原作第一話だけを改変。英梨々ルートにしてみました。



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原点回帰して、原作にそった文章とテンポにしてみました。

ポンコツヒロインとして名高い英梨々も、少しの勇気と素直さがあれば・・・
こんな風に倫也と結ばれた未来があったかもしれない。


【短編】冴えない彼女を育てない

「舞台は日常の学校で、場所はそうだな・・・視聴覚室とか」

 放課後の教室には窓から気持ちいい風が吹き込んでいて、春の訪れを感じさせる。

「で、その視聴覚室が完全デジカル化のせいでCD再生装置がすべて破棄されることになるんだけど・・・」

 窓からは下の階の吹奏楽部のバラバラの音がときどき聴こえてくる。

「そんなわけで、主人公は原点回帰して高校2年生がいいと思うんだ・・・」

 その騒がしい音のせいで、なんだか落ちつかない。もう少し静かな場所で話しがしたかった。

「そんな主人公の元に、亡国の姫君が逃亡してきて・・・」

 俺の悩みぬいた末の想いとともに、声が響いては消えた。

「言い忘れたけど、その世界では『原作』と『創作』が混同した『イデア』が存在してて・・・」

 

「ねぇ・・・」

「あと、時間も繰り返していて、ヒロインには3人の優秀な執事がいるんだけど・・・」

「あのさ・・・」

「そんな中、主人公は自分の目的を果たすために、なんども自分が主人公の物語を書いていて・・・」

「ちょっと・・・」

「あっ、ついでにヒロインの属性はしっかりと掘り下げられていて・・・」

 

「いい加減黙りなさいよ!!」

 

「うわ!?そんなに突然大声出すなよ、吹奏楽部に迷惑かかるだろうが」

 

 俺の3年間悩み抜いた言葉が、理不尽な大声によってかき消された。

 

「なによ。淡々と意味不明な物語を3年間も作り続けて、その話しを無かったことにした話をいまさら作れって言うのかしら?」

「そんなに経ってたか・・・」

 カレンダーを見ると、確かに3冊分消費されている気がする。あ、俺、物事を歴史的に捉える人間だから日付とか興味ないんで。

 

「とにかくもう帰る。まったく、これ以上なく、無駄な時間を過ごしたわね」

「いや、ちょっと待てよ。少し落ち着け。まだ話しは・・・」

「なによ。いきなり何の前触れもなく放課後の視聴覚室に呼び出されたと思ったら、こんな分厚い企画書見せられて、意味不明な役に、理解不能な迷走、おまけにコメントゼロなんて、そりゃブチ切れたくもなるわよ」

「いきなり前触れもなく放課後に呼び出したのに、のこのこと顔を出すぐらいだからまだ脈があると思ったんだけどなぁ・・・」

「っ・・・いろんな意味で後悔って言葉がぴったりだわ。って、よく脈があると思えるわね」

「そうか?」

 

 さっきから癇癪起こして眉をひそめ目つきの悪い女が俺を睨む。

 この女のトレードマークは長い金髪のツインテールだ。夕日に染められて淡い光で輝かせている。結んでいるネイビーブルーのリボンは遠い昔に俺が贈ったものだ。

 

 その初対面の男なら間違いなく一瞬で目を奪われる少女。硬質に輝くのに柔らかい金色の髪にサファイヤブルーの瞳。おまけに手入れの行き届いた白皙の肌。

 英国人の暢気な父親と、日本人の気の強い母親を持った、近所に住む幼馴染。

 澤村・スペンサー・英梨々。

 

「大体あんたね、今までみたいに『幼馴染ルート』を作るならまだ見逃せるけど、なんの成算もないくせにいきなり新展開で小説作ろうとか、読者なめてんの?」

 

 いつもはお嬢様然として可憐に振舞い気立てもいい。同級生はもちろん先輩後輩からも信頼が厚く、学校中・・・いや地域中で評判の美少女だが、一皮むけばこんな風に『幼馴染ルート』に強いこだわりもった激情的でエゴスティックな本性が眠っている。

 

「自分はプロットの1つも作れないくせに、キャラ任せの行き当たりばったり、それで読者から評価を得ようとか、そういうのなんていうのかしら?」

「適当な例えがないのかよっ」

「ないわよ。悪い?」

「いや・・・開き直るなよ・・・」

「で、なんで『幼馴染ルート』を辞めるのよ」

「そんなこと一言も言ってないけどな」

 

 どうにも腹がたっているらしく、分厚い企画書をくるくると丸めている。

 

「あっ、丸めるなよ。せっかく3年も構想を練り上げてきた企画書なのに・・・」

「どうせ迷走する内容に構想もなにもないでしょ。どうしてこう行きあたりばったりなのかしら」

「それはヒロインの性格じゃねーかな」

「はぁ?あんたバカなの?死ぬの?そうやってなんでも人のせいにするわけね」

 

 小学生の時から展覧会などで入選や受賞している美術部のエース。

 傑出した画才を持ちながらも慢心すること努力し続ける女。

 そんな才能も過小評価されるのは、それだけ容姿が優れているせいだろう。

 

 まぁそれを『俺だけが彼女の才能を認めている』などとほど過小評価されているわけでもないが・・・

 

「あんたみたいなのが今更まっとうな同人をやりたいなんて3年遅いのよ」

「遅いのかよっ、人生はやり直したい時に何度でもやり直せるものだろ。って、投稿小説ってそんなに重たいか?」

「っ・・・あんたなんか今まで通り『幼馴染ルート』でもコツコツ書いてればいいのよ。例え読者がいなくっても」

「あっ、お前それ以上言ったら『従姉妹ルートで童貞捨てました』が連載されるからな?」

「そうやって結婚前まで釣っといて、最期にいきなりハシゴ外そうとするから、あんたはサイテーだって評価すら受けないのよ」

「受けないのかよっ」

 

 サイテーの評価がつくのは、評価がつかないより上なのか下なのか。

 

「とにかく、これ以上連載しても無駄よ。あたしは自分のことだけで手一杯なの。素人のくだらない小説に付き合っている暇なんてないの」

「そういうなよ。ちょっと挿絵を書いてくれって言ってるだけだろ。このメインヒロインのラフは描いたし、サブヒロインのイメージも詳細に作ったし、背景は使いまわしでもかまわないし・・・」

「って、あんたいつも用意周到よね・・・どれどれ・・・って、もう見ないわよ」

「そんなに怒ることかよ・・・」

 

 やれやれ、今日は機嫌が悪いな。こうしていつものように英梨々と言い争いをしている教室に・・・

 

「あら、まだ続いているのね2人とも」

「っ・・・」

「せ、先輩!」

 

 少し低めの落ち着いた声が少し興奮した俺たちをたしなめた。

 そうだ、今回の企画に参加するのは英梨々だけじゃない。周りの理解も必要だ。

 

 こうして英梨々の反対意見を予想して、味方を増やしておいて良かった。2人がかりで英梨々を説得すれば進展するだろう。

 

「まぁ今回の新作は、残念ながら私も澤村さんの意見に賛成だけどね」

「なんですとー」

 

 と思いきや、一方的に英梨々の味方をするとは・・・いつも俺を支えてくれた優しい先輩はどこへ行ってしまったのだろう・・・

 

「ねぇ、倫理君」

「ともやです・・・」

 

 ここで俺の名前が出たところでせっかくだから自己紹介。

 

 安芸倫也。

 豊ヶ崎学園二年生。

 趣味は同人作家で、それを原作にいつか自分のゲームを作りたいと思っている。そのGoサインが英梨々からなかなかでない。

 

「あなたの企画書、一通り芽を通させてもらったわ」

「あっ、忙しいところわざわざすみません・・・」

 

 先輩は英梨々が丸めた企画書と同じものを持っている。この企画書には過去のデータや統計、分析なども書かれている。また新しい展開、余談、迷走ルートなども網羅済みだ。

 

「ええ、一言でいうなら『ボツ』ね」

「ばっさりキター」

「どんなに詳細を書いても、行き当たりばったりなところは変わらないし、複雑なストーリーはわかりにくいし、だんだんと原作から乖離してひどくなるし、いいところが何もないわね」

「相変わらずきついですね・・・」

「これもすべてあなたが結論を先に出さないせいじゃないかしら?」

 

 会話の流れはあくまでお冷静に、言葉は急所をしっかりと捉えて鋭い。

 

 艶のある長い黒髪はストレートのまま風に揺れている。前髪の上には白いカチューシャがしてあるのもいつも通りだ。正統派ヒロイン然とした佇まいに、凛とした表情。

 英梨々が美少女なら、こっちは背丈も胸もあって美女といった感じだ。

 

 1つ上の上級生。

 霞ヶ丘詩羽。

 

「とりあえず、口頭で補足したことを含めても、企画としては0点かしら」

「おおぅ」

「どこかでみたパーツの寄せ集めにしかみえないし」

「うぐぅ」

「これって、流行の漫画の良いところを適当にピックアップしただけよね」

「・・・はい。でも、最新のジャンルを勉強することでアップデートされ、けっこういい感じの内容に仕上がっているような・・・」

「そうね、おっさんの若作りみたいな歪さがあるわね」

「ぐはっ」

 

 あまりにも核心をつく一言に俺の心が折れそうだ。毒舌という言葉では生ぬるい。致死性舌である。

 激情型で感情任せな英梨々と違って理性的な分だけ、余計に刺さる。

 

「で、でも、この企画は俺にしか・・・」

「オリジナルと流行の境目って難しいのよ。オリジナルを独走させてマトモな作品なんてほとんどないわよ」

「え・・・?」

「いいかしら、一部の天才だけが『オリジナル』を開拓できるかもしれないわ。それは新しい分野になるわね。だからだいたいが『模倣』なのよ。つまりマネ、パクリね」

「へぇ・・・」

 

 やばい・・・真似というか、ほぼ模写な気がする。

 

「で、蓋を開けてみると、『金髪ツインテールのツンデレ』がいて、『本命が自分だと思い込むメインヒロインをやめられないサブヒロイン』がいて、『えっちな従姉妹』と『尊敬してくれる後輩』がいて・・・」

「ああ、もういいです・・・」

 

 なんか、刺すような視線を感じる。

 

 すげぇ、この説明だけで迷走しそうな感じがひしひしする。特にサブヒロインがやばい。

 

「まっ、そういうことね」

 

 俺の3年間の構想が、たった数秒で完膚なきまで叩きのめされてしまった。詩羽先輩はうなだれる俺の肩をポンと手で叩いた。

 

「倫理君の本気の活動も知っているし、協力してあげたい気持ちもなきにしもあらずとはとても言えないようなきがしなくもないような気がするような」

「けっこう賛成してますよね?」

「・・・」

 

 一年生時から学年一位をキープし続ける学園きっての秀才。類稀なる文才の持ち主で一行のプロットから3000文字を叩きだす。

 そんな風に畏怖されている彼女の正体は人気ラノベ作家だ。この事は俺や英梨々など一部の人だけが知っている。

 

 そもそも俺のゲーム制作は、俺の中途半端な画力によるラフを英梨々が、俺のつたない文章を詩羽先輩が修正することを前提としている。俺一人では何もできない。

 

「で、話し終わった?」

「さてはお前は聞き流してたな?」

「だって難しい話なんて知らないわよ」

 

 と、まったくメインヒロインの自覚のない英梨々は、退屈そうに長いツインテールを指でくるくると丸めて時間をつぶしていた。俺もそれをするのが好きでいいシャンプーの香りが風にのって鼻をくすぐってくる。もちろん人前では髪をいじらせてはくれない。

 

「あらやだ、澤村さんのことなのに」

「あたしは関係ないわよ?倫也の作品の話しでしょ。あたしは別になんだっていいのよ。それが『幼馴染ルート』なら」

「そこはぶれないのね」

「当たり前でしょ。あたしが一番の読者なんだから」

「もうそれって告白に近いんじゃないかしら?」

「か・・・勘違いしないでよね。ふん」

 

 いつも思うのだけど、この2人は仲がいい。お互いの作品がリスペクトしているせいもあるいだろう。

 

「だいたい、なんで霞ヶ丘詩羽がここにいるのよ」

「そもそも私だってここの生徒だし、倫理君に呼ばれたからに決まってるわよね」

「倫也そうなの?」

「そうだが・・・そんなに怒るようなことか?」

「別に怒ってないわよ。そう、2人より3人がいいってことね。この変態」

「いやちょっとまて・・・」

 

 3人じゃない。

 

 さっきから窓辺の机の片隅に座敷童のように気配を消して座っている女子生徒がもう一人いる。

 

 英梨々や詩羽先輩のような飛びぬけた美人ではないが、クラスで上位に来るであろうルックスの持ち主。ポピュラーなモブのようなボブカットに、優しい目元。無表情にしてツンとしていなくて、どこかほっとする・・・

 

 佇まいは静かで品があり、存在感こそ薄いがどこか古風で奥ゆかしい日本女性を思わせる。

 

 加藤恵である。平凡極まりないないクラスメイトは去年も同じクラスだったが、ほぼ接点がなかった。

 この春休み、バイト中にふと出会ったことがきっかけで今日はこの場所に呼び出した。文句の1つもいわず、じっと座って俺と英梨々の会話に混じろうともせず黙って聴いていた。

 

 英梨々は英梨々で気が付いていないのか、気が付かないふりをしているのか、まったく加藤には反応していない。素に近いしゃべり方をしていることからも意識下にないのかもしれない。

 

 詩羽先輩は一瞥したので気が付いているようだが話題としてふれていなかった。

 

 まぁそうだろう。お互いに面識のない人同士、ましてや学年違いなら尚更だ。ここはお互いを紹介することで本題を進めるのがベストなふるまいだろう。

 

「ゴホンッ」俺はわざとらしく咳をした。

 

「ちょっと倫也、風邪ひいているならマスクぐらいしなさいよ」

「いや、今の咳はそうじゃないからね?」

「じゃあなによ」

「英梨々、詩羽先輩。紹介したい人がいる」

「何よ改まって」

「そう、あの子がそうなのね」

 

 詩羽先輩はじぃーと教室の隅の加藤を見た。英梨々は興味なさそうにイスに座って足を組んだ。短いプリーツスカートから白くきれいな太ももが見える。その下は黒いニーソだ。さすが英梨々だ基本を外さない。

 

「加藤。ちょっとこっちまで来てくれるか?」

 

 俺は加藤に向かって声をかけた。加藤は女子同士ではしゃべっているのを見かけるが、男子生徒と会話しているのは見たことがない。俺とも2人の時はぽつりぽつりと口数少なくしゃべるが英梨々のように多弁ではない。

 

 加藤がこっちを振り向いて軽く会釈をして、また窓の外をみた。

 

 グラウンドでは運動部が活動していて、ときどき掛け声が聴こえる。それに比べれば視聴覚室は静かだった。吹奏楽部は窓を閉めたようで今は音がほとんど聴こえない。

 

「というわけで・・・彼女が加藤恵だ」

「はぁ?彼女ってあんたいつの間に・・・」

「その彼女じゃねーよ!」

「なによ。このスケベ、変態、浮気者」

「あのなぁ・・・」

「あらあら倫理君なのに不倫なんて・・・」

「詩羽先輩もからかわないでください!?」

 

 やれやれ、英梨々の反応もお約束とはいえ相変わらずだ。俺に彼女か・・・

 

 そりゃ表面的にはオタクだし、三次元なんて興味のないふりをしているが、俺だって年頃の男だ。正直彼女が欲しい。いちゃいちゃしたい・・・。

 

 そもそも、好きな人がいてそのための口実なわけだし・・・

 

「ゴホンっ」

「あら倫理君風邪かしら?」

「このやり取りはさっきしたばっかだよねぇ?」

「はい、のど飴あげるわ」

「あっども」

「ちょっと霞ヶ丘詩羽!あたしの役割とらないでよ。それに倫也も何受け取ってるのよ!」

「いや、飴ちゃんぐらいいいだろ・・・」

「信じられない・・・」

「あらあら、カワイイわね」

「その余裕の態度もムカつくわね」

 

 話しが進まない。英梨々は昔からよく飴ちゃんをくれる。俺はのど飴を口に放り込んだ。スーとして気持ちがいい。

 

「でだな、加藤。こっちの女性が霞ヶ丘詩羽先輩だ。知ってるか?」

 

 加藤はこっちをみて小さくうなずいた。どうやらしゃべる気も会話に加わる気もないようだ。シャイなんだろうか?

 

「よろしくね、加藤さん」

 

 詩羽先輩のあいさつに加藤は何の反応もせず、グラウンドの外をみている。面白い試合でもやっているのだろうか・・・俺として視聴覚室の空気がますます悪くなってきているようで居心地が悪い。

 

「詩羽先輩は文才に優れていて、俺の作品を手直しの担当してもらおうと思っていてだな・・・」

 

 俺が説明を加えると、加藤が鞄をもって立ち上がった。

 あれ、やっぱり退屈だったかな?俺の企画書は加藤に出会ったことでインスピレーションが働き仕上げたものだ。加藤も一通り企画書は読んでくれているはずだ。

 

「それで・・・詩羽先輩は・・・」

「ちょっと倫也。そんな長い紹介いらないわよ。さっさとあたしも紹介しなさいよ。忙しいんだから」

「そ・・・そうだな」

 

 聞く気がなさそうな人に紹介するのもしんどいな。

 

「ハ・・・ハックション!」

「もう、倫也汚いわね!口ぐらい押えなさいよ」

「花粉症かしらね?」

「そうかも・・・、でだな加藤。この金髪ツンデレツインテールが・・・」

「なんでツンデレがつくのよ、ツンデレが!」

 

「俺の彼女だ」

 

 カコーンッ!っと、バットがボールに当たった音がグラウンドから響いた。さぞかしボールが飛んだことだろう。

 きっと誰もがボールを見届けたのだろう。静寂な時間が流れたあと、わぁーと歓声が遅れて聴こえたきた。

 

 英梨々の顔は真っ赤だ。

 

「はぁ?あんた何言っての?バカなの?死ぬの?何勝手に言ってるのよ!」

「いや、冗談なんだが・・・」

「冗談でも言っていい冗談と悪い冗談があるでしょーが!」

「さっきのお前のボケを拾っただけなんだか!?」

 

 ガラガラ。と扉が開けて加藤が教室が出て行った。

 

「あらあら、加藤さんも大人げない対応ね」

「とりあえず俺としては誤解を解きたいんだが・・・」

「手遅れじゃないかしら?」

 

 俺は加藤を追いかけようと教室から出ようとしたら、Yシャツを後ろから引っ張られた。

 

「べ・・・別に考えてあげてもいいわよ」

「はい!?」

「と・・・倫也がそのつもりなら、考えてあげてもいいって言ってるの!」

「えっと、英梨々」

 

 振り返ると英梨々が下を向いたまま俺のYシャツを掴んで離さない。

 

「あらあら、私も邪魔だったかしらね?それならそうと言ってくれればいいのに」

「詩羽先輩!?」

 

 そういって詩羽先輩も鞄をもって、手をひらひらとさせながら教室から振り返りもせずに出て行った。

 

 気まずいような、甘いような・・・そんなに心地悪くない沈黙が流れる。あまりに静かなので時計の秒針の音が微かに聴こえた気がする。

 

「倫也・・・」

「あの・・・英梨々。さっきのは・・・」

「あたしは倫也の作品が好きだから」

「作品がな・・・」

「で、倫也はどう思ってるのかしら?」

「えっと・・・何を」

「バカ」

「俺も・・・英梨々の作品が好きだぞ?」

 

 英梨々の描く油絵も、ラフ画も、同人エロマンガも、異世界イラストもみんな好きだ。

 それに英梨々と相談しながら作ったイラストも好きだ。

 

 子供の頃の夢は英梨々と一緒にゲームを作ることだったし・・・

 

「なら、両想いよね」

「・・・」

「・・・」

 

 グラウンドの部活が終了したのか休憩でもしているのか、とても静かだった。

 窓がガラガラと空いて下の吹奏楽部の話している声が聴こえ始めた。

 

「あの・・・英梨々、そろそろ離してもらえるか・・・」

「だが、断る」

「嫌って言われてもな!?」

「だって倫也、離したらあの加藤恵って女を追いかけるでしょ」

「・・・えっと・・・俺、どうすればいいんだ?」

「そんなの『追いかけるわけねーだろ』っていえばいいのよ」

「あのなぁ・・・」

 

 英梨々が俺を離した。それから怒ったように鞄を手にもった。

 

「もういい。さよなら、倫也」

「いやいや、待て待て。何怒ってるんだよ」

「別に怒ってないわよ!あの女のところにいくならいけばいいでしょ」

「わかったよ。追いかけねーよ」

「そう?ならいいわ」

 

 あっさりと英梨々がまたイスに座った。それから俺の企画書をペラペラめくっている。

 鞄からデッサン帳を取り出して広げた。

 

 俺は英梨々の前に座って、それからぽつりぽつりと会話をぎこちなく進めながら、2人きりで新しい企画を練り直した。

 

 吹奏楽部がメンデルスゾーンの『パパパパーン』から始まるあの曲を演奏し始めた。

 

(いや、学園でこの曲の練習はおかしいだろ・・・)と心でツッコむ。

 

 

 目の前の英梨々も少し噴き出して笑い、少し八重歯がこぼれてみえた。

 

 

(了)




原作・アニメから離れすぎてしまった同人活動は本末転倒。

反省しつつ作った作品でになります。
まぁ、いまさらという感じもしますけども。

よろしければ評価、感想などいただけるとありがたいです。

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