1話1200文字以内を目標にショートショート。
ハーメルンの最低文字数は1000文字であることは言ってはいけない。

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逃 げ ろ !

 ここ数か月、佐藤は逃げ続けていた。このマネーゲームを始めて9年が経ち、全国各地にテナントを持つまでに事業を拡大した。8億もの借金から大逆転のゴールを迎えるはずだった。

 それが今や、普通電車を、特急を、新幹線を。あらゆる手段を用いて、後ろに迫るヤツとその主から逃げ続けている。店や金、佐藤が切れるカードのすべてが、ヤツには効かない。

 身を隠すため日本各地に用意されたセーフポイントを伝い、何とか今まで逃げ延びている。五所川原、石見銀山、門司港と次々に身を移し、その月を無事終えられたことに一安心する。

 

 ヤツの主が恐ろしいのは、諦めが存在しないこと。1年後に設定されたタイムリミットが来るまで、佐藤を執拗に追い続ける。新幹線で引き離されようと、北海道から沖縄まで移動しようと。すぐには追いつけずとも、着実に近づいてくる。

 逃げ続けていると思考がどんどん後ろ向きになっていく。すなわち、ヤツに捕まってしまった時のことである。その時佐藤の身に何が起こるか、彼自身見当がついていない。それでもその時が来てしまったら、佐藤は破滅へと自由落下することになる。その確信からくる恐怖が、佐藤の逃げる足を動かし続けていた。

 ヤツの主とは9年の付き合いだ。断じて仲間ではないが、互いに事業を拡大する中でしのぎを削った、いわば戦友とも言える仲だった。それがどうだ、今自分を追いかけて来ているヤツの主はもはや、佐藤を破滅させることだけに全てを捧げる悪鬼と化した。ヤツをけしかけようと、佐藤を追い続けている。

 

 そうこうしているうちに、10か月が過ぎた。あと2か月で刻限が来る。一歩ずつ距離を縮めてきている破滅の権化も、その刻限を過ぎれば佐藤に手出しできない。

 1年以上逃げ続けた佐藤に、ゴールが見え始めた道すがら。佐藤の乗る特急を、新幹線が追い越していく。途端、背すじにおぞけが走る。

 

 まさか、今の新幹線に。

 

 振り返れば、すぐそこにはヤツがいた。完全に、自分の乗ったこの車両に張り付かれている。破滅そのものを目の前にして、しかし佐藤は努めて冷静であろうとしたし、実際一定の冷静さを保てていた。

 自分を地獄へ突き落とすためにヤツは来た。しかし刻限の1か月が過ぎた瞬間、ヤツはもう自分に手出しができない。破滅を退けることはできない。明かりのない夜を無くすことはできずとも、その夜を耐え忍ぶことさえできれば。夜が明けるその時までに、我が身が耐えられたならば。

 1年前に捕まっていれば耐えられないそれも、1か月ならば耐え忍べるはずと信じて。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ボンビー!佐藤社長の物件を売ってきてあげたのねん!」

 

「逃げ切られたぁーっ!」

「よぉーし!」


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