空の旅人 篇
無数の浮遊島がゆっくりと風に揺れ、雲海の果てへと溶け込むように広がる空の世界――。
かつて、この空そのものを築き上げたとされる創星の民は、古の大戦を最後に姿を消し、彼らが残した遺跡と伝承だけが静かに取り残されていた。
島々は同じ空の海に浮かびながらも、それぞれが異なる文化や景色を守り続け、人々はその空を渡ることで生活をつないでいた。
しかし、平穏に見える世界の裏側では、目に見えない緊張が絶えず渦を巻き、風の流れをどこか不穏に歪めていた。
エルレイン帝国とテンペスト連邦――
空の名だたる二大国家は、創星の民が残したとされる技術や遺産を求め、互いに覇権を争っていた。
帝国は魔導兵器を駆使した圧倒的な軍事力と厳格な統治で島々を押さえ込み、国家間のパワーバランスで優位に立とうとする。
一方で連邦は、自由と自治を掲げ、帝国の圧力に抗うため、大小さまざまな島々を束ねていった。
小競り合いが続き、火種が消えることはない――
そんな時代の風は、空のどこへ行ってもどこか重たく、誰もが変わらぬ日常を願いながらも、心のどこかで嵐の訪れを感じていた。
その空の片隅で暮らす少年――クラウドは、静かな浮遊島で穏やかな日々を過ごしていた。
かつて交わした“ある約束”と、〝自分とは何者なんだろう?″と言った疑問を胸の奥深くに抱えながら、いつか手製の
けれど、その夢が現実へと向かって動き出す日は、思いがけず早く訪れる。
帝国の追手から逃れるように現れた一人の少女との出会い――怯えながらも決して諦めず、必死に何かを守ろうとするその姿は、クラウドの心に不思議な違和感と、言葉にできない温かさを同時に残した。
少女が語る断片的な言葉、決して誰にも明かせないという秘密、そして空の遥か彼方にあるとされる“星の故郷”の伝承。
創星の民が最後に目指したというその地を、クラウドは知識としては知っていたものの、ただの昔話だと深く考えたことはなかった。
だが、少女の瞳の奥に宿るわずかな揺らぎを見た瞬間、彼の胸の奥で何かがそっと騒ぎ始める。
それは懐かしさにも似て、しかし触れれば消えてしまいそうな儚い光のようだった。
帝国の影が迫る中、クラウドは少女を助けることを選び、同時に自分の中にある“何か”の正体を確かめたいと願うようになる。
それが何で、どこへ向かえば答えに辿り着けるのか――まだ分からない。それでも、心の奥では確かに風が吹き始めていた。
親友との約束、自分は一体何者だろう? と言った疑問、少女の抱える謎、そして星の故郷。
ばらばらだったそれらは、一本の柔らかな糸となって彼の未来をそっとたぐり寄せるように、まだ見ぬ旅路へと導いていく。
これは、空に散らばる無数の謎と、ひとりの少年の心に眠る真実がゆっくりと交差し始める、最初の物語である。