BLOOD/EMETH   作:オンドゥル大使

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第八十四話 「最強」の帰還

 

 ――七原文人。

 

 その名をこの十二年間、一度として忘れた事はなかった。

 

 否、一秒たりともその宿業を忘れる、などと言う愚行は犯すまい。

 

 この因果は自分のものだと規定した、殺戮衝動がアマミヤを満たす。

 

 それを相手なりに感じたのか、少しだけおどけてみせる。

 

「……怖いな、恐怖だよ、雨宮小夜。貴様からは怒りを感じる。自らの身を焼き尽くすほどの純度の高い怒り、憤怒と呼べる代物を。……だが、こうも思う。王が何故、機関のサヤにこれほどまでに恨まれているのか。これはアシッドと機関が対立しているだけにしては、少しだけ奇妙だ」

 

「……何が言いたいん」

 

「オレはね、雨宮小夜。王は、貴様と関係があった、そう見るべきだと考えている。……無論、十二年前の話だ。あまりに調べを尽くすと、アシッド側からも刺客が送られかねない。ああ、とても怖い。だがね、オレは実行した。勝てなかったんだよ。オレ自身の因果、オレ自身の持つ業と言うものに。知らなければ安穏と暮らせていたのに、知る事に対しての興奮が勝った」

 

「……けったいな人間やね」

 

「まぁ、そこまで調べれば……出てくるのには出て来た。七原文人は十二年前には存在していなかった、という事実が。これは特一級秘匿事項に抵触したが……まぁ、構わない。十二年前には王は居なかったんだ。だがね、エメトピア中央庁に居住権を持つ人間は生まれた時より王の存在を疑わない。ましてや不在なんてなおさらだ。……だが、データはそう物語っている。十二年前と言うと……オレはちょうど十五のガキだったな。ちょうど貴様と同じくらいの背丈で、同じくらい背伸びをしていた、ただの青二才だったさ。そこから勉学に励み、この理想郷を牽引し続けていくための知識を手に入れた。……もっとも、このような些末事、サヤである貴様には関係がないか。“SAYA”のキャリアーは年を取らない……噂程度のこのオカルト話が、まさか現実だとは思わなかった」

 

 この男は危険か? とアマミヤは思考の隅で手首の拘束を排除する手段を講じる。

 

 金具は使われていないため、単純な力だけで拘束服を引き千切るのには、少しだけ時間を要する。

 

 その理由は――と思考を切り替えたところでまるで先読みしたかのように男が告げる。

 

「無理はしないほうがいい。グミを服用しているのだろう? ……そうしなければたちどころに居所が分かってしまう。因習だな、これも。サヤの血の臭いはシュヴァリエ相当ならばすぐに察知出来ると言うのも。加えて、貴様ほどの任務に就いているサヤならばなおさらだ。相当に強いサヤなのだろう。だが、不意の翼手化を抑制する薬剤であるグミは、サヤの力でさえも押し殺す。……元々、我々潜在翼手人類たる、オニゲンの翼手化を防ぐための代物が、貴様らサヤにとっては身を隠す絶好の隠れ蓑にもなる。だが、デメリットが大きい。サヤである時には外れているはずの肉体のリミッターが全て、閉塞すると聞く。当然、サヤが持つと言われている血に起因する力も」

 

「よく舌が回るんやねぇ。噛み切っても足りなさそうやわぁ」

 

 アマミヤは朗らかに応じてみせるが、グミの服用が露見している以上は時間との勝負になる。

 

 前回服用したのは六時間前――体内時計通りならば、もう三十分はこのままだ。

 

 得体の知れない男とこのまま、空中の牢獄に囚われた状態で三十分はあまりにも長く現実的ではない。

 

 男は自分の焦燥を感じ取ったのか、それとも生来の癖か、ゆったりとした論調で続ける。

 

「オレはね、こんな軟派な物言いじゃ信じてもらえないだろうが、貴様らを恐れている。ロンギヌス機関も、それが運用する兵器であるサヤ達も。……ただ、恐れているって言ったって、何も上級翼手やシュヴァリエを使ってじゃあ殺せばいいって言うのは、あまりにも暴論じゃないか、とも思うんだ。それに、ね。“SAYA”のキャリアーはこうして無駄口を叩いている間にも増え続けている。それに関しての情報は得られなかったが、推論でいいのならば……翼手人類が増え続けるように、“SAYA”もまた、増え続ける。そう仮定すると、まるでいたちごっこじゃないか。どちらかが滅びるまで終わらない、閉じた円環の物語だ」

 

「面白い例え話するんやねぇ。けれど、あんたさんは失念しとるんと違う? そのサヤと、こんな近くで喋っとるんやから、いつ噛み付かれても可笑しぅないよ」

 

「おいおい、まさか下級翼手のように翼手化して無理やり、なんて事もあるのか? ……正直言うとね、ああ、申し訳ない。吸っても?」

 

 煙草の匂いが鼻孔をつく。

 

 メンソール系の、甘い香りであった。

 

「……構わんよ」

 

「それでは……。オレが思うに、ね。貴様らは翼手化なんて低俗なものを捨て去ったのではないか、と考えている。無論、シュヴァリエにも翼手化が切り札な者も居る。四神官だってそうだ。しかし……貴様らは違う。たった一振りの刀で武装し、血の灯火を番えて我々を殺す……生粋の狩人だ。勘違いをしている人間……ああ、いや、オニゲンか。それも多くってね。エメトピア中央庁において、オニゲンによる不意の翼手化の事件件数は数十年単位でゼロだ。何故だか分かるか?」

 

「……さぁ。あんたさんらの都合なんて知らんよ」

 

「では、失敬して言わせてもらおう。同じオニゲンと言っても、恐らくは血の質が違うんだ。下級翼手レベルであろうとも、上級翼手並みの自制心がある。……これも妙な言い回しだな。自制心、など。翼手に心でもあるような言い草になってしまったな」

 

「翼手なんて、全部自制の効かん獣……あんたさん、自分自身でそう言ってるの、分かっとるん? あんたさんだってオニゲンやろ」

 

 僅かな静寂が訪れる。

 

 ヘリの羽音だけが、等間隔に時を刻んでいた。

 

 やがて男は細く長く吐息をつく。

 

 まるで懺悔の時間のように、男の声には抑揚がない。

 

「オニゲンには自制心はなく、あくまで衝動のままに人喰いを行う鬼の血脈……。改めて言われるとキツイな、この事実は。だが、事実でもある。オニゲンには個体差はあるものの、誰も彼もが怪物となる素養が含まれている。遺伝子に刻まれた、リミッター付きの爆弾に等しい。……その爆弾を故意に誘発させる装置があるとすれば、アシッド側からしてみても重要だろうな」

 

 男は嘆息を漏らしてから、情報端末を操作しているようであった。

 

「あんたさんは何を言わせたいん?」

 

「機関のサヤに接触した四神官の一人、ラビ。彼は特命を帯びていた。その任務は、楽園の歌姫の確保。聞いた事くらいはあるだろう? レクディだ」

 

「……生憎やけれど、流行には疎いんよ」

 

「いや、嘘だな。今のは明瞭に嘘だった。……貴様はレクディの正体を知っている、そうだな?」

 

 いやに詰問の論調が強くなる。

 

 この男は自分の口から、一体何を言わせたいというのだ。

 

「……その楽園の歌姫の事をウチが知っているとして、それ以上の情報なんてないやろ。所詮、ただのアーティストやって言うんなら、ウチが口を挟む事なんてないし」

 

「雨宮小夜、貴様は嘘なんて微塵にもつかないのだろう。それは必要がない事にも関係しているのだろうし、嘘をつくメリットを感じさせない、冷徹さを持ち合わせているからだ。……だが、今の反応は少し違ったな? 嘘ではないにせよ、隠し事をされているのは気にかかる。……まぁ、いい。ゆっくりと喋ろうじゃないか。話の主軸のレクディだが、オレが補足するまでもない、エメトピアにおいて一流とされている、ヒットチャートを駆け抜ける歌姫。老人でさえもその名を知っているほどの、そんな彼女がゲリラライブを敢行した、セクションの女子高で、だ。機関の潜入任務があった形跡がある。そして、それから数日間、レクディは行方不明だ。彼女を管理していたマネージャーも、ましてや音楽関係者にも何一つ情報は渡っていない。ただ一つ、その学校でライブが行われ、そこに四神官であるラビが居た事、そして七原文人がどうしてなのだか同席していた事……。さて

これらは今のところ点と点だが、線でつながった時、何が分かると思う?」

 

「……あんたさんらがレクディとやらを攫った、そう見るんとちゃうん?」

 

「正しいな、雨宮小夜。貴様はいつだって正しい。だがだとして、何故、レクディが必要であったか。……これがね、潜ってみてもなかなか出なかった。ともすれば調べを尽くす方向性が間違っていたのかもしれない。レクディと言うアーティストは、この五年間で現れた新進気鋭の歌姫だが、彼女の経歴も知れない。過去がないんだ、一切ね。まったくもって奇妙な事だ。レクディと言う名のアーティストが圧倒的な歌唱力とカリスマで顕在しているのに、その実は何も分かっていない。一説には素顔でさえも、と言うくらいだ。……だが、情報の一端を手に入れた」

 

「あんたさん、何回でも死にたがりなんやね。命がいくつあっても足りんよ」

 

「諫言痛み入る。だが、これは本当に……五分も同じストレージに存在しなかった情報だ。今頃、抹消されているだろう。よって、痕跡はない、その上実在性も怪しい。オレがどうしても情報を得たくて手繰り寄せた、妄想かもしれない。……だが、それでも空の旅を今少し続けるんだ。四方山話程度でいいのだが……レクディは正しくはその名前ではないらしい。誰しもが最上の歌姫、レクディを讃える、だがその名前の本質さえも知らない。――レクイエムディーヴァ、その真名を」

 

「だからって、何なん? 歌うたいの芸名なんて何べんでも変わるやろ」

 

「オレもそう思ったさ。だが、このディーヴァと言う名前に引っ掛かりを覚えてね。少しだけ調べを進めてみた。無論、大した情報は出なかったが、ちょっとした噂話程度ならば。……レクディの生ライブはゲリラ的に実行される事も多く、その内実も不明だったものの、証言者が居てくれてね。彼はこう言ったんだ。“歌を聴いた観客のほぼ全員が怪物に変じた”と」

 

 二本目の煙草に口を付けた男は、一呼吸ついてからこちらに問いかける。

 

「これは恐らく、潜在翼手人類たるオニゲンの暴走だと、そう捉える事も出来たんだが……あまりに規模が大きい。それらを抑制するのは並大抵ではないだろう……そう思っていたところにね、貴様ら機関の根回しがあった事を確認した」

 

 男は一体、どこまで知っていると言うのだ。

 

 レクディにせよ、サヤにせよ。

 

 事実へと着実に肉薄していながら、どこか他人事めいてもいる。

 

「……なるほどね。翼手が一斉に生まれたんなら、サヤの大量投入でもあったんやろ」

 

「違うな。それは違う。いや、それもあったのかもしれないが……オレはもっと別の可能性を信じる事にした」

 

「別の可能性言うんは?」

 

 紫煙をたゆたわせて、男はきっぱりとした口調で言い放つ。

 

「さっき言っていた、爆弾だ。仮説だが、レクディの歌声にはオニゲンを翼手へと誘発する何かがある。それを機関も危惧し、そして今回、アシッドが手に入れた」

 

「けれど、その仮説やと可笑しいんと違う? レクディの歌って言うのは、普通に聴いとる人間やっているはずやろ?」

 

「それなんだがね。オレは専門家じゃないからよく分からないんだが……レクディにはそのコントロールが出来る、とすれば。生歌を聴いた人間だけにしか、その術はかからない」

 

「術、ね。胡乱な言い回しをするやんか。けれど、そうなるとより異常やろ。翼手化をある程度コントロールして発生させられる人間が居るなんて」

 

「オレも参っているよ、それは。だが、だとすればラビと七原文人が同時に接触したのも頷ける。翼手人類、ひいては機関のオニゲンにとってしてみれば、切り札を奪われたようなものだ。レクディの歌一つで戦場がひっくり返る。もちろん、抵抗の手立てなどほとんどないだろう。だからこそ、機関は今日までほとんどレクディに関して不干渉だった。だが、アシッドの手に渡ってしまえば話は別だ」

 

「機関のサヤを使っての、レクディの暗殺、くらいはするやろうねぇ」

 

 一服を終えた男は、自分へと語りかける。

 

「そこまで来たところで、機関のサヤたる貴様が釣れた……いいや、運良く見つけ出せた、と言うべきなんだろうな。だが任務はレクディの抹殺ではなかった。それどころか、王である七原文人に並々ならぬ執念を持っている。……オレとしてはね、正直なところで言うと、実直、いや、律義かな。これほどまでの恩讐は」

 

 眼が開いていれば真紅の瞳で射竦めていただろう。

 

 それほどまでにこの男は自分の神経を逆なでする。

 

 拘束服を解除するのに、もう二十分ほど。

 

 いざとなればサヤの血を覚醒させて一時的な狂戦士状態に持って行くのも不可能ではないが、この男は何か交渉めいた事を自分に提言しようとしているような気がする。

 

「……あんたさん、手のうち晒して、それで生きて帰れると思っとるん?」

 

「生きて帰る? 可笑しな事を言うな、貴様は。オレが目の前にしているのは機関の兵器だぞ? 翼手を殺すためだけに特化した、別次元の存在だ。それを前にして帰るなど。腰が引けていると言うのだろうな。だが、しかし、オレはこれでもビビりでね。貴様の放つ殺気を前にして、恐怖している。今にもチビりそうだ。だが、足を竦めさせるその恐怖心よりもなお色濃い、興味が。興奮が、オレを前に進めさせる。分かるか? 人間は何故、このエメトピアを構築し、鳥籠の安寧に甘んじる事にしたのか」

 

「問いかけ? なっとらんよ、それ」

 

「重々承知だ。その上で言わせてもらおう。人間は、かつて野を駆け回り、その手で獲物の血を啜っていた野生は、鳥籠の理想郷では意味がない。牙を折られた、空しいだけの生命体さ。しかし、そんな生物はね、この地上に存在し得ない。本能のところで、未だに人間は望んでいる。殺し合いを、剥き出しの戦闘本能、野生の象徴を。それこそが、オレ達の遺伝子に刻まれた爆弾そのもの。翼手人類の持つ、オニゲンと言う名の呪い。ヒトは、楽園に至ってなお、争いを捨て切れていない。だから、少数を弾圧するか、あるいは多数を討滅するかを常に選択し続ける。……分かり合えないのさ、翼手人類と少数の純正人類は。この世が生じたその瞬間から、闘争の運命を定められている」

 

 男は三本目の煙草に火を点けようとしていた。

 

 彼の漂わせる甘ったるい吐息に、思わず声にしていた。

 

「……そんな簡単に線引きなんて出来んよ。それが出来ていれば……楽園の王も、ましてや世界を壊す歌姫も要らんかったんやろうねぇ。でも、人間は争いを捨てる事なんて出来へん。出来へんから、こうして形を変えて、闘争を具現化させる。それがたとえ、翼手と人類の戦争でなくっても、何かと理由を付けて、争っていたのは違いないんやから」

 

「賢しくは成り切れん、か。辛いな、人類の宿業と言うのは」

 

「……で、あんたさんはどこへ向かっとるん? このヘリ、随分と飛んどる気はするけれど」

 

 男は細く長く息を吐いてから、パイロットへと言いやる。

 

「そろそろだな。相手からの出迎えもあるだろう」

 

 途端、ガタンとヘリが大きく揺れていた。

 

 装甲を撃ち付ける機銃掃射の音叉に、まさか、と絶句する。

 

「なんて賭けに……出るんよ……!」

 

「なに、言っただろ? オレは好奇心には勝てん。そして、生粋のギャンブラーなんだろうな」

 

『アマミヤ。ヘリを撃墜する。用意は出来ているか?』

 

 マフラーの下に巻かれた首輪からの伝令に、アマミヤはどうとでも答えられた。

 

 もし――ヘリが撃墜され四散しても自分の再生能力ならば復活可能だ。

 

 それに、ここで禍根は摘んでおくべき、と言う状況判断もある。

 

 だが、今の自分はそれを是としなかった。

 

「……本部へ。雨宮小夜の名において返答する。このヘリを撃墜せず、ヘリポートへと迎え。話はそれからやわ」

 

『……しかし、あまりにもその者、真実に肉薄しているように聞こえていたが』

 

 既に先ほどまでの会話は盗聴済みだろう。

 

 機関の方針としては、知り過ぎた人間を生かしておく理由はない。

 

「……再三、言わせてもらうわ。このヘリを撃墜せずに歓迎……とまではいかんやろうけれど、無傷でヘリのパイロットと目の前のいけ好かへんこの男を招致する事。それ以外は雨宮小夜の命令で許さんよ」

 

 一拍、互いに譲らない沈黙が流れる。

 

『……今しがた、ジョエルの命令が下った。そちらの要求を呑む。ヘリは、ロンギヌス機関が責任を持って誘導しよう』

 

 牽制銃撃が止んだのを見計らってか、それともこの事態を読んでいたのか、男は脱力した様子であった。

 

「……助かったようだな。空中で爆発四散、という事態は免れたようだ。パイロット! 怖い目に遭わせて悪かった! ガイドがある、それに従って行動してくれ」

 

 その言葉通り、ヘリは平静を取り戻して飛翔高度を取る。

 

「……ここで生かしたんは、ともすれば間違いやったんかもな」

 

「いや、助かった。オレには賭け以外の手段はなかったんだ。ここ一番で、いい目が出た、と思うべきかな?」

 

「どうやろうかね。あんたさんの命はこれから先、もっと過酷な運命が待ち構えているんや。ここで死ねへんかったのは、一番に後悔していくかもしれへんよ?」

 

「それはオレ自身の手で決めたいね」

 

 やがて、ヘリポートへと着陸するや否や、機関の構成員達がパイロットと、そして男を拘束したのが気配で伝わった。

 

 自分の拘束服は解かれ、黒服達が目線を交わしつつ通信を吹き込む。

 

「ジョエルへ。雨宮小夜が帰還した。判断を乞う。同行者の生死は?」

 

『まだ殺すな。……アマミヤ、君が生かせと言ったんだ。少しは面白味のある風に転がしてくれよ』

 

「それはまだ分からんよ。けれど……簡単に死ぬようなタマとは思えへんけれどね」

 

 アマミヤは目隠しを外し、後ろ手に完全に無力化された男へと視線を向ける。

 

 灰色の仕立てのいいスーツに、撫でつけたオールバックの髪はやり手を想起させたが、どこか幼さを消し切れていないような垂れ目に泣きボクロが輝く。

 

「……こうして対面するのは初めてか。はじめまして、雨宮小夜」

 

 機関の構成員達が力を籠め、軽口を封殺する。

 

 男は激痛に呻いてから、声を張り上げていた。

 

「おいおい! もう少し丁重にしてくれよ! オレは賭けに勝ったんだからな!」

 

「賭けに勝ったかどうかはこれから先に決まるんよ。あんたさんはようやく、賭けのレートに上がっただけに過ぎひん」

 

 こちらの返答に男は卑屈そうに微笑む。

 

「マジかぁ、それ――」

 

 手刀が首裏に叩き込まれ、男は昏倒する。

 

「アマミヤ、この男、オニゲンです」

 

「知っとるよ。知った上で、ウチに交渉材料を持ち込んできたんや。大層な肝っ玉やないの。……死なへん程度に本意を聞き出すの、あんたさんら得意やろ」

 

 カツン、とヘリから降りてアマミヤは十二年振りのロンギヌス機関の空気を肺に取り込む。

 

「さて……ウチが居らん間に、随分と知らん血のにおいが増えたやないの。サヤも、他の連中も」

 

 黒服達が頭を垂れ、傅いて自分の道を作る。

 

 アマミヤはヘリポートから先を、自分の足で踏み出していた。

 

 

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