BLOOD/EMETH   作:オンドゥル大使

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第八十七話 苛烈なる歌姫

 

「会いたいと願えば、会える。素晴らしいですね、レクディ」

 

 皮肉としか捉えようのない言葉にレクディは嘆息をつく。

 

「……あのね、これって軟禁って言うんじゃないの? 私、これでも一流アーティストなんだけれど」

 

 目の前の少女は本物だ、とラビは実感する。

 

 本物の歌姫――楽園を破壊する因子。

 

「……わたしは、あなたに会いたかった。十二年前からずっとだ。この意味がお分かりで?」

 

「熱心なファンならサインくらいなら書いてあげる。……でも、家に閉じ込めようなんて言うファンは初めてかも」

 

 レクディは相変わらず、その読めない蒼の眼差しで冗談にしようとするが、ラビは一拍の呼吸を置いていた。

 

「……あなたを知っている。十二年前、まったく見当がつかないわけでもないでしょう? あの日、機関からあなたを逃がそうとした、シュヴァリエが居た。名前をアンシェル。最古にして最強のシュヴァリエだった。そう……“だった”」

 

「アンシェル……ああ、そういえばそんな人も居たわね。でも、姉様と戦って負けたんじゃなかったかしら?」

 

「あなたは気づいていない。いや、気づいていて真実に肉薄するのを放棄しているのか、どうか」

 

 立ち上がったラビは周囲を見渡す。

 

 レクディはライブの白装束のまま、人差し指で形のいい唇を持ち上げて思案する。

 

「……私、何かした?」

 

「あなたとて、十二年間も逃げ切った、それは何者かの思惑が透けて見える。本来ならば、ロンギヌス機関によってあなたは処刑され、存在しないD因子のサヤとして抹消されていたでしょう。だが、運命はあなたを逃がした。アンシェルはあなたの事を、“ディーヴァ”と呼んでいたと、伝え聞いておりますよ」

 

「ああ、そうそう。それで私は、そこからアーティスト名を取ったの。ぴったりでしょう? レクイエムディーヴァと言うのは。記憶の中でしかなかった歌姫を、この楽園のみんなにも思い出して欲しかった」

 

 レクディの声は耳馴染みのいい、鈴を鳴らすような声だ。

 

 だが、その実、悪意に染まっている事をラビは感じ取って視線を振る。

 

「嘘でしょう、それも。あなたは復讐をしたかった。その人生の半分を牢獄で過ごし、そしてあなたに内在するD因子の血は、もう覚醒しているはずだ。……あなたはかつての記憶を取り戻しつつある。それはこのエメトピアが構築される前の、失われた煉獄の記憶を」

 

 レクディは瞳を細め、こちらへと尋ねる。

 

「……あなた、どこまで知ってるの? だって、私以外、知らないはずだもの。そんな事は。ああ、それとも聞きたい事はこれまでどうやって生きていた、という些末な疑問かしら? 案外、どうにでもなるのよ? 歌声さえあれば、アーティストなんて」

 

「……あなたはもう知っている。楽園を壊すのは、あなたの歌声そのものだ。この偽りに糊塗された理想郷、翼手人類が安寧と惰弱の中に生きる鳥籠、エメトピア。その馬鹿馬鹿しさにそろそろ勘付いている」

 

「買い被り過ぎよ。ねぇ、マネージャーを通して? 確かにあなた達について行くのは面白そうだったけれど、歌えないなら退屈だし」

 

「歌はもちろん、あなたの称号ですよ。しかし、今は少し待っていただきたい。……あなたが辿り着いたこの世界の真実を、わたしにも聞かせて欲しい」

 

 ラビは対面の椅子に座り直し、部屋の中でも高級品なソファへとそのしなやかな指先を伸ばしたレクディを視野に入れる。

 

 絶世の美女、あるいは魔性か。

 

 蒼き瞳は物憂げに伏せられ、今は訪れるべき時を待ち望んでいる。

 

「……私、信じてもらえないかもしれないけれど、たくさんの時を生きて来たわ。こんな、真っ白なだけの世界じゃない頃から。そうね……あなた達、信じるかしら? 世界が真っ赤に染まった事もあったのよ? 黒くて、赤くて、血がたくさん流れて。とても、美味しそうに熟れた果実のような世界を。……けれど、私の永遠も終わっちゃった。永遠を生きるかに思われた私の生はね、ぷっつりとある一瞬を境に途切れてしまっているの。その一瞬が……どうしたって思い出せない。他の事は思い出せるのに。アンシェルをシュヴァリエにした時の事も、二年ほど前に思い出したわ。……ねぇ、小夜姉様はどこ?」

 

「サヤならあの場面で対峙したでしょう? あなたを殺そうとした――」

 

「嘘は嫌いよ、あなた。私が尋ねている意味くらい分かるでしょう? “あれ”じゃない、“オリジナル”の小夜姉様よ」

 

 空気が凍て付く。

 

 レクディの真意を口にすれば、それだけで今の自分程度瓦解してしまうだろう。

 

 だからこそ――ラビは一拍の深呼吸の後に、立ち上がって椅子の背もたれを撫でる。

 

「……少し、時間が必要なようだ。それまであなたには、この部屋で留守番をしてもらわなければいけない。わたしとしても心苦しい……理想郷の共有財産であるレクディの歌声を独占するなど」

 

「……まぁ、いいわ。思ったよりも時間はあるみたいだから。端末を頂戴。この状況もステータスになる」

 

「言っておきますが、現在地設定はオフにしてあります」

 

 木製の机に差し出した白銀の端末をレクディは引っ手繰る。

 

「……いやだわ、これ。デフォルトの設定のままじゃない」

 

「どれだけでもカスタムしてもらって結構。少しだけあなたの自由を制限するのです、これくらいは」

 

「当然よ」

 

 そう言ったきり、レクディは端末の設定に躍起になっていた。

 

 ラビは一礼して部屋から出る。

 

 瞬間、声が発せられていた。

 

「レクディを拘束するのは難しくはありません」

 

「逸らないでください、わたしのシュヴァリエ」

 

 凝固した影が形状を伴い、アダムが出現する。

 

 黒いローブを纏い、影そのものである彼へとラビは一瞥を投げていた。

 

「……レクディに、いわゆる“前世”の記憶があると言うのは本当なのですか」

 

「“前世”とは。あなたも蒙昧な言葉に惑わされる。……しかし、中央庁に召し使えられていれば、嫌でも思い知らされますよ。楽園の王、七原文人。彼は十二年前、機関のエージェントだった。アダム、あなたも知っての事でしょう?」

 

 アダムは真紅の瞳を虚空へと投じる。

 

「……偉大な人物でした。しかし、まさか王だとは思いもしない」

 

「あなたは機関の構成員として育成されていた。その時に見知った情報もあるでしょう。レクディに関しては、ほとんど?」

 

 アダムは躊躇いがちに首肯する。

 

「……もっと早く、辿り着くべきでした」

 

「構いませんよ。あなただって、この十二年間、忙しかったのですからね。それに……こうも思っているのです。これも巡り会わせなのだと」

 

「巡り会わせ、ですか」

 

「……だってそうではないですか。あの時……十二年前のクラブドールで、わたしは死の淵を見た。血飛沫を上げ、縋りようのない現実に縋る、愚かで哀れな少女の事を、片時も忘れた事はない。彼女は綺麗だったのですよ、あの頃が一番ね。……先日は、まるで苛烈さを失っていた。アダム、覚えておくとよろしい。何も刃を鈍らせるのは、慕情や友愛だけではない。記憶と時間は、時には燃えるような復讐心でさえも、どこかに置き忘れてしまう」

 

「……重々、承知していますよ。彼女はあんなに弱かったはずがない」

 

「ですね、釈迦に説法とはまさにこの事だったでしょう」

 

 肩を竦めたラビはアダムを引き連れて歩みを進める。

 

 青白い月光の輝きが降り注ぐのは滅菌されたような玉座であり、そこには平時では決して相見えないような自分の兄弟達が集っていた。

 

「遅ぇぞ、ラビ」

 

 カルナの声にラビは軽薄に対応する。

 

「少してこずっていまして。やはり、あれでも“ディーヴァ”と呼ばれし存在です。説得には時間がかかりました」

 

「その説得とやら、少しは聞かせてもらいたいものだな。お前は最初から、レクディをあの場に呼び寄せ、そして文人様を危険に陥れた、その判断があったと見て間違いないと?」

 

 こちらを見据えるのは白いスーツを着込んだ偉丈夫の男性であった。

 

 白髪で、年の頃は自分より一回り上に映る。

 

 どこか猛禽類を想起させるような鋭い眼差しが、自分とそして背後に従うアダムへと向けられていた。

 

「……シリウスお兄様。わたしだってセクションからこっちへととんぼ返りして、彼女の説得なのです。少しは分かっていただきたい」

 

「貴方の都合は汲んだ上で、先刻の作戦展開だったのかを確認したいのよ、ラビ。私達を謀ったのだと思われたくなかったらね」

 

 ジャンヌも同席し、自分へと詰問の声を振る。

 

「謀ったなど……! まさか、そんなわけがありませんよ。わたしは常にこの理想郷の繁栄と秩序のために。それ以外の事を考えるような賢しさもございません」

 

「……どうなんだか。文人様、次は私が打って出ます」

 

 進言したジャンヌに思わずと言った様子でカルナが食って掛かる。

 

「ま、待てよ、姉貴……。姉貴が無茶をするこたぁねぇ! このラビにでもやらせりゃあいいんだ! シュヴァリエも連れているんだからよ!」

 

「……カルナ。私の決意を侮辱する気?」

 

 ジャンヌの瞳孔が真紅の眼光を湛える。

 

 カルナは後ずさっていた。

 

「……おっかない事はなしでいきたいんだよ……。ラビくらい手を打っておかないと、この間の裏切り者のサヤも確保出来なかったんだろ? 危険なんだよ、姉貴にはこの理想郷だって……」

 

「私が裏切り者のサヤ一匹、どうにか出来なかったのがそんなに不服……?」

 

 明らかな敵意が向きかけたのを感じ、カルナは声を上ずらせてこちらを指さす。

 

「こっ……こいつみたいなザマに成ったら、姉貴だって困るはずだぜ! 姉貴はもっと……自分を大事にしてくれ、頼むよ……」

 

 それが兄弟としての心からの懇願であった事も起因してか、ジャンヌは発しかけた殺意を仕舞おうとする。

 

「……でも、私にだってプライドがある。文人様にもしもの事があってはならないと、私のシュヴァリエを付けておいたのは決して無駄じゃなかった」

 

「それもどうなんですかね。確かにマハラル殿は強かったですが、あの場では文人様だけでも充分だった」

 

「ラビぃ……ッ! てめぇ、姉貴を愚弄してるのか!」

 

 カルナの腕が変異し、鋭い切っ先が突き付けられる。

 

「カルナ、玉座だぞ」

 

 シリウスが諫めるも、カルナは恥辱からか瞳は赤い戦闘色を帯びている。

 

「よしていただきたい。王の御前です」

 

「それがてめぇの言い訳かよ、ラビぃ……! 抜けよ、翼手化してオレと戦え……!」

 

「だから、やめていただきたい。あまりにも無節操だ」

 

「そう思ってんなら、腰巾着みてぇえについてるそのシュヴァリエでもやるか? 薄汚ぇ、気味悪ぃ姿しやがって……! そのシュヴァリエと殺し合いでもやってやるって言ってんだ!」

 

 興奮した様子のカルナへとラビは冷ややかな眼差しを向けた後、玉座に響き渡る声を聞いていた。

 

「――お静かに。文人様がお目覚めになられました」

 

 文人に付き従う従者――九頭の言葉に全員に緊張が走る。

 

 文人はゆっくりとした歩調で玉座につき、自分達を見下ろしていた。

 

「何かあったのかな?」

 

「……いえ、過ぎた事です」

 

 カルナが殺気を仕舞う。

 

 さしもの彼でも王の目の前で流血沙汰は避けたかったのだろう。

 

「文人様、前回の戦闘時、小夜との会敵はあまりにも危険でした。これから先はあのような事はございませんよう」

 

 シリウスの忠告に文人はうん、と一呼吸を返答する。

 

「小夜はとても強かったね。けれど昔のほうが遥かに強かった。あの時、あの恩讐……僕は今でも思い出す度に身体の奥から震える。小夜は僕を殺す事に、全霊を傾けていた。全て、そのために……。だからこそ、今はもどかしいね。小夜を独占出来ないなんて」

 

 ほんのそれだけの些末事のように語ってみせる文人へと、ジャンヌは提言する。

 

「……文人様。しかし、事態は切迫しています。エメトピア……理想郷でも押し留められないほどの“SAYA”感染者が居るとされている区画、セクション三番。通称“原生林”。確かカルナのシュヴァリエが討伐に向かっているはずですが、芳しくないとの事」

 

「それは確かに心配だね。増援を送ったほうがいいのだろうか」

 

「文人様、その心配はございません。敵は所詮、“SAYA”のキャリアーでしかない未覚醒者。機関が根回しをする前に駆逐すればよろしい。……ですが、次なる作戦は先回りしなければ文人様に危害が及びます。ましてや、囮のように扱うなど……」

 

 カルナの一瞥をラビは風と受け流す。

 

「前回、こちらへの協力姿勢があったレクディですが、少しばかり時間がかかるようです。その間、機関のサヤを一体でも多く減らすのが肝心でしょう。わたしとしては、一体ずつでは効率が悪い。アシッドの権限において、相手の展開した作戦を先読みして焼夷弾頭を使うべきと感じます」

 

「先読み……なんてそうそううまく行くかよ……」

 

 ぼやいたカルナを他所にラビは玉座の文人へと視線を向け続ける。

 

「……僕には戦術の事はてんでだけれど、それでも君達が楽園の明日のために尽力してくれているのは分かる。“原生林”への早期討伐部隊の編成と、そして小夜達の行動を可能な限り制していこう」

 

 そうなってしまえばカルナにしてみれば成す術もないのだろう。

 

 歯噛みして一歩下がった彼に、ラビは逆に一歩踏み込んでいた。

 

「……時に。文人様、わたしのシュヴァリエである彼の事をご存知ですか?」

 

 その質問はこの場に揃った全員を震撼させるのには充分であった。

 

 ――文人はかつて機関にて“デヴィッド”としてアダムの教育に関わっている、ならばこの文脈で、もしもの事があれば。

 

 王はしかし柔和な笑みで返答していた。

 

「……君は……すまないね、あまり顔を覚える機会がなくって。せめて名前を、教えてもらえるかな?」

 

 アダムが深く頭を垂れて傅く。

 

 だがその胸中は穏やかではないはずだ。

 

「……アダム、です。僕の名前は……」

 

 それがまるで縋りつくかのような論調で。

 

 しかし、それが彼にとっての最大の証のようで。

 

 文人は頬杖をついて一拍挟んだ後、ああ、と口にする。

 

「アダム君、か。覚えておくよ」

 

「――皆様、王との謁見はここまででお願いいたします。疲れていらっしゃるはずですから」

 

 九頭の一声でこの場は打ち切りとなったが、それでも兄弟達の胸中は穏やかではないはずだ。

 

「……おい、ラビ。オレのシュヴァリエが使えねぇからだとか、そういう事を考えてんなら……」

 

「おや? カルナ兄様のシュヴァリエは単一で大軍に相当するはず。それでも自信がないと仰いますか?」

 

「……てめぇ、ラビ……! いや、今はよしておくか……文人様がまだ完全じゃねぇ。こんな状態でてめぇを殺したって打点にもならねぇよ」

 

「怖い怖い。しかし、そうならば、まず、伝令を打つべきでは? 如何に“原生林”のキャリアー達がほとんど未覚醒とは言え、サヤには違いないのですから」

 

「あのよぉ、ラビ。……オレのシュヴァリエが負けるって言いてぇのか?」

 

「……もしもの時はあり得ます」

 

 僅かな睨み合いの末に、旨味がないと判断したのかカルナは舌打ちして身を翻す。

 

「やめだ、やめ。……てめぇ、いずれは痛い目を見るぜ」

 

「これはこれは。胸に留めておきましょう」

 

 カルナをいなした自分へと、シリウスが言葉を投げる。

 

「ラビ。……カルナをからかってやるな。あいつだって必死なんだ。確かに“原生林”での戦闘行為においては、あいつのシュヴァリエを置いて他に適性はないだろう。お前のシュヴァリエは機関の対小夜との戦闘においては未だに黒星なしだが、それでも限度はある」

 

「重々承知しておりますよ。……ところで、シリウス兄様。アンシェル、と言う名前を知っておいでですか?」

 

 これはある意味では勘繰り――しかも痛くもない横腹の。

 

 シリウスは一拍の沈黙を挟んだ後に、それはと口にしていた。

 

「音に聞く伝説のシュヴァリエ……としか知らんが……それ以上に何か?」

 

「いえ、ちょっとした雑談の種です。忘れていただいて結構」

 

 踵を返したラビは滅菌された中央庁の廊下を行き過ぎる際に、追従するアダムへと言葉を振る。

 

「あれは嘘ですね。シリウス兄様は何かを知っている。……シュヴァリエの種別だけではない、恐らくはレクディの事もある程度は知られているのでしょう」

 

「……ラビ様。僕は……」

 

 それよりもアダムの衝撃は大きかったようだ。予想が出来ていたとはいえ、彼にしてみれば青天の霹靂だったのだろう。

 

「……ああ、ですが、予測は出来ていたでしょう? ――七原文人は王としての器として相応しいあまり、十二年前以前の記憶が塗り替えられつつある。あなたの知るデヴィッドではなく、ましてやそれまでの人生でもなく、“七原文人”と言う楽園の支配者としての人格へと」

 

「……僕は別に期待していたつもりはなかった。でも目に前にしてみれば……」

 

「ヒトは脆い。だからこそ、傷つきそして時には互いに支え合う。美しいではありませんか。あなたにとって、七原文人以前の彼の記憶は宝石のようなものだ」

 

「……宝石。ですが、僕には何も出来ない……」

 

「悲観する事はありません。幸いにして鬼札はこちらにある」

 

 部屋へと訪れるとレクディは端末へと歌を吹き込んでいた。

 

 それは世界を滅ぼす歌――崩壊への序曲。

 

「あら? 帰って来たのね」

 

「レクディ、あなたには少しばかり退屈させるかもしれません。この部屋の中ならば好きにしていただいて結構」

 

「それは私に軟禁生活を我慢しろと?」

 

「平たく言えばそうです」

 

 レクディは心底つまらなさそうに嘆息をつき、自分の耳元へと今しがた録音した歌を聴かせる。

 

「……変ね。あなたは変わらないなんて」

 

「レクディ、戯れはその程度にしていただきたい。我々オニゲンにしてみれば、あなたの歌は爆弾のようなものなのですから」

 

「けれど、あなたは変異の兆しすらない。……何か隠している?」

 

「それはお互い様でしょう。あなたも隠し事があるご様子だ」

 

 睨み合いが続いた後に、レクディは肩を竦めていた。

 

「……いいわよ。ちょっとした休暇だと思えば。けれど、一つだけ」

 

「何なりと」

 

 一礼したラビに、レクディは女王の気質で口にする。

 

「姉様を私の前に引きずり出して。あんな醜悪な場所じゃない。私達は一度、向かい合わなければいけないのよ。それが血の宿命……」

 

「……あのサヤは、あなたの姉。それが何か意味を持つのですか?」

 

 問いかけにレクディは言い尽くされたかのようにうんざりして答えていた。

 

「何を言っているの? だって私がレクディなのよ? なら、姉様は“オリジナル”のはず、そうでしょう?」

 

 

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