ARMORED CORE V ―OASIS WAR―(改訂版)   作:キサラギ職員

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12、Dominant(後) 【傭兵ルート】

 

 すべてを思い出した彼女もといレベッカの操縦は冴えわたっていた。

 相手に翻弄されていたのが、逆に相手の動きを先読みするがごとく機体を駆り、移動先に弾丸を置くとでも言わんばかりの射撃精度を発揮していた。放たれるHEAT弾は敵の装甲を抉り、ライフル弾が装甲を剥がした。

 敵が自分と同じような目的で製造されたデザインドだとしても容赦はしない。むしろ、こんな戦うためだけに作られてしまったことが恥ずべきことのように感じられ、早急に終わらせてしまいたかった。同時に哀れでもあった。己が生きる道として自由意志のつもりで選択した戦いとは実は深層意識に刷り込まれた戦いの記憶だったのかもしれないのだと。そして、もし己の出自がアンジェリカならば、レベッカという名をくれたミグラントが壊滅した理由もまたアンジェリカだったからかもしれなかった。アンジェリカが襲いかかってきた理由は最強の証明とアンジェリカから離脱したレベッカという対象を粛清すること。名をくれたミグラントはアンジェリカの粛清に巻き込まれてしまったと考えれば合点がいく。なぜ追い詰めずに今の今まで泳がせられていたのかは定かではないが。

 唇を噛み締めると、眼前の敵の排除に集中する。

 否、排除ではない。八つ当たりだ。大切な人を死なせた理由がアンジェリカとして生まれてしまったことならば、原因を取り除かなくては、いつまでも終わらない。

 速射型バトルライフルの残弾が半分を切った。標準型ライフルには余裕があったが。

 敵の姿がぶれた。ブーストドライブ。アンジェリカ搭乗のnovem――9を意味する機体が横滑りをする。ボックスブースタの排出が毒々しい残像を引いた。パルスマシンガンが猛然と乱射され、レッドステインの移動先を真っ青に染めた。エネルギー弾が炸裂してダメージ領域を生み出した。

 レッドステインの装甲が過熱して赤くなったが、塗装が赤黒いため、変わりはない。

 逆にバトルライフルを撃ち返す。敵の装甲に張り付いたHEAT弾が深々と穴を穿ち内部を破壊した。致命傷にならずコアに傷が増えただけであった。

 ミサイルロック。四連射。ショルダーユニットが開くや四つの鏃を放った。ミサイルを撃ちすぎたせいで弾数残り僅か。驚異的な回避能力を見せるアンジェリカ相手には牽制にしかならない。

 ミサイルは接触を防ぐためやや広がりながら、敵機へと距離を詰めていった。だが戦場はビルが群れるコンクリートジャングル。ミサイルが障害物を躱して追尾できない以上、ACに対しては避け難いだけの弾に過ぎない。

 Novemの頭部カメラが僅かに発光を強めた。中量二脚の軽快な運動性を活かして大地を蹴ると、ビルの谷間の両左右を蹴りながら屋上へ到達。グライドブースト。振り返ることもせずパルスライフルを背面撃ちしてミサイルを粉々にすれば、背後から迫るHETA弾を進行方向基準左右へブーストを吹かしてやり過ごし、屋上の水タンク塔をなぎ倒しながら反転した。

 壁面を蹴り、屋上へ急上昇。逆関節型脚部備え付けのブースタが火を吐く。猛禽が如き機敏な上昇で追い詰めたはずの敵がこちらに向き直っていた。レッドステインとnovemが真正面から相対した。

 Novemのショルダーユニットが開くのが、なぜかスローモーションに見えた。直感に従いオートブースタ機能を停止。慣性落下に移ると見せかけて足元に標準型ライフルを四連射した。四点に穴を作られ、ACの重量と落下に耐え切れなくなった屋上が崩落。レッドステインが瞬間的に屋上に潜り込んだ。オートブースタ再起動。機体がビルの中に埋もれることを防止するだけの噴射により自重が緩和。

 刹那、ショルダーユニットから放たれた大型ロケットがレッドステインの頭上に推進煙の線を際立たせた。

 跳躍で瓦礫から逃れるべくペダルを蹴る。

 Novemが、敵が跳躍することを見越してロケットの射線を調整、再射撃した。

 

 「悪いけど使わせて貰う!」

 

 レベッカは、二機をまとめて始末しようと攻撃位置につきつつあったヘリを見つけると、ライフルの銃身を突き刺してロケットの射線へ投げやった。ロケットの信管が作動。ヘリが轟音をあげて弾けローターだけが面白いくらいに飛距離を伸ばした。

 ビルとビルの間に落ちる。レッドステインを狙ったロケットが次々着弾していき衝撃でビルのガラスが割れてナイアガラのように道路へと零れていった。

 敵を見失った。リコン投射。反応なし。音響センサに感あり。測定結果を目にするや即座に退く。前方へブースタを吹かすことで急後退。心臓がろっ骨を抜けるのではというGが肉体を苦しめた。きゅう、と吐息を漏らしながらもモニタを睨み、壁を蹴って得た勢いでコンクリートの表面をごっそり石礫に変えながら正面を敵に向けた。

 レッドステインへ、ビルのガラスのみを射抜く正確な射撃が側面から襲いかかった。距離は100もない。装甲を掠め表面の塗装が粉末となり機体が生み出す乱気流に踊った。

 こちらも、ライフルを撃ち返した。曳光弾の輝きがビルの内部で交差する。音速を優に超える弾丸の応酬である。ライフルの銃口から弾丸が繰り出されるたび、発射衝撃が大地を揺るがせる。ライフルとは名ばかりの戦車の複合装甲でも一撃で貫徹させる高火力砲弾が空間を切り裂き敵に放たれしかし無駄に終わった。曳光弾の残像はこちらから向こうへ、向こうからこちらへの二種類。光条は交わることもほぼ無く平行線を辿っていた。

 ビルを挟んでのライフルの撃ち合い。ACの火器にとってコンクリートの壁は遮蔽物にならず多少減衰するだけである。

 両者はハイブーストを吹かし地面をこんがり焼きながら離脱すると距離を離さぬまま大通りへと転がり出た。

 レッドステインが跳躍。斜め上方からライフルを牽制で放ち、バトルライフルを敵移動先へ運ぶ。距離50。FCSが機体からの情報と、銃独自のセンサからの情報を統合・合成して敵の現時点における移動先を計算してOSへと伝達し腕部を駆動させた。そして、取得情報はオーバーテクノロジーである映像技術によってコックピットへと三人称視点として出力されるのである。

 避けに転じたnovemへ、牽制と思わせるために意図的に的を外していた標準型ライフルの弾を集中した。弾は狙い違わず敵右ショルダーユニットを直撃。装甲を貫通すると、内部構造をぐしゃぐしゃにした。

 ――HIT。メインモニタに呑気な事後報告。

 ライフル弾が貫通したことでショルダーユニットをやられたnovemは、信じられないというかのように損傷個所をカメラで見遣り、レッドステインへ視線を移動させた。ショルダーユニットどころか腕部接続部が歪んで動作に支障をきたしていた。

 腕が使えない。アンジェリカの判断は迅速であった。腕を盾に、接近を仕掛けた。

 対するレベッカはライフルを腕目がけて連射。的確なリコイルコントロールで弾を集中させると装甲を穿ちコアに直撃弾を運んだ。鉄が炸裂した。弾の貫徹を防ぐべく装甲が自壊した証拠であった。

 

 『させねーぞ!』

 

 接近からのパルスマシンガンの直撃を狙い腕が動いたところを先読みしてバトルライフルを無事な方の腕目掛け発射した。HEAT弾は寸分の狂いも無く手元に着弾してパルスマシンガンの銃身をモンロー・ノイマン効果でミンチにした。

 Novemが銃を取り落す。壊れたパルスマシンガンから青白いエネルギー帯がじんわりと広がる様は幻想的でさえあった。

 通信。

 

≪………サードフェイズクリア。チェック終了。ファイナルフェイズ開始。動作読み込み開始……完了≫

 『試そうっていうのか。アンジェリカ………悲しいな。一つ間違えばおまえが私だったのに倒さなくちゃいけない。悪く思うなよ。恨め』

 

 片腕を酷くやられた敵機に向かい無線で語りかける。レベッカの声は平坦であったが、顔は悲壮感で歪んでいた。

 アンジェリカはまるで感情のうかがえぬ声で言い返した。

 

 ≪プログラム最終レベル。ターゲット確認。排除開始≫

 『アンジェリカは最強を証明するまで止まれない――!』

 

 コア目がけた射撃を実行した。敵は死んだ……はずだった。

 被弾した右腕が爆砕ボルトで排除された。バランスが崩れレベッカの射撃が僅か数cm横を抜ける。novemは異常な速度でビルの柱に腕を突っ込むと、あろうことか鉄骨ごと引き抜いた。機体各部から強烈な電流がほとばしり頭部パーツが炸裂して装甲の幾分かを落とした。本来なら冷却されておくべき機体装甲が白熱して冷却液が蒸気となって噴出する。メインカメラが爛々と狂気を宿した。腕部パーツから青白い電流が無造作に伝うと柱へ通電してコンクリートを粉砕させた。柱はあたかも神話に登場する神々の武器のような光を放ちACという兵器の腕にあった。

 通信からはノイズしか聞こえてこない。

 背筋が総毛だった。咄嗟にグライドブーストで横に躱そうとして、もう目の前に柱が迫っているのが見えた。ぶん、ではない。空気が破裂するような音が周囲に響いた。雷の剣と化した柱がレッドステインを僅かにそれて大地を熱したチーズのように綺麗に分けて民家の数棟をもろとも火の粉に変えた。

 Novemが炎上し始めた。ジェネレータのリミッターを解除して過剰なエネルギーを引き出させているのである。冷却が間に合わず機体が悲鳴を上げていた。それは搭乗者であるはずのアンジェリカの入ったカプセルをも熱していた。

 Novemは剣を地面に引きずるようにして強引に速度を落とすと、背面部ブースタから赤い火をあげながら、向き直った。歩くたびに装甲や部品が滑落してフレームが露わになっていった。

 

 『無茶苦茶だ!』

 

 痛々しい姿にレベッカが息を飲む。

 これが最強の証明のためであるならば、なんと無残なことか。

 第二発目を叩き込まんとnovemが柱を上段に構えた。硬直。数秒後、柱を握る腕ががくりと垂れ下がり、機体は本格的に燃え始めた。柱を剣のように使っていた僅か数十秒前と違い制御の失われた自然任せの燃焼を。Novemの赤黒二色の塗装は瞬く間に剥げて黒に埋もれていった。

 無線を通じたデータ送信許可を求める文がパネルに表示された。イエスを選択するとメモを取るまでもない極めて短い文章が流れた。レベッカはそれを無意識に保存した。

 実のところ、Novem自体はまだ動くことはできた。中身が耐えられなかったのだ。アンジェリカは肉体を排除した脳だけの機械と化していたが、しょせんは人間なのだ。機体が燃え上がるような温度に晒されて耐えられるはずがない。もし遠隔操作か機械操縦ならばもうしばらく持ちこたえただろうが。

 アンジェリカは死滅していく脳細胞を無視してプログラム通りに無線に言葉を伝えた。操縦席の生命維持装置は既に機能を停止していた。

 

 ≪ここまでが私の役割。あとは≫

 

 カプセルに亀裂が走り内用液が零れ出す。熱に晒された液は蒸気に状態変化するとカプセルを侵し始めた。アンジェリカという生体が境界線を越えて物体へと移り変わっていく。

 

 ≪あなたの…………やく………………≫

 

 Novemの姿勢制御を担う装置が壊れたか、前のめりに倒れこむ。Novemは、最後にコアから青白い光を放ちながら炸裂した。部品という部品が道路上に転がった。粘ついたオイルが血液のように水面を構築するも燃えて影も留めず大気に還っていった。

 レベッカは我に返ると送信されてきたデータに目を通した。経度と緯度。画像データ。以上が送られてきたすべてだった。

 ジャミングが弱まったことを示す文章がスクロールした。

 途端に通信がつながった。バーラットと雷電のオペレーターである。

 

 ≪応答せよ! 応答せよ!≫

 『通信クリアー。聞こえるか?』

 ≪やっとつながったか。レッドステイン。作戦変更だ。所属不明巨大兵器が動作を停止した≫

 『なに?』

 

 間抜けな語尾の上がった疑問符を浮かべたレベッカは、砲撃の音がやんでいることを知覚した。TYPE Dの唸り声がやんでいるのだ。ほぼ同時期にTYPE Dとアンジェリカがやってきた。もしかするとアンジェリカを製造した勢力はTYPE Dをも運用していたのかもしれなかった。

 ジャミングが消えたのでリコンを再投射して周辺警戒を通常モードに切り替えた。

 

 ≪バーラット、雷電両ミグラントによる命令が下った。巨大兵器には手を出さずオアシスを始末するぞ。移動先を指定する。急行せよ≫

 『分捕りましょうってか、はいはい頭のよろしい指揮官がたくさんいるようで。了解。レッドステイン、通信終わり』

 

 宿命の戦いがあった後でも、依頼内容は続いていた。

 レベッカはアンジェリカの乗った機体がガラクタに変わっていくのをモニタで観察していたが、やがて機体を走らせた。

 オアシスの戦力は残り少ない。さほど時間もかからないだろう。

 レッドステインの上空をF21Cの無骨なシルエットが横ぎった。ローターが生産する下向きの風が火の粉を宙に巻き上げた。暗闇に不規則な光の点々がちらついた。

 

 

 

 オアシスの戦いはバーラットと雷電の同盟軍によって決着がついた。

 結論から記すと、オアシスは滅亡した。

 最後まで抵抗を続けたキリエ代表と部下たちは施設に立てこもり白兵戦も辞さない構えであった。毒ガスまで投入されて制圧が図られたが時間だけが悪戯に過ぎるばかりであった。最終的にオアシス中心部で謎の爆発が発生。キリエ代表は死亡し、部下たちは逃げるか捕まるかの二択であった。不思議なことにオアシスの水は枯れて植物が育たなくなったという。戦いのさなか鹵獲されたTYPE Dを巡ってバーラットと雷電は揉めに揉めて戦が始まった。両者の戦いがどうなったかなど彼女は知らない。賞金さえ貰えば用はなかったのだ。水の枯れたかつてのオアシスで血を血で洗う戦いが続いていることだけを耳にして。

 

 

 ――――――

 

 

 アンジェリカから受け取ったのは、とある施設の座標だった。画像には岩山にしか見えないものの巧妙に隠ぺいされたゲートがあることが示されていた。アンジェリカ最期の言葉から物事を察するのは容易ではなかったが、行くべきであることだけは理解した。

 おそらく、これが最後の戦いになるだろう。

 自宅兼格納庫に戻った彼女はレッドステインのすぐ隣でツナギを着て胡坐をかいていた。

 ―――あなたなら勝てますよ。

 レッドステインがそう勇気づけてくれた錯覚がしたが、ありえないと首を振って水を口にした。不思議と酒を飲む気分ではなかった。むしろ、飲めなかった。

 最強を証明するために作られた少女は戦いについてふと疑問を抱いていた。

 

 「最強かー…………んなもん証明してどうするんだっての」

 

 やもすれば自己の存在さえ否定しかねない疑問。当時の人間は既にいないだろうから正確な答えは知りようがないだろう。先天的に、つまりあらかじめ才能を持って生まれた人間を量産することで戦場を支配する発想。身もふたもないが生産力の失われた現代では量産などできず食いつぶすだけである。最強を証明したところで誰が得するでもない。戦場は普遍なのだ。

 なぜ、戦うのか? なぜ、最強でなくてはならないのか? なぜ、可能性があると信じたのか?

 あえて言うならば。

 むっつり唇を結んでぼーっとしていたレベッカは息を大きく吸い込んだ。

 

 「復讐以外にないよな。むかつくからぶっ壊す。どうせ、私にはそれ以外できないんだから」

 

 座標にあるという施設を破壊する。そして過去を清算する。

 戦いの意味なんてそれで十分だ。哲学を語っていられる現実は大昔に死んだのだ。

 レッドステインをじっと見つめていた彼女はいつの間にか眠りに落ちていた。

 




次回、最終回。そしてエピローグへ。
『Last duty』。

What are you fighting for?









とカッコイイ後書きの後に真の後書きを乗せるフロム特有の隠しパーツ的なやり口
完結にこぎつけるためにゴリ押していきます
勢い失ったらおしまいなのだ
メインは傭兵としてなのでオアシスはあっさり描写しました
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