BLOOD/EMETH   作:オンドゥル大使

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scene12 これがアイドル!

 

「……おい、これは……」

 

 モモカは額を押さえて呻る。

 

「そう……なんだよね。だとすれば、これって……」

 

 アオはモモカの部屋から出て、二階の最奥に位置する部屋の前に佇む。

 

「あ、アオ……まさかマジに……」

 

「ああ。一応、ノックするか」

 

 ノックしても返答はない。

 

 嘆息をついてから、アオは背負っていた大剣を抜刀する。

 

 斬、と扉を斬り伏せると、真っ暗な部屋の中央でアバターアイドルの配信を行っている人物と目が合う。

 

 金髪の少女は硬直して、片足を上げた姿勢のまま倒れ込む。

 

「うぉぉぉ……っ! ずきゃん!」

 

 倒れると同時に端末に表示させていた「ヤミちゃんねる」のライブ配信のコメントが流れていた。

 

〈ちょっ……wwwヤミちゃん、放送事故www〉

 

〈カエルみたいな声出たけれど大丈夫?〉

 

〈それよりすごい音しなかった?〉

 

「だ、大丈夫……。リスナーのみんなぁ~♪ ヤミちゃん、ちょっと急用思い出しちゃってぇ~、今日の配信は一旦停止! まったね~♡」

 

 配信を停止してから、中央のカプセル状のお立ち台から降りる。

 

 カプセル型のそれは同期処理された巨大端末であり、使用者の動きをトレースする。

 

 金髪の少女はアバターアイドル状態ではロリ体型のすらりとした肢体であったが、降りるなり万年不摂生が祟った小柄な身体を晒す。

 

 金髪ではあったが、頭身は低く目元の泣きボクロだけはアバターアイドルと同じで、他はまるで異なる。

 

「……な、何だよぉ~。は、配信中に入ってくんなって言ってるじゃんかぁ~」

 

「ずっと引き籠っているかと思えば、顔を合わせるなり文句か。雉子」

 

「う、うへぇ~? や、ヤミちゃんって呼べよぉ……イッヌ~」

 

「イッヌじゃない、犬神だ」

 

 後ろから続いてきたモモカとタツヤにさすがに何かしらまずいと感じたのか、目の前の少女――雉子ヤミは戸惑っていた。

 

「な、何だよぉ~……ちゃんと家賃は払ってるだろぉ~」

 

「あのね……ヤミちゃん。ちょっと聞きたい事があるんだ」

 

「まさか、悪事に手を染めているとは……。自分らも正直、見損なったっすよ」

 

「も……モモっちにサッルまで何言ってんのさ~。あたいが悪さなんてするわけないだろぉ~」

 

 ヤミはアバターアイドル越し以外では喋り口調があまりにも拙くなる。

 

 殊に自分達の前では弱々しくなっていた。

 

「とぼけるな。お前のリスナーとやらに四十体の翼手。知らんとは言わせんぞ」

 

 大剣の切っ先を突きつけると、ヤミはばたばたと首を横に振る。

 

「ご、誤解だよぉ~……。そんな事してまでリスナー増やすわけないじゃんかぁ~……。あたいはこれでも、アバターアイドルとしてプライドがあるんだよぉ~? 不正なんて絶対にしないってばぁ~」

 

「その冗長な喋り方をやめろ。隠し立てはためにならん」

 

 こちらの殺意が本物だと分かると、ヤミは両手を上げて投降する。

 

「わっ……分かったから! ……喋り方は生まれつきだってばぁ~……。あ、あたいが何かしたって言うの?」

 

「ヤミちゃん。これ、三日ほど前に中央庁に潜入した四十体の翼手の名簿データ。これと同じものが、ヤミちゃんのリスナーの名簿にあったの。だから、何か知らないのかなって」

 

 モモカが端末越しにそれを翳すと、ヤミは部屋の明かりをつけてそれを精査する。

 

 ヤミの部屋は散らかり放題で服も家具も雑多であり、そこいらに食べかけのスナック菓子の袋がある。

 

「ん? ん~? ……これがあたいのリスナーの名簿ぉ~? そんなの、あたい自身分かんないってば。だって、考えてみてよ、モモっち~。これでも登録者は百万人を超えてるんだよぉ~? たったの四十人増やすためだけに、不正に手を染めるかね?」

 

「それもそうだが、間違いようもなくこの四十人はお前のリスナーになっている。市民権を得た連中だ。何か知っているんじゃないか?」

 

「し、知るわけないだろぉ~、イッヌ~。えーっと、なになに……ふぅーん、ほぉ~……」

 

「何か心当たりはある?」

 

「いや、これ結構奇妙だねぇ~。……全員、プランで言えば一番課金率の高いプランに加入してるんだよ。これってさ、実は結構大変で……毎月まぁまぁの額に入らないと駄目なんだけれど、そもそもリスナー暦が三か月以上って言う規定があるんだよね~。でも、変じゃない? 三日前に中央庁に入ってきたんでしょ? なのに、高額プランって言うのは……」

 

 これはヤミ自身に聞いてみなければ分からなかった事だ。

 

「……そっか。じゃあ、これ、一時的な相手の隠れ蓑として、不幸にもヤミちゃんが選ばれちゃったって事なのかな」

 

「と言うよりも、名簿の逃げ先にアバターアイドルを選んだと言う事は、相手もアバターアイドルにある程度造詣があると見るべきだろうな」

 

「だろぉ~? あたいには関係ないし、配信も途中で切っちゃったから、リカバリしないと。ほらほら、出てった出てった! 配信始めちゃうからねぇ~」

 

「待て。雉子。お前、このままだと犯罪者として裁かれるぞ」

 

「……は……?」

 

「は、じゃないだろう。……と言うか、知らなかったのか。更衣隊長に何があったのかも」

 

「は……? 何言ってんの、イッヌ。我らがキリエマッマに何かあったの?」

 

「……更衣隊長は現状、中央庁に囚われている。オレ達は今回の四十体の翼手の継続捜査をする事に決めた。それが一番、状況を安定化させやすい」

 

「……い、意味分かんねぇよぉ~。キリエマッマが居ないのにあたいらだけでどうするって……」

 

「お前、アバターアイドル気取ってるんだろう。なら、協力してもらうぞ。……と言うか、お前の事を中央庁の連中は勘付かなかったのか」

 

「あ、あたいはずっと配信してるから、無関係だってばぁ~。モモっち、助けてよぉ~」

 

「えーっと……けれど、さすがに中央庁の人達が気付かなかったと言うのは……あ、でもチャンスなのかも」

 

「チャンス? ヤミの存在がっすか?」

 

「うん。ヤミちゃんが中央庁に顔バレしてないなら、もしかすると独自に動けるかもしれないし。それに、ヤミちゃんの固有能力を使えば、ともすれば四十体の翼手の行方も追えるかもしれないよ」

 

 モモカの提案にヤミは顔を引きつらせて、部屋の隅にあるコタツへと頭から入って叫ぶ。

 

「い、いやだぁ~! 働きたくない~!」

 

「諦めろ。……まったく、本物のごく潰しだな。このままでは、冤罪をかけられるぞ。いいのか?」

 

「そ、そうは言ったってぇ~……。働くのに比べれば、他の怖い事は何でもないじゃんかぁ~」

 

 アオはタツヤと視線を合わせ、ヤミをコタツから引っ張り出す。

 

 不摂生の極まったヤミの身体は予想よりもずっと重い。

 

「……少しは訓練でもしろ。この豚が……」

 

「ぶ、豚ぁ? あたいの事、豚って言ったぁ~? ……こ、これでも愛され体型なんだぞぉ~!」

 

 その反論を無視してアオはモモカへと促す。

 

「四十体の翼手はこいつのリスナーとして潜んでいる……つまり、居場所を追うのは難しくはないはずだ」

 

「うん……だけれど、どうやって追い詰めるか、だよね。メンバーだからって簡単に会う方法があるとは思えないし……」

 

 方法論に悪戦苦闘するモモカへと、ヤミはちっちっちっと指を振る。

 

「甘いなぁ~、モモっちは。敵があたいのリスナーなら、一番に釣れる方法論があるじゃんか」

 

「それは何だ? 役に立つのならば言ってみろ」

 

 ふっふっふ、とヤミは腕を組んで宣言する。

 

「ずばり! リアイベだよ!」

 

 

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