ブリッジに出ると、再び激しい風圧がクライヴら3人に襲いかかって来た。カタリナのバリアがなければ、守るべきクルミを瞬く間に失ってしまいかねないくらい、危険な風。
それだけに、カタリナには感謝の気持ちしかなかった。しかし、念には念を。
「クルミ、大丈夫か?」
大丈夫だろうが、身を案じて見た。すると、案の定、
「なんともないないよ、このくらい」
「大丈夫ですよ、マスター。バリアの効果はまだ続いてますから」
「そうそう。そう言うことで、へっちゃらだから」
「なら、いいんだけどな」
ふっ、聞くまでもなかったことを改めて実感次第である。
「さ、行きましょう、マスター。いずれにせよ、バリアの効果時間も限りがありますし」
「そうだな」
再び目線を前方に向けた。蒼の界面上に引き伸ばされたようなブリッジの先。その先には、高い高い天井から引き伸ばされたような、ここと同じような建物が突き出ていた。
向こう岸まで距離にして、ざっと100メートル以上。そのくらいはありそうな距離感があった。
そして、ブリッジ上には、色々な機材が配置してあり、中には
(何もなければいいが……)
カタリナ、クルミと共に歩き始める中、ふと憂いを感じ始める。
そんな中、いきなり羽目を外したかのようにクルミが率先して、2人を置いていくように行ってしまい。
カタリナもまた、少しばかり気が緩み始めていた頃、
「どうしたんです? マスター。なんだか、顔色が……」
心配して顔を覗いてきた。慌てて
「あ、いや。なんとも〜」
今の心境をはぐらかすように取り繕ってしまい。方や、カタリナは
「そ、そうですか〜」
そこから先は、何も聞くことはないようだった。
「それよりも、カタリナ」
「なんです?」
「あ、いや。なんと言うか……。こう言ってはなんだけどな。後悔はしてないよな?」
「後悔? 私がですか?」
「ああ。そもそも、クルミを助け出すことを言い出したのは俺からだし。カタリナには否定する権利もあったからさ」
すると、カタリナは
「何を今更言っているんですか? どの道、後悔なんてしませんよ。それに、例え引き返せたとしても引き返す気にはなれないです」
「だよな。ふ、本心を確認したかっただけなんだな。すまないな、縁起でもないことを」
「縁起も何も……。それこそ、マスターは後悔していないんですか? 力を奪われてまで」
「確かに、支障が出なくもないだけに、不安要素はある。だけど、俺の本心に従ったまでさ。カタリナと同じさ」
「でしたら――」
――とそこへ、
「おーい‼︎ 置いていくぞー!」
「もう、あんなとこ行ったんかよ」
そう述べるクライヴは、クルミがすでにブリッジを渡り切ってしまった姿に、意外性を見出し驚いた。
「置いていかれるとはな。……カタリナ、俺たちも」
「ええ」
話を打ち切るや、愛弟子と共にブリッジを走り出す。しかし、ブリッジ半ばまで来た頃、ブリッジの下から拡声器を使ったかのような声量が聞こえてきて――
「そこまでだ‼︎ 帝国に仇をなす者達よ」
っ!
「この声は」
「なになに⁉︎」
戸惑うクルミをよそに、聞き覚えのあるクライヴ・カタリナはそれぞれ持ち前の武器に手を当てがい身構えた。
風の流れが変化する。激しい上昇気流が、ブリッジの下方から吹き荒れてきては、
声の正体、すぐに察しがついた。睨みを効かせながら呟く。
「ラディッツ……」
そう、ラディッツ。先程、管制官を退避させた、別名、帝国の尖兵将、と呼ばれた彼。その人だとすぐに分かったのだ。
小言で呟いたのが聞こえたのか?
「ほう、私の名前を知っているようだな」
「ふん、知っているも何も。軍内部で有名だからな」
「なら、分かるだろう? 私が直々に来た理由を」
「ああ、当然だ」
そして、小さき声でカタリナに合図を。
「カタリナ、頼む」
クライヴの意図を汲んでか、カタリナは小さく頷いた。頃合いを見計らう形で、クルミのいる方に向く。
そんでもって、ラディッツの気を引きつけるべく、再びラディッツに集中し始めて――
「なんと言っても、際立っているからな。キャラがな」
「際立っているか〜。もう少し、マシな言葉が欲しいものだがな」
「ふんっ、じゃあ、こう呼んでやるよ。無鉄砲将軍、とな!」
「無鉄砲、……。――っ!」
その刹那、隙を見てカタリナがクルミの方へ走る様子を捉えたラディッツは、すかさずカタリナとクルミの間を断ち切るかのように機銃をぶっ放した。
「くっ」
「ひぃ!」
「マスター」
「ちっ」
そして、ラディッツは
「おーと、残念だったな。私の気を引いている間に、そう考えたのだろう」
「へ、お見通し、ってやつか」
「そう言うことだ。……そして、お前ら裏切り者も、機密の少女を失っては――」
その直後である。
バッシュ――‼︎
射出音を鳴らしては、
「っ! しま――」
クルミを拿捕するべくして、ガンシップからワイヤーガンが射出されたのを目撃。
「2人とも――‼︎」
クルミが叫び。それでもって、彼女の拿捕。もはやこの作戦も水の泡、そう一瞬、脳裏をよぎった。
と、その時――
ガンッ!
頭を抱えて蹲るクルミをよそに、何かにぶつかったかのような効果音。それと同時に、ワイヤーガンが弾かれたのである。
「なに⁉︎」
意表を突かれたかのように驚くラディッツ。その隙を見逃さなかった。
「今だ‼︎ カタリナ!」
「はい!」
反射的に、彼女はクルミの方へと走り出す。それを垣間見たラディッツは、
「ちっ、しまった!」
と漏らすや否や、機銃を再びぶっ放し――
「させるか!」
そうさせまいとして、クライヴが動き出す。ウェストバックから手にしたソレは、カチッと何かのスイッチを押すなり、思いっきりガンシップに向かって投げた。
ガンシップに当たるか当たらないか。そんな距離、大体にして数メールは飛んだような気がしたソレは、突如として強烈な紫電のプラズマボールを発生させて、機体にダメージを与える。
ガクッと機体がよろける。
「ち、
くっ
狙いを変えて、今度はこちらに銃口を向けてきた。全速力で走ったクライヴは、遮蔽物に身を隠し。直後、威嚇攻撃で放ったEMPが効いたことに逆上したラディッツが、銃弾の雨を降らしまくる。
先程、自販機で序でに買ったEMPが役に立ったとは言え、この調子だと何回か投げつけてダメージを蓄積させるしか手立てがないように思えた。
けれど、視線を別な方に向ければ対空砲があり。クライヴとしては、この手を使わないはずはなかった。
雨荒れの弾幕。それが途切れるや否や、再びEMPを手に投げつけようとして――
「二度も喰らうか!」
「っ!」
危機を察知したクライヴは、その場から飛び退る。直後、ガンシップから放たれたレイジングビームが射出。
先程いた場所に着弾するや、小規模な爆破を起こす。
「きゃー‼︎」
爆発による衝撃でブリッジ全体が激しく揺れ、クルミは黄色悲鳴をあげた。後に残るは、ぽっかりと空いた穴。
まさに、直撃したら溜まったものではないことを改めて思い知らされた。
「ふ〜、あぶな。……てめぇ、ブリッジ崩壊させて、俺はともかく、捕獲対象のクルミまで落とすつもりだったろ!」
しかし、
「とんでもない。これでも、出力は抑えたつもりだからな」
「へっ、出力を抑えたって……」
ゾッとする話である。もし、先にクルミでも捕られたとなると、レイジングビームを前にブリッジ崩壊は回避不能。
必然的に空の底へ落ちるのは想像に難くないからだ。
(くっそ、どうすれば……)
クライヴ自身動けないでいた。そんな時である。カタリナが叫んだ。
「マスター、こっちは大丈夫です。だから、遠慮なく」
その言葉を受け、ちらっと視線だけ彼女の方を見た。カタリナを中心に、クルミを包み込むような形でドーム状のバリア展開しているのが確認できる。
「でかしたぞ」
しかし、いずれにせよガンシップをなんとかしないとならないのは明らか。どうする……。
「ふんっ、機密の少女を保護した気になって……。だが、こいつがどうなってもいいのか?」
その脅し文句は、まさにクライヴを人質に取ったと言う意味であった。
「くっ」
今度はカタリナが、歯を食いしばる番のようだ。
「俺のことは構うな。早く行け!」
「しかし」
「いいから!」
直後である。
「図に乗るなよ!」
再びエネルギー収束音が。
ちっ、
舌打ちするや否や、反射的にその場を飛び退り――
次の瞬間!
ブリッジ自体の直撃は避けたものの、先程まで隠れ蓑として利用していた機材が、2、3台、まとめて木っ端微塵になり吹き飛んだのである。
衝撃で破片が飛び散り、その一片が
うっ
頬を掠った。またしても間一髪。それだけに、いつまで避け続けられるか分かったもんじゃなかった。
「マスター‼︎」
「クライヴ‼︎」
心配でたまらない2人。しかし――
「いいから早く‼︎」
思うがままに怒号を飛ばし、その場から退避するよう促した。流石のカタリナも、これには応えざるを得ない様子。
「行きましょう、クルミ」
「でも……」
戸惑う様子のクルミを説得するかのように、カタリナは彼女を連れて対岸の建物へと急いで向かって行った。
「逃げたか、まぁいい」
「残念だったな、ラディッツ」
「あ? 何が残念だ。むしろお前を足止めできたことで、作戦の半分が成功だ」
「何を根拠に……」
しかし、強がっては見たものの、内心ではラディッツの言っていることは理解できていた。それだけに、追い詰められていたのは肌と感じていたのである。
それもそのはずで、クルミを逃したことで逆に窮地に立たされたのは否めず。先程の
かつての自分なら余裕で打破できたが、流石にこれでは――
「参ったぜ……」
思わず本音が漏れ、今度こそ、
〝詰んだ″
そう思った。
「ゲームオーバーだ、裏切り者よ。あの世で悔いるんだな」
再びビームエネルギーが収束し始め。今度こそ
そう悟った。
――と、その時である。
どこからともかく絨毯状の弾幕の嵐が、発射体勢に入ったガンシップを強襲したのだ。
「なんだ⁉︎」
驚くラディッツは、機体を傾け、緊急回避を余儀なくされる。ふいに迎撃主の方を向くと、そこにはクルミと共に逃げたはずのカタリナがそこにいた。
「カタリナ、お前」
「マスター、今のうちにです」
疑問を投げかける余地はなかった。クライヴはこの隙を逃さず、全力で彼女の方へと走り出した。
硬質な足音が響く。
「させるか!」
態勢を持ち直したラディッツは、再び攻撃態勢に入る。しかし、それと同時に、近くのバルカン砲へと来たクライヴに、すかさずカタリナは、彼に自分と同じくバリア展開を施した。
直後、無数の銃弾が殺到する。避けきれないと見たクライヴは、
くっ、
咄嗟に自分を庇った。しかし、
バリバリバリ……
そんな音を伴い、無数の弾丸は火花を散らして弾かれてしまった。だが、立ち止まるわけにはいかない。そのまま止まらずに、バルカン砲の操作卓に来た。
「どうやら、借りができたようだな」
「お互い様ですよ」
「クルミはどうした?」
「彼女は無事です。安全な場所に、隠れてもらいましたから」
「なら、大丈夫そうだな。カタを付けるぞ」
「ええ」
意義投合するや、今度はこちらから攻勢に打って出た。
レイジングビームを放たれなければ、こちらがやられることはない。弾数無制限に近いようなバルカン砲の弾丸が、ガンシップに殺到しまくり、相手に攻撃のチャンスを与えない。
「おのれぇー‼︎」
攻撃と回避が3:1の比率でしか立ち回ることしかできず、苦戦を強いられるラディッツは、怨嗟を撒き散らした。
「この調子だ、カタリナ」
「ええ」
徐々に追い込んでいく2人のタイミングはピッタリであり、それでいて、回避に重点を置いていたラディッツは、とうとう幾分か被弾を余儀なくされていく。
しかし、このままジリ貧になり続けるラディッツではなかった。
「くっそー! かくなる上は」
事態を打破するべく、ラディッツは機体をブリッジの下方へと。バルカン砲の迎撃範囲外と逃れたのである。
「何をする気だ?」
ほぼ同時に、危機を察知したのだろうか? カタリナも
「嫌な予感がします」
呟くように心境を吐露した。
(退避した方が良さそうな)
一瞬、脳裏に過ぎった後、レイジングビームを放つ直前のようなエネルギー収束音が聞こえてきた。
「まさか!」
そして、
「カタリナ、退避だ!」
「え⁉︎」
直後である。ブリッジ下方の死角から、ガンシップが姿を現すと、その機体の下部には、なんと!
「これでも食いやがれー‼︎」
ラディッツの威勢が迸るや、エネルギー収束からなる巨大な球体。ガンシップ、最大兵器なる通称、ビックボンバーが急襲してきたのだ。
攻撃速度はレイジングビームと比べれば然程でもない。だが、その一撃や範囲たるや、ブリッジ全体の3から4割近くが吹き飛ぶくらいヤバいもの。
バルカン砲を放棄するや否や、全速力でカタリナの方へ。更に先のクルミが待つ建物へと全速力で逃げる。
一方、カタリナも同じだった。流石にバリアで防げる代物でないことを察してか、クライヴより先に走り出す。
その最中、追い討ちを掛けるように
「逃すかー‼︎」
ガンシップから弾幕の嵐が降って来た。追われるようにしつつも、バリアに弾丸が被弾しては、その都度、火花を散らし。
その中を、逃げ切れるか否や、走りに走りまくって――。そして遂に、ビックボンバーの一撃が炸裂。
凄まじい大爆発炎上するや、爆風でクライヴとカタリナはバリアを一瞬で破壊されるや、吹き飛ばされてしまった。
転げ回り、しかし、片方を吹き飛ばされたブリッジは、大きく傾げるや崩壊し始める。
素早く起き上がるや、建物側についていたカタリナは、すかさずクライヴに手を差し伸べた。
「マスター‼︎」
くっ
バシッ!
まさに間一髪と言ったところであろう。彼女の手を掴むことに成功した。宙ぶらりんの状態の中、再びあのラディッツの搭乗したガンシップが、黒煙の中から姿を現す。
勝利を確信したかのような、余裕を見せ
「無様な姿だな、裏切り者よ。取引だ。機密の少女を渡せば、命だけは助けてやろうではないか」
それを受けて、クライヴは
「へ、命を助けるかよ。俺とこいつが、その案を飲み込むわけなかろうが」
と強がりを見せた。しかし、
「それはどうかな?」
まさに、含みを持たせる物言いを放って見せ。それでいて、カタリナの背後から、クルミの声が聞こえて来た。
「2人とも……」
嫌な予感が脳裏を過ぎる。直後、的中するかのように、クルミとその連れの帝国兵が、姿を見せたのである。
「クルミ⁉︎ カタリナ、隠れているよう指示したんじゃ……」
とここで
「カタリナは悪くない! あたしがヘマをしただけだよ」
「ヘマって……」
すると、ラディッツは
「報告があったのだよ」
「報告だと?」
「そう、報告。増援部隊到着とね。それでもって、君たちが俺と戯れている間、探してもらったのさ」
今度は、クルミの連れの帝国兵が、話の続きを
「な〜に、楽勝よ。2人の命が欲しくば、と脅してみたら、案の定、ひょっこり出て来たからな。まぁ、私だけ探させる羽目になったのは、あの〝お方“の命令とは言え、イラつく面はあったけどな」
「そう言う訳だ」
「ごめん、2人とも」
「さ、どうする?」
まさに選択の余地はないように思えた。自分を犠牲にすれば、カタリナとクルミは助かるかもしれない。
だけど、そんなこと、カタリナが許すのだろうか?
いや、答えはNOだ。寝食を共にし、家族同然の間柄のような関係だけに許すわけが無い。
そんなことは、百も承知。それだけに、なんとしても起死回生の一手を探し出すべく周りを見渡すのだ。
後ろを見れば、遠方より、崩壊したブリッジの片側が首の皮一枚で垂れ下がっているのが見えた。
そして、後方に飛び込むのにも距離があり過ぎて無理がある。ただ、唯一の利点は、自分とカタリナ、両方にバリア展開の効果が継続されていると言うこと。
さらに、ウェストバックの中には、あと残り1つのEMPがあることくらいだった。
チャンスは一回きりかも知れない。それも、カタリナとタイミングを測り、同時に動き出すのは。
「カタリナ、起死回生の一手だ。背後の敵を頼むぞ」
「マスターは?」
「俺は
「でも、どうやって……」
その最中である。
「タイムアウトだ。さぁ、答えを聞こうか? 裏切り者達よ」
小言で
「じゃ、手筈通りな」
「健闘を祈ります」
そして、すまし顔をするや否や
「分かった。降参だ、降参。彼女は渡すから、直接、そのガンシップに乗せてくれないか?」
さすがにこれは度肝を抜かれたのだろう。話の筋が見えなかったクルミは
「え? じょ、冗談でしょ?」
しかし、
「いや、本気だ。本気で言っている。だから――」
けど、そこで、戸惑いを見せるクルミに、やんわりとウィンク。任せておけ! そのようなメッセージを投げかけた。
続けて、カタリナに対して小言で合図を送る。
「じゃ、頼むな」
「仕方ないですね、人使い荒いんですから」
「一発逆転の賭けさ」
そして、カタリナから何らかの。それも、力が漲るような
「いいだろう。だが、その帝国兵と共にだ。念の為に保険が必要だからな」
「ああ、いいだろう」
その言葉を受け、早速、ガンシップからワイヤーガンが射出された。ガチッと鉤爪が帝国兵とクルミを捕え、それでいて引き上げられそうになる。
――と、その刹那、
「今だ!」
タイミングを見定めていたかのように、クライヴは動き出した。カタリナの差し出していた腕を、宙ぶらりんのブリッジの床を足で、両方駆使して振り子の原理のように、左から右へ。
振りながら駆け抜けて行き、それでいてバフの効果も相まって天高くジャンプした。度肝を抜かされたラディッツは、たまらず拡声器を介して驚きの声を上げる。
「ば、バカな‼︎」
一方、カタリナも同時に動いていた。手に届くうちに飛び上がった彼女は、すかさず鉤爪の爪に手を当てがい、それでいて更に勢いよく跳躍。直後、
「ぐへっ」
帝国兵の頭を蹴っ飛ばして、それでいてワイヤーを一閃。瞬く間に切断するや、機能を失い脱力する鉤爪からクルミを救出。
彼女を抱いたまま、再び跳躍するや、しっかりとした足場へと着地した。時を同じくして、切断されたワイヤーにはクライヴが掴まっていて――
「マスター、彼女は無事です。あとは――」
「出来したぞ‼︎ カタリナ! あとは俺に任せろ」
あとはワイヤー伝いにガンシップへ辿り着くだけとなった。だが、ラディッツも、ただ静観し続けるつもりはない模様。
「ふ、ふざけんな‼︎ この、軍人崩れが!」
もはや、冷静さを欠いていただけに、怒号が拡声器を介して大気を振るわせ、あわよくば鼓膜を破らんばかりの凶器と化す。
「くっ〜、耳が」
苦悶の表情を浮かべるや、思わず、片方だけだが耳の穴に指を突っ込んでしまった。
更に捲し立てるかのように
「くたばれやがれー‼︎」
怒号と共に、今度は弾丸の嵐が殺到しまくる。しかし、バリアに阻まれ、被弾しては火花を散らし。
けど、そのバリアもいつまで持つかわからない。かと言って、ワイヤーに掴まったままでは、機体本体に近づきさえ困難。
そこで、クライヴは戦況を好転するべく、再びEMPを手にするや、殺到する弾丸の渦中に思いっきり投げつけた。
2、3発被弾し、一瞬にしてEMPは破壊されていくが、そこで見事、強烈な電磁波が炸裂した。
稲妻が迸り、それでいてガンシップが傾く。その瞬間、自分の位置がガンシップのほぼ真上に来て――
(今だ!)
ワイヤーから手を離し、傾いたガンシップの頭上に飛びつく。そして、着地と同時に、すかさず背にしたバスターアックスを手にするや、振り落とされる前に叩き切る勢いで頭上に刺した。
再びガンシップが持ち直し
「どこだ? どこ言った、奴は」
視界から自分の姿が消えたことに、動揺している様子を見せる。このまま生かすわけにはいかない。
クルミとカタリナ、2人を守るため、クライヴは機体の動向に注意しながら、機体を撃墜するべく内部へ通じるハッチへ向かった。
この型のガンシップは、クライヴも熟知していた。入り口は2つある。搭乗用の下部。そして、緊急用に設けてある普段は開くことがないハッチ。この2つだ。
勿論、下部へ行くことは流石に無理。となると、緊急用ハッチからとなった。緊急用ハッチは外部からは開くことはない。
しかし、小窓はある。内部へ入らずとも、小窓さえ破壊すれば、外気圧と内気圧の差から、内外共に不安定になり航行不能にさせることくらいは可能であった。
カタリナから得た付与効果――パワーアップにより、身体強化は十天将並みに強化されている。
左手を縁に掴んだまま、バスターアックスを手にした右手で、思いっきり小窓を叩きつけた。
一撃では足りず、二撃目、三撃目と繰り出し、遂にヒビが入る。――とそこに、こちらの存在を勘付いたラディッツが現れ
「貴様、そんなとこに!」
だが、時すでに遅い。
「残念だったな。次の一撃で――」
そう言い放ったそばから、4度目に放った一撃。その一撃が功を指したのか。
バリィ――ン……
小窓が遂に割れた。途端、内気圧と外気圧の差に変化が生じては、
「うおっと!」
ハッチが吹き飛ぶ。瞬く間に機体内の空気が外に押し出され、ラディッツもまた、吹き飛ばされかける。
勿論、航行不能に陥り、機体全体が傾いた。
「く〜、くっそー! 貴様らを始末する筈が……」
「残念だったな。お前の命運もここまでだ」
「覚えてろよー、この仕打ちは必ず――」
最後まで聞く気はない。もはや墜落し始めるガンシップにこれ以上用は無いだけに、素早く機体から脱出するべく、再びガンシップ頭上に。回転しながら墜落していく中、タイミングを見計らった後、クライヴは地を蹴って大ジャンプ。
見事、カタリナ達のいる建物へと転がりながら着地するに至った。
「さっすがです、マスター」
「ふん、これくらい……」
そして、振り返って見るに、取り残されたラディッツが乗ったガンシップは、そのまま回転しながら蒼の大地へと消えって行ったのが垣間見えた。
「尖兵将、散る。か〜」
「行きましょう、マスター。エアポートはもうすぐそこです」
「ああ、そうだな」
ラディッツ……。今まで同じ軍人であり、それでもって仲間だっただけに、なんだか後ろ髪引かれる思いではあった。だが、自分らが決めたこと。この決断、この結末は後悔するつもりはない。
踵を返してからに、早速、エアポートへと向かった。
エレベーターの中――
「刃、欠けちまったみたいだな」
自分の武器を見ながら呟いた。
「そんなに硬かったんですか?」
「まぁな。ガンシップの小窓は、装甲並みに特殊コーティングされていて硬いからな。まるで、クリスタルを砕くような感触だよ」
「そんなにです⁉︎」
「カタリナは乗ったことなかったけか?」
「いえ、あります。ありますけど、ほとんどその機会はなかったです」
そこでクルミが
「2人ともいいな……。乗れた経験あるなんて」
と羨ましそうな表情をした。
「そんな目で見るなって。もうすぐ乗れるんだからさ」
「分かっているわよ、そんなこと」
むすぅ〜
彼女の拗ねた態度に、苦笑を浮かべた。
チーン……
エレベーターが止まる。どうやら、最上階、エアポート前に来たようだ。扉が開くや、クライヴを先頭に、3人はエレベーターから出る。
「なかなかの眺めですね〜、マスター」
「う〜ん、心地いい風」
「久々かな、エアポートに来るのは」
屋上より、ビル風に晒されて快適。それだけに、各々は感想を漏らした。柵越しからではあるが、そこから蒼の大地が広がる大空が、広がっている光景が目に焼きつく。
「うわ〜、綺麗〜。あたし、生まれて初めてかも。こんな光景を見るのは」
「へ、それはよかったな」
「私も、状況が違っていたら、いつまでもいたい気分です」
2人が魅入るのも無理はないようだ。特に、今まで箱入り生活を強いられて来たクルミには、世界の広さを身を持って強く感じたようで何よりだと思えた次第である。
「さ、行こうか。エアポートはこの先、階段の上だ」
「え? もう行くの?」
と駄々を捏ねかけて、そこで彼女の親友たるカタリナが宥めた。
「分かっているわよ。この次よ、この次」
渋々、先を急ぐことにしたようだ。
階段は緩やか。しかし、その道よりは長く。だが、エアポートは目前。ようやく、登り切って見せては、だだっ広い長方形型滑走路に、先程、ラディッツが駆っていたものと同じガンシップが、1機、そこにあったのを目にした。
「ようやく着いたな。どうやら、作戦は成功したようだ」
その言葉と共に、なんだかホッとした気分になった。
「早くここから離れましょう。増援呼ばれる前に」
「そうだな」
クルミも同意見のようだった。早速、3人してガンシップへと向かう。
「遠くからじゃそれ程でもないと思ったけど、近くで見ると案外大きいね」
とクルミ。
「ま、軍用機だからな。それなりに大きいさ。迫力に負けて腰抜かすなよ」
「する訳ないでしょ! 驚いただけよ、驚いただけ」
「ふふふ。とか言って、呆気に取られそうになったりして」
「もう、カタリナってば。揶揄わないでよ」
何気ない2人のやりとりが、垣間見えた。そうした中、クライヴはタラップを開くレバーみたいなものを探して――
「確か、この辺に……」
手探りであっちこっち弄ってみせた。そんな中、どこからともなく男の声が
「全く。無視はいかんな、クライヴ」
っ!
「その声は!」
咄嗟に危機を感じてか、声のした方を振り向く。金網に背を預け、両腕を組みながらもたげるサングラスの男がそこにいた。
「マクスウェル……」
「え? 誰なの?」
戸惑うクルミをよそに、カタリナと共に警戒心を高めた。マクスウェルは金網にもたれながら、クライヴ達の経緯を予想してみせる。
「ここまで来れたと言うことは、どうやらラディッツはしくじったらしいな。先に功績を上げるつもりでいたかも知れないが、身から出た錆、ってとこか」
「なにが目的だ? マクスウェル」
背にある武器に手を当てがい、意図を読もうとする。一方、カタリナも同じ様相。戦闘態勢に入っていた。
「ふん。なんの目的だ、か。想像できるんじゃないのか?」
「やはりな……」
ラディッツ同様、クルミが目的であることは明白なようだ。
「どうします? マスター」
すると、クライヴは
「逃げろ。クルミを連れて」
「分かりました。ですが、マスターは?」
「俺のことはいい。今は、クルミを連れて逃げることが優先だ」
「……了解です」
その後、彼女の方は見なかったが、演唱効果音が聞こえて来るや、
「クルミ。さ、行こう」
「え? でも、クライヴが……」
すると、次の瞬間、
「おーと、そうはいかんな」
のセリフと共に両目が瞬時に見開かれ、ピキーンッ! と眩い星を煌めかせ。かと思いきや、その直後、凄まじい風切り音が迸り――
「きゃー‼︎」
と悲鳴が。
「カタリナ!」
クルミの声に
「な、なに⁉︎」
咄嗟に、二人の方へと向く。すると、驚愕するに、カタリナが全身血だらけになって倒れているでないか。
(今、何をしたんだ?)
全く(マクスウェルの)攻撃する気配が読めなかっただけに、心が動揺してしまった。
「カタリナ!」
慌てて、彼女の元へと向かう。だが、そこで、辛うじて意識を保っていたカタリナは
「わ、私は大丈夫、……です。どうやら、バリアのおかげで、命拾いしたみたい、……なので」
「な、何を言っているんだ! もうすでに重体じゃないな」
「えへへ。……た、確かに」
強がりからか、少しだけ平気そうに笑ってみせた。そんな時である。
「運がいい奴だ」
マクスウェルが軽口を叩いてみせたのである。
「てめぇ〜」
愛弟子をやられただけに、瞬間的に怒りが込み上げてきた。再びマクスウェルと相対するに、切実にクルミに頼み込んだ。
「クルミ、カタリナを頼む」
と。
「うん。……でも、タラップが」
「そこは大丈夫だ。今開かせる」
先程、探し当てたレバーを引いた。タラップがゆっくりと降りて来て。そんでもって、そんな中で、マクスウェルが何もして来ないところを見るに、どうやらカタリナの傍らにクルミがいることで、さすがのマクスウェルも手が出せない様子であった。
本当は自分も行きたいところではあるが、マクスウェルを足止めしない訳にはいかないだけに歯痒く。それよりも、愛弟子を切り刻んだことに怒りを滾らせていた。
そんな中、金網にもたれかかっていたマクスウェルはと言うと、姿勢を変え、そして、改めてこちらを向いた。
向いてからに、ホログラムと言う形で通信が入った様子。そのまま彼は、映像に映った帝国兵から何か言われているようであった。
だが、それもすぐに通信が切れ
「やれやれ、めんどくさいな」
と一言。
「部下がうるさいようでな。ここは威厳を見せないと言う訳で、残念だが……」
と述べた後、
ジャキリンッ
「引導を渡そうではないか」
堰を切ったかのように鞘から長剣を抜刀してみせた。それを見たクライヴもまた、抜刀。
しかし内心、早く飛べ、早く。と、焦りに焦り始めていた。
エンジンがかかり、それで浮遊し始める中、窓越しからクルミの姿が垣間見えた。だが、すぐに近くにいるであろうカタリナの方を気にしてかいなくなり。
そうした中、
「まずはクライヴ、君からだ」
「臨むところ!」
ガンシップが飛び始める最中、遂にクライヴとマクスウェルの死闘が火蓋を切って落とされた。
それはまさに、勝てもしない戦いに身を投じるかのように。