星渡りの少女~TS転生したポンコツ美少女天使は故郷と地球の架け橋となる~ 作:イワシロ&マリモ
「確かにお預かりしました。経過観察には万が一を想定して、地球時間で一週間程度の御時間を頂きますが」
「お願いします」
美月さんの娘さんである美咲ちゃんの病気を治したのは良いけど、やっぱり不安だったから美月さんの許可を貰って月の居留地にある医療施設で経過観察をすることになった。
治癒魔法の勉強は頑張って来たけど、実践したのは初めてなんだから万全を期するのは当たり前だ。
「最初に行った簡易検査の結果、体力そのものが低下していますから身体面の改善も同時に行いましょう。任せてください」
セシルさんが請け負ってくれたから安心だ。ラーナ星系の生き残りには医学に秀でた人も居たからね。私のぶっつけ本番の治癒魔法で見落とした部分も治してくれるだろう。
「ありゃりゃ?ティナちゃん、ちょぉっと目を離した隙にまた人助けをしちゃった?☆」
セシルさん達にお願いしてると、テクテクとばっちゃんが歩いてきた。パタパタしてるのが当たり前だから、ある意味珍しいかもしれない。
「美月さんの娘さんを助けたんだよ。これは私のワガママだから、誰も悪くない」
「んふふ、ティナちゃんがそれで良いなら私は構わないよ☆」
「怒らないの?」
「なんで?ティナちゃんがしたことは善行だよ?正しい行いをした娘を怒る理由なんてないよ☆」
私がしたことは、明らかに不公平な特別扱いだ。そう見る地球人も少なくない。
だって、苦しんでいるのは美咲ちゃんだけじゃない。たくさんの人が今も苦しんでいる。私には皆を助ける力はない。
でも今回美咲ちゃんを助けた時点で、不公平になる。美月さんを攻撃する口実を与えたようなものだ。
秘密にするのも限界があるし、その事でばっちゃんに怒られるのは覚悟していたんだけど。
「気にしなくて良いんだよ、ティナちゃん。この行動はこれまでと変わらない奇跡として処理されるよ。
それでも文句を言う地球人は居るだろうけど、それは気にする必要はない。
ティナちゃんの心情を悪くするだけだって理解できないようなおバカさんには、手を差し伸べる必要もない」
「ん……分かった」
全てを救えないし、悪意は必ず向けられる。パリ以降の出来事で学んだティナはティリスの言葉を素直に受け止めた。
全てを救えないと自覚したからこそ、自分の意思で命の選別を行う。傲慢であるが同時にとても人間味のある判断でもある。
自分の大切なものより他を優先するような者は地球に於いて極めて希少な存在であり、だからこそ理解を得られたとも言える。
ティリスとしては、ティナの善行に異を唱える地球人にまで限られたリソースを振り分ける必要性を見出せない故の助言であるが。閑話休題。
「美咲ちゃんについてはセシルちゃんに任せるとして、ティナちゃんはもうしばらく月で過ごしてね☆
あっ、条約締結については心配しなくても大丈夫だから☆」
「そうなの?分かったよ」
同じ頃、地球にある国連本部では日夜議論が続いていた。ザッカル局長は地球側の事情を鑑みて回答期限の延期を提案、政治的な混乱が発生している各国は全会一致でこの提案に飛び付いた。
とは言え、本国が混乱していても外交は続くものである。
各国大使は本国と密に連絡を取りながら、友好国や周辺諸国との会談を重ねて連携体制の強化を図っていた。
アード側が提示した条件について概ね同意する流れとなっていたが、ここで異を唱えたのは中華とそれに連なる国家群である。
「火星には我が国だけではなく、複数の国家が派遣した探査機が今も活動中であり、この事実は火星の領有権が地球側にあることを明確に示している。
故に、アードによる火星の領有権主張には同意できない。
よって、火星の扱いについては地球の共有財産としてアード側へ租借することを提案する。
我が国としては、火星は租借地としてアード側が利用して相応の対価を地球側へ支払うことが、国際的な慣習としても合理的であると判断する」
この中華の主張は必ずしも出鱈目ではない。事実として、火星表面で活動中の探査機は十を越えているし、軌道上にも探査衛星が四機稼働している。
そして、これら探査機の半分以上は中華のものであることが問題を複雑化している。
中華は統合宇宙開発局に参加していながらも独自の宇宙開発を継続しているのだ。
「貴国の主張は理解できた。しかしながら、アード側は既に充分すぎる程の対価を提示している。この上何を求めると?」
既にアード側が、技術供与や協力を惜しまないことを明言しているのもまた事実である。
「アード側が地球上へ移住する際の誘致権限を頂きたい。現在火星で稼働中の探査機の数、そしてこれまでの実績から、我が国の宇宙開発における貢献度は極めて高いのは紛れもない事実である。我が国が優先権を持つことに疑いの余地はない。
無論、土地を含めて必要なものは全て我が国が用意させていただく。
アードの皆様が快適に過ごしていただけるよう、誠心誠意対応することをここに宣言する。
火星開発に合わせて我が国が用意した移住区へ複数の方々を招き、地球のことをより深く知っていただくことが、今後の交流に大きな弾みを与えるのは疑い様がない」
合衆国を筆頭とした諸国は、中華の狙いを正確に理解していた。
だが、小国ではあるが少なくない国家がこの主張に賛意を示したことに頭を悩ませることとなる。
とは言え、アード側は地球の常識からすれば既に有り得ないほどの譲歩を示しているのだ。
これ以上の譲歩を迫るのは悪手である。合衆国大使が口を開いたその時。
「我が国は、中華の意見に見るべきものがあると判断する。幸いにしてアード側は期限の延期を申し出てくれた。
この件は地球全体に影響を及ぼすため、もっと時間をかけて議論すべき案件であると判断し、明日以降への持ち越しを提案する」
これまで沈黙していた連邦大使が、突如として横槍を入れたのだ。
議会をリアルタイムで視聴していたブレンチョフ大統領が、直々に連邦大使へ指示を出した結果である。
まさかの二大国による反対意見で、本日中に意見を纏めたかった合衆国と日本の思惑は完全に潰されてしまった。
「では、本件については明日以降も議論を重ねることとして、本日の会議は閉会とします」
紛糾の様相を見た議長によって会議は終了、水面下での外交戦が始まる。
中華を中心とした国々は、連邦による掩護射撃に手応えを感じていた。
だが、彼らは失念していた。外交とは常に相手の思惑も絡むという初歩的な論理と、そして会議そのものがアリアによって監視されアード側に筒抜けであると言う事実を。