「あっ、来たよ。カタリナ」
「待ってましたよ、マスター」
「すまなんだな、2人とも」
案の定、下水路に身を潜めていたことに、クライヴは少なからず胸を撫で下ろした。
「で、どうなの?」
とクルミ。マンホールを外側から開けられない様に、ハンドル部分に細工をしながら、経緯を話し始める。
「ひとまず見つかってはいない。制御室て、一悶着はあったが、これだけは言える」
しかし、その言葉に疑念を抱いたのか
「え? それって見つかっているのと同義じゃ〜」
「ま〜、半ば、そうだな」
完全には見つかっていない。てことに対しては事実だけに、言い訳が立ちにくかった。
一方、カタリナは
「でも、大事になったとしても、一応、巻いてきてはいるんですよね?」
「まぁな。最低線、そこは大丈夫だ。ただ、いずれにせよ、更に警戒体制が厳しくなったのは、避けられそうにないな。……あと、それに〜」
「それに?」
とクルミ。しかし、クライヴは
「あ、いや、なんでもない。なんでも……」
制御室での戦闘の際、装置を2台破損させてしまったことを気にはしていたが、多分、大丈夫だろう。
敢えて意に介さないようにした。2人が自分の何かを含ませている様な言葉に、気にしているような様子ではあったが……
「と、ともかく、先を急ごう。いずれにせよ、ここにいてもしょうがないから」
「そうですか」
「え〜、なんか気になるの」
腑に落ちないクルミ。多分、腑に落ちないでいるであろうカタリナを傍に置く様に、先を歩み始めた。
下水路は川と路を隔てる様に鉄格子が延々と奥に続いていた。当然、先々も暗闇で包まれてはいるが、所々、灯りが付いていて、道標の様に続いていた。
それだけに、少しだけ安心感はあった。川のせせらぎを聞きながら、クライヴ・クルミ・カタリナは先を進む。
そうした中、謎の扉を見かけたが、そのままスルー。更に先を進んだところで、ある種の障壁に行き着いた。
「クライヴ、これ……」
「行けなくはないですけど、流石に〜」
「君達の言いたいことは分かる」
「だったら――」
クルミに指摘されてもあるが、クライヴとしてはそれ以前に、こうなることはなんとなく想定していたのである。
つまるところ、通路が下水によって塞がれていたのである。行けなくはないが、汚水に変わりないだけに、ジャブジャブ渡り歩くには抵抗があった訳であり――
「渡り歩く訳には――」
とか言いながら、二人を見。そして、彼女らの苦苦しい表情を見て
「だよな〜」
納得しざるを得なかった。で、そこでだ。
「仕方ないな。なら、一旦、引き返すか?」
「え? 引き返すって? どう言う――」
「もしかして、先の部屋ですか?」
「お! 察しがいいね。まぁ、そう言うこと」
「部屋? そう言えば――」
「ま、ともかくそこまで引き返そうか?」
「ですね」
なんの部屋なのかは、大体、見当は付いていた。だけど、クルミのその様子から、なんの部屋かは分からないようだった。
そして……
その部屋は、仄暗さを兼ね備えていて。
「当然だよね? クライヴ。あと、なんでこんな部屋に?」
「私も聞きたいです。なんなんですか? この部屋は」
「出たければ出てもいいけど……」
「じゃ、あたし出る。当然だよね?」
「マスター、あとは……」
「分かった。わかったよ、二人とも。なら、訳を言うよ」
「当然です!」
怒り気味でクルミは断定した。クライヴは話す。
「下水制御装置が破損したんだよ。戦闘中に」
「……やっぱり」
「制御、装置? てことは」
そんなクルミにカタリナが
「さっき下水が流れていて通れなかったでしょ? その下水排水を止める装置が壊れてしまったってこと」
「えー‼︎ それ最悪じゃん! ね〜、どうしてくれんのよ?」
「どうしてって、だから、俺が」
しかし、2人には響かなかった。ただただ、あとはお願いね、それだけを残して退室してしまった。
「仕方ない、か……」
クルミは仕方ないにしろ、カタリナだけでも手伝って欲しかったが、こうなれば自分1人でも。
(ま、やるしかないか)
まさに、やむに止まれずである。目の前にある左右二つのハンドルの前。害虫がわんさかいて右往左往する中、渋々、歩き出した。
グチャ、グチャ、グチャ、……
虫を踏んづける度に、気色悪い効果音やら悲鳴やらを響き渡らせて、ハンドルの前に来る。
両手をハンドルに当てがい、ギ、ギ、ギ、ギ、……、と力を掛けてゆっくりと回しつつ
「これ、1人だとかなりきついんだよな〜」
と嘆息する。正直言って、水圧が直接掛かるだけにかなり重い。重すぎて、機材が必要なレベル。2人でなら、同時作業なだけに楽なんだが、これを1人でしないといけない現実。
それだけに、本当はカタリナだけでも手伝って欲しかったのだ。けど、元を正せば、戦闘中とは言え装置を破損させてしまったのが発端。更に輪をかけて、この部屋は害虫だらけ。
虫が苦手な2人だけに、無理があるか〜、と、なんとなくだが、諦めがついたような気さえした。
悪戦苦闘を経て左右のバルブを閉めた後、薄暗く気色悪い予備制御室を出た。
「終わったぜ」
「ありがとうございます、マスター」
「ありがとう、クライヴ」
「大変だったぜ、ほんと。でも、これで通れるはずだぜ。先を急ごう」
「ええ」
その返事を皮切りに、再び歩み出す。
下水路に蠢くモンスター――スライムに直面した。数にして2体。汚水から現れたのが見て取れるくらい、その痕跡が滲み出ていた。
クルミは気色悪がって物陰に隠れてはいた。その代わり、クライヴとカタリナが難なく切り伏せて見せ、最後に、チャキッと納刀音を奏でさせてみせた。
「さ、行こうか?」
「もう、大丈夫? なんか真っ二つにしただけで、また、復活しそうに見えるんだけど」
「恐らく大丈夫だ。ヘドロ系モンスターとは言え、ただの液体とは違うんだ。あくまでモンスター。くたばったのは間違いないさ」
「そ、そう……」
不審に思いつつ、恐る恐るスライムの死体を踏み越えていった。
その後……
クルミを手招きした後、地上へ出る梯子は目の前だった。ギシギシ軋む音を鳴らして登り、そして、率先して先に登っていたクライヴがマンホールのハンドルに手を当てがった。
「むっ」
やや重かったが、しかし、工具を使うまでもなく。なんとか開けることができそうだった。だが、警戒は怠らない。
やや開けて、その開けた隙間から外の様子を伺う。
(今のところ、1人のようだな……)
何かのボックス型装置の手前、1人の帝国兵が何やら装置に向かって確認作業をしている最中のようだった。
このことから、この帝国兵を黙らせる以外、方法がない模様。いずれにせよ、ちょっとした戦闘は避けられずと言ったところ。
クライヴとしては、できるだけ騒ぎを立てたくない考えがあり、それだけに、暗黙の仕草でカタリナに指示を出した。
「クルミ、ちゅっと下がれそう?」
クライヴの意を受けたカタリナが、クルミに指示を出す。
「え? いいけど」
「ありがとう」
そして、クルミと共にカタリナも下がり、クライヴとの距離を一定程度空けてくれた。
「悪いな、2人とも」
2人の承諾を得、早速、マンホールから覗く先にいる帝国兵を誘き寄せる作戦に打って出る。
鋼が擦れる音が外に漏れる。
「?」
気配に気付いたらしい。
「蓋が開いている?」
不審に思ったのか、恐る恐る近づいて来た。そして、中を覗こうとして、
「! き、貴様は――」
皆まで言わせない。足をガシッと鷲掴みしたクライヴは、油断した帝国兵を、
「のわ!」
驚愕するがまま、強引に穴の中へと引き摺り込んだ。
「ひっ!」
クルミの悲鳴が上がり、不利な体勢のまま落下した帝国兵は、そのまま後頭部を強打。気を失ってしまった。
「一丁上がりだな」
「あー、ほんと、びっくりしたよ」
「驚かしてすまんな」
「でも、これで安心して地上に上がれますね?」
「とりあえずはな」
正直なところ、まだまだ、危機を脱したわけではないが……。クライヴを先頭に、クルミ、カタリナの順で梯子を使って地上へと出た。
案の定、警備が厳重だった。しかも、そこに輪をかけて対岸まで行くルート上には、監視ロボまで徘徊している始末である。
とてもじゃないが、見つからないで渡るには、見回りしている帝国兵か、或いは、監視ロボの1、2台かは黙らせないことには、まず持って無理そうであった。
「さ、流石にこれじゃ――」
「わ、私も同感です。流石にこれでは……」
そこまで表情には表さないまでも、2人は揃って唖然としていた。普通なら引き返すしかない。
だけど、引き返すにしろ、次はどこを目指す? 考えられる策として、先程の下水路を伝い奥を目指す? はたまた、逆に進むべき?
いずれにせよ、最終目標はエアポートであることには変わらない。ましてや、強行突破なんて自分は愚か、2人まで無事では済まないのは火を見るよりか明らかなはず。
クライヴは、思考を張り巡らした。打つ手は……、と。せめて、監視ロボだけでも抑えることができれば……、と。
そんな中、先程、帝国兵が使っていたボックス型の装置へと目が行った。見た感じ、なんの装置か定かではない。
ないが、しかし――
「カタリナ、どう思う?」
「どう思うって?」
「これだよ、これ。この怪しげな装置に対して、だな」
「これですか? でも、そう言われても〜」
あまり、期待はしていなかったが、クライヴとしては彼女の意見を、とりあえず、という形で聞きたいと思っていた。
「ふ〜ん……。でも、分からないなら、適当に押せば、何かわかるんじゃない? それ!」
「あっ、ちょ!」
「あ!」
カチッ
クライヴの静止を待たずして、クルミは何食わぬ顔して幾つかあるスイッチのうち、どれか一つを適当に押してしまった。
瞬間、
本能が疼いた。が、次の瞬間、
『6号機が稼働停止しました』
との音声が。
「なんか、停止したみたい」
「だね」
「停止? なにが?」
不思議そうな表情を浮かべるクルミの傍ら、カタリナもだろう。頭の中かが真っ白になった感覚を抱かずにはいられなかった。
しかし、それからというもの。帝国兵の動向に耳を傾けてみれば、それとなく変わった様子がないみたい。
(気付いて、ないのか?)
まさに、疑心暗鬼としか言いようがなかった。ただ、何か変化が起きたのは間違いないはず。
帝国兵・監視ロボ、共に見つからないように柵の近くへ。彼らが右往左往している路上の光景を見渡した。
見渡して、それでいてクライヴは想像してみた。稼働停止、と言うからには、多分、システム関連の何かであろうと。
それだけに、特に注目したのは機器類の方であった。見渡す中、目の前の装置と似通ったものが幾つかある。
そして、その装置の前には、必ずと言っていいくらい帝国兵が寄り添っている。多分、違うのだろう。
他に目を通せば、監視ロボの方。そこに関しては、帝国兵達は一切目を通していない。まさに、完全にお任せなんだろう。
そんな見立てであった。そこに注目してみれば、全て徘徊しているか、目をキョロキョロするなりして、何かしら動き回っているのが目につく。そんな中、一台だけ。一台だけ、沈黙している監視ロボがいたのである。
(あれは…)
見た感じ、稼働していないように見えて。そこで、クライヴは、もしかして、と勘付いた。
「何か、分かりましたか?」
「ああ、なんとなくだがな」
そう返答するなり、またもや目の前の装置へ。
「俺の勘が正しければ、これは監視ロボの制御装置、と言ったところだろう」
すると、クルミは目を輝かせて
「じゃ、じゃ〜」
「だが、いずれにせよ下手には弄れない」
「え? どうして?」
すると、代弁する形でカタリナが説明する。
「あまりやり過ぎると、流石にバレるから」
「そうだな。とは言え、的確にではあるが、監視ロボを停止させるに越したことはない。特に、対岸にある監視ロボは黙らせる必要があるからな。万が一、停止工作を怠った末、稼働中に視界にでも入って警報でもされたら……、な」
「でも、マスター」
「ん?」
「肝心の停止工作にしろ、どのスイッチがどの対象物なのか、一応把握しないと難しいのでは?」
「まぁ、確かにな」
まさに、カタリナの言う通りなのである。乱発する勢いで適当に押してやりたい気分ではあるが、その線はしたくない。と言うか、危険なのだ。だから、現実的に考えた上で、できれば、あと一回。
それを最後にしたいところではあるのだ。再び、停止した監視ロボの方へ目線を向ける。
稼働停止した監視ロボは、今いる場所からすぐ近くにいた。
更に奥には同じく監視ロボがいて、さらにその奥にも。いるようでいないような…。機器が邪魔してよく見えないが、そんな塩梅であった。一方、対岸にいる監視ロボも、それとなく同じ配置で並んでいた。ゲート方面とは逆の方にも、監視ロボがいたが、こちら側と対岸に計4台、配置されているくらいであった。
稼働停止となったスイッチは、〝06″と記されている。それ以降は、07から10とあり、推測が正しければ――
「これかな……」
カチッ
〝05″と記されたスイッチを押した。直後、先程と同じようにメッセージが流れて、いずれかの監視ロボが機能停止したようだ。
「……うまくいった?」
心配な声でクルミが聞いてくる。クライヴは、対岸を見つめて――
「……どうやら、成功のようだな」
厄介な監視ロボが、動かなくなっていることを目視で確認した。
「でも、マスター」
「ん?」
呼ばれてカタリナの方へ
「厄介な監視ロボは機能停止したとは言え……」
「ああ、分かっている」
彼女の言いたいことは分かっている。リスク軽減は微々たるものだと言うことを。だから――
「ここからが正念場だからな」
そう言うなり、進むべきルートを見つめた。いずれにせよ、行き交う帝国兵・監視ロボの目を盗んで掻い潜らないとならない。
それだけに、とにかく失敗は許されない。改めて気を引き締めに掛かった。とは言え、いずれにせよ、ここから下に降りないといけないことには変わりない。
柵の手前に寄ると、どこか降りれそうな場所を探した。探して、2人が見つめる中、下の路上を見渡し――
(あの砂袋の山、クッション代わりに使えそうだな……)
何のためにあるのかは定かではない。けど、無事に降りれるなら、打ってつけなことには変わりなさそうではあった。
「ここから降りれそうだ」
「え?」
2人が歩み寄って来る。
「砂袋? 行けなくはないですね」
「だろう?」
しかし、クルミは
「あ、あたしは遠慮しようかな。なんか、怪我しそうだし」
と一歩引いた。
「しかし、ここしかないぞ。階段から降りると言う手もあるが、……あそこ」
と対岸の方へと向き、ある1箇所を指差して、
「あの生きている監視ロボの視界に入る危険性が高い」
と理由を話した。
「そ、そんな〜」
理解したのだろう。クルミは落胆し、困り果ててしまった。答えを求めるかのように、友人に助け船を求めて
「どうしよう、カタリナ」
問いかける。
「大丈夫だよ、クルミ。なんなら、あたしが下で受け止めてあげるから」
「いいの?」
「うん。これでも、半人前とはいえ騎士だし」
「……分かった。……クライヴ、いいよ」
「了解。……ふん、いい友がいて良かったな」
そして、柵の方へ向き直る。下を見て
(だいたい、高さ的には数メールと言ったところか)
砂袋があるとは言え、クルミが先に言った通り、確かに一歩間違えれば怪我してもおかしくはなかった。
改めてそんな気がして。だが、そんなことお構いなしみたく、軽やかに柵を飛び越えると、一時的な落下時の重力感を感じ。
直後、ジャリッと音を立てて綺麗に砂袋上に着地。再度、辺りを警戒して、勘付かれていないことを認識すると、カタリナとクルミ、双方に向けてOKサインを出した。
「じゃ、先にいくね」
「うん」
カタリナもまた、クライヴ同様、軽やかに柵を飛び越え、そして、綺麗に着地した。
「さすがだな」
「そんなことは……」
「クルミ、いいぞ」
「うん」
頷き、それから柵に歩み寄った。下を見て、恐怖からか。ゴクリッと唾を飲み込み、震える手を柵に当てがった。
「ねぇ? ちゃんと受け止めてよね」
「ああ」
「任して」
2人の返事を聞いて、それから恐る恐る柵を跨いで――
「えいっ!」
勢いよく飛んだ。ふわりと舞うクルミの姿が目に入り。クライヴは、カタリナと共に落ちて来たクルミを全身で受け止めてあげた。
「よーし、よくやったぞ、クルミ」
「頑張ったね、クルミ」
「あ、ありがとう、2人とも。でも、2度としたくないかも」
苦笑いしてみせた。彼女を立たせて、それから先程までいた場所を見つめる。クライヴやカタリナならなんてことはないのかもしれないが、普通の少女にとっては。
……いや、そうでなくても、数メールという高さ。建物で例えるなら2階から飛び降りような高さと言うべきか。
そんな高いところから飛び降りるなんて、怖い以外何者でもないのかもしれない。
「マスター」
「あ、そうだな」
気を取り直し、進むべき道を見つめる。これからが本番なのだ、これからが。失敗は許されない。
だからこそ――
「俺から離れるなよ」
「うん」
「ええ」
2人を導くかの様に、クライヴは敵兵の目を盗むかの様に、配置された幾つのものコンテナの陰を利用して、対岸を目指した。
近い様で遠い様な。そんな錯覚を抱く。普通なら、横断歩道を渡る様な感覚で、対岸にある階段を目指せたもの。
しかし、実際にはそうはいかない。右往左往する監視ロボなら、行動パターンを読めさえすればどうにでもなるが、帝国兵は人だけに、動きが読みづらいのだ。
それだけに、出会い頭、急所を狙い黙らす算段が脳裏を何回も過ぎった。だけど、そんなことをすれば、仲間の異常に勘付かれて、とてもじゃないが、潜入が立ち行かなくなる訳であり。
結果として、タダではいかないのが目に見えていた。
だからこそなのだろう。
コンテナとコンテナの間で右往左往する帝国兵を前にして、万事休すなだけに立ち往生していた。
「向こうのコンテナまで、5メールあるかないか。か〜」
「厄介な局面、ですか?」
「まぁな。監視ロボと見張りの帝国兵の目を盗んで先に行くには、かなり絶妙なタイミング、って感じだからな」
「覗いてみてもいいですか? 状況を把握したいので」
「ああ。だが、気を付けろよ」
「はい」
クライヴに代わって、カタリナがコンテナの陰から覗いてみせた。数秒間だけ、沈黙を守ってはいたが……
「確かに」
どことなく腑に落ちたのか。クライヴとクルミの方を向く。
「だろう?」
「マスターの仰る意味が分かりましたね。確かに歯痒い場面です」
その言葉を受け、気持ちが通じ合った。そんな気がした。
「そんなに面倒なの?」
とクルミ。無理もない。目の前に隠れそうなコンテナがあるのに、行けないなんて理由。分かる訳がなかったから。
彼女の目の高さに合わせるかの様に、クライヴはここでしゃがみ込んだ。
「いいか? よく聞くんだぞ」
「え? な、何? 今更。……別にいいけど」
やや動揺はしたらしいが、クライヴの真剣な眼差しを組んでか。少しだけ落ち着き払ったようにみせた。
クルミにはこれ以上、難儀をさせたくはなかったが、こうなった以上、少しでも動揺させまいとしつつ、注意事項を説いた。
「敵兵がコンテナの辺りを彷徨いている。見つかったらどうなるか、分かるよな?」
「ま〜、それは分かるけど……」
「なら、大丈夫そうだな」
そして、向こうにあるコンテナを指差すと
「あそこ。……いいか? ここが肝心だ。俺とカタリナが先に行く。だから、クルミは俺とカタリナの合図で持って素早く来てくれ」
「分かった」
リスクをどの程度承知かは定かではないが、あたふたされるよりかはマシと見えた。
「そう言う訳だ。まず、俺から行くな」
コクリッ
カタリナの頷きを見るまでもなく、クライヴはコンテナの辺りを彷徨いている見張りの目を盗んで、タイミングよく向こう岸にあるコンテナへと移動した。
再度、周辺の見張りを確認すると、今度はカタリナ。やはり慣れているだけあって、難なくバレずに通過することができた。
残るはクルミだけ。ここが正念場と見た。
「……」
覗き見る先、見張りに目立つ動きは見られそうにない。だが、先程までいたマンホール近くには、1人の帝国兵が例の監視ロボ制御装置に近づきつつあり、異変に気付くのも時間の問題であった。
「まずいな〜」
そんな中である。
「マスター」
ん?
「先に行ってますね。非常口が近いので」
「ああ。……あ、そうだ。これを念の為に渡しとく。恐らく非常口のカードキーだと思うから」
「分かりました」
先を急ぐカタリナに、制御室で押収した謎のカードキーを手渡した。自ら先を急ぐカタリナを尻目に、改めてクルミの方を見る。それから、見張りの動向を見て
そして――
「今だ!」
合図。その合図を受け、クルミは素早くクライヴの元へと走った。クライヴのいるコンテナ。その陰に隠れるか隠れないかのうちに、
「ん?」
異変を察知した帝国兵の1人が、こちらを向く。
(まずい! 勘付かれたか?)
嫌な予感が脳裏を掠める。手で合図し、手早くクルミをカタリナのところへ向かわせる。
そんな中、監視ロボ制御装置の前にいた帝国兵が、
「おい! ちょっと来てくれ」
「どうした?」
異変に気付いて、仲間を呼び寄せる手配をしたのだ。その様子を見ていたクライヴは、思う。
(長居は無用だな)
と。帝国兵達の動向をこれ以上注視することなく。彼もまた、2人共いるであろう非常口へと、近くの階段を登り始めた。
「これでよし」
外部から開けられないよう小細工を施した。
「ね? これ、登るの? 最上階見えないんだけど」
天井を仰ぐクルミが、嫌々ながら疑問を投げかけた。クライヴもまた、クルミと同じ目線に立って、一言。
「悪いな」
と発する。
「さすがに、これはしんどいですね。マスター」
カタリナも、辛そうに言葉を放つ。でも、ま〜、無理もないのかも知れない。なんと言っても、目の前には巨大な建造物を思わせるような。
それも、踊り場が何層重なっているか把握できないくらいの非常階段が、そこにあったからである。だが、
「先程よりかはマシだろう? あんな警戒網の中を掻い潜るよりか」
「そうだけど〜。でも、あたし、もうへとへとだよ」
とその場でへたり込んでしまった。今まで経験もしたことがない戦場を前に、体力面と言い精神面と言い。
感じたこともない負担感を背負ってしまっただけに無理もないのかも知れない。そんなクルミに、カタリナは励ましの言葉をかける。
「もう少しだよ、もう少し。ここを登り切れば、一段落つけれるはずだから。でしょ? マスター」
「そうだな。上の階の渡り廊下に出れば、少しだけだが一息つけれるはずだからな」
「と言う訳だよ。だから――」
「で、でも〜。この高さ……」
そこでクライヴは、
「ったく、仕方ないな。いっそうのことオブってやろうか?」
すると、先程までのへなへなな態度が一変。スクッと立ち上がっては、
「じゃ、行く」
え?
「クライヴにオブられるくらいなら。頑張るよ」
「無理しなくてもいいんだぜ」
しかし、クルミは
「別にいいよ。……カタリナ、行こう?」
「うん、頑張ろ」
2人して意気投合するや、勝手気ままの様相。クライヴを置いて先に歩き出してしまった。
「な、なんだよ。人の好意を」
理解できない心境の突然変化に、ただただクライヴは戸惑うしかなかった。