ホワイトルームが少子化対策組織だったら   作:二見健

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 伊吹が龍園と接触してデジカメを渡していた。

 

 オレはそれを確認すると堀北のところへ向かった。

 

 シェルターは粉々になっていた。その横に堀北が倒れていた。

 

 キーカードも落ちていた。

 

「堀北」

 

 オレはぐったりとしている堀北を抱きかかえる。

 

 堀北は薄く目を開けた。

 

「……綾小路くん」

 

「何があった?」

 

「ごめんなさい」

 

 堀北の瞳から雫がこぼれ落ちていた。

 

「伊吹さんにキーカードを奪われたわ。私がリーダーだということがCクラスにバレてしまった。もう終わりよ」

 

 絶望に震えた声がオレの耳朶を打つ。

 

「私がリーダーになんて立候補しなければ、こんなことになっていなかった。森さんにクラスの足を引っ張らないでと叱った私自身がクラスの足を引っ張ってしまったなんて皮肉なものね。クラスで必要のない人間は私だったみたい」

 

 オレは自虐に耽っている堀北の身体を抱き締めた。堀北は抵抗しなかった。

 

「オレはお前が頑張っているところをずっと見てきた。お前はよく頑張っていたよ。それはオレが保証する」

 

「……努力したところで結果が伴わなければ何の意味もないわ」

 

「いや、意味はある」

 

「気休めはやめて。もう、終わったの」

 

「気休めなんかじゃない。後はオレに任せろ」

 

「……っ!?」

 

 オレは堀北の唇を強引に奪った。

 

 堀北は目を見開いて身体を強張らせたが、抵抗せずにオレの接吻を受け入れた。しばらくすると緊張の糸が切れた堀北の身体から力が抜け、ゆっくりと意識が落ちていった。

 

 これで堀北の自信は砕けた。オレの目的は達成された。

 

 堀北はプライドが高い女だ。普通に口説いてハーレムに入れたところで、他の女と軋轢を生じさせるだろう。自分が特別だと思っているため、麻耶や愛里を馬鹿にし、やる気のない長谷部に苦言を呈し、桔梗を偽善者だと罵る未来しか見えなかった。

 

 だから壊した。

 

 仕上げは船の中まで持ち越しだが、これでほぼ詰みだ。

 

 オレは堀北の身体を抱き上げて、浜辺にある教員たちのテントまで運ぶ。

 

 気を失った堀北を託し、代わりのキーカードを受け取った。

 

 堀北。お前はよく頑張った。お前は何も悪くない。

 

 ただオレに目を付けられた。すべてはそのせいだ。

 

 この世は美少女とのセックスが全てだ。過程は関係ない。

 

 どんな犠牲を払おうと構わない。最後にオレが美少女とセックスできればそれでいい。

 

 ここまで堀北が追い込まれたのは自分の責任じゃない。そうなるようオレが加担したからだ。

 

 だから自分を責めるな。お前はオレの女になるというだけだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 終了時間の正午になった。各クラスの生徒が浜辺に集まっていた。

 

 堀北がリタイアしたことで女子たちは散々に堀北を罵っていた。その口汚さには麻耶や波瑠加ですら眉をしかめるほどだったが、桔梗だけは頬がひくひくしていた。

 

 池は離れた場所で死んだ目をしながら海を眺めていた。流石にその光景を見ると可哀想に思えてくるが、親友のはずの山内は池を見捨てたらしく他の男子と談笑していた。

 

「ああぁぁぁ……やっと終わったぁぁ……」

 

「マジで最悪。もう二度とこんなところ来ないから」

 

 麻耶と波瑠加がぐったりしていた。

 

「もしかしたら来年もまたここに来るかもしれないぞ」

 

「言わないでよ! 現実になったらどうしてくれるの!?」

 

 砂浜で尻餅をつくように座っていた波瑠加がガバっと起き上がり、オレの肩をガクガクと揺らしてくる。そんなにこの試験が嫌だったのか。

 

「清隆くん。船に戻ったら一緒にご飯を食べに行こうね」

 

「そうだな。まずは風呂に入りたいが」

 

「お風呂も一緒に入れるのかな?」

 

「流石に無理じゃないか?」

 

 愛里は髪が痛んでいるからと、ゴムで髪を縛るのをやめていた。伊達眼鏡はそのままだがストレートの髪型になったせいで、男子から「佐倉って可愛くね?」という声が上がり始めていた。

 

「あいつは……Cクラスか? なぜリタイアしていない?」

 

 オレが彼女たちとイチャついていると、何処から男子の驚愕の声が上がっていた。学年全体がざわついている。

 

 森の中から現れた一人の少年が、学年中に衝撃を与えていた。

 

 龍園がジャージのポケットに両手を突っ込みながらこちらに近付いてくる。

 

「綾小路。残念だったな」

 

「残念とは何のことだ?」

 

「一週間の努力が無駄になったなと哀れんでやってるんだよ。試験終了後、お前らのクラスには果たしてどれだけのポイントが残っているだろうな?」

 

「龍園くんだったよね。それはどういう意味かな?」

 

「雑魚は黙ってろ。俺はこいつと話してるんだ」

 

 口を挟んだ平田に、龍園が冷たく吐き捨てる。

 

「これで石崎たちの意趣返しになったな。再戦を希望するなら何時でも受け付けてるぜ?」

 

「お前は勝利を確信しているようだが、まだ結果発表は終わっていない」

 

「もう俺の勝ちは見えてるんだよ。結果発表を待つまでもねぇ」

 

 龍園が喉を鳴らして笑いながらオレから離れていく。

 

 誰も残っていないCクラスのスペースに、たった一人だけで立っている龍園の姿が異様だった。

 

「こっわ。あれがCクラスの親玉? おっかなすぎるんだけど」

 

 波瑠加がぶるっと身震いしていた。

 

 石崎という男子をけしかけてきた元凶である。波瑠加にとっては他人事ではないのだろう。

 

 真嶋が拡声器を片手に壇上に昇る。

 

「これより特別試験の結果発表を行う」

 

 無人島の特別試験、その結果が発表された。

 

 まずは最下位。Cクラスのゼロポイントだ。

 

「……ゼロだと?」

 

 龍園はオレの方を振り返り「何をした?」と視線をぶつけてきた。

 

 Aクラスは百二十ポイント。Bクラスは百四十ポイント。

 

 そしてDクラスは二百三十ポイントだった。

 

「うおぉぉぉぉぉっ!」

 

「やったぁぁぁぁ!」

 

 喜び勇むDクラスの男女たち。

 

 Aクラスの葛城は愕然としており、Bクラスでは一之瀬が白波を慰めていた。あの様子だとBクラスは白波がリーダーだった可能性が高いが、スパイにしてやられたようだ。

 

「え? 私たちが一位? どうなってるの?」

 

 クラスメイトたちに堀北のおかげだとフォローすることもできた。

 

 だが、オレは何も言わなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 試験終了後。

 

 オレは船内の劇場で堀北と再会していた。

 

 時刻はもう深夜だ。

 

 夜の劇場はほとんど真っ暗で、ぼんやりと常夜灯が輝いているだけだった。

 

 オレが座って待っていると、隣に堀北が腰を下ろした。

 

「体調はどうだ?」

 

「最悪ね。誰かさんに勝手にリタイアにされたせいかしら」

 

「そうか。養生しろよ」

 

「皮肉も通じないの?」

 

 堀北が不機嫌そうな表情をオレに向ける。

 

 顔色を見た感じ、大分よくなっているみたいだった。

 

 堀北がリタイアしてから二十四時間が過ぎている。現代医療と休息のおかげだな。

 

「それで、あの結果はどう言うことなの?」

 

「どうなっているんだろうな」

 

「とぼけないで。二位のBクラスよりも百ポイント以上も水を開けているでしょう。私は百ポイントも残らないと覚悟していたのよ」

 

 妥当な数字だった。

 

 物資の購入、堀北と高円寺のリタイア、それによりDクラスのポイントは百三十ほどまですり減っていた。そこでさらにCクラスにリーダーを当てられたら百を割ることになる。龍園はAクラスと内通していただろうから、もっと酷いことになっていただろう。

 

 だが、そうはならなかった。

 

「オレはお前をリタイアさせることでリーダーを交代した」

 

「リーダーを交代? そんなことができるの?」

 

「この試験では正当な理由なくリーダーを変更することはできないとされている。逆に言えば正当な理由さえあればリーダーを変更することができると言うことだ。堀北。お前の体調不良は正当な理由になると思わないか?」

 

「まさか、そんなことが……だからCクラスはリーダーを当てられなかった……?」

 

 堀北は聡明な女だ。リーダーの交代を教えただけで、あとは勝手に理解してくれる。

 

「……すべて、あなたの手の平の上だったと言うことね」

 

 オレの横から溜息が聞こえてきた。

 

 堀北は椅子の背もたれに倒れ込んで天井を見上げていた。すべてが馬鹿らしくなったと言いたげな虚ろな表情をしていた。

 

 これで堀北の自信は粉々になった。クラスでのポジションも失った。残っているのは空っぽになった抜け殻だけだ。

 

 あとはオレが中身を注いでやれば完成だ。

 

「この世は結果がすべて。堀北、お前自身が言ったことだ」

 

「綾小路くん……急に何を……」

 

「堀北。お前は役に立たない、使えない人間だ」

 

 オレは席から立ち上がり、座っている堀北を見下ろした。

 

「お前はクラスで最も必要のない人間は自分だと言っていたな。オレもその通りだと思う」

 

 これまで甘やかす言葉しかかけてこなかったオレが急に態度を翻したせいで、堀北が唖然とした顔をこちらに向けてくる。

 

「多少は頭が回るようだが所詮はそれだけだ。お前よりも優れた者など他に幾らでもいる」

 

「……わざわざ言われなくても、それぐらいわかっているわ」

 

 堀北が唇を噛む。その頬に涙が伝った。

 

「だが、それでいい」

 

「……え?」

 

「お前はオレが有効に使ってやる」

 

 堀北が唖然としながらオレを見上げていた。

 

 その表情には絶望以外のものが現れ始めていた。

 

「オレの物になれ、堀北鈴音。お前の居場所はここだ」

 

「……酷い人ね。ここまで最低な人は初めてよ」

 

 堀北はオレが伸ばした手を取った。

 

 オレはその手を引いて堀北を抱き締めた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 鈴音が寝息を立てていた。

 

 オレが服を着ていると、部屋に麻耶たちが入ってくる。

 

「うわぁ……これはやっちゃったねー……」

 

「お前らか。深夜に部屋から追い出してしまって悪かったな」

 

「まやっちの言う通りだよ。きよぽん最低すぎ。今度ちゃんと埋め合わせをしてよね」

 

 腰に両手を当てて立腹しているのは波瑠加である。

 

「あ、あの……私のベッドがぐちゃぐちゃなんだけど……」

 

「清隆くん。流石にこれは可哀想だよ」

 

 泣きそうな顔で控えめな抗議をしてきたのは愛里である。桔梗が愛里の頭を撫でながらオレに批難の目を向けてきた。

 

 愛里のベッドには全裸の鈴音が寝ているのだが、ベッドのシーツは乱れ切っており、さらには色々な体液で濡れていた。血が染み込んでいる部分もある。愛里が泣きたくなるのも当然だろう。

 

 ちなみにこの部屋は麻耶、愛里、長谷部、桔梗の四人の部屋である。

 

 オレが言うのも何だが、深夜に部屋から叩き出された四人はキレてもいいと思う。

 

「清隆くん。次は私としようよ」

 

「あっ、まやっちズルい。島ではほとんどできなかったから、私も溜まってるんだけど」

 

「清隆くん。私、もう我慢できないよ……」

 

「桔梗ちゃんが色っぽい目をして清隆くんを誘ってる!?」

 

 少女たちが姦しく騒いでいる中、オレは身嗜みを整えていた。

 

 服を着てしまったオレに少女たちが話が違うと顔を見合わせている。

 

「すまないが、まだ用事がある」

 

「ええええっ!? 清隆くん、まだ他に女の子がいるの!?」

 

「いや、まだ堕としていない。いずれオレの物にする予定だが」

 

「はぁ……こいつ馬鹿だ……」

 

 波瑠加が素直な感想を述べていた。

 

 もう時間がない。オレは逃げるように部屋を後にする。

 

「遅い」

 

 船のデッキに上がる。待ち人はご立腹だった。それもそのはず、オレは指定された時間を二時間近く遅刻している。

 

 律義に待ち続けていた茶柱にオレは驚いたほどだ。

 

「何をしていた?」

 

 茶柱は柵にもたれかかりながら、オレを睨み付ける。

 

 鈴音の処女を奪っていたとも言えず、オレは肩をすくめた。

 

「嫌がらせみたいな時間に呼び出されたんです。少しやり返しただけですよ」

 

「……ふん。確かに私の方にも非はあるか。だが、次にこのような舐めた真似をすれば退学になっても文句は言えないと思え」

 

「覚えておきますよ。それで、教師が生徒を真夜中に呼び出すなんて一体何のつもりですか? 見る人が見れば勘違いをされますよ」

 

「勘違い? 私はただ試験で活躍した生徒を称賛しているだけだ」

 

 言い訳は用意しているようだ。Aクラスを目指していることを隠し続けているだけあって抜け目はなさそうである。

 

「今回の特別試験、よくやってくれた。私の方も望む限りの結果を得られたと思っている」

 

「オレを脅して得られた結果ですが、嬉しそうですね」

 

「意地悪な言い方だな。お前にはすまないとは思っているんだ。それでも私は諦めきれない。巻き込んでしまったお前には悪いが、この先も付き合って貰うぞ」

 

「少しでもオレに悪いと思っているなら、誠意を示して欲しいですね」

 

「……またその話か」

 

 茶柱が溜息を吐いた。

 

「何度も言わせるな。私は教師でお前は生徒だ。常識というものを考えろ」

 

「常識を守っていたら勝てるものも勝てませんよ。オレが普通ではないことを承知して味方に引き入れたのは先生の方でしょう」

 

「なぜそこまで私のような女にこだわる。お前の周りには魅力的な女が沢山いるではないか。プライベートポイントが欲しいなら私の権限の及ぶ限りで融通してやる。それで満足しろ」

 

「これを言うのは二度目ですが、先生は魅力的な女性です。ポイントなんてどうでもいい。茶柱佐枝。オレはあなたが欲しい」

 

「……馬鹿者が」

 

 茶柱が付き合ってられないと踵を返す。

 

 今回はこの辺りが引き際だろう。オレもこの程度の功績で茶柱を手に入れられるとは思っていない。

 

 だが、Cクラス、Bクラスへと昇進していけば、茶柱はオレを無視できなくなる。

 

 オレは女を抱くためにこの学校に来た。

 

 相手が教師であっても関係ない。

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