BLOOD/EMETH   作:オンドゥル大使

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第十一話 少女らの縄張り

 

「査問会だとは言われてきたけれど」

 

 そう言って自嘲して見せた自分へと、顔の見えない執行官達がめいめいに弾劾する。

 

『知ってはいるだろう、“キザハシ”の“小夜”』

 

 名を呼ばれ、キザハシは面を上げる。

 

 黒塗りの疑似人格回路に音声の波形パターンを浮かばせるのは、ロンギヌス機関において命令権を持つ執行官だ。

 

 しかし、彼らは自らの声を悟らせないようにわざと声紋を濁らせている。

 

 それもこれも“小夜”の力による特定を恐れての事だろう。

 

『コードネーム、“音無小夜”の死と消失。これは我が方にとって不利に働く。ようやくここまで翼手を追い込み、そして28号を駆逐してきたのに、ここに来てセクション三十七を手離したのは大きい』

 

「元々、28号翼手の制圧だってあたし達任せだったでしょうに。いたずらに“サヤ”と下級翼手を同士討ちさせてきた人間が言える事なのかしら」

 

『口を慎め。君はロンギヌス機関において重宝されているとは言え、先のセクションの崩壊には責任がないわけではないだろう』

 

「あれはあたしにとっては不本意な結果だった。それは“オトナシ”のデヴィッドとルイスが報告に上げているはずだけれど」

 

『それだけではあるまい。“オトナシ”のデヴィッドとルイスは意図的に不明瞭な報告書を上げて来た。その意味、まさか我々“ワイズマン”が分からないと思ってか』

 

「……ロンギヌス機関の内偵組織。勘繰り合いなんて無意味なだけでしょうに」

 

『“オトナシ”のデヴィッドとルイスが秘匿していたのがたった一人の少女の行く先だったというのは悪い冗談のようであったよ、キザハシ。我々は彼らのルートを先回りし、新たに覚醒した“小夜”を送り込んだ。君も耳にしているだろう、セクション三十区画だよ』

 

 まさか、とキザハシは目を見開く。

 

「……“隔離病棟”に、あの子を送ったって言うの……?」

 

『可笑しな話でもないだろう。いずれは切り込まなければいけなかった事柄だ』

 

 落ち着き払ったワイズマンの一員の声にキザハシは後ろ手にかけられた手錠を思い切り引き千切ろうとする。

 

 しかし、それが果たされる前に電流が躯体を震わせ、キザハシはテーブルモニターへと突っ伏していた。

 

 通常の人間ならば感電死する電圧でも“サヤ”ならば一撃で死ぬ事はない。

 

 その肉体が燻っても、内奥から再生していく。

 

 電流そのものの激痛よりも、筋肉繊維が結合する際の痛みのほうが勝っていた。

 

 キザハシは奥歯を噛み締めて忌々しげにワイズマンの者達を睨む。

 

「……殺して……やる……」

 

『それは果たされない。殊に君が“サヤ”である限りは』

 

『左様。我々への害意はためにならんぞ。“キザハシ”の小夜、君には特務を与えようというのだからね』

 

「……特務……? 聞いて呆れるわね。あたし達の力を恐れて、押さえつけようって言う輩が」

 

『自惚れるな。ロンギヌス機関が保護しなければ、君達“SAYA”感染者は迫害され、そして絶滅していただろう。その血に潜む可能性を彼らが逃すわけがない。“アシッド”に引き渡されたいのか?』

 

 その脅迫にキザハシは真紅に染まった眼差しを投げていた。

 

「……そうなれば困るのはあんた達でしょうに……!」

 

『これ以上の隠し立てはためにならんぞ、キザハシ。一言、答えればいい。新たなる“オトナシ”の小夜、それはどれほどの実力か? “隔離病棟”に潜む者達を暴き出すのには充分か?』

 

「……充分だと分かっていて、送り込んだんでしょう、それとも。ワイズマンの名前は飾り? あたし達“サヤ”の運用に関しては一任しているはず」

 

『賢明で助かるよ。では君には再び、“オトナシ”の小夜がシグナルを発した際にはセクションに向かってもらう』

 

「……この煩わしい手枷は解いてもらえるのかしら」

 

『任務に当たるとなれば自ずと。君は“サヤ”の中でも賢い部類だ。だから、どう立ち振る舞えば優位かくらいは分かるだろう』

 

 それは暗に自分程度の“サヤ”はここで打ち止めにしても何一つとして組織は困らないのだと言われているようであった。

 

 キザハシは羞恥と屈辱に歯噛みしつつ、ワイズマンの命令を聞いていた。

 

「……もしもの時に備えになればいいって言うんでしょう」

 

『理解が早くて助かるよ。君の“デヴィッド”と“ルイス”にも伝えておこう』

 

 この連中は自分が一番気分が悪いと思う事を平然と言ってのけるのだ。

 

「……それは必要ない。私は……結局、一人なんだから」

 

「査問会はこれに閉廷とする。キザハシ、この会合の責任は僕にある」

 

 この虚飾だらけの査問会で、最も発言権を持つ年若い男が声にしていた。

 

 彼だけは、執行官の回路を使っていない。

 

 この場において唯一の生身であった。

 

「……あんた、ここであたしに喰らわれてもいいって言うの? ――ジョエル」

 

「君達を軽んじているつもりはないよ、“キザハシ”の小夜。だが僕はこのロンギヌス機関の長官だ。オリジナルであるところの君達を守る義務がある」

 

「……オリジナル、ね……」

 

『しかしていつになったら到達するのかな。我々純正人類の理想郷、真のエメトピアに』

 

「ワイズマンの諸兄にいたっては少しばかり待っていただけると助かるな。僕の一存ではどうしようもないとは言え、組織の悲願でもある」

 

『長官殿。しかし時間は、あるようでないのですぞ。我々が“サヤ”に遭遇したその時から、リミットは迫っているのです』

 

「それも分かっている。分かっている上で、こう言わせてくれ。時期尚早だと。“サヤ”の犠牲と下級翼手の討ち手が等価ではあまりにも釣り合わない。ワイズマンの権能を最大限まで使うのなら、少しはSコードの解明にも精を出してもらおう」

 

『……熟慮しよう』

 

 ワイズマンの者達が消え行き、そうして査問会の手狭な会場には自分とジョエルだけが取り残される。

 

「……いいの? あんな事を言って、次の長官はあんたじゃなくなるかも」

 

「常に、細く長く、だよ、キザハシ。我々は長期的な目線でこの遠大な戦いを繰り広げなくってはいけない。生存競争で勝ち得るために、一つでも武器は欲しい」

 

「……その兵力としての、“サヤ”と、そして……」

 

「僕はね、君達だって充分に保護の対象だと思っているんだ。こうしてセクションを跨いでの“SAYA”因子保有者の占有、これには実戦経験を持つ君達の協力がなければ務まらない」

 

「……よく言うわよ。あたしの時に、何人死んだんだか覚えてるの?」

 

「キザハシ、君はそこまで女々しい性質か?」

 

 問い返されて、キザハシは眉を跳ねさせる。

 

「……よぉく分かったわ。あんた達が心の底では、何も変わっていないって事をね」

 

 踵を返すと、ジョエルはその背中に呼びかける。

 

「……“キザハシ”の小夜。いや、この言い回しは悪いな。――コードネーム、階小夜。音無小夜の死体は既に処理しておいた」

 

「……そう」

 

「頓着しないんだな」

 

「もう死んだんでしょう。……馬鹿で無力な子に全てを託して」

 

「新しい音無小夜は初陣で上級翼手を殺して見せた。そして、28号下級翼手も数体……これだけの戦果を挙げたんだ。前任の音無小夜と同等のレベルとして扱う。異論はないね?」

 

「……馬鹿馬鹿しい。何を言ったって、もう転がり出した石でしょうに」

 

「……君のそういうドライなところはいい。好感が持てる」

 

 査問会の会場を抜け、黒服によってキザハシはようやく手錠を外される。

 

「……好感なんて、一番に必要ないものよ」

 

 そうこぼしてキザハシは自身の居城に赴いていた。

 

 灰色の打ちっぱなしのコンクリートがまるで曇天のように愚かしい選択をした自分を嗤う。

 

「……どこに居たって、結局一人でしょうに」

 

「――あっれー? それにしてはご執心だったんじゃない? キザハシ」

 

 ハッとしてキザハシは戦闘神経を走らせる。

 

「……趣味が悪いわね。他人の部屋に勝手に押し入るなんて」

 

「ここは訓練場でしょ? あなたの場所にいつからなったのかしらねぇ?」

 

「……本当、盗人猛々しいとはこの事。キザハシは説明義務を果たすべき」

 

「……いいから、姿を現しなさい。あんた達の“声”は煩わしいったらない」

 

 つい先刻まで、コンクリートの空間に落ちた影とした認識出来なかった空間から滲み出すように、二つの少女が現れていた。

 

 一人は野生児じみた眼光を宿した矮躯の少女。

 

 そしてもう一人は文庫本へと視線を落としている眼鏡の少女であった。

 

 どちらの瞳も今は黒曜石の黒である。

 

「そうかなぁ? “ユキシロ”はどう思う?」

 

「私達はそうあれかしと願われた存在。ゆえに、お互いへの隠ぺい工作なんて一番に意味を持たない。獲物を仕留めるのならば、鷹のように鋭くあれ、と」

 

「……そっちは相変わらず本の虫ってわけ。“イスルギ”の小夜と、“ユキシロ”の小夜」

 

 キザハシの返答に、イスルギと呼ばれた小柄な少女はきひっ、と笑う。

 

「キザハシ、一匹狼を気取るあなたにしちゃ、随分と失態じゃない。新任の“サヤ”に入れ込んで自分の価値を落とすなんて、馬鹿でも思いつかないわよ」

 

「別に、入れ込んだつもりはない。あたしはサヤの先任としての職務を果たしただけよ」

 

「嘘。キザハシは嘘をついている」

 

 断定口調のユキシロの小夜は眼鏡の奥の瞳を怜悧に細める。

 

「だ、そうよ。ユキシロにそう映っちゃうって事は、そうなんでしょうに。あなたみたいなのが査問会に呼ばれて、しかもその手首! 忌々しい手錠まで嵌められちゃって! 傑作よねぇ……っ!」

 

「……何も面白くないわよ、イスルギ。あんたは自分の任務があるんじゃないの?」

 

「聞いたわよ。私のデヴィッドとルイスから。新任の“サヤ”を“隔離病棟”に送ったって」

 

「……お喋りなデヴィッドとルイスを持っているのね」

 

「きひっ……! だとしたら、死んじゃうかもねぇ……っ! だって、私達、“サヤ”がここまで忌避してきた“隔離病棟”へとたった一人で送られちゃったんだったら。帰ってくるのは食い散らかされた死骸かしら!」

 

 挑発するイスルギに比して、ユキシロは落ち着き払って文庫本のページを捲る。

 

「……あんたらしいわね、イスルギ。こうやって場外乱闘する事でしか、自分の有用性を示せないの? そう言えば、そろそろ組織は内部洗浄を進めるというのも聞いたわね。自浄作用に巻き込まれて戦場に出るまでもなく死んじゃう間抜けなサヤは、あんたが最初になるかもね」

 

 途端、イスルギの纏っている空気が切り替わる。

 

 ピリピリと皮膚を刺すのは鋭敏な殺気だ。

 

 イスルギは壁にかけられていた訓練用の大太刀を掴み上げる。

 

「……何? やるの?」

 

「別にやったっていいわよ。違いが分かってすっきりする」

 

 舌打ちを滲ませたイスルギはこちらへと鞘に収まった一振りの刀を投げていた。

 

 それを掴み取った瞬間、イスルギの姿が眼前に迫る。

 

 抜刀された大太刀へと返答の力で遮った鞘がその有り余る膂力で砕け散っていた。

 

 少しは力加減を心得たつもりであったが、キザハシは訓練場の端まで吹き飛ばされる。

 

 何とか姿勢を整えた直後、躍り上がったイスルギの体躯が中空に大写しになっていた。

 

 キザハシは抜刀し、白銀の刀身を翻させる。

 

 火花が散り、互いに相手を射る真紅の眼光が交錯する。

 

「……殺してやる……!」

 

「随分と偏狭になったじゃない、イスルギ。それほどまでに、あんたは組織から必要とされなくなるのが怖いのかしら?」

 

「……分かってないのねぇ、キザハシっ!」

 

 二の太刀が閃き、キザハシは応戦しようとしてその反応速度に追いつけずに足蹴を受けていた。

 

 肺の中の空気が抜け落ち、よろめいた瞬間には腹腔へと峰打ちが飛ぶ。

 

 あえての非殺傷であったのは、直後に肩口を蹴り上げられた事で明瞭化していた。

 

「あなた、その調子じゃ、血を飲んでいないんでしょう? 馬鹿じゃないの? それとも、まだ“怪物”になっていないという言い訳のため?」

 

「……逆に言わせてもらうけれど、あんたは抵抗ないわけ? あたし達、“サヤ”だって、血を飲めば結局のところは……」

 

 そこから先に繋げようとした言葉を、イスルギは首筋に添えた殺意の刃で留める。

 

「――それ以上言えば、首を落とす」

 

 純度百パーセントの殺意に中てられれば、さしもの自分でも言葉を仕舞う理性くらいはあった。

 

 ぱたん、と文庫本が閉じられる音が訓練場に響き渡る。

 

「そこまで、よ。イスルギ、次の任務がある。戯れはここまで、ね」

 

「分かっているわよ、ユキシロ。……キザハシ、あなた弱くなったんじゃないのぉ?」

 

 ここから先の挑発には乗らない、その証のようにキザハシは制服に付いた砂埃を払い、真紅の眼差しでイスルギを睨み上げる。

 

 ふん、と鼻で笑ったイスルギは身を翻していた。

 

「ま、あなたがどこで死のうが、別にどうだっていいけれどぉ……。“サヤ”の末席を汚すのだけはやめてちょうだいよぉ? あなただって十二分に、もう戻れない人でなしなんだからねぇ……」

 

 イスルギとツキシロの気配が完全に消えてから、キザハシは武器を投げ捨てていた。

 

 訓練場の壁に深々と突き刺さっただけの膂力は持ち合わせているが、それは“サヤ”としての真の性能には程遠い。

 

「……馬鹿にしないでよ! ……あたしが本気じゃないって……?」

 

 直後、気配を感じ取ってキザハシは一瞥も向けずに声を振る。

 

「……“オトナシ”のデヴィッド。なに? あんた、随分と暇なのね」

 

「生憎、俺は自分の“サヤ”の任を一時的に解かれている。君も聞いているはずだ」

 

「前回の負傷、治ってなさそうだけれど」

 

 振り向いて痛々しい包帯姿のデヴィッドは、片腕を掲げる。

 

「盾くらいにはなるつもりでいる」

 

「……それで? あたしに接触してくるのだもの。ジョエルと言い、あんたと言い……あたしの神経を逆撫でするのが相当に好きに見えるけれど」

 

「――階小夜。倉橋真那を潜入任務に充てたのはワイズマンの連中か」

 

「そんな事を聞きに来たの? ご執心みたいね、あの不完全な“サヤ”に」

 

 デヴィッドは胸ポケットから一枚の写真を取り出す。

 

 それは査問会で話題に出ていた“隔離病棟”の衛星写真であった。

 

 四方を広大な壁と敷地で囲まれ、堅牢なセキュリティが外から来る者も、ましてや中から脱出する者も通さない。

 

 鉄壁の病棟に出入りする術はたった一つ。

 

「エメトピア中央庁の管轄する“SAYA”感染者へのモニター施設。通称、“隔離病棟”。彼らはこれを使って、新たなる実験を講じている」

 

「それでも、あたし達ロンギヌス機関はここに至るまで、メスを入れる事は出来ないでいた」

 

「無自覚の“SAYA”感染者以外は通さない、フィルターを掻い潜るのはここまで不可能だった。……倉橋真那以外は……」

 

「あの子はまだ、自分の能力に覚醒していない。組織の体のいい爆弾よ、あれで。もしもの時には発動するように出来ているんでしょう?」

 

「それも我々の働き次第だ。“キザハシ”の小夜、本来ならば命令系統は別だが、ジョエルからの勅命により、我々と行動を共にしてもらおう」

 

「拒否権なんてないのよねぇ、これ。……やってらんないわ」

 

「君は有用な戦力だ」

 

「兵器だ、って言わないのね。お優しい“オトナシ”のデヴィッドは」

 

 皮肉めいて口にした言葉に、デヴィッドは言葉少なに応じる。

 

「……作戦遂行はこれより四十八時間以内。それで手打ちにするつもりだ」

 

「アシッドの連中は勘付いていないとでも?」

 

「……恐らくタッチの差になる。だからこそ、現役の小夜が必要になってくる」

 

「……あんた達のために戦えって?」

 

 自棄気味の論調に、デヴィッドは一拍置いて答えていた。

 

「……我々のためじゃない。君は倉橋真那を、彼女を救える可能性がある」

 

 どこまでも虚飾めいた言葉だ。

 

 どれもこれも嘘くさい。

 

 しかし、信じてもいいのだとすれば。

 

 それは恐らく、自分の内奥に湧いた感情だけだろう。

 

「……戦術ヘリ程度じゃ、“隔離病棟”まで到達出来ないわよ」

 

「組織はきっちり足くらいは用意してくれている。心配しなくっていい」

 

 歩き出したデヴィッドに、キザハシは続く。

 

「私の牙は?」

 

「特殊弾頭007を用意しよう。君の適任の牙だ」

 

「……言っておくけれど、情にほだされたとか、そういうのはないから。あたしはあの不完全な“サヤ”なんて死んでしまってもいいと思っている」

 

「君のそういう飾らないところはいい」

 

 褒めそやしたところで、何が出るわけでもなし。

 

 ここから先は、単純な戦場の感覚になってくる。

 

「……それにしたって、ここで“隔離病棟”に切り込む辺り、組織にも余裕はないのかしら」

 

「ずっと徹底抗戦の機会を窺っていた拠点だ。潰しておきたい心理は分かるはずだろう」

 

「だからと言ってね、“サヤ”に目覚めたての赤子みたいなのを放り込むなんて、やっぱりあんた達、相当なクズよ」

 

「……甘んじて受けよう」

 

 デヴィッドが誘導して訪れたのは格納デッキだった。

 

 先んじて強襲機を調整しているのはルイスである。

 

「おう、デヴィッド。こいつ、なかなかのマニューバだぜ」

 

「使えるのか?」

 

「問題なし。何よりも、“隔離病棟”に攻め込むのに、これくらいの備えがなくっちゃ死んで行けって言われているようなもんさ」

 

 サムズアップして太鼓判を押したルイスに、キザハシは視線を送る。

 

 漆黒の鋭利なシルエットを誇る最新鋭の戦闘機は、前回のような戦術ヘリとは違い、確実に葬りにかかる威容を伴わせている。

 

「……これで少しでもあたし達の……ロンギヌス機関が前に進めるのならば……」

 

 戦闘機の装甲を撫で、キザハシは呟く。

 

「しかしなぁ、デヴィッド。調整期間が短過ぎる。もう少し何とかならなかったのか? 特殊弾頭を三つ積んでやっとだ。おれ達の帰還まで計算されていない」

 

「それでも譲歩したほうだ。上は俺達を投げて帰ってくるものでもない爆弾だと思っているのさ」

 

「引き絞られた矢は命中しなければ価値もなし、か。まったく、ワイズマンの方々の思惑は分からん。分からんからいいのかもしれないがな」

 

 キザハシはデヴィッドへと向き直り、それからその双眸に覚悟を問い質す。

 

「……やるのね? これまでタブー中のタブーであった、“隔離病棟”への攻撃を」

 

「無論だ。作戦遂行書も既に取ってある。君の参加は揺るがない」

 

「……使われるのは気分に合わないけれど、いいわ。やってやりましょう。あんた達が見出した新たなる音無小夜が、ここで死ぬようなタマかどうかがかかっているのだもの。見てあげようじゃない、その末路と……そして全てを知ってもなお、戦いを選ぶのかどうかを」

 

 キザハシは格納デッキに差し込んできた黎明の光を仰ぎ見ていた。

 

 

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