星の旅人物語   作:ぷにぷに狸

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2章:風の出会い・3話

 遠くからではあったが、一目で分かった。事態は急を要していたことを。だが、僕らではどうしようもないこと。

 他の大人たちを呼ぶ以外、他に手段がない現実があった。墜落した機体は、やはりと言うべきか。間違いなく軍用機だった。墜落の衝撃か、機体が半壊していて。

 ところどころ煙が立ち上り。また、少なくとも火の手が上がっているのが垣間見えたのだ。

 半壊した機体の近くでは、2人がいた。ここからでは、性別は把握できなかったが、1人は動けないのか。

 機体の一部に寄りかかり。もう1人は、モンスター相手に、武器を手に威嚇をしていた。

 だけど、そんな威嚇も時間の問題でしかなかった。多勢に無勢。相手は凶暴なウルフハント達。それに、もう一頭は、明らかに体格がデカく。また、他のウルフハントとは一線を画す存在を醸し出していた。

 そんな殺伐とした光景。見た瞬間、ビビった僕は弱音を吐いてしまった。

 

「ダメだ! やっぱり無茶だよ」

 

 しかし、セーラは

 

「でも、行かなくちゃ」

「無理はよせよ。さすがに俺らでは相手にならないぜ」

「じゃ、なに? このまま傍観していろと?」

「そうは言ってないけど」

「もう、我慢ならないよ。私は行く。このまま見過ごすことなんてできないもん!」

「あ、ちょっと! セーラ」

 

 無茶にも程がある。僕の制止を振り切って、セーラは1人。モンスターに取り囲まれた2人を助けるべく、颯爽と走り出したのである。

 

 あっという間に距離を離していくセーラ。

 

「あのチビ。知らんぞ、もう。ユウト、俺らは助けに、一旦、引き返そうぜ」

 

 ブックからの提案。だけど、こうなれば、僕だって引き返そうになかった。大人たちに助けを乞う。そんな悠長なこと言っている場合では、すでになかったからだ。

 さすがの僕も、意を決して

 

「行くよ、ブック」

「行くって。まさか⁉︎」

 

 言わずもなが。言葉を返すより、行動で示すかのように、僕は走り出した。

 正直、怖い。怖くて怖くて、それでいて。先陣を切るセーラの足手纏いにしかならない。

 いつでも射撃できるよう、フォルダに手を当てがう。威勢を放つ声が響き渡り、ウルフハント達も彼女に気付くや、襲いかかっていくのが垣間見れた。

 決死の攻防劇が切って落とされる。そんな中、側から傍観し、隙を見計らっていたであろう巨獣に、

 

「僕だって‼︎」

 

 意気込んだ側から、僕は一発、虚を突くかのようにうちかました。銃声が迸り、謎の巨獣のこめかみに命中した模様。

 一時的に衝撃でよろけたようだ。

 

「やったか?」

 

 ブックが声を上げる。だが、煙立つ銃口を向けた先、謎の巨獣にはそれ程効果なかった様子。

 こちらに振り向くや、遠吠えのような雄叫びを放ってきた。

 

「げげ、まずいんじゃ」

「右に同じく」

 

 僕とブック。互いに身の危険を感じ、その場から逃げようとして、後退りしながら振り返った。

 一目散に走る。背後から何かが襲い掛かって来たのを、ひしひしと伝わって来る。

 悪寒が背中に伝わるようで。或いは、死がそこに迫っているようで、物凄い恐怖に駆られた。

 そんな恐怖を前にして、僕は確信めく。

 

 間違いない! ウルハントだ。

 

 と。当然、逃げきれる訳がなく。逃げている最中、恐怖のあまり、思わず振り向いてしまい。

 その眼中、ウルハントが飛びかかってきた光景が視界いっぱいに広がり――

 

「うわー‼︎」

「クラウド‼︎」

 

 ブックが叫ぶ中、僕は両手で顔を庇いつつ、そのまま尻餅してしまい。回避不能。ただでは済まない一撃を喰らうかに思われた。

 

 ――とその時!

 

「バリア‼︎」

 

 誰かの叫び声。次の瞬間、襲い掛かってきたウルハントが、見えない障壁にぶち当たったらしい。

 

 バチンッ!

 

 と火花を散らすや

 

 キャン‼︎

 

 と、悲鳴をあげては、そのまま弾き返されてしまった。身軽だけに、そのまま宙を翻り、体勢を立て直したのは言うまでもないが。

 

「大丈夫か? クラウド」

「……白い障壁?」

 

 うっすらとではあったが、僕を守ってくれた障壁は、六角形の模様がかった半透明の姿をしていた。

 

 何が起きたのか? 

 

 理解に苦しむ。しかしその直後、負傷した女騎士に付き添う少女は、彼女を気遣うように声掛けを。咳と共に、少量の血反吐を吐く女騎士。彼女に向かって、

 

「カタリナ。これ以上の無理は」

 

 しかし、

 

「ありがとう。でも、このままでは」

 

 無理をして取り繕うとしていたようだ。どうやら、その騎士に守られたようだ。僕はすぐに理解した。

 目の前のウルフハント一頭は、さらに追撃せんとばかりに噛みついてくる。だが、障壁の前に、弾かれ。それでも諦めず。

 まるで、猛る食欲に身を任せんと食らいつく始末である。一方、そんなウルフハントを前にして、僕は腰が引けて動けなかった。逃げようにも逃げられる状況ではない。

 そんな時、ふと手元に何か触れる感触を抱いた。冷っとしたような冷たい金属に触れるような感触。

 思わず、そちらに目をやると、そこには先程使っていたリボルバーが落ちているではないか。

 たぶん、噛みつかれる寸前、びびって手放してしまったのだろう。身の危険が迫る事態に、僕は迷わなかった。

 構え、引き金を引く。

 

 バンッ! バン! バーンー……‼︎

 

 三発の銃弾が撃ち放たれ、それは顔面を中心に、弾丸が突き刺さった模様。

 

 ギャン‼︎

 

 悲鳴を上げたウルハントは、一瞬だけ、全身を引き伸ばすかのように硬直させると、頭部から血飛沫を上げて崩れ落ちてしまった。

 

「た、助かったのか?」

 

 だが、窮地を脱したわけではなかった。安堵しようとした瞬間、傍にいたブックが叫んだのである。

 

「まだだ‼︎ クラウド!」

「え?」

 

 咄嗟に目の前を向く。仲間の危機に駆けつけて来たのか。殺意丸出し、物凄い形相で睨みつけたまま襲い掛かって来たウルフハントが、そこにいたのである。

 瞬く間に距離を縮めてくる中、その恐怖から残り数発をヤケクソに放った後、カチカチカチ、と空回り音を立てて弾切れ。

 リボルバーを手放し、そのまま

 

「ひぃー‼︎」

 

 堪らず逃げ出そうとし、敵に背を向けようとした。直後、まだ、障壁の効果は続いていたのだろう。

 バチバチバチ、と弾かれ音が響いて来た。

 

 またもや、助けられたのか? 

 

 振り向く。しかし、その障壁とやらも、遂にヒビが入り始めていたのを目の当たりにして。今度こそ、食い殺されるのも時間の問題かに見えた。

 

「ダメだ! 今度こそ。ブック、わりぃ!」

 

 ガシッ

 

「え? ちょ、クラウド⁉︎」

 

 武器にならないのは百も承知。ブックにはすまないとは思ってはいたが、我が身には変えられないだけに、僕はブックを使って抵抗を試みようとしたのだ。

 

「来るなら、来い!」

 

 分厚い本を片手に、僕は身構えた。

 

 ガリガリガリ……

 

 徐々に障壁は食い破られていく。破られた瞬間を見逃さないよう、気を張り詰め。そして――

 

 ⁉︎

 

 背後から人の影。それを垣間見た瞬間、

 

「えーい‼︎」

 

 バシンッ!

 

 ⁉︎

 

 ギャンッ‼︎

 

 何かでウルハントの後頭部を思いっきり殴りつけたのであろう。急所を狙った一撃に、ウルフハントはその場で崩れ落ち、星を回しながら気絶してしまった。

 呆気に取られる中、崩れ落ちたウルフハントに変わり、そこに立っていたのは、あの騎士の傍にいた謎の少女だった。

 木の杖らしきものを持ったまま、その少女は問い掛ける。

 

「大丈夫?」

 

 思わず僕は

 

「う、うん。なんとか」

「良かっ、……た」

 

 それだけを残すや、魂が抜けたかのように、その少女は、その場で膝を負った。慌てて僕は抱き抱えるが、すでにその少女は気を失っていて。

 その際、障壁の効果はなくなっていたみたい。なにかにぶつかるような感覚はなかった。

 改めて見るに、思わず触ってみたくなるような柔らかそうなウサ耳に、桃色のツインテイル。

 ややインテリっぽさが感じられるようなメガネをした彼女は、まるで僕と同い年のような容姿。

 だけど、何処、幼さが漂うな可愛いらしい顔をしていて。それはもう、小学低学年代の女の子の様相を呈していた。思わず見惚れてしまう中、遠くから声がして来て――

 

「そ、のこを、……お願い」

 

 思わず声のした方を見た。すると、血だらけで重体となっていたツレの女騎士から、頼まれたことに気付かされる。

 

 お願いって……

 

 僕はどうしていいか? 正直、困った。ただ、優先的なことを鑑みれば、その女騎士の方の手当が先だと言うことは、理解したかも。

 気を失った少女を原っぱに安静させ、ともかくその騎士の意に反して、負傷した彼女の方へと向かおうとした。

 ――とその時、今まで巨獣と対峙していたであろうセーラが、ここに来て気勢を放ってきて

 

「この、毛むくじゃらがー‼︎」

 

 と共に、強烈な一撃を叩き込んだのだろう。衝撃音が轟き、巨獣の呻き声が聞こえてきた。

 僕はびっくりして、そこで立ち止まってしまう。

 

「セーラ」

 

 巨獣を相手にやや苦戦している様子なのか。やや、ぼろぼろの姿になっていた。

 

「見ている場合じゃないでしょう? 早く、その人を」

「は! そうだった」

 

 彼女に言われた僕は我に返り、颯爽と走り出す。騎士の前に来る。少しだけ頭から血を流していて、ところどころ軽装な防具がぼろぼろになっていて。

 体中、傷だらけの姿に自力で動けないことを察した。

 

「助けに来ました。肩につかまってください」

 

 しかし、騎士は

 

「わ、私のことはいい。それより、も、彼女を。クルミを」

 

 自分の容態よりも、彼女――クルミの方を気にかけていたようだ。どういう関係かは分からないが、きっと大切な存在なんだろう。

 

「大丈夫です。彼女は離れた位置で安静にしています」

「そっか〜」

 

 少し安堵したようだが、でも、傷の痛みに堪えているようで、苦悶な表情には変わりないようだ。

 

「さ、掴まって」

 

 僕は肩を貸してあげる。ともかく、巨獣とことを構えているこの場から、一刻も早く離れないといけないことは確か。

 それだけに、僕は焦っていた。

 

「かたじけない」

 

 騎士は遠慮がちではあったが、僕の肩に手を回した。担ぎ上げると、筋肉質な体質なのか。

 かなり、ずっしりとした重みがのしかかってきて、思わず膝をつきそうになる。

 立ちあがろうとして、そこでレンズがぼろぼろになっていたメガネが、ポロリと落ちた。

 

「あ、メガネが」

 

 拾おうとして、

 

「別にいいんだ」

「で、でも……」

「大丈夫、だ。裸眼でも十分見えるから」

「……分かりました」

 

 気になってはいたが、このまま無理にでも拾うとして態勢を崩しかねないかも。

 そう思い、落ちたメガネはこのまま捨て去ることにした。

 ゆっくりではあるが、この場から離れる。その中で、セーラの方を気にかけると、未だに苦戦を強いられている姿を目に。

 けど、今はこの人をクルミと呼ばれた少女の元へ連れて行かねば。そんな思いであった。

 そして――

 

「ありがとう。ここでいい」

 

 気を失ったまま寝かせていた少女の元に来ると、ここに来てそう断って来た。

 言われたままに、肩から手を離してあげると、騎士は自身の容態よりもその少女を気にかけはじめた。

 そんな様子をじっと見ていたが、それよりも。と、ハッとしてセーラの方へと向く。

 なかなか決着がつかない様子に、僕も加勢しようとしと踊り出ようとして、今まで黙っていたブックが、ここに来て口を出して来た。

 

「やめとけ、クラウド」

「で、でも」

「あのチビですら、苦戦しているんだ。助太刀したところで、足手纏いになるのが、オチだぜ」

「だからって」

 

 ここに来るまで拾って来た形見のリボルバーを見て、僕は居ても立っても居られない気持ちになる。

 弾倉を確認するに、もはや弾切れ。ブックの言う通りなのかも知れない。

 

「それに、弾切れじゃないか。なおさらだよ、なおさら」

「くぅ〜」

 

 悔しいが、ブックの言う通りだった。そんな中、女騎士の声が聞こえてくる。

 

「クルミ、クルミ……」

「……う、うう。……カタリナ?」

「よかった。無事見たいね」

「無事って……」

 

 そして、ここに来てハッとしたのか。慌ててクルミは起き上がり、

 

「カタリナ! 大丈夫?」

 

 身を案じた。

 

「私は、なん、とか。この少年が、ここまで連れて来てくれたおかげで」

 

 そして、自分を見ると、ぺこりと頭を下げ

 

「あ、ありがとう。カタリナを助けてくれて」

 

 感謝され、僕は慌てて

 

「そんな。れ、礼には」

 

 思わず、その場を取り繕うように答えてしまった。正直、目の前に怪我人がいたから助けた。ただ、それだけのことであり、礼には及ばないのだけど。

 こうも面と向かって感謝されると、何処となく気恥ずかしい感じがしてならなかった。

 そんな僕に、ブックは察したように一言。

 

「な〜に、照れてんだよ?」

「うるさいな。もぅ」

 

 揶揄う古本に、少々、イラッとした。

 

「あ、そうだ! それより」

 

 そこで、忘れかけていたことを思い出した僕は、改めて、未だに激闘を繰り広げているセーラの方へと見向きした。

 現にリボルバーが弾切れであり、武器として使える物がない状況。なにかできることは?

 役立てそうな物がないか、周りを見渡すのだが。そんな中、バツが悪そうに、

 

「ごめんなさい。私がこんな深手を負っていたばかりに」

 

 まるで、全ては自分が悪そうに悪びれたのである。けど、そこですかさず、クルミがフォロー。

 

「そんなことはないよ、カタリナ」

「しかし――」

 

 ――とそこで、ブックがいつにも増して、まともなことを言ってきた。

 

「とりあえず、カタリナさん、だっけ? まずはあんたの応急手当てが先じゃねぇのか? ここじゃあ、どうしようもないからさ」

「ブック……」

 

 意外な言葉に、思わず僕は、感心してしまう。

 

「え? 本が喋った⁉︎」

 

 今更ながらに、クルミは驚く。

 

「悪いかよ! 本が喋って」

「悪いかよも何も、普通、喋らないわよ」

 

 そう言うや否や、

 

「ちょ、ちょっと!」

 

 ガシッ

 

 徐に鷲掴み。まるで、不思議なものを見るように、調べ始めた。

 

「な、な、な、なんだ⁉︎」

 

 当然、戸惑いを隠せないブック。一方、クルミはと言うと、色々な視点で吟味し始め

 

「どう言う仕組みなのよさ、これ。どこか、スピーカーでも入っているとかじゃ……」

 

 構造的な観点で、答えを見出そうとした。その際、ページをペラペラ捲ったりもしたけども。けど、僕は知っていた。そんなことをしても意味がないことを。

 

「ブックはブックだよ。仕掛けなんかないさ」

「ふ〜ん……」

 

 どこか腑に落ちないような表情ではあったみたいだが、そんなものか。そんな感じに、ブックを解放してあげた。

 

「全くよ! なんなんだこいつ」

「まあまあ。……それより、ブックの言う通りかも。まずはカタリナさんの救助が先だよ」

「そうだね。……カタリナ、そう言う訳で――」

「ごめんなさい。私ともあろうが……」

「何度も謝る必要ないよ。それに、お互い様だし。あたしだって――」

「クルミ……」

「肩貸しましょうか?」

「恩に着るよ」

 

 騎士なのかもしれないが、それでも女性に肩を貸すなんて。やむを得ないとは言え、なんだか妙に緊張してきた。

 肩に手を回す。すると、

 

 おっと!

 

 思わず重みを感じてか。躓きそうになった。

 

「あっぶな!」

「大丈夫? 少年」

「だ、大丈夫です。ともかく、ここを離れましょう」

「あたしも、肩貸すよ。1人じゃ、なんだか大変みたいだし」

「ありがとう」

「別に。親友のためだしね」

「2人とも……」

 

 このあと、僕らはセーラを残して、その場を離れた。

 

 一気に村まで帰るのは難しかったみたい。普通なら、大して時間かからないのだけども、やっぱり怪我人を抱えてとなると、そうも行かないみたいだから。

 帰り際、道に迷うことはなかった。それに、モンスターと遭遇することもなくて。

 それを思えば、僕らは運が良かったのかも。

 

だけど……

 

 大丈夫とは信じたいけど、あの場所に残して来たセーラが心配でならなかった。

 出来るものなら、戻って加勢したいくらいに。でも、自分でも分かっていた気がする。

 行ったところで、かえってセーラの足でまどいにしかならないことを。彼女は、あのウルフハントの一件を見る限り、裏付けとなる実力はあると間近で確認できた。

 それに比べて、僕はというと、武器と呼べるのは、この形見のリボルバーくらいで……。

 

「ありがとう、……2人とも」

「カタリナ?」

「どうやら、……安全な場所まで辿り着くには、それ相応の距離があるみただから、あの、切り株で、……休憩した方がいいと思って」

 

 彼女の視線の先を見た僕は、確かに切り株があるのを視認する。ただ、切り株で腰を掛けるには、ちょっと座り心地良いとは思えなかったけど。

 それもそうで、風で薙ぎ倒されかのように、その切り株はやや折れた枝の特徴みたく、ギザギザになっていたからだ。

 

「いいけど、ちょっと厳しくない? 座り心地、あまり良くなさそうだよ」

「そっか? 私には……」

 

 そこで、不意に魂が抜けたかのように、カタリナさんは倒れかかったのである。

 

「カタリナ⁉︎」

「え、ええ! ちょっと」

 

 クルミとブックが同時に驚きの声を上げた。僕も同じく驚いたが、カタリナさんの表情が青ざめていて、それでいて白目になりかかっていたことに気付いただけに、驚き以上に危機感を募らせた。

 恐らく、元から負っていた傷が癒えないどころか。流血が止まらないで今に至っていたのだろう。

 頭から血を流していることもそうなのだが、もっと他に致命的な傷を負っているような。

 そんな気がしてならないのだ。いずれにせよ、このままでは彼女の命はもたない。

 

「ともかく、これ以上は危険そうだよ。この場で寝かせよう」

「クラウド?」

 

 ブックが疑問符を投げかける。

 

「え? 寝かせるって」

「表情がかなり良くないんだ。恐らく出血が酷くて貧血を起こしているのかも」

「え? 貧血? ……!」

 

 ――とそこで、今更ながらに気付いたのだろう。クルミの両目が見開いたように見えた。

 

「カタリナ! まさか」

 

 すると、落ち着き払ったように

 

「どうしたの? 急に慌ただしく、……させて」

「どうしたも何もないよ! あたし、てっきり、怪我の具合、これ以上酷くないものかと」

「だ、大丈夫よ。……このくらい」

 

 そこで、自力で立とうとした。だが、当の本人は気付いていなかったのかも。

 僕たちの手から離れた瞬間、

 

「あれ?」

 

 と一言漏らすや、力なくその場で崩れてしまったのだ。

 

「無理しちゃダメ‼︎」

「おいおい。ねぇちゃん、大丈夫かよ?」

 

 堪らず、側から見ていたブックが声を上げた。慌てて僕は、相方と共にカタリナさんを支える。

 

「ともかく、切り株のとこへ運ぼう。安静にした状態で、怪我の程度、見ないと」

「うん。……カタリナ、掴まって」

 

 力なく苦笑したカタリナさんは、クルミの言われるがまま僕ら2人の肩に掴まる感じで、よたよた〜、と千鳥足さながら、なんとか切り株のところまで歩いて行った。

 

 そして――

 

「2人とも、ありがとう。……おふっ!」

 

 切り株を背にもたれかかり、安心したのも束の間、気が抜けたのか。そこで、お礼を言った瞬間、一回咳をするや、軽く吐血した。

 

「カタリナ!」

 

 顔面蒼白なほど心配したクルミが、顔を覗き込んだ。けど、心配をかけまいとして

 

「私は、だ、いじょうぶ。吐血しちゃったけど、この、くら、いは……」

 

 もう、一目でわかる。もはや、気力だけで意識を保っていることを。カタリナさんの言葉を当てにせず、僕は

 

「ともかく、傷の程度を調べないと」

 

 そう言うや、僕はカタリナさんの蒼と白生地が練り込まれたようなマントを取払い、彼女のお腹辺りを触ろうとして。――とそこで、躊躇して手の動きが止まってしまう。

 

「どうしたの? 少年」

「あ、いや……」

 

 傷の度合いを見るだけなのだが、どうでもいい妙な感じがして躊躇ってしまうのだ。

 何というか、これではセクハラのような気がして。そんな中、

 

 痺れを切らしたのか? 

 

 或いは、

 

 察したのか?

 

 僕の代わりに、クルミが手を伸ばす。

 

「あたしが見る」

「そ、そうして欲しいかも」

 

 その僕の言葉を尻目に、クルミはカタリナのお腹周り。胸当てやら何やらの装備らしきものを、手際よく取り払って見せたのであった。

 

「な、何この傷‼︎ こんなになってまで、痩せ我慢してたの?」

「……はは、バレちゃったね」

「バレちゃったね、じゃないよ! 胸元からお腹辺りまで、ザックリと切り刻まれているじゃない! こんなの、普通だったら、死んじゃうよ」

 

 クルミの表現通りかも。僕から見ても、その重傷っぷりがよく分かるだけに。

 何というか。あまりにも酷すぎる怪我だけに、言葉にすらできないと言うか。

 多分、傷の度合いからして、両方の肺、やられた可能性があるかも。無理やり一言で表すとすれば、そんなところかも。

 

「こいつは、ひでぇ〜」

 

 ブックも唖然としたようだ。

 

「ど、どうやら。処置魔法(トリトメント)の効果が消えたみたい。や、やっぱ、ちゃ、ちゃん、と治療しない、と、ダメだ、ね……」

 

 ガクリッ

 

 ここで限界が来てしまったのか。遂には意識を失ってしまったようだ。

 

「カタリナ! カタリナ‼︎ しっかりしてよ! 死んじゃやだー‼︎」

 

 必死で呼びかけるが、もはや返事すら返ってこない始末である。このままでは、出血多量で死んでしまうのも時間の問題。

 

 なにか、いい手は。

 

 僕はこの危機的な状況に対応する術を探すべく、周辺に何かないか見渡す。

 一番いいのは包帯の類。それさえあれば、流血を少しは止めることはできるかも知れないが、現状、そんな医療具みたいな物なんかあるはずもなくて……。

 そん中、遠くから人々の声が

 

「こんなとこで何してんだね? 君たち。ここは危ないから、早く村に――。っ! 怪我人か? その人は」

 

 見知った感じの人だけに、僕は直感的にこの人たちは、ラシュアンの住民だとすぐに分かった。分かっただけに、僕は切羽詰まったように助け舟を出したんだ。

 

「はい! 怪我人です。それも、死にかけていて」

「死にかけて、て……」

 

 猟銃を肩に掛けたおじさんが、率先して僕たちの方へと歩み寄ってきた。それから、カタリナさんの容態を吟味するや、驚いたようで

 

「こ、これは大変だ! ……おい、お前たち。早くこの(カタリナ)の手当を」

「おいおい、なんだよ。急に」

「いいから。重体だよ、それもかなりのもので。確か、包帯、持っていたよな? 予備の」

「あ、ああ」

 

 状況が読めないでいた人は、とにかく言われた通り、背負っていたリュックを下ろして、包帯があるかどうか探し始めた。

 

「どうなの?」

 

 カタリナさんの容態を、そっと手を当てながら調べていた猟銃のおじさんに、クルミは心配そうに尋ねてみた。

 おじさんは深刻そうに答える。

 

「ハッキリ言って、だいぶまずいね。モンスターにでもやられたのかね?」

 

 顔が合い、唐突に問われた僕は なんでこうなったのか。その辺、いきさつがハッキリしないだけに答えようがなくて

 

「モンスターにやられた、と言うか……」

 

 言葉を濁してしまう。けど、そこでクルミが、毅然とした態度で

 

「そう、モンスターに。モンスターにやられたの。それも凶暴な」

 

 え?

 

 思わず、耳を疑ってしまった。だけど、一部始終見てないわけだし、ここは信じるしかないのかも。

 猟銃のおじさん、それと、包帯を探している青年。この2人以外の人達は、顔を合わせながら、なにやらクルミの断言を聞いてコソコソ話をし始めた。

 掻い摘んで、小耳を立てるに

 

「モンスターにやられた? と言うことは、やはり……」

「かもな。運が悪いことやら」

「恐ろしや、恐ろしや」

 

 とかなんとか。そんな中、猟銃のおじさんは

 

「事情は分かった。いずれにせよ、処置がいる。……おい! まだか?」

 

 催促。タイミングがあったかのように

 

「あった! ありました。はい」

 

 布切れのような、使い古さえた包帯。それを青年から受け止めて見せた。

 

「どれ……、少しきつめに縛るぞ」

 

 そう意識のないカタリナに対して耳打ちをすると、彼女を抱えるや、手にした包帯を使って、腹部を中心にグルグル巻きに。それもキツめに巻き始めた。

 その間、意識がないながらも、一時的に呼吸が苦しくなったような。そんな風に見て取れたけども。

 

「よし、こんなものだ。ともかく医者に診てもらわねばな」

 

 そう言うや、猟銃のおじさんは、カタリナを抱き抱えると、そのまま背中に背負った。

 途端、

 

「おっと!」

 

 と漏らすや、筋肉質のような彼女の重さを前にして、危うくバランスを崩しかけた。

 なんとか踏ん張りをきかして持ち直し、気を取り直したみたい。

 

「ふ、普段から鍛えたかいがあったかもな。……よし、下山するぞ! 早く、この人を医者に見せないとな」

 

 肩に掛けたままの猟銃が邪魔なような気もしたが、当のおじさんは気にも留めない様子。

 こちらに背を向けつつ、顔だけこちらを向いて

 

「君たちも来るかい?」

「あたしは行く。親友だから」

 

 率先して、クルミが手を挙げた。クルミがついていくことが決まった中、

 

「クラウドはどうするんだ?」

 

 とブック。僕はセーラのことが心配だったこともあって

 

「僕はいいや。やっぱり、セーラの安否が気になるから。だから、代わりにブックが、クルミ(彼女)と一緒に付いてあげて」

「分かった、気を付けてな。……じゃ、また後で」

「うん」

 

 ブックもまた、その言葉を残すと共に、クルミ達と一緒に下山することになった。

 

 その流れで、彼らが遠ざかって行く頃、

 

 カタリナの心配も、猟銃のおじさん達に任せたことだし。多分、大丈夫だとは思う。

 クルミやブックの姿が見えなくなる頃合いを見計らって、僕は彼らとは反対の。セーラがいる場所まで引き返すことにしたんだ。

 

 墜落現場まで戻って来た。場は静けさが漂っていて、先程までの緊迫した空気はなくなっていた。

 

 例の巨獣はどうなったのか?

 

 目を顰めて墜落機周辺を見つめてみた。

 

「やった、のかな〜」

 

 うつ伏せで倒れていただけに、セーラの奴、討伐に成功したように見えた。

 僕は早速、墜落機周辺まで走った。

 

 風を切るように、坂を下って――原っぱの上で、大の字になって倒れている彼女を見かけた僕は、

 

「っ! セーラ‼︎」

 

 まさか! やられたんじゃ……

 

 嫌な予感が脳裏を過り、焦った僕は、早々とセーラの元へと飛ばすように駆けつける。

 駆けつけて、それでいて――

 

「セーラ! セーラ‼︎ しっかり!」

「う、うん……。なに?」

 

 体を激しくゆすっただけに、さすがの彼女も気を取り戻したみたい。うっすらと目を開けて見せた。

 

「よかった〜。てっきり……」

「なに? クラウド。私、寝ていたんだけど」

「え? 寝てた?」

 

 意外な言葉に、僕は意表を突かれた気分になった。目を擦り、眠たそうな目で僕を見つては

 

「ちょっと、本気出し過ぎちゃってね。それで、疲れて」

「は〜、なんだ。そう言うことね。よかった〜」

 

 彼女の言葉を聞いてからに、納得した僕は、安心しただけにホッとした気分になった。

 

「ところでクラウド、あの2人は? 片方、怪我していたはずなんだけど」

「あー、それね」

 

 僕は先程までの経緯を、できるだけ詳しく話してあげたんだ。話を聞いている途中で、セーラ自身、当然ながら驚く場面もあったけども。

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