白刃の流星   作:夜鷹ケイ

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24.長期遠征

 びゅうびゅうと雪風に吹かれながらタルタリヤは機材を構える男女の団体を見やる。暴れまわる雪山の魔獣討伐の帰りであった。護衛任務ではなかったから守りながら戦うなんてことはしなかったが、どうやら護衛用の兵士は連れて来てくれたようで後ろをきにせず戦えたのでとても良き時間を過ごせたのだ。

 パシャリと音がなったそれは光がなかった。通りで動きやすかったわけだと納得しながら焦げ目がつかぬように手を動かす。出来上がったものから片っ端に渡して、最後の一つを手に取った。

 

 

「仕事熱心だね。」

 

 

 氷の女皇陛下もお喜びになられることだろう。良いことだ、と焼いたばかりの肉を大胆にかぶりつきながらタルタリヤは言った。

 雪国の出身であったとしても、雪が降り積もった山を歩くのは至難の業である。子どものようにまっさらな雪に足跡を残す遊びをしたり、遠くの獲物を苦手と称する矢で射貫いてみせたり、スイスイ泳ぐように自由に闊歩する「公子」は、それだけで実力が垣間見えた。

 ぱちぱち爆ぜる焚き火の中で容赦なくゴウゴウ焼かれるそれは、先ほど狩られたばかりの魔竜の肉であった。嚙み応えはあるけれど、ありすぎて食べにくくて時間が掛かってしまう。焼いた分を食べ終わるまでは移動しないと「公子」が言ったから、案内人たちもご同伴に預かっていた。公子がかぶりつくそれではなく、野兎を焼いた肉の方だったけれど。

 

 

「……かための辛口が好きな「隊長」や「道化」ならたくさん食べれそうだよね。」

 

 

 ステーキにして優雅にナイフでも入れて食べてそう。と言ったから、それらをお土産にするようだった。食の好みに良し悪しは相変わらずないのだが、自分では加工しなければ物理的に食えないと判断したようだ。

 それでも腹を満たすには十分な量であったし、巨大な獲物を移送する為の部隊も到着したから行動に移る。重めの武装集団―――あれは「隊長」の部隊だったかな。案内人を派遣した市長である「雄鶏」の部隊ではなく、圧倒的な武を誇る「隊長」の。

 それはつまり、制圧するべき何かが近くに居ることを指す。「ふうん?」興奮冷めやらぬ瞳を弓なりにしならせて、「公子」は言った。護衛としてしっかり町まで送り届けるけれども、執行官としての仕事を優先する。切り捨てるつもりはないので、ちゃんと隠れるようにと。最低限の注意はしただろうと遠慮なく雪原を走り回った。

 やんちゃに雪原を駆け抜ける栄光の白銀は、執行官の名に恥じぬ動きであった。兵士たちが敵を発見するよりも早く風が吹き抜け、金茶色とともに閃光が走る。

 まるでただの手遊びのような軽やかさと磨き上げられた歴戦の技術の鮮やかさが噛み合って、人の心を掴んで離さない。―――否、本人としては掴んだつもりなどまるでなかった。容赦なく遠慮もなく、危険を前にしても一切の躊躇なく、真っ新な雪原に足跡を残す、そんな遊びを好む子どものように走って飛んで跳ねて散々遊びつくして満足すると自由気ままに次へと進む。彼にとってはたったそれだけのことなのだ。

 引っかきまわした自覚のないまま、好き勝手にかき回して自由に立ち去る。「恐ろしい方だ。」案内人のひとりが孫を見るような眼差しで言った。同意するように頷き合ってそれぞれが最年少の執行官「公子」のおそろしさを称賛する。なんとなく照れくささがあった。

 怖がられているんだよね、と理解しながらも違う意味に聞こえるそれをタルタリヤは放置した。戦えさえすればどうでも良かったからだが、そういうところである。

 

―――…

 時は変わって、スネージナヤパレスの一角。

 他国からアフターヌーンティーの文明を取り入れた温室で淑女をメインに執行官が近況報告という名のお茶会は、最少年の子どもの顔を見るための参加であることは淑女のみが知るところ。参加者はたった二人になってしまったがすこし前には散兵や召使が居て四人での休息であった。

 

 

「……雑誌? 執行官の?」

 

 

 国家機密の情報だから本名も年齢も伏せると言われたから、わざわざ散兵に家族や故郷の人たちへお知らせを頼んだのに。今頃は冒険者の年齢も名前も消えていることだろう。

 

 

「ええ、そうよ。あなたを主体とした執行官の雑誌を売り出すことになったの。」

 

 

 決定事項、となると氷の女皇陛下がお決めになったことなのだろうと理解した。会議の間には討伐に向かってたでしょう、と言われては身に覚えのある会議通知を頭に浮かべてコクリと頷く。件の会議が終わってから雄鶏から受け取ったことは未だに根に持つ案件である。

 

 

「それって、ああ、広告塔ってこと? パンタローネが言ってたスネージナヤ観光客呼び込みキャンペーン用?」

「まあ、……似たようなものね。」

 

 

 それならお勧めの場所があるからと言って、タルタリヤは富者のもとへ企画書を持って行った。フォンテーヌで起業したスネージナヤの会社の宣伝である。有志を募ったら意外と集まったからそのままの流れでやったのだ。お金に関するマネージャーである彼ならば、特産物のように国ごとの目玉商品の案をピックアップしてくれるだろうと思ってのこと行動であった。

 すでに案はあるので、あとは告知など含めた宣伝をどうするかが悩みどころであったのだ。冬はスネージナヤの良いところでもあるのだし、会社の見学だって受け付けているのだから絶景ポイントでもあるだろう。

 展望台や屋上から見える景色は、白の世界をより一層うつくしく見渡せる場所でもあるから。案を前に、どう? どう? と興奮のままに頬を赤らめてアピールするそれを富者はにこりと微笑んで受け入れた。仕事が増えたと言っても、タルタリヤの追加なんてものは可愛いモンである。モデルや写真があるのも良かった。他の連中はなんかうまいことやってという丸投げなので。

 雄鶏のコレクションから幾つか引き抜き、笑顔のタルヤリヤばかりだったから無表情のものや真顔のものを差し込んでみるとしようと方向転換を決定づけた。なお、この雑誌の発売後タルタリヤは一定層からの人気を獲得することとなる。淑女は鞭をしならせて、富者は新たなモラの気配にきらりとした。

 淑女の炎と召使のナイフに追われた富者は仕方なしにそっち方面の売り出しを諦めたが、隙あらばを狙っては散兵や雄鶏やら、まさかの隊長や道化からのストップが入った。女性執行官の様子に怖がった公子から契約書をしたためさせられることになったのはまったくの誤算であった。

 璃月の法律家から自衛のためにやった方が良いとアドバイスを貰ったのだと言った表情は、神妙なものである。「変なことはしたくない。」何処から何処までが変なものか公子の認識を基準とするようなそれであるため、富者は迂闊なフリが出来なくなってしまった。

 

―――…

 そして、執行官たちの間をたらい回しにされること数年。すっかり少年から青年へ、と言ってしまえる変化はマァあったと言えるだろう。あどけなさを残したまま見た目だけは大人の仲間入りを果たした少年は、青年と呼ばれるようになった。

 一応は酒を飲める年齢ではあるから、大人と言っても……。仕事以外では飲むなと叱られる具合から、どうなのだろうとは思ったが。

 

 それだけの月日を経て我らがスネージナヤの氷神より命令が下る。愛すべき冬の執行官「公子」タルタリヤも、とうとう他国に置かれた北国の営業へと本格的に係ることとなったのだ。

 なお、謎の尾びれは「召使」のところのマジシャンたちによる悪ふざけである。それを会議中に「召使」が真正面から言ってきて、「雄鶏」が気に入って雑誌に使用されたフレーズであった。船の中で揺られながらそこかしこで聞こえてくるそれに、羞恥から部屋に閉じこもってしまったのは余談である。

 あまりの恥ずかしさに会議の内容のほとんどを聞き流してしまったが、スネージナヤの氷神様からのお言葉は聞き逃さなかったのは流石の忠誠心。「公子」タルタリヤが与えられた長期任務は、岩神の神の心とやらを貰うことであることを念頭にその他の職務をなぞった。基本的なものは北国銀行・璃月支店での仕事だ。

 

 

「えっと、璃月にある北国銀行の運営……「富者」からの仕事か。」

 

 

  富者から預かる北国銀行・璃月本店の運営は、あまり手を付けなくても大丈夫。むしろ、そちらの面では素人である公子が下手に口を加えたら余計なことになるだろう。

 現状で安定してる以上、最終的な決定以外では富者直下の経理やら会計やらの担当に任せきりにした方が良さそうな程であった。それなら日付順に書類をまとめ直してもらって確認する感じでも大丈夫かな。アンドレイに整理を任せて、次の書類へ手を伸ばす。

 

 

「雄鶏のは……調査任務か。」

 

 

 雄鶏からの引き継ぎは、璃月にある深淵調査の部隊のみ。報告が一度も上がって来なかった場合は斬り捨てろと言われたが、無事かどうかの確認はするべきだろう。

 もしも、その部隊がまだ使えそうならば貰う旨だけは報告書に挟んでおく。ファデュイへの加入者が多くとも、実働部隊として動かせるほどの実力者は少数なのだ。優秀な人材ほど上位の執行官たちに引き抜かれてしまうから、十一位のタルタリヤにとっては、こう言った明確な人材確保は貴重かつ重要な財産となる。半ば強行する形で調査を決行したと聞くから、彼らの安否確認は早急に行うべきだ。

 雄鶏が編成した部隊名簿をタルタリヤ直属の部下エカテリーナに預け、名前のある兵士たちの安否確認を命令とした。早急な案件であることを伝える代わりに、「公子」用の印鑑を押しておく。公務員の正式な仕事として受理した旨を周囲に分かりやすくするものなので、これで璃月での面倒な手続きの類は滞りなく進められるはずだ。

 

 

「エカテリーナ」

「はっ。」

 

 

 恭しく受け取ったそれを彼女は目を皿のようにして確認し、バインダーに挟み込みながら他の兵士を手招き耳打ちする。ああ言った迅速な対応は、優秀なファデュイである証だった。淑女のところから引き抜けて良かったと思う。

 彼女を引き抜く際には、苦虫を噛み潰したようなしかめっ面を受けたが、事務仕事が苦手なタルタリヤの為に条件を満たせば好きな部下を譲ってくれると言ったのは彼女だったので、遠慮なく、数名ほど頂戴したのだ。―――…それに、彼女は少年時代のタルタリヤが帰国する頃に気遣ってくれた人でもあったし、安心感があったから。理由を言ったら彼女は好きにしろと言った。

 前者二人からの依頼のほかで目立つものと言えば、あとは召使の依頼だろうか。身寄りのなさそうな子どもたちを保護し、スネージナヤまたはフォンテーヌへ送ってほしい旨のそれは急を要するものではなさそう―――と言うよりも、これはもろに個人的なものだ。

 適当にスラムに目を付ければ保護して送り届けるだけでも良さそうだけれども、公子と召使の思考は似てるようで違う。歪んだ愛情を向ける召使とは違って、公子は意外とまともな感性の持ち主であった。子どもは守るべき存在である。それがタルタリヤの考えなのだ。彼女のもとへ送り届けたら確実にスパイ・エージェントになってしまうから、依頼書の裏側に大きく「やだ」の二文字を綴って普通の便で送り返した。

 隊長や博士からの依頼は、遺跡守衛の研究所を幾つか放置したため、それの掃討。及びファデュイの兵士たちを巡回させる治安向上のメリットを掲示した上で、スネージナヤの郵送経路を確保。貿易に絡めれば、璃月領土の探索も可能になるだろう。

 他に何か意見があれば寄せてもらうとして、北国銀行・璃月支店のオフィスで行う、ひとまずの引き継ぎや確認の作業は以上で問題なさそうだろうと部下を横目に見る。現状の予定としては、どうだろうか。

 

 

「ええ、流石です。公子様。」

 

 

 数百年単位を生きる淑女のもとから、ただの人間の公子のもとへと降った部下の表情は少しずつ和らぎ、最終的には見るからに安心したものとなった。

 意見を取り入れる柔軟性を見せたからか、執行官としての好印象を植え付けられたようだ。他の執行官たちならばスケジュールを尋ねた時点で人としての尊厳を完膚なきまでにされるのだから当然と言えば当然なのだろうけれど。

 決して嘗められているわけではないと言うのは仮面越しであったとしても突き刺さって来るから眼差しで分かる。そこまで慕われる理由は分からなかったが、すぐさま解決した。テーブルの上に乱雑に置かれた雑誌は武器特集である。

 何なら会議の小休憩に部下たちから強請られる話題は公子タルタリヤがスネージナヤで築き上げた輝かしき武勇伝であったから、璃月に配属されたばかりでも慕われるのはそう言った側面を好む傾向にあるのだろうと理解した。似たような感覚の仲間たちが集うなら、璃月での仕事もなんとかやって行けそうだと安心する。自分も理解のある方面で本当に良かったとにこりとした。

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