BLOOD/EMETH   作:オンドゥル大使

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第七十話 呪縛の血筋

 

 一つ、二つ、とアマミヤは刃を振るう度に思索を巡らせる。

 

 頭蓋が刃で両断されて果実の如く砕け、血潮が舞う。

 

 思考はどこまでも涼しい。

 

 こうして戦闘機械として立ち回っていると、その他の愚鈍な些末事は消え失せていく。

 

 太刀を振るえば、それはより明瞭に。

 

 獲物を捉えれば、その刹那は鋭敏に。

 

 臓腑を裂けば、感覚だけに任せられる。

 

 この瞬間を恍惚と思わないわけではない。

 

 しかしながら、歴戦の感覚がそれに委ねてはいけないとブレーキをかける。

 

 衝動の手綱を取り、赤く染まった戦域を駆け抜ければ、直後には無数の躯が足元に広がる。

 

「……これで制圧完了。今回の仕事は楽なもんやったなぁ」

 

 翼手のハーレムを発見し、それを見敵必殺。

 

 自分にしてみれば、これも一つの些末事。

 

 だが、アマミヤは戦闘終了の伝達が一泊遅れたのを認識していた。

 

「サヤ! アマミヤサヤ! ……やったんだな?」

 

「デヴィッド。あんたさん、ちょっと迂闊やろ。制圧完了とは言ったけれど、足を踏み込むには連絡の一報くらいはないと、死ぬのはあんたさんやで?」

 

 デヴィッド――かつては“ルイス”の身分に甘んじていた彼は、佇まいを正す。

 

「……オレがそんなに信用出来ないか。兄さんと違うから……!」

 

「別に。比べとるわけやないよ。ただな、あんたさんも死にとうないやろ? ここの翼手はよくて脅威判定はB程度。ハーレムの質も考えれば、せやね。Aマイナスってところやろ。質より量って言うけれど、こんなんいくら潰したって時間も戦力も無駄なんよ」

 

「……仕方ないだろう。前回の戦闘で我々は多くのサヤ候補生と、そして実戦仕様のサヤを失ったんだ。お前に出てもらっているのは、単純な人員不足が解消し切れていないのも大きい」

 

「……で。当の元“デヴィッド”はどこへ行ったん? あれで有能やさかいに、ワイズマンがただで免職ってわけやないやろ」

 

「……要らないところで鋭いな、相変わらず。兄さんは現状、“デヴィッド”の任を解かれたままだ。……本当ならオレなんかよりよっぽどお前に……! ……いや、いい」

 

「何なん? 男の嫉妬は見苦しいんよ、“デヴィッド”」

 

 別段、挑発するつもりもなかったのだが、彼はまだ熱くなりやすい。

 

 すぐにキッと睨みを向けてから、それの意味がない事だと悟る。

 

「……命令だ。アマミヤのサヤには継続的な作戦の遂行が――」

 

 そこまで口にされて、アマミヤは五感を震わせる“声”を関知して面を上げていた。

 

「……これ……」

 

「……おい、アマミヤ。呆けている場合じゃないぞ。オレの言う通りに……!」

 

「しっ。静かにしぃ、デヴィッド。……なんて事なんやろうね。一体やあらへんよ」

 

「おい! 訳の分からないことを言っている場合じゃ――!」

 

 デヴィッドの叱責が飛ぶ前にアマミヤは殺気を予見して飛び退っていた。

 

 それはちょうど、デヴィッドも巻き込む位置だったために、彼を突き飛ばす。

 

 受け身を取る事も叶わず、デヴィッドは無様に転がっていた。

 

「……何を……! サヤによるデヴィッド、ルイスへの叛意は……いかなる理由でも!」

 

「――だから、黙りぃな。そうやね、敵は……十体以上。足止め、って考えるのが一番やねぇ」

 

 先ほどまでまるで気配を感じなかったのに、廃工場の周りを包囲する人影が視界に入る。

 

 どれもこれも、己の獣性を隠しもしない赤い眼を滾らせている。

 

 その段になってデヴィッドは所持する音波集積器が捉えた波形データに目を見開いていた。

 

「……これは……? 翼手の共鳴連鎖……? 嘘だろう、こんなに接近されるまで気付けなかって言うのか……!」

 

「相手も知恵を使っているみたいやね。デヴィッド、さっきまでの位置に居ったら、あんたさん、身体が真っ二つになっとったわ」

 

 自分が突き飛ばした位置を引き裂いたのは風圧であった。

 

 群れを作っている翼手のうち、一体だけ異様に両腕の長い個体が灰色の躯体を傾がせている。

 

「……上級翼手か……!」

 

「現場で遭遇するんは初めてやろ? 足が竦んどるんなら、とっとと帰投して援軍呼びぃ。ウチだけで何とかする」

 

「……冗談言うな。こんな状態のサヤを残したまま本部へと戻れば、オレは一生鼻つまみ者だろうが!」

 

 拳銃を懐から取り出し、弾倉を込めるが翼手相手には数分程度の足止め以下だろう。

 

「……デヴィッド。あんたさんは帰還を優先しぃ。これ、明らかな作為があるわ。ウチを本部に帰らせんつもりやね。あるいは時間稼ぎか」

 

「上級翼手相手に逃げ帰ったんじゃ、オレもお前も笑い者になるぞ。最強の名をほしいままにしたアマミヤにしては弱気だな」

 

「間違えんとき。最強やから、こういう時には慎重になるんよ。……意図のある翼手の動きには裏があるに違いないんやさかいね」

 

「……まさか、件のシュヴァリエか?」

 

「もっと悪い方向に転がっとるんかもしれんよ……。そこの! ……翼手の気配に上手く擬態するなんてなかなか出来へんよ。けれど、ウチら“サヤ”には分かってしまうんよ」

 

 何の事を言われているのか判断しかねているデヴィッドを他所に、翼手の群れから立ち上がったのはすらりとした執事服姿の男であった。

 

 老齢の執事はモノクルを付け、こちらをまるで値踏みするかのような視線を向ける。

 

「さすがですね。最強の小夜である、アマミヤ、でしたか。なるほど、現状機関の持ち得る、本当の意味での体制へのカウンター、馬鹿にしたものではないわけですね」

 

「……あれは……あいつがシュヴァリエか……?」

 

「申し遅れました。私の名は九頭。エメトピア中央庁の命で動いております」

 

 恭しく頭を垂れた老爺へと、デヴィッドは照準する。

 

「……中央庁……ッ! 翼手の枢軸か!」

 

「おや、それは誤解があると言うもの。理想郷を維持する執行機関ですよ」

 

「……どうだかな。これだけ頭数を揃えておいて、言い訳が通用すると思っているのか? ……アマミヤ、あれが以前遭遇したシュヴァリエの男か?」

 

「……いや、違う……けれど、身に纏った殺気は本物やね。デヴィッド、ここは一旦――」

 

 定石通りの行動を、と言葉を継ごうとしたその時には、空間を飛び越えたとしか思えない速度で、九頭と名乗った男は肉薄していた。

 

 自分に、ではない。

 

 拳銃を持つデヴィッドの懐に入り、掌底を腹腔へと叩き込む。

 

 回避も、ましてや引き金を引くなどと言う行動に出るような暇もない。

 

 突き飛ばされた形でデヴィッドの躯体が堅いコンクリートの地面を跳ねる。

 

 どこかから出血したのか、血溜まりが押し広がっていく。

 

 それに呼応して周囲の翼手が舌なめずりをして、僅かに色めき立ったのが窺えた。

 

「……デヴィッド……!」

 

 全ての現象が後れを取る中で、アマミヤは咄嗟に刀を翳す。

 

 一撃が捉えたのは、まずは横腹。

 

 浴びせ蹴りがアマミヤの肉体を吹き飛ばそうとするが、それは反対側の足で堪え、直後の断罪の太刀を打ち下ろしている。

 

 だが、それが完遂される前に二撃目――即ち、九頭の本懐である鉄拳を心臓部へと放たれていた。

 

 交錯するよりも素早い、レイコンマの判断。

 

 太刀筋を変え、その首を狩ろうとして相手は身を反らし直後には踵が大写しになっていた。

 

 アマミヤは後ずさりながらも、自身の肉体の損傷を確かめる。

 

 一撃目の蹴りは何とか減殺出来た。

 

 だが心臓部を狙い澄ました鉄拳はサヤでなければ心停止、否、胸元を抉られていたほどの威力だ。

 

 刀を構え、九頭から距離を取る。

 

 本来、接近戦を得意とするサヤにとって、一歩でも後退するのは下策以外の何者でもない。

 

 しかし、今はデヴィッドを守りながら戦わなければいけない。

 

「……生きとる?」

 

 反応はない。

 

 ともすれは瀕死か、希望的観測ならば昏倒しているだけと願いたい。

 

 九頭はゆらりと佇む。

 

 その立ち振る舞いは間違えようもなく、熟練の戦士のそれだ。

 

「……侮っていたのはウチのほうってわけ」

 

「一撃目を耐えたのは、サヤの耐久力をもってすれば想定内でしたが、まさか連撃を耐えられるとは。いやはや、分からぬものです」

 

「……あんたさん、一体何なん? ウチをここで足止めして、機関へと強襲? 言っとくけれど、待機しているサヤだけでも防衛くらいは何とかなるんよ?」

 

 半分は正当、だが半分はそうあって欲しいという祈り。

 

 九頭は特段気に留めた様子もなく、ふむ、と一考する。

 

「ですが、出来ますかね? 最強の小夜と名高い、あなたが苦戦したシュヴァリエ。それが二人同時に、ロンギヌス機関に仕掛けると言うのは」

 

 戦力の一極集中は予想出来なかったわけでもなかったが、あるとすればもっと時間をかけるものだと想定していた。

 

 それが早まったと仮定すれば、赴く先は――。

 

「……焦る理由があるって事やろ。血分けされたシュヴァリエと、D因子の持ち主、の奪取とでも?」

 

「聡明ですね。ですが、それに留まりますか? 最強の小夜が居なければ、シュヴァリエ二人を倒す事など出来やしない」

 

 断定口調の九頭に、アマミヤは刀を提げる。

 

「どう、やろうかねぇ。あんたさんら、ウチら小夜を舐め過ぎやんか。殺せる時に殺す、お喋りなのは、単に時間を引き延ばすため。……誰でも分かる、定石やろうに」

 

 アマミヤは刃の溝へと自らの血を吸わせる。

 

 血の残火を帯びた刀身に刻まれた「emeth」の文字が赤く焼き付き、殲滅の息吹を宿らせていた。

 

「……私を殺せますか」

 

「どれだけ体術に自信があっても、翼手じゃないんならいくらでもやりようはあるんよ。……さぁ、このままあんたさんを斬って、すぐに本部に帰還する。それだけが最大の命題やね」

 

「余裕ですな。最強の小夜は、こういう時でも心を乱されないですか。ならば」

 

 九頭が取り出したのは黒地に金の装飾が施された武器であった。

 

 簡素だが、それは暴力と言うものを具現化する打突武装だ。

 

「……トンファーねぇ。刀と打ち合うにしては、心許ないんとちゃうん?」

 

「二十年ぶりに使いますからね。少しずつ鳴らしていきましょうか」

 

 この敵の言葉繰りがどこまで真実かは分からないが、今間違いようもないのはデヴィッドが重傷である事だ。

 

 すぐにでも翼手を殲滅し、九頭を倒す――その一事にだけ注力出来れば、それでよかったのだが――。

 

 流れてくる血がアマミヤの下駄を濡らす。

 

 思っているよりも時間はない。

 

 ならば、速攻で九頭を下し、上級翼手を討つ。

 

 最適解を脳内で構築した直後、九頭の姿は掻き消える。

 

 トンファーを回転させ、その勢いを殺さずに頭蓋を割らんと迫る。

 

 刃を翻して弾き返してから、アマミヤは瞬時に感覚して薙ぎ払っていた。

 

 デヴィッドを狙った下級翼手が飛翔してきたのを迎撃し、その翼ごと肉体を両断する。

 

「さすがですね」

 

「お喋りは舌を噛むんよ」

 

 トンファーの回転力が刃の勢いを押し込み、肉体へと斬り込ませない。

 

 なるほど、打突武装はほとんど肉体の延長線で使用出来る。その強みは想定以上の効力のようだ。

 

 反対側へと叩き込んだ太刀筋を相手は読み、足払いで牽制する。

 

 アマミヤは下駄を払い、九頭の腹腔を蹴飛ばそうとしたが、相手はトンファーを翳して必殺の一撃を防御する。

 

 このような交錯を交わしている間にもデヴィッドが手遅れになってしまう焦燥感が、アマミヤの意識を満たしていた。

 

「足手纏いが居れば本気が出せないでしょう? 始末して差し上げましょうと言っているのです」

 

「……足手纏い、ね。生憎、ウチはそんな事、いっぺんも思った事ないんよ。デヴィッドもルイスも、居いへんとウチらはこのエメトピアじゃ炙り出されるばっかりの異端なのは分かっとるさかいに」

 

「義理堅いですね。出来ればそこまで知ってから殺したくはなかった」

 

 トンファーを一回転させ、九頭は構えを取る。

 

 一対一ならば応戦にさほど苦労はしなかっただろうが、これはまるで別種だ。

 

 十体ほどの下級翼手と、上級翼手一体――どこで仕掛けてくるか、と警戒を巡らせていると、不意に上級翼手が吼えていた。

 

 その攻撃対象は重傷のデヴィッドではなく、何と九頭である。

 

 何故、と言う感覚を掴む前に上級翼手の辻風が舞い上がっていた。

 

 空間断絶の刃が九頭を両断せんとするも、彼は軽くトンファーを翳してそれを防御し、上級翼手の頸部を抑え込む。

 

 暴走したように映る上級翼手は首を折られ、その脊髄に強烈な一撃を与えられていた。

 

 肉がめり込み、抉れた部位から激しく出血する。

 

「……これはいけない。やはり、即席の上級翼手では本能を抑えられませんか」

 

 途端、群れが瓦解していた。

 

 秩序を保っていた翼手達が一斉に飛翔し、めいめいに九頭と瀕死のデヴィッドへと襲い掛かる。

 

 アマミヤも当然、応戦していたが、これは一体どういう事なのだろうか。

 

 ――翼手の一時的な隷属? 否、それにしては手間がかかり過ぎている。

 

 ――機関で発見されていない音叉による支配? だが、九頭自身から翼手独特の“声”は発せられていない。

 

 ――あるいは、これまでのルールにはない翼手の運用方法か。

 

 どの可能性にせよ、これは好機であった。

 

 アマミヤは襲ってくる翼手の腹部を掻っ捌き、翼を折って浴びせ蹴りでその頭蓋を叩き潰す。

 

 九頭は向かってくる翼手を最低限度の動きで封殺しつつ、こちらへと駆け抜けていた。

 

 アマミヤの振るった剣術と九頭の格闘戦術が絡まり合い、細やかな火花を散らして互いの必殺の間合いを探る。

 

 赤い残光の血閃を薙ぎ払うも、九頭は姿勢を沈めてからトンファーを持ち替え直上へと攻撃を向けていた。

 

 顎すれすれを突き抜けた一撃の風圧を感じながら、アマミヤは振るった応戦の斬撃で敵との距離を一旦リセットする。

 

「……面倒な戦い方するやんか」

 

「そちらこそ。翼手の包囲網を超えるとは。侮っていたのは私のほうかもしれませんね」

 

「……一個聞かせてみぃや。ウチを止めるための方策やろ、これ。その目的は、大体分かるわ。……機関の本丸に仕掛けるための陽動。けれど、それにしたって解せへんのは、あんたさん、ここでウチを止めるためだけの犠牲と言うよりも、もっと別種の何かを感じるんよ。まるで……そう、まるで。ウチをここで……封殺する事こそが真意、みたいな」

 

 語ってからあり得ないと断定してもよかったが、先ほどからの九頭の戦闘神経と、そして実力を鑑みれば自ずと導き出されるのはその結論であった。

 

 ――この老躯は、最強の小夜である自分を殺し尽くすために、配された。

 

 そう考えなければ辻褄が合わない。

 

 しかし、小夜に対し翼手の血の臭いが薄い人間が勝てるものか。

 

 前回会敵したシュヴァリエは明らかに常人とは異なる異能を宿していたが、眼前のこの男は未だに格闘戦術以上を引き出さない。

 

 それはつまり、今の自分相手にはその程度で充分と言う帰結。

 

「……買い被り過ぎですよ。ですがしかし……それが与えられた役割ではある。あなたをロンギヌス機関へと帰さず、可能ならば討伐せよ、と」

 

「討伐、ね。ウチが翼手相手に言うんならまだ分かるけれど、人間に言われるんは初めてやわ」

 

「どうとでも。さて、続きをやりましょうか。すいませんね、どうにもあなたが守っているデヴィッドの血の香り、彼らには甘美な代物だったようです」

 

 デヴィッドは純正人類、よって翼手にしてみれば美酒のようなものだ。

 

 しかし、それだけではないように思える。

 

 何か――翼手を支配する刻限が過ぎ、封じられていた獣性が解き放たれたのが先刻の原因であった、と推測したほうがまだ納得出来る。

 

「……で、ウチに勝てると思っとるん? 翼手は……臓物を撒き散らして全滅。これなら一対一やけれど」

 

「まぁ、構いません。元々、翼手はあなた方を留めるための策でしかなかった」

 

「それはウチを殺せるって思っとる認識でええんやね?」

 

 真紅の瞳を投げる。

 

 最強の小夜に射竦められてしまえば、ただの人間ならばそれだけで昏倒するはずであったが、九頭は余裕を崩さずにトンファーを軽く回す。

 

「ええ。多少想定外になりましたが、仕方ありません。――雨宮小夜、そのお命、頂戴いたします」

 

 まるで何でもない、会話の中の一呼吸かのように告げた九頭がトン、と地面を跳ねる。

 

 その一瞬で距離が詰められていた。

 

 準備動作も、ましてや殺気でさえもほとんど隠し通した打突が横合いから突き刺さる。

 

 アマミヤは刀の峰で受け止めてから、膂力で引き剥がす。

 

 九頭は直後には頭上へと舞い上がっていた。

 

 直上から回転軌道を加えた一撃が食い込む。

 

 地面が陥没し、砂塵が舞う中でアマミヤは距離を稼ぐべく浴びせ蹴りを見舞う。

 

 飛び退った九頭が咄嗟に十字の防御を取っていた。

 

 下駄の裏に仕込んでおいた短刀を飛ばしたのは、どうやら防がれてしまったらしい。

 

 だが、その隙だけでも充分だ。

 

 青い残像を帯び、加速術で一拍の間に肉薄する。

 

 まずは下段より斜に切り込みを加えようとしたが、トンファーの防御陣形がそれを打ち据える。

 

 しかし、本懐は二の太刀である。

 

 閃いた上段からの打ち下ろしが九頭の防御を崩していた。

 

 この状況下なら自分に分がある――そう瞬時に判定したアマミヤは刺突を試みていた。

 

 狙うのは一撃、心臓部を貫こうとする。

 

 本来ならばこれで終わりのはずだった。

 

 これで、敵は死に絶えるはずであった。

 

 ――アマミヤの刃の切っ先が凍て付いたように静止しなければ。

 

「……なに……」

 

「お覚悟」

 

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