い装甲に包まれていたが、今回は違う。
ゴーレムの弱点であるコアをむき出しで、武器もマチェットと軽装だ。
しかし、猫の様な立派な脚とトカゲの様な尻尾が特徴だ。
胴体、頭部は虫をイメージしており、最低限の耐久と重量を追求した。
我ながら気持ち悪い、キメラのようなデザインだが……案外戦いに役に立ったのだ。
このゴーレムにも思い入れが有り、それは古竜の炎に焼かれた若き時に遡る。
壊死した脚を切り落とした僕は、食事に困っていた。
当時はまだ魔法は未知の領域だったので、木に止まる小鳥や、猪や狸などは獲れなかった。
その時に食いつないで居たのが昆虫──
「お師匠!!」
ミラの一声で我に返った。
ふと、彼女の方に顔を上げた。
「うお」
声が出た。
三体のゴーレムは無残に転がっており、ミラは傷一つ無く手を振っていた。
「見てましたか?私、分身して…トウトウ!トオ!!と」
剣を振り自慢気に言う。
「もう何も言う事が無いよ。上出来だ」
「そう…ですか」
ミラには、沢山の弟子を取るために各地を転々とする事を伝えている。
勿論、別れのことも。
「な……なんだか寂しいですね。強くなればなるほど……お別れが早く……」
「まあ、そんな悲しそうな顔すんなさ。まだ教えたいことが山ほどあるからな。残りの半年、ゆっくりやろう」
「そうですね……師匠」
鞘に入れた黒い剣を抱きしめるミラの頭をポンポンと手を置く。
もう夜も明け始めた。
ミラの食事を簡単に済ませ、僕らは帰路に着く。
空には赤や青、白に輝く幾数をも星が輝いていた。
◇◇◇◇
暗く冷たい石室に蠟燭の火がユラユラ揺れる。
一人の老夫が座る椅子の下には、彼のものでは無い血だまりが出来ていた。
「いい加減、認めたらどうです?……『ワタシは脱税し、しかも敵国に金を横流しした』と。それと……贋金」
その老夫は壮年期で商売が成功した、遅咲きの男であった。
王国の都市に移り住む前は、山の麓にあるボロく小さな家で妻と暮らしていた。
当時男は、真鍮を用いて装飾品を細々と作って暮らしていた。
彼に転機が訪れたのが、三十を越えた時であった。
とある商人から贋金の作成を誘われたのである。
男の繊細な手仕事と、金属の豊富な知識が買われたのである。
彼の贋作は非常に精工で見抜けぬ者は居なかった。
贋作による大量の資金により商売を興し、成功した。
その後、男に耳打ちした商売人を闇に葬った。
彼の人生は最後まで薔薇色が保証されていたはずだった。
「だが、ワタシがアナタを嗅ぎつけた」
王国の資金調整と拷問を受け持つ<ベター>は、老夫の髪を引っぱり顔を上げさせた。
「敵国の取引相手は?精工な贋金の作成方法は?……是非、教えて頂きたい」
ニヤリと口角を上げたベターは、血に汚れた小柄のナイフを取り上げた。
そしてソレを、老人の頬に当て続ける。
「毎日、良い食事をしている。……ほら、肌の張りがワタシとは違う。戦火で焼けたワタシとは大違いだ……」
「やめてくれ……」
「今は亡き英雄殿……。古竜狩りの顔も拝見しましたが……ワタシよりも
「やめてくれ!!」
息を荒げ老人は大きく身体を揺さぶった。
ガチャガチャと拘束具が鳴る。その度、鼻水と汗と涙が顔から滴り落ちた。
「貴方も……彼女の様にはなりたく無いでしょ?ほら、言ってしまえば良いのですよ?」
ベターは蝋燭台を高く持ち上げ、部屋の隅を照らす。
そこには、顔の皮膚を剝がされた小柄の死体があった。
手錠で固定されている腕は、骨が見える程に削がれており、その遺体の隣。そこには防腐処理を施した頭部が、マネキンの様に鎮座していた。
白く長い髪は結われ、古めかしい髪飾りをしている。
「……あぁ!!……いざ、べ……ら……」
「貴方もワタシのコレクションに入れたいですが……王国の未来の為に我慢しています。さて、ご老人……」
ベターは老人の背中を摩り、耳元で囁いた。
「すべて……洗いざらい話して頂きますよ?」
◇◇◇◇
「結構です、有難うございました。……贋金の作成方法、とても興味深かったです」
「では、ベター様。調書の作成できましたので、我々はこれで」
「はい。お疲れさまでした」
拷問室から二人の兵が出て行った。
部屋に残るは二人と死体は一体。
「まだ……俺には……良い情報が……ある、ぞ」
「はい?」
項垂れる老人にベターは振り向く。
「その情報で……俺を…自由にして、くれないか……」
「内容によって…ですが……。王国に泥を塗ったアナタを解放に至るまでの情報……。一応、聞きましょう。どうぞ……」
「古竜狩り……その剣を……振るう人間がッ…
「どこです!!!英雄の死の混乱に紛れ!宝剣を盗んだ愚か者がッ!!!」
ベターは老人の襟を掴み揺さぶった。
「長く生きとると…珍しい事も、ある……。…一度、古竜狩りを、馬車で送った事が、ある……。だから、彼の……黒い剣は目に、焼き付いている…!」
「ですから!何処です!!場所を!!」
「俺を…逃がしてくれると…約束しろ……!!」
「ええ分かりました。約束致します」
力強く握る手の力を抜き、老人を宥める様に肩に手を置くベターは、優しく言った。
「…………。俺と、妻が…昔暮らしていた家……。王都南部の山の麓……。灰色の髪の……青年……」
「……。情報ありがとうございました」
ベターは足早に拷問室から出ると、側近に事の経緯を話した。
斥候を送りその後、兵を編成し盗人から宝剣を取り戻す……と。
「ベター様……。あの老人は…?贋金作りは重罪で……」
「老婆の遺体と共に燃やしておけ」
「はい。承知しました」
「それと…協会の者も呼んでおけ。暴利だが…仕事はする。……そうだ、贋金の試しといこうでは無いか」
「しかしベター様……。贋金は……」
「敵国の硬貨で作れば良い。今は安息期。戦争が出来ない以上、これ以上に敵国を蝕む手段は無いぞ?」
螺旋状の石階段を上りつつ、今後の方針を語る。
石壁の窓から朝日が差し込んだ。
ベターは手をかざし、光を遮った。
「もう朝なのですね……。良い空だ」
雲一つない澄んだ空を見て呟いた。
その美しい空はまるで、神が彼を祝福しているようだった。
お疲れさまでした。
いかがでしょうか?
ミラ編の終わりも近くなってきました。
これからも読んで頂ければ嬉しいです。
以下蛇足
またキニスLOVE勢が出てきました。
その経緯を少し……。
何度も書いて申し訳ないのですが、古竜が居た時代、人間は満足して暮らせませんでした。食事も同様です。
ですので、今現在の食事の価値観は『食事を残す・無駄にする=ぶん殴る』という教育が多いです。
騎士長やベターは親から、『古竜狩りのお陰で満足に暮らせている』と日々、洗脳をするかのように聞きながら成長しました。
ですので、キニスを狂った様に信仰(?)しているのです。
今回ベターの場合『顔面に火傷跡がある』という共通点により、さらに熱狂的な人物になりました。
以上です。
ここまで読んで頂き有難うございます。
では、また~