星の旅人物語   作:ぷにぷに狸

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3章:紅の鉄巨人
死地を脱したクラウド達だったが、燦々たる光景に言葉がなくて。そこへ遅れて現れた帝国の新兵器を前に、更なる事態の悪化は避けられそうになく――





3章:紅の鉄巨人・1話

暗闇の中、一筋の光が横一線のように視界に入って来る。徐々に視界が広がって行くものの、朧げな光景に、一体、どうなったのか? 状況が掴めない。

 呻き声を漏らして、ゆっくりと目を開いた僕は、軽く目元の砂埃をほろいて、頭を軽く振ってから気を取り直した。

 視界が良くなった後、倒壊した家屋の一端が目に入り。ようやく僕は、何が起きたのか理解できた。

 

「そうだ。崩れた家屋に……」

 

 装甲車から浴びせられた銃弾の雨。その余波を受けて、倒壊した家屋に僕は下敷きになったことを思い出したのである。

 

 こうしてはいられない。

 

 そう思って、この場から抜け出そうとする。ところが、ところがである。

 

 っ!

 

 片足が、何かに引っ掛かるような感覚を覚えた僕は、咄嗟にその足を見て、これはまずいと思った。

 圧迫され、足がダメになった訳ではないものの、片足がなんと! 倒れた木柱の下敷きになって挟まり、抜け出せなくなっていたのである。

 引っ張っても、当然、抜け出そうになく。そんな最中、瓦礫の隙間から、兵士達が捜索に当たっている様子が伺える。

 

「見つけ出せ。見つけて、例の少女以外、皆殺しにしろ!」

 

 拡声器で拡散された声が、村全体に響き渡り。至る所から、悲鳴のような声と銃声が迸っていた。

 

「……」

 

 直接見た訳ではないが想像に難くない。音だけで分かる。地獄絵図さながらの、残酷な光景が広がっていたのだ。

 

 

――なんて、こんなことを――

 

 帝国軍が、自ら民を虐殺していくなんて。僕は酷すぎる悪夢を見ているかのような錯覚を抱いた。とは言え、僕だって例外ではない。なんとか、ここから脱げ出さないと。

 挟まった足を交互に角度を変え、必死に抜け出そうともがく。

 

「くっそ〜、抜け出せない。誰か! 誰かいないの?」

 

 そんな中である。死角の位置から、何者かによる手で僕の口を押さえてきた。

 

誰?

 

 咄嗟に上へと目線を向ける。

 

「クルミ⁉︎」

「静かにして!」

「……無事だったの?」

「なんとかね。それよりも、早くここから逃げないと」

「でも、足が」

「分かっている。今、瓦礫をどかすから」

 

 そう言い残し、僕の足を下敷きにしている瓦礫の山をどかし始める。けど、クルミ本人、そこまで力がないようで

 

「お、重い……」

 

 一つの瓦礫をどかすだけでも、両腕が引きちぎられそうなくらい、細腕には応えたようだ。

 

「無理しなくても……」

「で、でも……」

 

 必死のあまり、その顔全体は、りんごのように真っ赤になっていた。――と、その時である。

 

「確か、この辺でも」

 

 必死の彼女の傍ら、遠方から帝国兵が近づいてくる声が聞こえて来た。まずい、そう危機感を募らせ、クルミだけでも逃げるよう懇願する。

 

「僕のことはいいから、早く!」

「で、でも〜」

「いいから! 帝国兵が近づいて来ているんだ。だから――」

 

 足音が近づいて来るのを、更に一段と感じずにはいられない。流石のクルミも気付いたらしく。

 その手をやめて、僕と遠方の兵士とを見比べし始めた。迷っている様子が見て取れた。僕は、催促する。

 

「早く! 早く此処から」

「クラウド……」

「僕のことはいいから、早く‼︎」

 

 語気を荒げて促す。それでも、躊躇してはいたものの、やがて奥歯を噛み締めるや否や、その場を離れてくれた。

 それから、1分、2分、くらい経ったかして、僕の存在を見た帝国兵が、視界の外から声が聞こえて来た。

 

「こんなとこにいたぞ‼︎」

 

 その掛け声と共に、ぞろぞろと人が集まって来るような足音が聞こえて来た。その間、

 

「よく見たら、さっきの生意気な少年じゃないか。死の底ないめが」

 

 ガチャリッ

 

 冷たく尖った何かを後頭部辺りに突きつけられる感覚を覚える。恐らく銃器の類だろう。

 もはや、ここまでか。星の故郷への旅は叶えることなく、ここで人生が終わってしまうような。否応なく、そう悟ってしまう。

 しかし、すぐに僕を殺すことはないのか。こう尋問して来た。

 

「確か、機密の少女といたよな? どこへやった?」

「機密の少女? なんのこと?」

 

 次の瞬間、

 

 ドカッ‼︎

 

 と頬を足で蹴られては、

 

 ぐふっ!

 

 嗚咽を吐く。間髪入れず、

 

「惚けるな‼︎ 間違いなく、いたはずだ!」

「そんなことを言われても……」

 

 とここで、こちらが意味を理解してないのを察してか。もう1人、兵士の背後から現れてか、耳打ち。

 その後、急に態度を変えて来て――

 

「あ、そうか。そうだったな。意味を知らないのなら仕方ない」

「な、なにを?」

 

 その問いかけ。その問いかけに、顔を蹴飛ばして来た兵士は、その場でしゃがみ込むと、惨めな虫けらを見るような様相を除かせて来た。

 

「機密の少女。俺たち帝国軍の間柄では、そう呼んでいる。つまるところ、ウサ耳の少女のことさ。そう答えれば、自ずと分かるだろう? あん?」

「……」

 

 何を持って機密扱いしているのかまでは分からない。分からなかったが、間違いなく、この兵士達はクルミを狙っていることを、否応なく理解させられた。

 口を割れば、クルミに危害が及ぶこと間違いなし。黙秘を貫いたまま、睨みつける。

 

「ち、なんだ、その目つきは? 舐めとんのか? 帝国を」

 

 うぐ

 

 鷲掴みのような感じで白髪の髪を掴まれ、僕は堪らず、苦痛の表情を浮かべる。

 それでも僕は、苦し紛れに言い返す。

 

「舐めてなんか……」

 

 しかし、最後まで言わすつもりもなく。痺れを切らした帝国兵は、改めて銃口を向けると

 

「もう、いい。どの道、遠くへは行ってないはずだ。ここで、引導を渡してやる」

 

 トドメの一撃。その言葉を聞いた僕は、死を覚悟して――

 

「やめろー‼︎」

 

 掛け声と共に、一冊の本が銃口を向けた目の前の帝国兵に目掛け、体当たりして来たのである。

 

「ブック!」

 

 僕は思わず声を出す。たかが一冊の本に邪魔された兵士は、意表を突かれてか。思わずのけ反った。

 

「なんだ? この本は」

 

 驚くのも無理もない。帝国兵、2人の目線が、ブックの方へと向けられる。

 

「やめろって、言ってんだよ‼︎」

「喋る本だと⁉︎」

 

 しかし、もう1人は感傷に浸る訳ではなく

 

「生意気な本め! 蜂の巣にしてやる‼︎」

 

 鬱陶しい障害を取り除かんばかりに、一発の銃声が轟いた。

 

「ブック――‼︎」

 

 僕は叫んだ。表紙に風穴を開けられたブックは、最後に

 

「すまねぇ〜、相棒」

 

 それだけを残して、その場で力なく地に落ちるに至った。

 

「なんてことを……」

 

 あまりのショックで、それ以上の言葉が出なかった。本なんだけど、本ではない。

 いつ頃、出会うきっかけになったかは定かではないけど。でも、それでも、僕にとっての掛け替えのないパートナーなのだ。

 

「ったく、なんだったんだ? あの生意気な古本は」

 

 横槍を入れられたかのように、帝国兵の言葉が、無情にも鼓膜に響き渡る。友の犠牲、これで2回目だ。

 自分の無力さに怒りが湧き立つ。

 

「邪魔が入ったが、最後の忠告といこうか。ウサ耳の少女の居場所、どこへ行った?」

 

 しかし、そんな言葉、耳に入るはずがなくて

 

「……黙れ」

「あん? なんだって?」

「黙れよ」

「聞こえないな? はっきりと喋んないなら――」

「黙れって言ったんだ――‼︎」

 

 語気を荒げて、僕は心から叫んだ。流石に耳に轟いたのだろう

 

「貴様――」

 

 逆ギレした帝国兵が、殺意のこもった凶弾を放たんばかりに、今度こそ銃口を向けて来て。命を顧みない怒りの矛先を向けていた僕であったが、流石にこれ以上は。

 そう覚悟しかけた。――とその直後、女の子の雄叫びが

 

「いや――‼︎」

 

 鈍く重い音が弾けたかと思いきや

 

「うぐっ!」

 

 帝国兵の背後にいたもう1人の帝国兵が、その背後から襲いかかって来た人影から繰り出された強打を前に、呻き声を上げて怯んだ。

 その一撃を前にして、眼前の帝国兵は驚いて振り返る。

 

「っ! 機密の少女!」

 

 姿を確認するや、僕も声に出す。

 

「クルミ! 逃げたんじゃ?」

 

 バットのような鉄筋を手に、息を荒げてクルミは

 

「ただで逃げる訳ないでしょ‼︎ 今、助けるんだから」

 

 しかし、意表を突かれたとは言え、華奢な少女が繰り出された非力な一撃は、狙った帝国兵を一時的に怯ませただけで、そこまでダメージを負ってない模様。

 怒りの衝動から、怒り心頭な様相を醸し出しては

 

「よくも、味な真似を〜」

 

 今度はクルミへと銃口を向けて。一方、もう1人の帝国兵は、その様子に、慌てて静止をする。

 

「待て! その子は――」

 

 だが、時すでに遅し。怒りのままに、構えた銃から銃口炎(マズルフラッシュ)が炸裂する。

 その瞬間、僕は目を覆ってしまい――。しかし、来たる悲劇の結末は、鈍い跳弾音と共に覆ったらしく。

 

「バリア⁉︎」

 

 その一言を境に、殺到する無数の弾丸は鳴りを顰める。

 

「馬鹿野郎‼︎」

 

 言葉と共に殴打したような音が聞こえ、同時に、僕は目の前の光景に、ハッとした。

 

「バリア⁉︎」

 

 続け様に、言葉を発する。直後、遠方から声が聞こえてきた。

 

「どうやら、間一髪だったようだ」

 

 ふと、声のした方を見る。すると、

 

「カタリナさん! それに、セーラも」

 

 瓦礫の陰に身を潜めているとは言え、2人の無事の姿が確認された。

 

よかった〜

 

 どこか安堵したのか。僕はそっと胸を撫でろす。しかし、その束の間、クルミと対峙する兵士たちの動向に動きが。

 我に返った僕は、帝国兵達がバリアを超えて彼女を捕らえるのを黙って見過ごす訳にはいかなかった。

 球状のバリアに守られているとは言え、別な方法で破られるのも時間の問題。

 

何か、いい手はないか

 

 動かせる限り、両手を伸ばして辺りを探る。瓦礫に挟まっていて、身動きができない中、不意にフォルダの方へ右手がいく。その流れで、リボルバー(シーカー)を手にしてみせ――

 

「動くな!」

 

 銃を構え、思わず声を張り上げてしまった。

 

「あん? なんだ?」

 

 1人の声と共に、2人の帝国兵がこちらを向く。

 

「銃? 見慣れない代物だな。撃ってみろよ! その手で撃てるならな」

「なんだと⁉︎」

 

 自然と構えた両手に目がいく。僕は、その気でいたが、体は嘘はつけなかった模様。

 

 ブルブルブルブル……

 

 情けないことに戦慄いていた。

 

「その感じだと、人を撃ったことはないな?」

 

 言葉と共に、兵士の1人が歩み寄ってくる。

 

「止まれ‼︎ 止まらないと撃つぞ!」

 

 虚勢を張り上げてみせた。しかし、兵士の進む足取りは止まるはずもなく。止むに止まれずして、僕は引き金を引こうとする。

 しかし、

 

 なんだ? 指先に力が……

 

 肝心なことに、トリガーを弾く指が、僕の意思に反して動こうとしなかったのである。

 

「くっ、くっそー!」

 

 もはや、これまで。とうとう最後まで、クルミを助けるために引き金を引くことはできず。

 無常にも、帝国兵に取り上げられてしまった。シーカーを手にする帝国兵は、興味津々らしく。全体を一瞥し

 

「見慣れないリボルバーだな。どこで、手に入れたんだが……」

 

 不思議そうにする始末。そんな中、僕は叫ぶ。

 

「返せ‼︎ 返せよー! そいつは、お前らが手にする代物じゃないんだ」

 

 しかし、帝国兵は億にもせずして、得意げに言い放つ。

 

「一発も撃てなかったくせにか? 笑わせるな! 銃はこうやって撃つんだよ」

 

 言った側から、なんの躊躇いもなく発砲しようとして――

 

「っ!」

 

 放たれるであろう凶弾が、どういう訳か不発に終わった。その間、一瞬だけ、両目を背けていた僕は、ゆっくり開いてみた。

 すると、カチ、カチ、カチ、と、空回りするような音共に

 

「どうしたんだ?」

 

 訝しげに疑問を投げかける兵士が、取り上げたリボルバーを手にする兵士に問う。

 一方、リボルバーを手にしていた兵士は、さすがに戸惑っている様子で

 

「おかしい。どうなっているんだ?」

 

 と、手にしたリボルバーを吟味し始める。それを見た兵士は、上段めかす。

 

「その様子だと、お前こそ、人のこと言えないんじゃないのか?」

「んな訳ないだろう。本当に、空回りして撃てないんだよ」

「嘘だ。……貸してみろ」

 

 信じられない。そう言わんばかりの表情で、兵士はリボルバーを受け取り――

 直後、

 

「覚悟‼︎」

 

 僕も含めて、誰も彼も、リボルバーに気を取られていた側から、カタリナの威勢が突如として殺到する。

 声に反応して、僕だけでなく、クルミや2人の兵士が、声のした方へと振り向く。

 

「カタリナ!」

「貴様! どこから、湧いて――」

 

 最後まで言わずまいとして、抜刀した勢いで喉元を切り裂く。

 

「がはっ!」

 

 断末魔と共に、盛大な血飛沫をあげる。一瞬にして血祭りになる中、リボルバーを手にしていた兵士は、扱えないリボルバーを放り投げ、代わりに使い慣れた小銃に切り替えて応戦しようとして――

 

 スパッ!

 

「え?」

 

 銃身が断ち切れた光景に、呆気に捉われた。だが、カタリナは容赦なく、切り下ろした側から、剣先を突き出し、瞬時に兵士の喉元へ。

 冷徹な眼差しで

 

「観念しろ」

 

 言い放った。

 

「くっ」

 

 苦虫を噛むかのように、死を突きつけられた兵士は歯を食いしばり、両手を上げる。

 その様子から、もはやこれ以上の抵抗はできないようだ。他方、遅ればせながら、セーラがやって来て――

 

「クラウド、大丈夫か?」

「う、うん。一応、足が挟まっていて、動けないこと以外は」

「なら、大丈夫だな」

 

 視線を敵兵に向けながら、カタリナはクルミの安否を尋ねる。

 

「無事か? クルミ」

「うん、なんとか。……でも〜」

 

 その視線の先、そこには小穴が空いた古本――ブックが、物言わぬ形で、横たわっていて。

 それに、気づいたカタリナは

 

「お前、まさかー‼︎」

「た、ただの本じゃないか。喋る本と言うのは、珍しかったけどな」

 

 その言葉に、カタリナは、

 

 ちっ

 

 と、軽く舌打ちするや、渾身の力を込めた握り拳を糞野郎の顔面に叩きつけ黙らせた。

 気絶する兵士と死体化した兵士を尻目に、現状、芳しくないだけに

 

「ともかく、ここから早く離れよう」

 

 その言葉を境に、クルミを守っているバリアを解除し、僕はセーラに助けられる形で、瓦礫から抜け出した後、ブックとリボルバーを手にして、その場を後にする。

 

 装甲車を中心とした敵の索敵は、未だに続く。僕らは、とにかく崩れた家屋に身を潜めながら、なるべく索敵範囲から逃れようと慎重に行動していく。

 けれどその間、目を覆いたくなるような光景に何回か出くわすんだ。血だらけになって倒れている村人達。中には、子どもまでいる。

 誰も彼も、僕とセーラ。それに、ブックにとっては、曲がりなりにも世話になった人達であることには変わりない。

 それが、変わり果てた姿で、血溜まりの中に横たわっているのは、とても現実とは思えなかったし、非常に辛い。

 

 辛い…

 

 そんな言葉では、表現しようもないくらい。まるで、地獄絵図のような様。心が引き裂かれ、何回か気が狂いそうになったくらいだ。

 だけど、率先して僕より前に走るセーラは、僕の手を強く握ったまま、立ち止まらさせまいとして、必死に牽引してくれる。

 

 僕だけじゃないんだ。彼女だって……

 

 そう思うと、自分だけ膝を折る訳にはいかなかった。走りながら、僕は左に抱えた物言わぬブックに目を落とす。

 思いっきり弾丸が貫通した後が、くっきりと刻まれているのが見てとれる。今までが不思議だったと言わんばかりに、ブックが物言わぬ本となっているのが痛々しい。

 

「ブック……」

 

 カタリナさんを先頭にして、僕らはラシュアン近郊の森の中へと突き進んでいく。

 しばらくして、頃合いを見たかのように、クルミがカタリナさんへと話しかけた。

 

「もう、いいんじゃないの? だいぶ、離したと思うし……」

 

 言われて、カタリナさんは、そこで立ち止まった。我に返ったかのように一息つくと、耳を澄ませて見せた。

 静かな時を刻む。僕を含む、この場にいるもの達――カタリナさん、セーラ、クルミの息つがいが脈打つように聞こえて来て――

 

「……確かに。どうやら、逃げ切ったみたいだな」

 

 そう判断するのも自然なことなのかも。僕たち以外、追っ手が来るような気配が、まるでなかった。

 

「ひとまず休もう。これ以上、無理すると、体力が持たないしな」

 

 そう言った側から、近くの木を背にして寄りかかった。クルミ、セーラ、そして、僕も。

 一時的にとは言え、休ませることにした。――のはずだったんだけど、セーラだけは別の方を向いて立っていた。

 

「セーラ?」

「……」

 

 ?

 

 不思議に思って、再度、尋ねてみた。

 

「大丈夫? セーラ」

 

 すると、ハッとして気がついた彼女は、こちらを向いてにこやかに。

 

「あ、うんうん。なんでもない。そうだね、休もうか」

「セーラ……」

 

 表情はにこやかに見えていたが、どこか違和感が拭えなくて。何というか、

 

――作り笑顔――

 

 そんな風に見えたからだ。なんでもない。そんな風に言ってはいたけど、僕としては、かえって心配になった。

 

「大丈夫? 顔色、悪そうだけど」

 

 と声をかけてみた。が、しかし、返ってくる言葉は、

 

「大丈夫! 全然、大丈夫だからさ。……ちょっと、ショックだっただけだから」

「ちょっとしたショックって……」

 

 僕はすぐに見抜いた。あの地獄のような光景に、ちょっとだけショックだった、なんて、絶対に嘘だということを。

 だけど、これ以上、かける言葉が見つかりそうになくて。そんな中、カタリナさんが謝罪の念を噛み締めた。

 

「ここで改まって言うのもなんだ。本当に、君たちを巻き込んでしまって、申し訳ない」

 

 すると、珍しくもクルミまで

 

「あたしも、責任感じるよ。ごめんね、2人とも。辛い思いをさせてしまって」

「そんな〜、謝らないで下さいよ。こうなったのも、全部、僕たち民に牙を向いた帝国軍の責任な訳だし」

 

 そして、同意を求めるかのように

 

「セーラもそう思うでしょう?」

 

 真意を問うてみた。しかし、これが仇になったのか。セーラの表情がフードに隠され、明後日の方へと向く。

 何かに取り憑かれたかのような、声を漏らして

 

「へ、へへへ。……そうだよね、そうだよ。……全部、あいつらが来なければ、こうならないで済んだんだよね?」

「セーラ?」

「セーラちゃん」

 

 僕の声が重なるように、クルミも心配してみせた。カタリナさんめ、セーラの様子が一段とおかしくなったことを察して、真剣な眼差しをみせた。

 セーラは続ける。自分の握りしめた右拳を見つめながら、まるで怨嗟を吐き散らかすかのように

 

「あいつらさえ……」

 

 その言葉を皮切りに踵を返すと、来た方向を見て。何か意を決したかのように

 

「首を洗って待っていろよ。鬼畜どもめが!」

「あ、ちょっと!」

 

 とクルミ。僕も、慌てふためて

 

「セーラ‼︎」

 

 呼び止めたが虚しく。地を蹴って、風を切るが如く猪突猛進に、走り出してしまった。

 みるみるうちに、その影は小さくなっていき――

 

 その圧巻のスピードに、一時的に拍子抜けにされてしまったが、それも数秒。ハッとなって我に返るや否や、弾かれたかのように慌てふためいた。

 

「あ、ちょっと待って――」

 

 信じられない速さで、去っていくセーラを追おうとした。――と、ここで、

 

「待つんだ! 少年」

 

 カタリナさんが、止めて来た。でも、慌てていた僕は、言い返すように向かった先を指差しながら

 

「で、でも、セーラが」

 

 カタリナさんは、すくっと立ち上がると現実を突きつける。

 

「気持ちは分かる。だが、彼女が向かった先は、あの帝国兵達が待ち構えている。渦中の栗を拾うようなもので、返って危ない」

「じゃあ、どうしよって言うんですか?」

 

 すると、胸にそっと手を当てて

 

「私が行こう。全ては私達の責任だから」

 

 と、ここで、

 

「カタリナ……」

「大丈夫だ、クルミ。彼女を連れ戻すだけだ。深追いはするつもりはない」

「で、でも……」

 

 それでも、クルミは不安そうな顔は和らぎそうないみたい。歩み寄ってからに、カタリナさんはポーチから何かを取り出して見せた。

 

「大丈夫。でも、代わりにコレを預けておくね」

「これは?」

「携帯通信機。互いに何かあった時のために、連絡取り合うための手段に、ね」

「う、うん……」

 

 そこからは、うまく聞こえなかった。でも、なにか指示している辺り、使い方を教えているみたいであった。

 話が終わると、今度は僕の方へと歩み寄ってきた。

 

「できるだけ、早く連れて返るつもりだけど、君に一つ、頼んでもいいかな?」

「え? あ、はい」

 

 僕ではセーラを連れ戻すことが力不足で叶わないのなら、それ以外、なんでもできることをしたい。

 そんな気分であった。

 

「村からの脱出手段、考えて欲しいんだ。正面の出入り口が塞がれてしまった今、それ以外にないのかを」

「村からの脱出手段、ですか?」

「そうだ。この村出身の君なら、なにか妙案があるものかと期待してね」

「……わかりました」

「ありがとう。じゃ、行ってくるよ。クルミのこと、頼んだよ。君を信頼してからに」

「カタリナ!」

 

 しかし、カタリナさんは、軽く頷くだけを残して踵を返すや、セーラの後を追いかけるように走り去ってしまった。

 

 その場で受け応えてしまったような気がする。はっきりとした妙案が思いつくはずもないのに。

 でも、セーラを連れ戻すのを頼み、その引き換えとして〝村からの脱出手段″を頼まれたからには、それにキッチリと応えないといけない。そんな使命感だけはあった。

 変わり果てたブック。僕とクルミだけとなった今、思いつく限り、村からの脱出手段について思案し始める。

 そんな中、

 

「ねぇ、これからどうするの?」

「それを、今から考えているところだよ」

「考えているって、妙案があったんじゃないの?」

 

 うぐっ

 

 早速、痛いところを突かれる。一方、クルミは、その反応を見逃してくれるはずもなく。

 僕に対して、指を指しながら容赦なく指摘してみせる。

 

「その反応、図星ね」

「図星って……」

「図星も何も図星だよ。あたし、こう見えても、人の反応を察知するのは得意なんだから」

 

 両腰に両手を当てがい、偉ぶってみせた。

 

「あ、いや、そんなことを言われても〜」

「で、話を戻すけど、これからどうするのよ? いつまでもここにいて、カタリナを、あの子を待っている訳、ないんでしょ?」

「それはそうだよ。どの道、帝国兵(アイツ)ら、ここに来るのも、多分、時間の問題だし。だから――」

 

 とは言え、多分、とは言ったけど、正確には、間違いない、そんな気がしなくもなかった。

 再び考えを張り巡らす。ラシュアンから逃げる方法。村からの出口はあの1箇所しかないのだろうかと。

 僕の知り得た限り、それ以外にあるはず。まさに雲を掴むような感じだった。

 

 ……ん? 雲を掴む感じ? 雲……、まさか。あ、いや……

 

 自分で思うことに、なにかヒントのようなものを得たような。一瞬だけ、そのような錯覚を抱く。

 雲、と言えば、空に浮かぶもの。雲のように浮かび、空からの脱出手段的な妙案みたいなものを得た気がしたのだ。

 要は、あの未だに使えないタイニーブロンコに乗って、ラシュアンから脱出する。

 そのことを指していた訳である。

 

「で、黙ったままだけど、どうなの?」

 

 痺れを切らしたクルミが、再び問いかけてきた。僕は思わず、不可能かもしれない妙案を口にしてしまう。

 

「タイニーブロンコ」

「え?」

「一か八かだけど、僕が作ったプロペラ機で村から脱出するんだ」

 

 もう、こうなったら、なんでもなれ。ヤケクソになった。ブックをクルミに預けて、僕とクルミは、一回、ラシュアンへと向かい。その足でタイニーブロンコのある丘へと向かった。

 その間、一か八かと言った言葉に、どうも心配を隠せないクルミがいたことは言うまでもないが……。

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