青雀が怠ける為に策を巡らせたり、お友達と駄弁ったり、面倒事に巻き込まれたりするお話。なお、青雀ちゃんはブラック企業を許さないものとする。






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青雀ちゃんは怠けたい!

 

 

 

 

 

 

仕事とは生きる上で必要不可欠な労働を課すものである。

 

あらゆる業種、地位、身分にあろうと面倒からは逃れられない。それは誰であろうと、どんな存在であっても同じこと。無論、いつの時代でも変わりはしない。

ハードワーカーという単語が存在するように、一部の者は身を粉にして労働を行っていたりするが。この場合、仙舟「羅浮」の太卜司で働く一人の卜者にとって仕事はサボってナンボなものだった。

 

 

 

「だって⋯私は楽をしたいから此処に入ったんだよ?なのに、なのにぃ⋯」

 

 

 

四方形を成した盤の上。自ら引き当てた牌にツキがないと分かるや否や、徐ろに口端から愚痴が溢れる。

 

それもその筈。将来安泰、給与や待遇もそこそこな職場で適度な怠け方をするはずが、法眼によって全てを把握する自身の上司によって日々の業務量は増すばかり。この前なんて、仕事中に牌を打っている場面を見られてこっぴどく叱られた所だ。

 

 

 

「⋯ロンじゃ!─────────と、こほん。青雀よ、そう落ち込むことは無いぞ。お主の仕事は誰にでも務まる役目ではないゆえ、たんまりと給料は貰っておるのだろう?」

 

「そうなんだけどさぁ⋯!龍女様だってサボりたい時とかあるでしょ?」

 

「もちろんあるぞ。いまもこうして牌を打っておるしな」

 

 

 

ロン、その一言で自身の敗北を悟り椅子の背もたれに凭れかかる。そんな様を見かねて苦笑いでのフォローに回ったのは「羅浮」持明族の龍女たる白露であった。

接し方は見るからに友人のソレ。本来、対等な立場で会話を試みることすら憚られる間柄であろうと、青雀は難なくその壁を越していく。

今では共にサボり⋯もとい遊びの相手となった二人はどこか馬が合う。ある一件から知り合った仲はもはや友人以上の関係に等しい。そんな仲睦まじい一齣がまた、傍から見れば首も傾げたくなるほど。今回の面子は彼女を含んだ四人での対局、しかし既に面子の二人は高打点の前に屈して場を退席しているからか物腰は互いに緩い。

 

 

 

「それにしても⋯良かったのかの?夕刻はとても重要な仕事が舞い込むと嘆いておったが」

 

「あー⋯まぁ、大丈夫じゃない?私みたいな太卜司の隅っこにいる子はお呼びじゃないと思うよ」

 

「なら良いんじゃが⋯して、青雀。今宵はわしの家で食事でもどうじゃ?金人港にてたんまりと蓮根餅を貰ってな、ひとりではとても食べきれん」

 

「お、いいねぇ。それなら後でご馳走になろうかな~」

 

 

 

負けたとはいえ顔は晴れ晴れとしている。理由はひとえに怠けている暇の時間が甘美なもので、とても充実している実感があるから。

 

人間とは過労によって朽ちるものである。その言葉をいつ憶えたか分からないが、何年経とうと名言じみた一言が心の楔と成り代わり打ち込まれていた。

たとえ生きている時間、場所が違っても。相変わらずに怠け、最低限の役割を果たして生活したい。これは青雀としての願いでもあり、また一人の人間としての矜恃を以て曲げられない。

 

 

 

「あ、食事のついでに面白いゲームを作ったから一緒にどう?名前はまだ無いけど⋯名付けるとしたら''ウーノ''かな」

 

「聞き慣れぬ名前じゃな⋯ふむ、ではお試しでやってみるとするかの!」

 

 

 

飄々と新ゲームを名付ける姿。羅浮には馴染みない単語のそれは、星海の何処を探せど存在しない。なぜなら青雀が初めて考案した─────────と、周囲は認識しているから。

 

しかし、青雀からすればウーノなんてゲームはとっくの昔に遊んでいたゲームである。それは当然というか、理由は明確。こと太卜司の卜者たる青雀、小柄で人目を引く以上に容姿も整っている少女は純粋に生まれ落ちた存在ではない。誰かの陰謀で生まれただとか、一本の枝から零れ落ちて迷い込んだ存在だとか。そんな複雑な理由はなく、単純に。

 

 

 

「次は桃次郎電鉄でも作ってみようかな~?」

 

 

 

 

 

 

 

この青雀、前世がブラック企業で過労死した人間であった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ブラック企業の定義は細かく定まっていないが、主に概要を説明するならば抱えきれない仕事を常に割り振られ、ハラスメントが横行し、残業なんて逆ボーナスステージを延々と繰り返さねばならない地獄を課す企業のこと。

昇進なんて以ての外。たとえ営業の成績が良かろうと大型案件を取ってこようとその出来高諸々を上に搾取され、長時間労働から始まりコンプラ意識の低さまで挙げればキリがない。まるで賽の河原で石を積むも獄卒に成果を台無しにさせられるような、そんな感覚だ。

 

 

 

「やだ⋯もう、ほんと。折角ゆるーく働けると思ったのに⋯」

 

 

 

青雀─────両親から名を与えられた瞬間より、自らが特異的な定義しがたい存在であると理解していた。こと仙舟の長命種にあたる一部の種族は転生を行っているが自身のソレは転生にしては意味合いが異なるし、では誰かの企みで記憶を植え付けられた物語性のある存在なのかと問われればまた違う。

此処とは別の、何もかもが普遍で閉鎖的な世界。人間が地球を住処とし、他惑星にいると噂される宇宙人だったり他文明の証拠を掴めていなかったり。宇宙進出なんて以ての外、ともかく時代という括りにおいて前世は遅れていた。

 

しかし、今となってはそんな些末な過去はどうでも良い。生まれ落ちた世界がどうであれ、結局人は労働からは逃げられない。そんな当たり前として目前にある障壁が、一層にやる気なんて元からない身体をぐったり押さえつける。

 

 

 

「今日ってアレだよね、休みなんだよね?なのに⋯なんで太卜司に呼ばれてるの?」

 

 

 

鬱屈だと言えばその通り。休みとは万人に与えられる平等な時間、学生や社会人に与えられるひと時の安らぎ。普段の業務から開放されたハイテンションな状態でいられる最高の日であって、そんなハイなタイミングに仕事でお呼ばれなんてされた時には星槎で飛び逃げるのも辞さない。

だというのに、平気な顔をして休みに謎の出勤命令が下った。書庫の管理人、既に下がる所まで下がった自らの立場で一体何を頼むというのか。全く、上司にあたる''彼女''の考えは理解ができない。

 

 

 

「すっごいやだ、ほんとにやだ⋯」

 

 

 

呪詛を撒き散らすかの如く漂う憂鬱っぷりは通行人が微笑ましく眺め噂話程度に持ち上がる様相だろう。見た目からか何をしても可愛いなんて都合良すぎる容姿で生まれたが故、こんな気怠い言葉を吐こうが何も抵抗感を持たれない。あ、またやってるのか。そんな風に思われて怪訝な顔まではされず、なぁなぁで同情の視線が送られるのが多々。

 

 

 

「お姉さん、少しお時間宜しいかな?是非とも君には私の煎じた茶を飲んでいただきたく⋯」

 

 

 

などと、容姿が万人受けするかはさておき。こうして負のオーラ全開で歩いていたとて、俗世にも似て非なる変人は世にあり続ける。

女人との茶会、ひいてはナンパ。仙舟人の垂らし文句はお茶でも、と平凡なパターンが大多数。生まれ落ちて数十年、こうした誘いは幾度となく受けてきた身としてはパターンのマンネリ化を危惧する所だが。

 

 

 

「ごめんね~?お兄さんはすっごく話がしやすそうだけど⋯いま時間なくって。また今度、見かけたら誘ってみて?」

 

「はっ⋯わ、わかりました。申し訳ない、お時間を取らせてしまって」

 

 

 

はい、ツモから点棒毟り取り完了。ナンパとかいう成功率低めのやる気だけある誘い文句は軽くあしらうのが常だろうに、最近はといえばあざとい仕草で断った際の反応が見たくてわざわざ受け答えしている節があるのは否めない。

両手を合わせてポーズからごめんなさいとお断りアピールの他、ついでにちょこっと首を傾げてウィンクでもすれば男なんてイチコロ。この容姿をフル活用したお断り術だ。考案は他でもない自分自身で、我ながら良い''暇つぶし''を思い付いたと胸を張りたくなる。

 

 

 

「いいのいいの~。それじゃ、またね!」

 

 

 

ナンパされる味を占めるのは程々に、駆け足で手を振りその場を後にする。稀有なパターンで強引なお誘いからの拉致寸前な状況に陥った経験もあることから、これが何よりの最善策。だって今ですらこの身を目当てで追っかけがいるくらいなのだから、一定のラインは守るべき。と、一種の悦に浸った身で言うのもだが。

ともかく、青雀という女の子は可愛くなければならない。難攻不落の城を攻める男性たちの健気な姿を拝むのはさておき、噂される程度に評判を上げておいて損は無いのだ。

 

 

 

「お、青雀!今日も太卜様にお呼ばれかい?」

 

「青雀ちゃん、終わったらうちの団子を食っておくれ!」

 

「青雀、この後牌でも打たねぇか?面子が足りなくてよ⋯」

 

 

 

今や太卜司の青雀は人気者。長楽天では顔見知りも多いし、時々厚意を受け取ったりもしている。それはひとえに普段の振る舞いから、繋がってナンパの断り方まで影響されている。

結局、人付き合いは愛想の良さだ。サボる時にちょうどよく付き合ってくれたり、ご飯を奢ってくれたりするのも人付き合いから。何事も人脈、蔑ろにする利点は無き。

 

 

 

「よぉーし!今日も程々に頑張ろっと!」

 

 

 

そうして、今日も青雀として労働に時間を費やしていく。念願のぼちぼちサボって楽をする生活まで、邁進することを忘れずに。

その足取りはどこか、妙に軽いような気がしていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 







青雀ちゃん/怠け具合が何割か増しになった子。ブラック企業は許さない。

白露様/サボりのお友達。最近は青雀考案のゲームで遊んでいる。ちなみに強い。




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