BLOOD/EMETH   作:オンドゥル大使

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scene46 素質と資格

 

 長兄の頼みとなれば断れるわけもない。ラビは肩幅のあるシリウスの背中に追従しながら問いを重ねられる。

 

「……すまんな。お前のシュヴァリエとして据えたアダムが、まさかこのような事になってしまうとは」

 

 少しは悔恨もあるのだろうか。それとも適材適所を選べなかっただけの失態か。ラビは何でもないように襟元を緩める。

 

「……アダムは彼自身の決着のために原生林に残ったのです。わたしは彼の決断に異を挟めなかった、それだけ」

 

「……その結果が、レクディの御守りと言うのは、お前には苦労をかけさせる」

 

 シリウスはカルナと違い、思慮深い一面がある。だが、それは時として見当違いな部分も多い。今回だってそうだ。別段、ラビはアダムに関してセンチメンタルな感情を抱いているわけでもないのだ。

 

 ただ、アダムは逃れ得ぬ血の宿命があっただけ。その因果は自分もそうであった、それだけのシンプルな答えに集約される。

 

「……キザハシの小夜。わたしも何も無関心を気取れるわけではありません」

 

「それなのだがな。つい五分前の伝令だ。“キザハシサヤ”の代替物として登録されているはずであった依代ミコが、行方不明と」

 

「コープスコーズに首輪は付けていたはずでしょう?」

 

「コープスコーズ計画に関してはヴァン・アルジャーノとコリンズに任せてある。正直、上がってくる情報はほとんどない。しかし、体内に介在する翼手因子で追跡は可能なはずだったが……上手く撒かれてしまったようだ」

 

「……シリウス兄様。キザハシサヤ――いえ、それも偽り。依代ミコの、本来の用途は……」

 

「無論、分かっている。コープスコーズB班が一時的に使えなくなるだろう。その場合の不都合は関知するものでもないが、話によれば更衣キリエも危うい均衡なのだと聞く。マハラルとヴァン・アルジャーノは余裕のようだが、そこに安全策があるとも思えない。ラビ、お前はレクディの面倒を見つつではあるが、手腕は信用している」

 

「……それは買っていただけると思っても?」

 

「どう取っても構わん。最も忌避すべきなのは更衣キリエとレクディの接触かもしれない。あるいは行方不明になった依代ミコとの……。いずれにせよ、事態は動き出した。転がり出した石は止められないのだ。損害は少なく、それでいて成果は多く」

 

「承知しておりますよ、兄様。わたしも少しばかり……油断もあったのかもしれませんからね」

 

 その言葉を聞いてシリウスは襟元を正す。

 

「……すまんな。ジャンヌとカルナは激情に身を任せがちなところもある。兄弟の中で、お前が最も冷静だ。コープスコーズ計画に、更衣小夜……。イレギュラーが続けばお前のような客観的な視点を持つ人間が重宝される。覚えておくといい。下手に頭を突っ込むクセがある人間よりは、それを一歩引いて見ている人間が最終的な勝利者となる」

 

 シリウスなりの激励だったのかもしれない。四神官を束ねる男にしては、その在り方もどこか繊細に映る。

 

「ご心配はなく。レクディに関しても、サヤに関しても慎重に動かせていただきますよ」

 

「そうか。お前には才覚はある。期待しているぞ」

 

 シリウスが肩を叩いて身を翻す。

 

 充分に距離を取ってから、ラビは汚らわしげに手で肩を払っていた。

 

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