星の旅人物語   作:ぷにぷに狸

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1章:追われる者達・2話

 ゴリゴリ……、と重たいものを動かす際の摩擦音を立てながら、マンホールの蓋が開けられた。当然、その間も警戒は怠らない。その中で、地上の様子を探るように、少し頭を出して覗き見た。

 辺りを見渡すクライヴに、

 

「どんな感じです?」

 

 カタリナが問いかける。

 

「帝国兵の声があちらこちらから聞こえて来るが、今のところ、近くにはいないようだ。それに、空気が澄んでいるみたいだな」

 

 帝国兵の声が聞こえて来る辺り安心はできないのだろうけど、臭いのと煙が充満した環境よりかはマシなことに、クルミ自身、少なからずほっとした気持ちになった。

 

「早くここから出よう!」

「ちょっと待て、そんな焦るな。安全かどうか少し確認して来るから、それまで少し待ってろ」

「……は〜い」

 

 早まる気持ちがあっただけに、クライヴの言葉を受けてトーンダウン。少し残念な気持ちになった。

 

 やや間を置いて……

 

 頭上の穴からクライヴが顔を出すと、グットサインを示した。

 

「クルミ、大丈夫だって。行こう」

「うん」

 

 カタリナ共々梯子を上り、ようやく地上に這い上がった。

 

 安全地帯と言えど、そのスペースは僅かな場所でしかなく。ただ単に右往左往している帝国兵達にとって、それは死角になる場所ではさかなかった。

 だから、見つかれば、当然、その安全地帯とやらも意味をなさなくなる訳であり――

 

「あまり、音を立てるなよ」

 

 クライヴのお達しがあってのことであった。

 積み上げれた木箱を物陰として利用して、そこから覗き見れば、わんさか帝国兵がいて。

 

 〝ネズミ1匹足りとも逃さない″

 

 そんな気概が垣間見えるくらい、厳戒態勢が敷かれているのが見てとれた。更に輪をかけて見れば、戦闘車両らしき車両も何台かあり。ここを通過しようなんて、とても思える気にはなれなかった。

 それだけに

 

「うわ〜」

 

 かなり、ドン引きしてしまった。

 

「どうするんですか? マスター」

「ん〜、どうするも何も、ここを通過しないと始まらないんよな。それに、向かう先はあそこだからさ」

「非常口、ですか?」

「ああ」

 

 クルミもまた、その方向を見つめる。その場所たるや、まさにこの厳戒態勢が敷かれた道路を横切った先。対岸にある非常口だった。

 

「ただ、実際にはあの非常口ではない。さらにこのトンネルの先にある非常口が、本来向かうべき場所だがな」

「でも、結局、ここを通過することには変わりないんですよね?」

「まぁな」

「で、でも、さすがに無理だよ。こんなに警戒されているんじゃ、とても通れる気には……」

「そうですよ。私もクルミの意見には賛成です」

「だけどな〜、他にルートはないんだぜ。目指すべきエアポートは屋上にあるし。そのために、上の階に上がらないといけないし。上がるとなると、非常口から非常階段を使わないと話にならないわけで」

「うむむむ……。それなら、ゲートを越える前に言ってよ」

「全く同感ですよ、マスター」

「悪いな、事前告知なしで。だが、そう言うことだ。いずれにせよ、こう言った事態は避けて通れない訳だし。まぁ、ここに来る前に、ゲート前のエレベーターを使う手もあったかもしれないが、流石にエレベーターを使ったとして、かえって警戒されて閉じ込められてしまっては、それこそ袋小路な訳だし」

「やむにやまれず、ですか〜」

「そんなとこだな」

「あたし、いやだよ。こんなところ通るなんて」

「クルミ……」

 

 遂に嫌気が刺してしまったクルミに、カタリナが心配そうに声を掛けてきた。そして、彼女の気持ちを案じてか

 

「一旦、引き返しませんか? 戻って下水路を伝って別ルートから地上に出れば、多分、抜け道の一つや二つ、見つかるかもしれませんし」

「そうするか?」

「そうしましょうよ、マスター」

 

 だが、しかし、クライヴの表情は先のことを見通していたのか、険しく。その渋面からか

 

「だがな〜」

 

 と前置き。してからの

 

「そいつは難しい気もするんだよな」

 

 と言葉を濁した。当然ながら、疑問が湧き立つ。

 

「え? なんでよ」

 

 同じく、カタリナも疑問に感じたらしい。彼の返答に注視した。

 

「まだ、確かめてはいないからなんとも言えないが、下水制御装置が切られているかも知れないとな」

「下水、制御装置?」

 

 顔を顰めては、更に疑念が強まった。だけど、カタリナはその意味を知っているのだろう。

 

「もしかして、私達を完全に閉じ込めるために? とか」

「ああ、そう言うことだ」

 

 そこで、横から割り込むようにしてクルミが口を挟んだ。

 

「ねぇ、どう言うことなの? その〜、なんとか装置とか、あたし達を完全に閉じ込めるとか」

 

 ――とここで、クライヴが手で制して

 

「まった! 静かに」

 

 クルミの言葉を遮った。訳がわからないまま

 

「ねぇ、どう言う――」

 

 更にそれでも言葉を続けようとする。だが、そこはカタリナの出番。口元に人差し指を立て

 

「しー、だよ。帝国兵がこちらの存在に気付きかけている」

 

 その言葉を受け

 

「え?」

 

 たまらず言葉を押し殺した。遠くから足音が聞こえて来る。それも1人だけだが、

 

「どうした? 勝手に持ち場を離れて」

「あ、いや、声がしてな」

「声? 誰の」

「女の声がさ。更に、その女とヒソヒソ話しているような感じで聞こえて来てな」

「女? ヒソヒソ話? 気のせいじゃないか?」

「いや、気のせいじゃないと思うけどな」

「じゃ、なんだって言うのだよ。てか、どっから聞こえて来たんだよ? それ」

「ほら、あそこから」

「え? 歩道からか? あそこには誰も居ないはずだぞ。――てか、おいっ、勝手に」

 

 足音が近づいて来る。こちらの存在が見つかるのも時間の問題ときた。

 

「ま、まずいな……」

 

 さすがのクライヴも、これには焦りを感じずには居られない様子。

 

 〝いざとなれば″

 

 そんなことでも思ったのか、背に担いだ大斧に手が伸びる。一方、カタリナの方も、柄に手が伸びた。

 一歩一歩、階段を登ってくるような足音が、緊迫した空気の中、唯一無にして聞こえて来る。

 戦闘はま逃れそうもない。2人の覚悟が滲み出て来て――

 

「そこの君達、何をしている? 勝手に持ち場を離れるな!」

 

 ドスの効いた低い声が、別の誰かの声として聞こえて来た。

 

「た、隊長」

 

 慌てて答える兵士の声。

 

「ん? なにか、気になることでもあったのか?」

「あ、いや、声がしまして」

「声が? だと。なんの?」

「女の声です。それも、あそこから」

「女の、声? だと。……ばかな。んなの気のせいに決まっているじゃないか」

「あ、いや、しかし。確かに――」

「君、上司の私を疑っているのかね?」

「あ、いや、そう言う訳でも……」

「じゃぁ、なんだと言うのか? まさか、例の侵入者でも紛れ込んだと言うのかね?」

「あ、は、はい。そんなところです」

 

 隊長の威圧に負けて、思わずと言ったようなところだろう。そのような感じが、当てずっぽらしからずして見てとれた。

 だけど、そんな部下に対して半信半疑ながら隊長は切り返す。

 

「ふ〜ん、なるほどね。そこまで言うか。確か、マンホールの蓋を開けるためのスパナは、錆びつきすぎて脆かったんだよな? 使えものにならないくらいに」

「あ、はい。脆すぎていて今にもへし折れそうなくらいに」

「そっか。で、そいつはどうした?」

「どうした? と言われましても、一応、処分しましたよ。ゴミ箱に」

「どこのだ?」

「え? どこって……」

「いいから答えるんだ。これは重要案件だぞ。……なにせ、機密の少女を掻っ攫った反逆者絡みだからな」

「そ、それは……」

 

 ――と、その時である。どこからともなく、缶を蹴り倒したような音が。動揺を押し殺すことに必死のクルミ達の傍ら、隊長を含め、その場にいた兵士一同に緊張が迸った。

 

「誰だ⁉︎ 出てこい! そこに居るのは分かっているんだぞ」

 

 隊長の怒号が、トンネル内を木霊する。あまりにも大きな声に、他に散開していた帝国兵が、こぞって隊長の元へと集まり始めた。

 

「さ、さすがにまずいな……」

 

 想定外のことに窮地に陥っていたクルミとカタリナを代弁するかのように、焦燥感を抱いたクライヴが言葉をこぼした。

 

 〝ジャキ――ン……!

 

 抜刀した際の剣と鞘が擦れるような金属音が、更なる緊張を増幅させていく。クライヴとクルミの間にいたクルミが、積み上げられた木箱の隙間から、外の状況を除き見ようとする。

 

 足音が近づいて来る。

 

「マスター……」

「ああ、いざとなれば」

 

 カタリナやクライヴも柄に手を当てがい、臨戦態勢を取り始めた。この状況下、これだけはハッキリしていた。

 

 〝このままでは、戦闘は避けられない”

 

 と。

 次第に近付き、遂には階段を登り始める足音まで。発見されるのも時間の問題、そして、戦闘は避けられそうに見えた。

 

 ――が、その時である。何かが木箱の隙間から飛び出しては、

 

 チュウ、チュウ!

 

「っ!」

「隊長‼︎」

 

 1匹のネズミが、抜剣した隊長達とすれ違い、何処へと逃げて行った。

 

「ネズミ?」

 

 注視していた帝国兵の1人がぼやく。

 

「……ふん、なるほどな」

 

 何かを納得した様子、ほっと一息つくや、静かに納刀した。

 

「隊長」

「どうやら君達は、先程のネズミ一匹に踊らされていたらしいな。或いは、ストレスからか」

「では?」

「何も変わらんよ、何も。……とりあえず、2人揃って休め。任務続行はそれからにしろ」

「し、しかし……」

「疑いが晴れない、ってか?」

「あ、……い、いえ、何も」

「なら、そうしろ。それに、敢えて言っとく。これは命令だ」

「……わ、分かりました」

 

 その言葉を最後に、クルミ達から複数の足音が遠ざかって行った。

 

 ともかく難局は乗り越えた。ほっとしたのも言うまでもない。しかし、警備が厳重な現状は変わりはなく。

 輪をかけて、更に警備体制が強化されたことが容易に想像できた。

 

「で、どうするの? クライヴ」

「どうするも何も、変更はない」

「でも、さっきの件然り、これ以上、危険は冒せないよ?」

「同感です、マスター。ここは引き下がるべきですよ」

「うむ〜、言いたい気持ちは分かる。だが、戻ったところで下水路を伝って通るのは、無理な気もしなくはないからな……」

「そんなの、行ってみないと分からないじゃない」

「……行ってみないと、ね〜」

「そうですよマスター。クルミの意見には、一理あります」

「一理ね〜」

 

 そこでクライヴは、黙してしまった。きっと考えているに違いない。色んな可能性について。

 だけど、彼は首を縦に降らなかった。

 

「……悪いな。やっぱりその案は、却下だ」

「え? なんでよ」

 

 納得いかなさ過ぎただけに、ここは食って掛かる。一方、クライヴとは師弟関係以上に親子関係に近いカタリナは、彼が心底悩んでいたことを見抜いていたようだ。

 

「……やはり、追っ手、ですか?」

「……まぁな」

 

 横目で彼女を見た後、一拍置いて彼は答えた。カタリナは溜め息をし、肩を落とす。

 

「仕方ないですね。そうだろうとは、推測していましたが」

「悪いな」

「え? な、なんでよ? 追っ手、なんて爆破工作で振り切ったんじゃなかったの?」

 

 すると、クライヴは

 

「確かに振り切ったさ、確かに。だが、帝国軍はそんなことでは諦めないさ。必ず追跡してくる。特に〝あの女”が指揮する部隊は、尚更」

 

 〝あの女”

 

 それは誰の事かは、当然、クルミには分からない。分かるはずもなかった事案であった。

 首を傾げるクルミに変わって、カタリナが申し出る。

 

「親友は必ず守ります。だから、安心して潜入調査して下さい」

「悪いな、カタリナ」

「ちょ、ちょっと。それ本気で言っているの? ……ねぇ、カタリナもだよ」

「ごめんね、クルミ。私達には時間がないのよ。追っ手が迫っている筈だから、このまま袋小路になる訳にはいかないのよ。だから――」

「そ、そんな……」

「んな、悲しい顔するなよ」

「悲しい顔するなって、む、無理に決まっているでしょ。万が一、見つかりでもすれば、と想像したら」

「ふん、だよな。その気持ち、痛いほど分かる。だが……」

 

 彼は前を見た。見て、目指すべき場所を見定め、鋭い眼光を研ぎ澄ませる。それは、まさに覚悟を決めたような、真剣そのもの眼差しであるだけに。

 そして、振り返らずして――

 

「あとのことは頼むな」

「ええ。……それに、マスター」

「ん?」

「ご武運を」

 

 その言葉の意味。その重みをひしひし感じると、ふんっ、と軽く鼻で笑い。

 

「当然だ」

 

 決め台詞を吐いた。

 

 

 

 

 振り返りはしない。けれど、カタリナは、うまくクルミを匿ってくれる筈だろう。今は、それを信じるしかなかった。

 向かうべきは、対岸にある下水制御室。そこまでの道のりなのだが、いかせん発見される訳にはいかなかった。

 騎士として培った潜入スキルを活かし、気配を消して帝国兵達の目を掻い潜っていく。

 ハッキリ言ってかなりの修羅場だ。見つかれば戦闘は避けられない。それに、今は十天将だった頃とは違う。

 あの時は、一騎当千と言わんばかり力が漲っていた。だけど、〝奴”に根こそぎ力を奪われてからは、人並み以上に実力があるだけであり、銃撃の包囲網を1人で突破することは正直言って自信ない。

 けど、現役だった頃に磨かれたスキルは、決して無駄ではなかった。だから、今、こうして役立っている訳であり――。

 魔導装甲車(XM-Ⅰ)の車体を利用しつつ、ゲート方面にいる帝国兵達に警戒しながら、慌てず冷静に事を運んでいた。

 中央分離帯を超えるべく、柵を乗り越える。

 

 (あと少し、あと少しで……)

 

 はやる気持ちが、ゴールに近付けば近づくほど高まっていった。

 

 やがて対岸に、無事に歩道への階段に辿り着く。

 

 ここを登れば、あとは下水制御室への扉。

 最後の最後まで気を抜けない中で、無事に辿り着けたことに、やや安心したような気持ちにはなった。

 そして、扉の前に立つ。中に入れば戦闘は避けられない。そのことを念頭に、クライヴはゆっくりと背に担いだ大斧の柄に当てがった。

 やはりと言うべきか。下水制御室への入り口には、簡単に入れないよう細工してあった。

 指紋認証パネルが取り付けられており、関係者以外、入れない仕組みとなっていたのだ。

 むやみやたらに破壊したところで破壊音に勘付かれ、立ち所に窮地に追い込まれる。

 それだけは避けたいクライヴは、指紋認証パネルの裏側へと手を伸ばし、元々、あった施錠キーと今回取り付けられた指紋認証パネル装置との間に手を入れてみた。

 

「やはりか……」

 

 指先で触れた箇所には、幾つかのコードが伸びているようだった。工具はないが、代わりに大斧がある。

 抜刀すると、斧の刃の端を隙間に、それもコードを幾つか巻き込むような形で差し込み、そのまま勢い付けてスライドさせてみせた。

 

 ブチブチブチ……

 

 何本か切断するような感触が、伝わって来る。同時に、指紋認証パネルの電源も落ちてしまい。

 納刀し、これで、楽々、侵入できるようになった。

 

 静かに扉を開けて入る。

 

 中は狭い通路。それも、人が1人半通れるくらいしか幅のない通路だった。普通は、整備士以外立ち入ることがない場所。当然、クライヴとしては、初めて入る場所であった。

 壁面がコンクリートに囲まれており、足場が鉄網板で敷かれている。そこから垣間見えるは、幾つかの配管であり、それ以上、どこへと向かって伸びているかは、分からなくなっていた。

 奥の扉前に辿り着き、そのままそっと扉に掌を当てがう。その瞬間、中から何人かの声が聞こえてきて――

 だけど、何を話しているのかまでは定かではなく。だが、そんなことはどうでも良くて、やる事は一つしかない。

 騒動を聞きつけて増援でも呼ばれたら厄介。

 

――一瞬で片をつけてやる!――

 

 そう意を決して、いざ突入する。柄に手を当てたまま、

 

 ガチャンッ!

 

 音を立てて入室した側から、気配に気付いた帝国兵達は一斉にこちらを向く。その数3人。まさに、何かの点検作業、真っ只中だった。

 

「き、貴様は!」

「問答無用‼︎」

 

 皆一様に銃を構えるその刹那、大斧を抜刀したクライヴは、すかさずブーメランの如く、半円を描くように投げ飛ばした。

 

 ブォオーン‼︎

 

 と風を切るような不気味な音を立てて、ライフルを構える帝国兵達に殺到する。

 

「ぐはっ」

「うぶっ!」

「ぎゃあ‼︎」

 

 薙ぎ払うようなイメージで、奴らの胴体を切り裂いては、血飛沫と断末魔を呼び起こした。だが、やり過ぎた感は否めない。

 血の海に沈む彼らをよそに、そのブーメランと化した大斧は、装置の一部までをも勢い余って切り裂いてしまったのである。

 見事、超高速で回転飛来し戻って来た大斧をキャッチしたクライヴは、内心やらかしたと思った。

 制御装置は4つあるが、その2つが斬撃痕を残し、そこから火花を散らして破損。見た感じ、再起不能であった。

 けれど、もう2つは無傷。早速、その装置へと歩み寄った。

 

「……どうも、排煙システムも備えているみたいだな」

 

 装置は2種類の役割を、制御する形で役割を担っていた様だ。排水制御に排煙制御。2つとも排出モードになっていただけに、クライヴの予想は半ば的中した感じはあった。

 つまるところ、あのまま地上に出ず、下水路を伝い歩いて行ったところで、排水に邪魔されて先へ進めなかったであろうと。

 そして、もう一つ腑に落ちたことも。と言うのも、ゲート前に辿り着いた際に、トンネル全体が煙で充満していたことを思い出したからである。

 

 〝煙の充満″

 

 と言う工作は、きっとこの制御装置から行われたに違いない。そう確信に至ったからであった。

 ともかく、やるべきことは変わりない。排水制御システムを操作し、封鎖モードに切り替えた。

 それからもう片方も、同じ容量で行い、重厚な鋼鉄が足元で蠢くような音を立てて、生きている制御装置での作業を終えた。

 

「これでよし、あとは引き返すだけ――。……?」

 

 そこで〝何か″を視界に捉えては、クライヴは惹きつけられるように歩み寄った。

 それは、机上に置かれた物であり、不思議と手にとってみた。

 

「見たところ、カードタイプの何かだな……。まぁ、いいか。頂くとしよう」

 

 きっと何かに使えるかもしれない。そんな予感が脳裏をよぎった。

 

 2人の元へ引き返さなければ。しかし、ここで見つかってしまっては、想像に難くない惨事が目に見える。

 それだけに、恐る恐る扉を開けて見ては、外の様子を覗き見た。トンネルと制御室の間に通路を挟んでいるとは言え、先の騒動が外部に漏れているかも知れない。

 

 場合によっては……

 

 そんなことが脳裏を過ったが――

 

「……」

 

 先程までと変わらない、いつもの警戒体制の光景がそこにあった。

 

「しめた。バレてないみたいだな」

 

 油断できない状況には変わりないが、ほんの僅か、胸を撫で下ろせたような気がした。

 あとは、隙をついて対岸へと向かうだけ。だが、そこで1人の帝国兵が隊長と思われる者を呼び出した模様。

 その帝国兵の眼前には、何かの装置の様なものが配置しており――

 

「まさかな……」

 

 不意に嫌な予感が過った。急がなければるまいて、トンネル内に出ると、身近な階段に身を潜めた。

 耳を澄まして見れば、隊長と思われる声が聞こえてきて――

 

「大至急、制御室前を包囲せよ! 何者かによる侵入がなされたと見ていい」

「まさか!」

 

 敵は全て片付けたかに見えたが、どうやら騒動を勘付かれたようだ。かなり危機的な状況。物陰から除けば、続々と帝国兵が集まって来るではないか。

 銃火器を手に続々とこちらに、見つかるのも時間がなくて。一旦、階段を登り返し、再び歩道上に出る。

 

 ゲート側と真反対へ進むべきか? 

 

 或いは

 

 ゲート側へと向かい、そこから人の目を欺いて路上に降りるか?

 

 まさに、二者択一であった。ただ、どれをとってもリスクがある。一番、怪我のリスクが少ないのは、勿論、前者。だが、そのルート上には、対岸同士で監視ロボが互いに神経を尖らしている。

 片方、黙らせたところで、同時に対岸にある監視ロボに発見されるのは関の山。結果は、……想像するまでもなくて。

 怪我のリスクは十分承知であるが、クライヴが取った選択は後者。ゲート側と向かい、タイミングを見計らって飛び降りようとする。

 高さ10m前後、発見されるよりかはマシ。覚悟を決め、複数人が階段の登り口に入り見えなくなったところで、勢いよく飛び降りる。

 

 ぐぬっ!

 

 着地時の衝撃に、思わず呻き声が。だが、動ける分には支障はなかった。続々と警戒モードで階段に集結していく帝国兵を尻目に、クライヴは彼らの目を盗んで対岸を目指した。

 背後から、敵襲撃を知らせる声達、敵の居所を探し合う声達が不気味に聞こえて来る。

 全く意に介さずスルーするのは無理があったが、ようやく対岸の歩道上に出たクライヴは、マンホールへと向かった。

 クルミとカタリナの姿が見当たらないことに、一瞬、心配にはなるものの、2人はうまくやり過ごしているであろう。

 そのことを信じるしかなかった。

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