キミの魔王になりたくて   作:赤い靴

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9話目です。
楽しんで読んで頂ければ嬉しいです!!
誤字脱字など有りましたら連絡頂きたいです。

※※※本文修正のお知らせ※※※。
6話。会話に出て来る貨幣を修正しました。
『小銀貨』→『銀貨』へ。
普通に打ち間違えていました。びっくりしました。
銀貨1枚が兵士1日の給与になります。
小銀貨は銀貨の『1/4の価値』となります。
失礼しました……。


第9話 一人目の弟子、吸血鬼ミラ

 五つの死体の前で僕は、目の前に広がる霧をただ見ていた。

 一度手助けをしたが、もう大丈夫だろう。ミラは強いからな。

 

「しかし……だ」

 

 ベターが僕の鎧を着れている事には驚いた。

 アレは僕専用に設計されたものだ。それ故、僕以外の者にとっては『呪われた防具』のハズである。

 身体能力、魔法や毒などの耐性こそ飛躍的に上昇するが、()()()()()()()()()()()()

 

 その昔、狼の分際で古竜に戦いを挑むイカれた生物が居た。

 餓狼と言う全身が銀色の美しい狼だった。その狼は魔力切れを起こすと『自分の身体を喰い、膨大な魔力を生成した』。

 その素材を万遍無く使用したのがあの鎧だ。

 

 ベターは僕の様に無尽蔵に魔力を生成できない。

 つまり、彼は足りない魔力を補う為に、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 それは尋常ではない程の痛みを負うはずだ。

 

 だが、投げナイフを命中させた時に合点がいった。

 拷問中に彼から薬草の香りが漂っていた。拷問に使うからだろう、と思っていたが違っていた。

 ベターは自身に麻薬を使っていたのだ。痛みを緩和する麻薬を。

 

「そこまでして、国を守りたいなど……僕には判らんな」

 

 彼の事情を知ったところで、今更鞍を変える程この国に執着は無い。

 形あるモノはいつかは崩れ落ちる。

 当然……この僕も。

 

 今なお、霧の中では執念がぶつかり合う音が聞こえる。何人たりとも、その邪魔を冒してはならない。

 眼を閉じ、その音を聞きながら僕は妄想した。

 いつか殺し合う愛弟子達との戦いを。

 

 

 ◇◇◇◇

 

 

 

 もう三十分は経っただろう。

 ミラのは斬撃を何度も与えるが、幾度となく阻まれてしまう。

 だが、最初の頃の堂々としたベターの姿は無く、五、六撃の(のち)、柄頭を地に立て、肩で息をしていた。

 

 今が最大のチャンスと捉えたミラは、師匠キニスを唸らせた業に移った。

 霧の中、ベターに狙いを定め自慢の怪力を以て地面を抉り迫る。

 身体全身を捻り、解き放ったバネの様に一撃を放つ。

 

 その振りに合わせ、ベターは斧槍で弾き返す。

 ミラの勢いは減速せず、そのまま濃霧と化し消えていった。

 

「ッ!?……二体目ですか!?」

 

 再び後方に実体化した吸血鬼は、先程と同じようにベターに駆けた。

 

「幾ら……振り方を変えたところで……ワタシには当たりませんよ……!!」

 

 それを七、八と繰り返す。しかし、ベターには一回も当てられずにいた。

 

「……。ワタシの体力を削る作戦……ですか。その様子では……分身は作れないようですね……。だから実体化と無形化を繰り返し、あたかも複数人いると錯覚させようとしている……違いますか?」

 

 ミラの太刀筋に慣れてきたベターは、ミラの攻撃の末に頬を浅く斬り付けた。

 その後の攻撃も、頬の傷を視認したベターは軽く笑った。

 彼の考えは的中したと言ってよい。

 だが、()()()()()()()()()()()()()()()()話は別となる。

 

 彼女が勝負を決めに行ったのは、十六回目であった。

 その勢いから放たれるは、ベターの首を狙った突き技であった。

 

「…!愚かな……」

 

 剣と斧槍のリーチの勝負では、斧槍が優位だ。

 しかも『突き』の技比べともなると、誰もが後者を指さすだろう。

 

 当然、ベターは斧槍を構え直し、ミラの首を狙い最速の突きを放った。

 

 カツンッッ──!!

 

 彼の放った刃先は狙いを外した。その一刀はただ、吸血鬼の右腕と右脚を切り落とすだけとなった。

 ベターの死角。ミラの分身が彼の斧槍の軌道を大きく変えたのだ。

 仕事を終えた分身は、そのまま消滅した。

 

「ッ──!?」

 

 英雄の黒剣は、鎧の隙間を貫きベターの首に突き刺さる。

 動脈を切断する程に、彼女の剣は深く切り付けた。

 ベターの背後まで駆け抜けたミラは、足一本で着地できるハズも無く、地面に伏した。

 

 霧は晴れ、その場で立ちすくむ鎧。その首からは大量の血が流れていた。

 

「まだ……で、……。まだ、ワタシは!!!」

「お前の負けだ!ベター!!」

 

 彼は徐々に暗くなる視界を、声の元に移す。

 そこには、死して初めて見れた、顔を焼かれた英雄が居た。

 

「あぁアナタ……ワタシは最期まで…………」

 

 そう微かに呟き、拷問官は倒れ込んだ。

 ベターは口角を上げ、英雄との日々を思い出す。

 

『私と同じ顔だな──』

 

 かつて古竜狩りがベターに送った唯一の言葉。何度もその言葉に励まされ、現在の地位を獲得した。

 彼は、その甘い思い出に微睡んだ。

 そしてもう二度と、起き上がることは無かった。

 

 

 

 ◇◇◇◇

 

 

 

 勝負が終わり、僕は歩を進めた。

 血まみれの鎧。その兜を触れ踵を返す。

 その後、ミラの下に行くのだけど……。

 

「ハァハァ…ッ!!ッッ………!」

 

 斧槍によって切断させた右側の腕と脚が、彼女に苦痛を与えていた。

 

「あの武器は……僕が対古竜戦の為に仕上げた武器なんだ…。一時の間、治癒能力を阻害する…」

 

 ミラは最後まで武器を警戒していた。

 その警戒が無ければ、序盤で勝負が喫していた。

 僕は屈み、荒いが手当をする。その後、ミラの上体を起こした。

 

「お師匠…やりましたよ…!師匠の真似が…成功しました……!!」

「見てたよ。そこまでのミスリードも最高だった」

「うへへへ……。褒められるのは……嬉しいものですね」

 

 二コリと笑ってミラは言った。

 

「能力を酷使して、もう疲れただろう?睡眠の魔法を掛けてやるか?」

「私が寝た後……お師匠は、居なくなるんですね……?……起きてます」

「分かった……ここから出よう。細工はしておいたが、もう時期破られるだろうから」

 

 彼女を負ぶって城外に出る。

 そのまま道なりに進むと、顔の皮を剥がされた遺体が転がっていた。

 僕の分身だ。

 

「宜しく頼むよ」

 

 そう言い、先に進む。

 背中では、絶えず浅い呼吸を繰り返す少女が。

 ……熱を帯びてきた。もう寝かせないとマズいか…?

 

「お師匠……」

「なんだ?」

 

 力ない声が耳に届く。

 

「私……母さんに売られたんです……。『邪魔だから』って。それで…、…驚きました。私は小銀貨二枚分の価値だったんです……」

 

「安すぎますよね!?自慢じゃ無いですが……私は可愛いので」

「やかましいわアホ。さっさと寝ろ」

 

「……それから、刻印を焼かれて……馬車で運ばれました。その時、盗賊に襲われたんです。馬車は倒れ、その衝撃で檻が壊れました。私は……他の子と一緒に逃げました。逃げ着いた先が…お師匠と出会った街です」

 

「何日か一人で彷徨っていると、突然猛烈な乾きを感じました……。その時に吸血鬼に成ったんでしょうね……」

 

「そして……師匠と出会いました」

 

 ミラはキニスの歩みに揺れながら淡々と語った。

 

「で?」

 

 僕は口を開いた。

 

「楽しかったか?僕との稽古は…」

「楽しかった……です…!!……別れるのが……イヤになるぐらい……!!」

 

 泣きじゃくりながらミラは言った。

 あははは、と笑い僕は先を急いだ。

 追手が数日は到達できない場所を模索しながら。

 

「お師匠が好きです!…好きです!!放したくない程に…!!!でも、お師匠は……行ってしまうんですよね……」

「あぁ」

「そうですよね……」

 

 僕を抱く左手に力が入る。ミラは背中に顔をあて泣きじゃくる。

 その手を包むように握り、僕は言う。

 

「あれ?あの宣言は何処に行ったんだ???」

「うぅぅうう…!また会う時は…!お師匠より強くなって……!!下僕にしてやるぅぅう!!!」

 

 泣いているので、やや聞き取れない箇所もあったが……彼女の野望は健在だったようだ。

 嬉しいことだ。僕を越えると宣言してくれているのだ。

 やはり弟子第一号の言う事は違う。最高だ。

 

「あはははは!!聞き取れん!!!もう一回言ってくれ!!」

「だがらッ!!………」

 

 こうして僕らは夜の闇に紛れた。

 誰にも気づかれず、誰にも知られず、僕も涙を一つだけこぼした。

 この涙はきっと、沢山笑った所為だ。

 そうに決まっている。

 

 別れが悲しくて泣く化物が何処にいる?

 だから、この涙は『そう』なのだ。

 そうでなくてはいけないのだ。

 

「お”師匠も…鼻水を……すすってるじゃ、無いですか!?」

「……寒いからだ」

 

 

 

 ◇◇◇◇

 

 

 

「お師匠……」

 

 目を覚ました。上体を起こし周りを見た。

 師匠がこしらえた簡易的なベット。その前には、空席の椅子が一つ。

 その向こうでは、石に囲まれた炉に枯れ木が燻っていた。

 

 とある山中。その洞窟で寝ていた。

 今日で三日目。その間、動けない私を師匠が介抱してくれていた。

 斬られた腕と脚は完治したようだ。

 

 師匠キニスの姿は見えなかった。

 しかし少し前には居たらしく、今から追えば会えるかも知れない。

 

 自身に布団の様に掛かる服を退け、靴を履く時に気づいた。

 枕の上。そこに置かれた木箱を。

 そっと手を伸ばし、箱を開けた。

 

 それを見てミラは笑った。

 

 古竜狩りの弟子としてボロ家に住んでいた頃に、一緒に飲んでいたお酒。

 決して高価では無いが、思い出のあるワイン。

 

 そのワインボトルの上にこう書かれた紙があった。

 

『僕の血を混ぜた、高級カクテルです笑』

 

 それをそっと抱き寄せ、ミラは微笑んだ。

 大事そうに、いつまでも。

 愛しのヒトが完全に袂を分かつまで。

 

 

 




お疲れさまでした!!
以上でミラ編が終わりとなります。
ここまで読んで頂きありがとうございます!!!

冒頭の修正コメントですが、本作を書いてる時に気づきました。
ごめんなさい。

以下蛇足となります。

何故ミラの奴隷としての値段が、兵士一日分の半分の価値なのかは、理由があります。
ただ今この国(ほかの国も含む)は人口が勢いよく増加しています。

古竜が居なくなり、扱える土地が広がり、食物と仕事が増えたのが原因です。
その為、人間一人(亜人も含む)の価値はとても安いモノとなっています。
(ですので、亜人を嫌う国家では異種族淘汰がぁああぁあ……)

ベターが最期に見たモノは幻覚です。
身体の限界と、麻薬の作用で見てしまったようです。
結局幸せそうに死んだので、彼の一人勝ちと言っても良いかもしれません……。

ベターはキニスが作成した斧槍を使っていましたが、他にも槍、盾、短剣、大剣、杖などあります。今後、その武器も行方も想像していただければ嬉しいです。
なお、その武器に付与されていた治癒阻止は古竜に効果は薄かったようです。残念。

以上になります。
ミラの旅路は気が乗った時に書くかもしれません。多分、そっちが本命……

次の次あたりまで、弟子の候補は決まっているので、どんどん書いて行きたいと思います。
ここまで読んで頂きありがとうございます!!

では、また~
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