BLOOD/EMETH   作:オンドゥル大使

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第四話 ファーストキス

 

「真那ー。ちゃんとグミ食べた?」

 

 母親に急かされて、真那は端末を弄っていた指を止める。

 

「あ、今日の分、まだだったっけ。はーい! 今、食べるから……って、あれ? 今日の分、どこへやったかな……?」

 

「グミさえ食べていれば、そこいらで流行っている“SAYA”とかにもならないって言われているのよ? ちゃんと服用しないと」

 

「でも、ないんだってば……。あ、学校かも」

 

 ショルダーバッグの底まで漁ってから、真那は思い立つ。

 

 端末の時計を見れば、ちょうど夜の八時を超えたところだ。

 

「……まだ、ギリギリ間に合うかな……」

 

 部屋を開けて一応は制服を身に纏い、真那は出かける準備をする。

 

「真那? どこへ行くのよ、こんな時間に」

 

「グミ、忘れちゃったから、多分。学校に行ってくる」

 

「危ないわよ」

 

「大丈夫だって。それに、お母さんも心配し過ぎだってば。一回服用しない程度で、死ぬわけじゃないんだし」

 

「けれど他のセクションじゃ、グミの常用を怠ったから、“SAYA”に感染したんだってもっぱらの噂よ? 報道でもグミさえ食べていれば、って悔やむような声もあるって……」

 

「もうっ、テレビの観過ぎだってば。グミ一回分くらいじゃどうにもならないよ」

 

 とは言え、恐らくは一週間分くらいはタブレットに入れてあったはずだ。

 

 さすがに一週間、グミの服用を怠るのは気持ちの面で何となく落ち着かない。

 

「すぐ帰ってくるから。心配しないで」

 

 ローファーを履いて家を飛び出した頃合いには、やはり少し夜が更けてきたせいだろうか。

 

 グミのキャッチが街頭に出ている。

 

 グミは正規品が定期的に支給されるとは言え、民間で造られたグミも若者には人気らしい。

 

 自分は一度も試した事がないが、“SAYA”の感染を止めた報告もあると言う。

 

 いずれにしたところで、眉唾物であるのには違いない。

 

 何よりも、グミは個人専用の処方箋で与えられるものだ。

 

 他人と同じグミはこの世には存在しない。

 

「……学校なんてこんな時間には入らないよね……」

 

 真那は前髪をかき上げ、閉まっているはずの通用口のノブへと手を伸ばす。

 

 開いていなかったら明日でいい――そう思っていた真那は想定外に軽く開いた通用口に目を瞠る。

 

「……あれ? 開いてる……?」

 

 不自然であったが、気にするだけ無駄だと判じて中庭を抜けていく。

 

 ちょうど校舎へと続く道すがら、真那は視界の隅に人影を捉え、一瞬だけ心臓が収縮していた。

 

「……って。何だ、山形先生か……」

 

 目を凝らすと歴史の山形が校舎の一角に手をついて、肩を荒立たせている。

 

 千佳からそう言えば山形は“買い”をしていると噂されたのを気にかかっていた。

 

 噂は噂だと断じるほど、別段山形を信用しているわけでもない。

 

 かと言って、ここで見過ごして、通用口を閉められてしまえば、別の問題が発生するだろう。

 

「あの……山形先生……ちょっといいですか?」

 

 結局、小心者の自分は声をかける事で事態に対処しようとしていた。

 

 我ながら、小物だな、と思ったところで、山形がその場に突っ伏す。

 

 想定外の行動に、真那は戸惑っていた。

 

「えっと……山形先生? 分かります、よね? 倉橋です、けれど……」

 

 こちらへと振り返った山形の形相に真那は息を詰まらせる。

 

 黒色に染まった山形の顔色は明らかに平時のものではなかった。

 

 思わず後ずさった自分へと、山形は手を伸ばす。

 

 ぜいぜいと息を切らし、胸元を掻きむしった山形へと、真那は短く悲鳴を漏らしていた。

 

「助ケ……た、す、けテ……」

 

 赤く濁った眼球が天上を仰ぎ、次の瞬間、山形の肉体は引き裂かれていた。

 

 内側から盛り上がった筋肉が表皮を破り、まだ皮の付いていない肉塊と化した山形は、滴る血潮を止めずに大地へと爪を軋らせる。

 

 そう――爪が、腕が、身体形状があり得ないほどに活性化し、さながら黒い獣へと変じていた。

 

「……山形……先生……?」

 

 最早、その喉から漏れたのは人間のそれではない。

 

 黒い獣が次にこちらを見据えたその時には、それは狩人の側の存在だと、ヒトとしての第六感が告げている。

 

 逃げなければ、と竦み上がった身体に命じようとして、ではどこに、と周囲へと視線を巡らせる。

 

 中庭から通用口へと一直線、とはいかないだろう。

 

 黒い獣へと変じた山形は、豚のような鼻を突き出し、何かを探っているのは自明の理であった。

 

 少しでも下手に動けば――否、そもそも逃げ出そうと言う選択肢を取る事が可能なのだろうか。

 

 膝が笑っている。

 

 這い上ってくる恐怖に、真那は思わず尻餅をつきかけて、黒い獣が吼えていた。

 

 一拍の静寂――その後に空間を鳴動させる雄叫びが突き抜ける。

 

 その声に、本来ならば中てられそうであった神経が呼び戻されていた。

 

 逃げる、いいや、逃げられる。

 

 それは肉体の導き出した最適解であったのかもしれないし、この時、完全に閉ざされようとしていた活路であったのかもしれない。

 

 真那はショルダーバッグを抱えたまま、校舎のほうへと駆け抜けていた。

 

 しかし、足に自信のない自分では獣に背後から襲い掛かられるのが関の山。

 

「た、助け……」

 

 すぐに息を切らした真那は、牙から涎を垂らして飛び掛かってくる黒い獣を大写しにしていた。

 

 ああ、死ぬのか、と妙に達観した神経が判断したその時には、全ての現象が後れを取った世界の中で光が疾走する。

 

 それは光と言うのにはあまりにも鋭敏で、そして攻撃的であった。

 

 弾丸だ。

 

 無数の弾丸が黒い獣へと撃ち込まれ、そこから迸った血潮が真那の制服を染め上げる。

 

『――クリア。28号を確認。これより排除する』

 

 装甲服に身を包んだ人々が次々と降下し、アサルトライフルを突きつける。

 

 銃弾の雨嵐が黒い獣を押し込めんとしていた。

 

『目撃者を発見。保護すべきか判断を乞う』

 

『大丈夫か?』

 

 装甲服の人々が周囲を押し包んでいく中で、真那は声を出せないでいた。

 

「あ、ありが……」

 

 ようやく搾り出した言葉を発する前に、装甲服の首筋を掻っ切った疾風を感じる。

 

 血飛沫が舞い、黒い獣は装甲服をいとも容易く貫いていた。

 

『な……っ! 応戦! 総員、反撃準備を……』

 

 アサルトライフルが向けられる前に、黒い獣はさながら猿のように肉体を跳ね上がり、銃弾を掻い潜っていた。

 

 装甲服を足掛かりにして、一個小隊を叩きのめしていく。

 

 現代科学で紡ぎ上げた人々が、たった一体の獣を相手に蹂躙される――それは悪い夢のよう。

 

 交わされる銃弾の応酬も三分もしない間に鳴り止んでいた。

 

 残ったのは、死に体の人々ばかり。

 

 よろめいた装甲服の兵士を、黒い獣が頭部を押し潰す。

 

 果実のように砕けた頭部から脳しょうが漏れ出ていた。

 

 血塗れになった真那は、赤い眼窩をぎらつかせる黒い獣と視線がかち合う。

 

 乱杭歯を誇示し、次の瞬間には食い掛られるかと思われた真那は、閉じ行く意識を一本の線が縫い留めたのを感じ取っていた。

 

 空だ。

 

 上空より放たれた白銀の弾頭が終わりかけた真那の世界を辛うじて留めている。

 

 弾頭は黒い獣の背骨へと深く突き刺さったようであった。

 

 動きを止めた獣へと、上空で羽音を散らす戦術ヘリから一人の人影が降り立ってくる。

 

 流麗なその動きは計算されているようで、翻った人影は直後に銀色の閃光を灯らせていた。

 

 それが刀の持つ狂気であると知った時、刃の一閃は黒い獣の頭部をかち割らんとしていた。

 

 その人影は黒い制服を振り乱し、鯉口を切った鞘を振るって黒い獣の顎を粉砕する。

 

 その膂力で牙が折れ曲がり、飛び散っていた。

 

 振り返った影の主の瞳の色に、真那は呼吸を忘れる。

 

 獣と同じ、真紅の瞳。

 

 少女のかんばせが、自分を捉える。

 

「……一般人か」

 

 声は凛として、そして猛禽類のように鋭い。

 

 硬直した真那へと、少女は一瞥を飛ばした後に、黒い獣を蹴り上げる。

 

 その脊椎に突き刺さって動きを止めていた弾頭が剥がれ、獣は再び蠢いていた。

 

「……特殊弾頭は長続きしないな、これでは」

 

 短髪の少女は射る光を灯した赤い眼差しで獣を睨み、一足飛びでその直上を取る。

 

 振るい上げられた刃が両断の勢いで打ち下ろされるが、黒い獣は狡猾に立ち回っていた。

 

 地に伏した装甲服の兵士を持ち上げて少女へと盾のように翳す。

 

 途端、少女の勢いが急速に殺され、必殺の太刀筋は中断されていた。

 

 代わりのように鞘で殴りつけて距離を取る。

 

 少女からしてみれば、今の失態はかなり痛いようで、距離を詰める好機を失ったようであった。

 

「……知恵を付けたな」

 

 少女の鋭い視線が自分へと飛ぶ。

 

 それを認識する前に、肩口を引っ掴まれていた。

 

 真那が遅れた認識でアサルトライフルが銃撃されたのを感覚する。

 

「……翼手が要らない知恵を付けるなんて……。David、厄介になるぞ」

 

 ネイティブな発音で口にされた名前に呆気に取られていると、真那は少女に制服を掴まれて命じられていた。

 

「走れ!」

 

 確認を取る前に、少女の驚くべき膂力に引き寄せられ、真那は無理やり走らされていた。

 

 校舎の内部へと抜けようとした矢先、獣が引き金を絞り、銃弾が壁を突き抜ける。

 

「……だがそう長くは持たない……というわけか。相手も考えてはいる」

 

 忌々しげに口にした少女はよろりと立ち上がる。

 

「……David、Lewes、現在の位置へと特殊弾頭を。……ああ、それでケリをつける」

 

 何やら命じた少女がこちらへと向き直り、その手を差し出す。

 

 滴ったのは、赤黒く濁った血液であった。

 

「……あなたは……」

 

「時間がない。きっと、私はもう持たない」

 

 アサルトライフルの銃撃が彼女を嬲ったのだ。

 

 そう分かったその時には、少女はこちらと視線を合わせている。

 

 赤い双眸に、射竦められる。

 

「……私がしくじっても、次が訪れるだろうが……お前は死ぬ。ならば、可能性の高いほうに賭けたほうがいい」

 

「何を……何を、言って……」

 

「――お前が倒せ」

 

 掠れた喉から問い返したその時には、少女は決断の論調で告げていた。

 

 何を言われたのか、最初は理解出来なかった。

 

 真那は愚かにも、今一度問い返す。

 

「……倒す? 私が……?」

 

「これから特殊弾頭……説明の必要はないだろう、それがこの部屋に向けて放たれる。いいか? チャンスは一度だ。仕損じれば、お前も死ぬ」

 

「あれ、は……? 山形先生が……変わ、って……」

 

「――鬼だ、ヒトの血を吸って生きている」

 

 鬼、と明言されてしまえばそれ以外の形容方法が見つからず、真那はいやに醒めた神経でその異名を納得していた。

 

「ヒトの、血……?」

 

「そして私もまた、鬼の血脈のようなものだ」

 

 少女からは絶えず血が伝い落ちていく。

 

 長くないのは真那の眼から見ても明らかであった。

 

「で、でも……でも、でも……っ! 出来、ない……です、そんなの……」

 

「出来る。どうやら、今のお前は適性らしい。グミを服用していないのならば、引き継ぎも可能だろう」

 

 少女は自身の血が溜まった掌を差し出していた。

 

「飲め。血を飲めばお前だって思い出す。この世界がどのような虚飾の上に成り立っているのかを」

 

「い、いや……っ! いや、です……っ!」

 

 拒絶するも、少女は諦めた様子もない。

 

「お前にしか出来ないんだ……! 私を……“小夜”を引き継げ!」

 

「サ、ヤ……?」

 

 当惑した瞬間、壁を粉砕して現れた黒い獣がモルタルの煙を振るい落としていた。

 

 黒い獣は装甲服の兵士へと喰らい付き、その首筋から血を啜っている。

 

 途端、獣の肉体が蠢動し、その体躯が膨れ上がっていた。

 

 倍の大きさにまで成長――否、「進化」した黒い獣はこちらを見据えて唸る。

 

 呆然とした自分へと、少女は自らの血を口に含んでいた。

 

 ハッとした瞬間、その麗しいかんばせが眼前に迫る。

 

 直後、唇へと交わされたのは口づけであった。

 

 交錯を感じ取るような時間も、何もかもが消え去った世界で、真那は少女の唇の温度だけを感じ取る。

 

 そこから直後、熱い血の味が口中へと滲み込む。

 

「お前に、託す……。私を継げ。音無の、小夜を」

 

 少女から力が失われる。

 

 その躯体が寄り掛かった瞬間、こぼれた血が唇から顎へと伝っていた。

 

 雫が床を濡らした瞬間、脳髄が震える。

 

 脳の奥、記憶の奥底を揺り動かされ――世界が一変していた。

 

 見た事のない景色が記憶領域を駆け抜ける。

 

 それは豊かな草原の向こう側、黄金の穂を抜けて、海原へと視界が開ける。

 

 知り得るはずのない世界、知り得るはずのない光景。

 

 全てが塗り替えられた地平の向こう側で、一人の少女が佇んでいる。

 

 その相貌が振り返った瞬間、唇が言葉を紡ぎ上げていた。

 

 ――サヤ、戦って。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「おい! ヘリから降りるって冗談言っている場合じゃないだろ!」

 

「冗談なものか! 小夜が死ぬかもしれないんだぞ!」

 

 ルイスの制止を振り切って無理やり降下準備に入ろうとしたデヴィッドは、直後の声に身を硬直させていた。

 

『……聞こえているな? David』

 

 切り詰めた冷たい声――その声の主は間違いなく――。

 

「……小夜? 生きていたのか? 特殊弾頭を撃ち込む。大丈夫なんだな?」

 

『問題ない、遂行する。――David,sword』

 

 ルイスと視線を交わし合い、デヴィッドは特殊弾頭の発射ボタンに指をかけていた。

 

「特殊弾頭、発射」

 

 白銀の砲弾が発射され校舎の一角を打ち砕く。

 

 崩落したハイスクールの壁が白い煙を巻き上げる中で、デヴィッドは熱源光学センサーへと切り替えていた。

 

「おいおい、小夜が死んだって言う冗談はないだろうな?」

 

「いや……反応は……一人? 小夜、なのか……?」

 

 確証を得る余裕もなく、デヴィッドは次いで傍受していた無線を震わせる声を聴いていた。

 

『28号の排除は失敗。これより、該当区画を処置にかかる』

 

「……まずいぞ。連中、ここいら一帯を“清掃”するつもりだ」

 

「巻き込まれるのは御免だぜ、デヴィッド。すぐに離脱挙動に入る!」

 

「待て、ルイス! ……小夜の帰還が最優先だ」

 

「そうは言うがな、おれ達だってここに居るのが露呈すればまずい身分なんだ。セクション管理の軍隊とかち合えば、無駄な時間と労力を割く!」

 

「分かっている。……俺が降りて小夜を確保し、帰還させる。それで手打ちだろう」

 

 戦略ヘリから降下準備をした自分へと、ルイスは舌打ちを滲ませる。

 

「……小夜の管理なんて、これだから現場ってのは厄介なんだ……!」

 

 皆まで聞かず、デヴィッドは校舎へと降り立ち、周囲に倒れている装甲服の兵士からアサルトライフルを奪う。

 

「損壊の酷い死体は、清掃部門に任せるしかないな……」

 

 呟いてデヴィッドは特殊弾頭の撃ち込まれた地点を目指す。

 

 粉塵が噴き上がる地点から、跳躍したのは黒い獣であった。

 

「……28号翼手……!」

 

 アサルトライフルの銃口を向けようとして、白い視界の中で吹き荒ぶ旋風を感じ取って視線を投じていた。

 

「……小夜……じゃ、ない?」

 

 花開いた特殊弾頭に内蔵された刃を握るのは、制服を身に纏った少女だ。

 

 少女は獣――翼手へと太刀を腰だめに構え、相対する。

 

 翼手が吼え、少女へと猪突していた。

 

「……いけない! 死ぬぞ!」

 

 照準器を覗き込み、トリガーを引き絞ろうとして少女が手で制する。

 

「いい、David。私がやる」

 

 怜悧な声が遮り、デヴィッドは少女が鯉口を切ったのを目の当たりにする。

 

「……まさか……」

 

 翼手が牙を軋らせ、爪を突き立てようとしたその瞬間には、少女は懐へと飛び込んでいた。

 

 刀身が赤い残光の血を帯びて輝き、翼手の肥大化した腹腔へと届く。

 

 翼手が硬直した直後には、少女は力任せに薙ぎ払い、その体躯を寸断していた。

 

 生き別れになった上半身が転がり、下半身から赤い血飛沫が迸る。

 

 デヴィッドは刀身に刻まれた赤い「emeth」の血文字が「meth」となったのを戦慄く視界の中に入れていた。

 

「……小夜……なのか?」

 

 少女のぼさぼさの長髪が赤い血潮で括られ、三つ編みへと変位する。

 

 こちらへと赤い双眸を振り向けた少女の眼光は間違いなく、自分達の知る“小夜”であった。

 

「……David、私は……」

 

 言い紡ぎかけた刹那には、少女は不意に意識を失い、その場に昏倒する。

 

 デヴィッドは少女を抱きかかえ、肩を揺すっていた。

 

「おい! ……この事態は想定外だぞ……!」

 

『デヴィッド! もうすぐ駐在軍が来る! とっととずらかるぞ!』

 

 ルイスからの通信にデヴィッドは教室で倒れている人影を認めて、すぐさま駆け寄っていた。

 

「……小夜……」

 

 この場へと降り立ったはずの小夜が、静かに息絶えている。

 

 彼女の肉体は銃弾でボロボロに撃ち抜かれ、戦い抜いたその証左でさえもない。

 

 デヴィッドは開かれた小夜の瞼を閉ざし、ルイスへと報告を飛ばす。

 

「ルイス、“小夜”の死体と、そしてもう一人……重要人物を保護しなくてはいけなくなった」

 

『それはいいが……急げよ。もうすぐ連中も躍起になって探してくるだろうさ。28号翼手は……?』

 

「……倒された。恐らくは新たな“小夜”によって……」

 

『そいつはどういう事なんだ……? って、聞くも野暮か。ヘリを下ろすから、すぐに乗り込め。どうやら……長い夜に、なりそうだな』

 

 それに関しては同意であった。

 

「ああ。夜はまだ……明けそうにもない」

 

 

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