無医村の離島に医師が行く感動医療小説です。

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無医村の離島に医師が行く感動医療小説です。


ごはん島物語「無医村の離島に医師が行く感動医療小説です」

日本の近海に小さな離れ島がある。

その島は、ごはん島といって日本に属さない独立国だった。

そこには人口100人程度の人が住んで村社会を営んでいた。

無名の小さな島なので日本では、あまり知られていない。

いつから、この離れ島の村社会が出来たか、その起源はわかっていない。

しかし、一説によると、平家の落人が源氏の追手に殺されないように逃げて来たのが由来という説もある。

ここの村社会では、皆が農耕を営んで自給自足の生活をしていた。

しかし、この村社会には、昔から一つの風習があった。

それは小説を書くということである。

別に小説など書かなくても、生きていけるのに、どんな村社会にも、風変わりな習慣はあるもので、この村の住民は、みな小説を書いていた。

そして、それを皆で品評しあっていた。

ごはん島の住民は、皆、性格が優しく、ごはん村は、極めて平和な村社会だった。

しかし、困ったことが一つあった。

それは、ごはん村には医者がいないことである。要するに無医村である。

そのため、急病人が出ると、最寄りの医師がいる島に、モーターボートで救急搬送された。

しかし脳卒中や心筋梗塞などでは、間に合わず、ゴールデンタイムを逃して死亡してしまうケースも多々あった。

「この村にもお医者さんが居てくれたらなあ」

と、ごはん村の住民は、ため息をもらしていた。

そんな、ある時である。

ごはん村に嬉しい知らせが来た。

「おい。喜べ。ごはん村にお医者さんが来てくれるらしいぞ」

「本当か?」

「ああ。本当だ」

「で、どんな医者だ?」

「なんでも、京都大学医学部を卒業した優秀なお医者さんらしい」

「へー。それは助かるな」

などと村人は期待を持って、ごはん村に医者が来るのを待った。

それから一カ月が経った。

一週間に一度の定期船が、ごはん島にやって来た。

それには、ごはん村の島民が待ちに待った医師が乗っていた。

ごはん村の島民は全員、浜辺に集まっていた。

やがて定期船は桟橋に着いた。

身長168cm体重55kgの小柄な老人が定期船から降りてきた。

「あっ。あの人だべ」

「そうじゃ。写真で見たのと同じ人だ」

村人たちが、全員その小柄な老人に駆け寄ってきた。

「ようこそ。はるばる、この僻地の島に来て下さって有難うございます」

村人たちは、皆、小柄な老人に頭を下げた。

「いえいえ。こちらこそ、よろしく。私は大丘忍と申します。長年、連れ添って一緒に暮らしていた妻が死んでしまい、そのつらい思い出を忘れたいために、この島に住んでみることにしました」

「先生は何科が専門なのですか?」

「私は内分泌、代謝疾患が専門ですが、内科、および外科的治療は基本的なことなら一通り出来る自信はあります」

「それは有難い。この無医村は急病人が出ると、半数近くは死んでしまっていたのです」

「そうですか。では、力不足の私ですが、全力を尽くして皆さまの健康に尽くしたいと思います。私は、この島に骨を埋める覚悟で来ました」

大丘忍はそう言って皆に挨拶した。

「さっ。先生。車に乗って下さい。島を出て行った人の空き家がありますから、どうぞ見て下さい」

そう言って島民の一人が小型トラックのドアを開いた。

大丘忍は、それに乗り込んだ。

小型トラックは島の道を走って診療所に着いた。

大丘忍は小型トラックを降りた。

そこには小さな空き家があった。

大丘忍は、その空き家に入った。

「私はここで診療します。レントゲンと手術用具一式は、どうしても必要です。すぐに、取り寄せましょう。あと、薬品も一通り、そろえなくてはなりません」

大丘忍は毅然とした表情で言った。

「有難うございます。本当に、先生に来て頂いて有難いです」

・・・・・・・・・

その晩は村長の家で大丘忍の歓迎会が行われた。

村長の家には、ごはん島の村民が、みな集まった。

晩餐の料理は豪華なものだった。

「さっ。先生。どうぞ」

村長がコップに日本酒を注いで大丘忍に勧めた。

「有難うございます。では、お言葉に甘えて頂かせてもらいます」

そう言って大丘忍はコップに注がれた日本酒をグイと飲んだ。

「ああ。有難いことだ。ごはん島にお医者様が来てくれるなんて。これからは病人が出ても先生が診てくれるけん」

村民の一人が言った。

「みなは知らんじゃろが大丘先生は凄いお人じゃぞ。大丘先生は京都大学医学部をトップの成績で入学され、主席卒業されたお方じゃ。それだけではないぞ。大丘先生は独学で漢方医学も学び、漢方医学にも精通しておられるんじゃ。若い頃は卓球の選手として国体で優勝までしておる。詩吟も、鷹詠館明朋吟詩会の総範師じゃ」

村長が大丘忍の紹介をした。

「へー。凄いお方じゃな。先生。詩吟を聞かせていただけないじゃろか」

「ああ。ぜひ聞きたいな」

村民の皆が言った。

「そうですか。それでは僭越ながら一曲、詠わせて頂きます」

そう言って大丘忍は、詩吟の「川中島」を吟じた。

「鞭声粛粛~ 夜河を過る~ 曉に見る千兵の~ 大牙を擁するを~ 遺恨なり十年~ 一剣を磨き~ 流星光底~ 長蛇を逸す~」

川中島が腹から出された重厚な節で吟じられた。

皆はあっけにとられて我を忘れて聞き入ってした。

パチパチパチ。

村民の皆が拍手した。

「いやー。素晴らしい。心に沁みる」

「先生。もっと詠ってくだされ」

村民の要求に応えて大丘忍は、

「わかりました」

と言って。

江南の春。白帝城。名槍日本号。寒梅。春日山懐古。春暁。

も吟じた。

「いやー。素晴らしい。こげな、いい先生に来てもらって、ごはん村は大助かりじゃ。有難い。有難い」

皆は涙を流して喜んだ。

「皆は知らんじゃろが大丘先生は小説もお書きになられるんじゃ」

村民が言った。

「へー。すごいな。ごはん村では、昔からの慣習で、二週に一作、小説を発表することになっているんでな。じゃあ大丘先生にも二週に一度、小説を発表してもらおう。それと、どうか皆の書いた小説にも先生のアドバイスをしてくんしゃれ」

村民の一人が言った。

「わかりました。僭越ながら微力を尽くしたいと思っております」

大丘忍の態度は紳士そのものだった。

大丘忍の歓迎会は夜おそくまで行われた。

夜も12時を越したので、村長が、

「では、夜もおそくなりましたので、大丘先生の歓迎会は、これで、おひらきとさせて頂きます」

と言った。

あー楽しかった、いい人が来てくれたもんじゃ、と言いながら、ごはん島の島民は村長の家を出て帰途に着いていった。

雲一つない夜空には満月が出ていた。

・・・・・・・・・・

翌日から、大丘忍の診療所ができた、ごはん村の生活が始まった。

といっても、ごはん村では、滅多に病人や怪我人が出ることはなかったので、大丘忍の生活は大阪でクリニックの院長をしていた時と比べて、のんびりしたものだった。

大丘忍は律儀な性格なので、ごはん村の慣習に従って、2週に1作品、小説を発表した。

大丘忍の小説は自分の生い立ち、や、医学部時代のこと、医学部を卒業して医者になって経験した事を元にしたフィクションの小説が多く、また長年、連れ添ってきた、かけがえのない妻の死を悼んで、最愛の妻との楽しかった日々のことを小説風に書いたものが多かった。

古風な文体だが、大丘忍の小説は医療界のことを知らない島民には新鮮味があった。

しかもストーリーもちゃんと完成させているので、ごはん島の村民は大丘忍の小説を面白い、と言って読んだ。

また、大丘忍は、ごはん島の村民が書いた小説にも目を通し、適切なアドバイスをした。

それまで、ごはん島の村民は他人に作品をボロクソにけなす批評が多かったが、大丘忍はおおらかな性格だったので、そんなことはせず、適切な批評をした。

いい人が来ると、その人の影響で周りの人も良くなる。

ごはん村の住民の心は、大丘忍の影響で、なごやかになっていった。

大丘忍が、ごはん村に来て1年が過ぎた。

ある時、ごはん村の村長が急性心筋梗塞を起こした。

知らせを聞いた大丘忍は急いで駆けつけたが、もうその時には、村長は死んでいた。

村長の葬式が行われた翌日、

「今度は誰に村長になってもらうべ」

と村民は困惑した。

「そんなこと、悩むに値しないことだべ。大丘先生に村長になってもらうべ」

と村民の一人が言った。

「おお。そうじゃ。大丘忍先生に村長になってもらうべ」

と皆、異口同音に言った。

反対意見を言う者はいなかった。

「しかし、一応、法にもとづいて選挙をしよう」

ということになって、新しい村長を選ぶ選挙が行われた。

結果は村民全員が大丘忍と書いたので、大丘忍が、ごはん村の新しい村長になった。

「みなさま。みなさまのご期待とあれば、僭越ながら、お引き受け致します。僭越ですが、私は、ごはん村の発展のために微力を尽くさせて頂きます」

と大丘忍は新任の挨拶で述べた。

こうして大丘忍は、ごはん村の村長になった。

ごはん島に平和な日々が訪れた。

・・・・・・・・・・・・・・

しかし平和というものは、いついつまでも続くものではなかった。

大丘忍が村長になって、2年目のことである。

定期船で一人の男が、ごはん島にやって来た。

顔は、秋田の、なまはげ、の様であり、髪はボウボウに伸びっぱなしで、目はギョロリとしていて、おそらく1年間、風呂に入っていないのだろう、垢だらけで、不潔で不気味な容貌だった。

この男は上松聖といって、彼の祖先は豊臣秀吉が文禄・慶長の役(1592年)で朝鮮人を奴隷として連れ帰ってきた先祖をもつ血統書つきの、正真正銘の、まごうかたなき、筋金入りの、純血の、生粋の朝鮮人だった。

そして生まれつきの、発達障害児であり、中学生になっても、足し算、引き算が出来ず、九九も覚えられなかった。中学校の校長のお情けで中学は卒業したものの、高校には進学できなかった。

そのため、上松聖は中学を卒業すると就職した。

しかし発達障害のため、面接の時、「オレ様を採用しろ」と面接官に横柄な態度で言うものだから、上松聖を採用する会社は一社もなかった。

かろうじて、汲み取り業者に採用され、上松聖は汲み取り屋になった。

日本には、まだトイレが水洗式でない地域があり、上松聖はバキュームカーで、そういう地域を回って、便壺の糞尿をバキュームカーで汲み取った。

「やーい。朝鮮人の汲み取り屋」

「くせえ。くせえ」

「発達障害のバカ松」

上松聖はさんざん、けなされて、その怒りは全ての日本人に向けられた。

ちくしょう今に見ていろ。

上松聖の怒りは、マグマのように、心の中で、どんどん激しくなっていった。

そんな時、上松聖は、ごはん島の存在を知ったのである。

ごはん島の村民はおとなしく、平和な島である、という噂である。

「よし。ここでオレが天下をとってやる」

と上松聖は思い決め、ごはん島にやって来たのである。

上松聖は、ごはん島に着くやいなや、すぐに、島のトラックを運転して、ごはん島を回りながら、ラウドスピーカーで、

「これからは、この島の領主は、この上松さまだ。逆らうヤツは出てこい」

と言って回った。

ごはん島の村民は、こんな無法な人間は見たことがないので、そして戦うという経験をしたことがないので、どうしたらいいか、わからず、オロオロした。

ごはん島の村民が腰抜けばかりだと、わかると上松聖は、増々つけあがった。

上松聖は、次のような政令を出した。

1、上松さまを、ごはん島の神として敬え。

2、司法・立法・行政は全て上松さまの権限である。

3、上松さまに対する口ごたえは一切、認めない。

この政令を上松聖は、ごはん島の放送局から流した。

ちなみに上松聖も小説を書いていた。

上松聖は発達障害の上、無学、無教養なので、彼の書く作品は、小説、文学を知っている者から見れば、井の中の蛙大海を知らず、で低レベルの幼稚な作品ばかりだった。

上松聖は自分の作品を村民に読むことを強制した。

そして島民に感想を述べさせることを強制した。

上松聖は、一切の批判を許さないので、「意味がよくわかりません」と言うと、「あっははは。お前には読解力がない」と自分の表現力の低さを棚に上げ、相手をバカにした。

「上松聖の小説は素晴らしい」と誉めると、「誉めるヤツはオレを堕落させようという下心のある敵だ」と言って、相手をクソミソにけなした。

上松の独裁、横暴に反発する勇気ある島民もいた。

そうげん、は、読書家で、あまり小説は投稿しなかったが、上松は、そうげん、にからみ、

「お前はジジイのクセに年齢を偽っている」

と決めつけて、そうげん、を、うそげん、と言ってバカにした。

何の証拠もないのに。

青木航は善良で正義感が強いが、上松聖との論争になると上松は最後は口汚い人格攻撃をした。

「今度の領主さまは酷いお方じゃ」

と村民たちは、上松をこわがった。

・・・・・・・・・

しかし上松にとって、ごはん村には、やっかいな存在がいた。

それは、ごはん村の村長の、大丘忍である。

大丘忍の小説は、長年、連れ添ってきた、かけがえのない妻の死を悼んで、最愛の妻との楽しかった日々のことを小説風に書いたものが多かったが、上松は、それをもって、

「大丘忍はエロジジイ。大丘忍はエロジジイ」

と、けなし続けた。

しかし上松聖には大丘忍の本心は、わからなかったのである。

大丘忍の小説は確かに、亡き妻との性交を書いた小説が多かったが、大丘忍が、そういう小説を書く真の目的は、日本の少子高齢化を憂いてのことだったのである。

大丘忍は日本の少子高齢化を憂いていた。

このままでは日本は少子高齢化が急ピッチで進み年金財政はパンクして日本は滅んでしまう。

このままでは、日本人は結婚しなくなり、子供も産まなくなってしまう。

そのためには、たとえスケベと言われようと、性交は楽しいものだ、ということを今の日本の若者に訴えなくては。と大丘忍は思っていたのである。

しかし上松聖は物事を表面的にしか見れないので、大丘忍の憂国の意志はわからなかったのである。

・・・・・・・・・・・

ある時、上松聖は、ごはん村の公園で、

「大丘忍はエロジジイだ。大丘忍はエロジジイだ。この世で一番、偉いのは、この上松さまだ」

とアジテートしていた。

上松聖の演説は、それを村民は清聴しなければならない、という法律を上松聖が定めたからである。

飼い猫ちゃりりん、そうげん、青木航、偏差値45、などが、それを聞くともなく聞いていた。

その時である。

グレーのポロシャツに、カーゴパンツを履いて、ショルダーバッグを肩にかけている若者が飛び出してきた。

「クズ松、死ね」

そう叫ぶや否や若者はショルダーバッグの中から拳銃を取り出して、上松聖に向けて発砲した。

バキューン。

若者は射撃の経験があるのだろう、弾丸は右腹に命中した。

上松聖は崩れるように倒れ伏した。

上松聖を打った若者は、急いで、その場から走り去ってしまった。

・・・・・・・・・・・

飼い猫ちゃりりん、そうげん、青木航、偏差値45、など、その場に居合わせた村民は、急いで上松聖の所に駆け寄った。

「上松。しっかりしろ」

「死んでないか?」

ごはん島の村民は上松聖を嫌っていたが、人の命には、かえられない、という良識は持っていた。

浅野浩二も急いで上松聖の所に駆け寄った。

浅野浩二は2021年の4月に、この、ごはん島にやって来た若手医師だった。

「上松。しっかりしろ。何でもいいから何か言え」

そう大声で話しかけたが上松聖は、グッタリとして何も言わなかった。

浅野浩二は、上松聖の頬をピシャピシャ叩いたり、胸骨をグリッと力一杯、押してみたが、上松聖は何の反応も示さなかった。

「いかん。意識レベルが最悪の、JCSⅢ―300だ。すぐに大丘さんの診療所に担ぎ込め」

幸い村民が乗ってきたトラックがあったので、皆で上松聖をトラックの荷台に乗せた。

「浅野先生。僕たちも同行したいです」

村民が皆、言った。

「ああ。いいとも。すぐ乗ってくれ」

言われて、ごはん島の村民はトラックに乗り込んだ。

運転手はすぐに猛スピードで車を走らせた。

「ところで上松さんの血液型は何型か知っているかね?」

浅野浩二が聞いた。

「上松さんはAB型と言っていたことがあります」

「それは有難い。AB型なら誰でも輸血できる。おそらく大量の輸血が必要になるだろう。君たちも協力してくれないか?」

「ええ」

「浅野先生。上松さんは助かるでしょうか?」

「それは何とも言えない。背中に傷はないから盲管銃創だ。大動脈に命中していると危険だが、それは調べてみないと、わからない。ともかく一刻の猶予もならない。時間との勝負だ」

上松や村民を荷台に乗せたトラックはすぐに大丘忍診の療所に着いた。

浅野浩二はすぐにトラックから降りて診療所に入った。

患者はおらず大丘忍がパソコンで小説を書いていた。

「大丘先生。大変です。上松聖さんが撃たれました。盲管銃創です」

「なにー」

大丘忍は大声で叫んだ。

大丘忍が診療所の外に出ると、トラックの荷台に、上松聖がピクリともせず横たわっていた。

来る途中に携帯電話で村民に電話したのだろう、ごはん島の住民が、ぞろぞろと集まってきていた。

「緊急手術だ。ストレッチャーで、そっと診療所の中に運び込んでくれ」

大丘忍に言われて、トラックに乗り合わせていた村民、数名はそっと上松聖をトラックから降ろしストレッチャーに乗せた。そして診療所の中に運び入れた。

そしてストレッチャーから処置室の中の手術台の上に上松聖を移した。

大丘忍は急いで、オペ着に着替え、マスクをして、頭にはキャップをかぶった。

「大丘先生。僕も手伝います」

浅野浩二が言った。

「有難う。助かるよ」

浅野浩二も急いで、オペ着に着替え、マスクをして、頭にはキャップをかぶった。

銃創からは血がドクドク出ている。

一刻の猶予もならない。

「大丘先生。上松さんの血液型はAB型です」

「そうですか。それは助かった。こんな離島の診療所には輸血のストックなどないからね」

大丘忍は急いで診療所の外に出た。

村民が大勢、集まっていた。

「誰か、この中で上松くんに輸血してくれる人はいませんか?」

大丘忍が言うと、ごはん村の住民は、

「私の血を使って下さい。私はAB型です」

「僕の血を使って下さい。僕はAB型です」

と、ほとんどの者が名乗りを上げた。

「有難う。では、あなた達の血を使わせて下さい」

その中に、上松聖に、うそげん、と罵られ続けた、そうげん、がいた。

大丘忍は急いで、クロスマッチ(交差適合試験)で輸血型に問題がないかを調べた。

クロスマッチ試験で問題がないとわかると、そうげん、は、上松聖の横のベッドに寝かされた。

点滴スタンドが立てられ、それに、輸液バッグがかけられた。

そうげん、の皮下静脈に翼状針が刺され、新鮮血が抜きとられ、それは輸液バッグに溜まっていった。

上松聖の皮下静脈にも翼状針が刺され、輸液バッグに溜まった、そうげん、の血液が上松聖の皮下静脈に入っていった。

その時、一人の村民が大丘忍の元に歩み寄ってきた。

男は大丘忍の耳に口を近づけた。

「先生。こいつは大丘先生のことを、エロジジイとさんざん、けなし続けたヤツですぜ。こいつが死ねば、ごはん村は平和になります。傷口は深く精一杯、手を尽くしたが、ダメだったということにして、こいつは見殺しにしましょう」

男は、そう大丘忍に耳打ちした。

大丘忍は烈火の如く怒った。

「出て行ってくれ。私は医者だ。医者は人の命を救うのが仕事だ。たとえ、それが聖人であろうと悪人であろうと、そんなことは関係ない」

大丘忍はキッパリと言った。

言われて男は、スゴスゴと診療所を出て行った。

・・・・・・・・・・・・・

急いで、気管挿管が行われ、尿道カテーテルが入れられ、12誘導心電図が取り付けらけた。

モニター心電図に心電図の波形が流れ、血圧、脈拍、SpO2、などが表示された。

「よし。バイタルは大丈夫だ。全身麻酔で開腹、止血を行おう」

上松聖の口に吸入マスクが被せられ、イソフルランの麻酔薬が流し込まれた。

大丘忍は傷口を消毒し、創傷の所をメスで切開した。

浅野浩二は何本ものコッヘル鉗子やペアン鉗子で切開口を開き、バキューム(吸引器)で、内臓に溢れ出ている大量の血液を吸い取り続けた。

そのおかげで、大量の血液で見えなかった内臓がよく見えた。

「ラッキーだ。腹部大動脈も上腸間膜動脈も損傷していない。これなら助かる」

大丘忍は肝臓に突き刺さっている弾丸を摘出し、圧迫止血を続けた。

圧迫止血など単純と思うかもしれないが、銃創の処置には、この方法が一番いいのである。

輸血は一人だけから大量にとるのは危険なので、途中で、二人の村民が代わった。

4時間くらい経った。

ようやく肝臓からの出血がおさまった。

三人の大量の輸血と、開腹手術による止血処置のため、血圧などのバイタルも正常値にもどっていった。

「よかったですね。先生」

圧迫止血を時々、大丘忍と交代でやっていた浅野浩二が言った。

「ああ。しかし、大動脈が破れていなかったからね。これは快復して当然の症例だね。それよりも、一刻も早くここへ運んでくれた、ごはん村の人達と、輸液に協力してくれた人達のおかげだ。もしかすると、撃った人も上松聖さんを本気で殺す気はなく、急所をわざと、はずしたのかもしれないね」

大丘忍が言った。

もう肝臓からの出血は止まっていたので、あとは切開した所を縫合した。

血圧、脈拍、SpO2、そして心電図もすべて正常だった。

ただ麻酔をしているため、上松聖は目をつぶって、スヤスヤと穏やかな寝息を立てていた。

「もうこれで上松さんは、まず大丈夫だよ。明日には目を覚ますだろう」

大丘忍は処置室の戸の外で見ていた、ごはん村の人達に言った。

・・・・・・・・・

「大丘先生。浅野先生。お疲れになったでしょう。どうかお休み下さい。上松さんの介護は私がします。何か異変があったら携帯電話で連絡いたします」

飼い猫ちゃりりん、が言った。

「医者なんて因果な商売ですね。治る患者は治る。治らない患者は治らない。それはもう、初診の段階で、ほとんど、わかっていることなのに。治ればお医者様で、治らなければ、ヤブ医者だ」

「ははは。確かにそうだね。しかし患者や、その家族から見たら、それは、わかっていても、そういう気持ちになってしまうのも無理もないとも思うよ」

大丘忍と浅野浩二は、そんな会話をしながら、診療所を出た。

・・・・・・・・・・

翌日の昼。

大丘忍は診療所に行った。

夜中の2時に携帯電話で診療所に連絡して、バイタルに問題がないことを知ると、もう麻酔を止めて下さい、と連絡していたのである。

上松聖は覚醒していて目を開いていた。

ごはん島の住民がたくさん上松聖のベッドの傍らにいた。

「上松さん。具合はどうですか。まだ痛みますか」

大丘忍は仏のような慈悲に満ちた顔で上松聖に話しかけた。

その時である。

上松聖は、うわーん、と大声で泣き出した。

「どうしたんですか。上松さん」

大丘忍が聞いた。

「オレが撃たれてからのことは聞きました。そうげん、はじめ、三人の人がオレに輸血してくれたんですね。オレはあんたを、エロジジイ、と散々ののしり続けたのに、必死で手術してくれたんですね」

上松聖は泣きながら言った。

「いや。医者として当然のことをしたまでですよ。幸い弾が大動脈に当たらなかったから、よかったものの、大動脈を破っていたら、もしかすると助からなかったかもしれません。それだけのことです」

大丘忍は淡々とした口調で言った。

上松聖は、うわーん、と大声で泣き出した。

「大丘さん。散々あんたをエロジジイ、エロジジイと、ののしり続けてすまなかった。オレは足し算、引き算も出来ない中卒の発達障害の汲み取り屋なので、京都大学医学部なんて日本で最難関の大学を出ている、あんたを嫉妬していたんだ。ごはん村の皆に威張り散らしたのも、オレは子供の頃から、散々いじめられてきたので、オレは人間不信におちいって、虚勢を張ることが身を守ることだと思うようになってしまったんだ。今回のことで、オレは自分の考えが間違っていることに気づかされた。オレを許してくれ。オレはもう威張り散らしたりしないぜ」

上松聖はポロポロ涙を流しながら懺悔した。

上松聖は病室にいる、ごはん島の住民に目を向けた。

「みんな。オレが悪かった。散々、威張り散らしたオレを許してくれ。もう、これからは二度と威張り散らさないことを誓うぜ」

上松聖は涙ながらに訴えた。

「いいんだよ。上松さん。僕はたいして気にしていなかったから」

「僕も気にしていなかったよ」

「上松さん。僕はいつか、あなたが悔い改める時が来ると確信していました。よかったですね」

「上松さん。ペテロにせよサウロにせよ、本当に悔い改めた人間は、その後、素晴らしい人格者になっていきます。歴史上の偉大な聖人は、皆そうです。あなたは、これから、きっと素晴らしい人格者になると思います」

ごはん島の住民が、みな、上松聖の改心、謝罪を喜びあった。

それ以後、上松聖が威張り散らすことはなくなり、大丘忍をエロジジイと言うこともなくなった。

こうして、ごはん島は平和な島となり末永く繁栄した。

めでたし。めでたし。

 

 

 

2023年9月10日(日)擱筆

 

 

 

 

 

 

 




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