セブルス・スネイプを救う話(第3章高学年編・開始)   作:桜井ぬい X→@Inui20230918

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イベント会場で更新したかったけど、読み返したら長すぎ→要約してたら結局1週間経ってたわー


オープニング 2/3

 

 

 

 

 

「ほら、リズと買い物に行ったじゃない?その時に……ね。ちょっと」

 

 リリーによると、その日はたまたま彼女もクラリスもアルバイトが無かったので遊びに行くことにしたらしい。セブルスは空いていなかった。

 

 買い物を選んだのは、かわいい服に興味があったからだと。

 

「──ほら、『一緒に出かけよう』とかって誘われることだって、あるし……。男の子にも。

 いえ、セブのことじゃなくて。セブとどこかに行くのは珍しくないじゃない?わたしたち。

 

 え?本当にべつの男の子と出かけたこと?無いことは……ないけど。

 ……ねえ、そんな犯罪者と遊んだみたいな顔をしないでよ。友だちだったら遊びに行くことくらいあるじゃない。

 

 別にすっごく楽しかったわけでもないのよ。よく知らない男の子と遊ぶよりもセブといた方が楽しいわ」

 

 ほかとは一線を(かく)している。

 その返答に胸がいっぱいになったセブルスに対して、リリーは厳しそうな色を目に浮かべていた。

 

「それだけじゃないのよ。

 これから大人になっても戦争がつづいていたら?

 危ない目に遭いそうになったら、非魔法族の人混みにまぎれて逃げることだってきっとある。そんな時にローブなんか着ていたら目立つし、狙い撃ちにされてしまうじゃない?

 それで『魔法使いっぽくない服』も必要ってことになって」

 

 地元でマグル向けの服を買いに行くのなら、ショッピングモールだ。駅の近くにある。

 おかしなことが起きたのは買い物を終えてからだったそうだ。

 

「……ペチュニアがいたのよ、途中で。他のところでアルバイト中だって聞いていたのに。

 セブももしかしたら知ってるかもしれないけど、"マグル生まれ"のきょうだいや家族って狙われやすいの。何も知らない人よりも。

 だから……心配だったの。魔法であやつって連れて行くなんて簡単だもの。そういう風にいなくなってしまった話だって聞くから」

 

 別にあんなやつがいなくなってもいいじゃないか。

 真っ先に浮かんだ感想はそれだったが、彼女にとってはそうではないのだから相槌をうつだけに留めた。

 

「ペチュニアにはおかしな様子はなかったけど、声を掛けてみたのよ。

 魔法に掛かってはいなさそうだった。……でも、やっぱり変だったわ。

 イヤミっぽいことを言われたのよね。まるで子どもの時みたいに。

 

 珍しいことじゃないだろうって?でも、ここ何年も無かったのに。わざわざ関わらないもの、お互い。

 

「普段はわたしは寮に暮らしているし、彼女も家からとおい学校に通っているから。

 顔を合わせるとすれば休暇中で帰った時くらいになるし、夏休みかクリスマス休暇くらいのものなのよ。

 じゃあ夏休みに関わりが多いかっていうと、そうでもないわね。わたしも彼女もアルバイトに行っているから。家にいたって自分の部屋で過ごしているし。

 

 だから、子どもの時みたくぶつかる事なんて(ほとん)どなくなっていたの」

 

「でもその日は違ってた。わたしが『ペチュニア、どうしてこんなところにいるの?』って訊いたら、子どもの時みたいな顔をしたの。

 

 たしか『あんたなんか知らないわ。知り合いみたいな顔をしないで下さる?』から始まって……、『この辺りの子はあんたを少年院に送られた犯罪者だって言ってるのよ。あなたたち2人とも訳のわからない連中の一員だものね、犯罪者みたいな!』だとか。

 

『"まともな"女の子の振りをしてたって、頭がおかしいって解るわ』みたいなことも言われたかしら。

 失礼すぎるわよね。わたしたちの学校の子が"まとも"じゃないなんて言い方!

 両親だって、犯罪者だなんて触れまわったりしていないのに。

 

 ──そういうことを言うだけ言って、最後はなんだったかしら。『さっさと消えなさいよ、あんたと口なんか利きたくないわ』とか何とか」

 

 昔から変わっていないだけじゃないか。

 どう思い返しても、元々その程度のマグルだという覚えしかない。

 子どもの頃からそうじゃないか。事あるごとに3人に突っかかってくる。その“少年院”こと魔法魔術学校に通いたいなんて手紙まで書いたくせにだ。

 

 セブルスは吐き捨てるように答えた。

 

「顔を合わせる機会が減っただけで、昔と変わってなんかないんだアイツは……!

 しばらくはそんな態度じゃなかっただって?見せなかっただけで、腹の底ではずっと愚かなマグルのままだったんだろう。

 君がまともに相手をしてやる必要なんてあるものか」

 

 言いたいことならたっぷり“(たくわ)え”がある。あんなヤツがどうこうとクチバシを突っ込ませるのなら、黙らせてやればいいんだ。

 

 それからも文句を吐き続けていると、いつの間にか展示スペースの端にまでたどり着いていた。

 

「ちょ、ちょっと……。まだ話の途中なのよ。文句を言われたことは確かに頭にきたんだけど、もうちょっと待ってよ。何が起きたのかをまず、説明させて」

 

 言ってやりたいことは山ほど残っていたが、リリーの話をさえぎってまで不満を垂れながすこともない。もっとひどい言葉を掛けられた可能性だってあるのだ。

 まだ口を衝いて出そうになるそれらを押し留めるために、無理やり門をとじるみたいに歯を噛み合わせた。

 

 とはいえ、すぐに続きに取り掛かるということにはならなかった。

 ちょうど休憩もしたいというリリーに合わせて、館内の喫茶店に入ることになったのだ。

 話を聞きながら展示品を熱心にながめる気にはならないだろうから、丁度いい。

 

「もう、杖なし呪文で順番を抜かすなんて信じられない……!」

 

 注文を済ませて店員が離れて行ったのを見計らっていたのだろう、リリーは小声でそう言った。

 昼どきだけあって客が集まってきていたのを、セブルスが追い払ったからだ。

 

「だって話したいことがあったんだろう」

「それはそうだけど。"におい"だってあるのに……!」

「捕まるものか。要は魔法のしわざだとバレなければいいんだ」

「だからって、展示品を台座から落とすふりをするなんて……!もう本当、そういうところよ。男の子って」

 

 リリーは呆れたような息を吐いたが、何のためにそうしたかはしっかり理解しているようだ。

 話の続きに取り掛かってもいいかしっかりと確かめるように周りへ目をやってから、再開した。

 

 彼女の話によると、姉はショッピングモールで待ち合わせをしていたのだという。その人にリリーのことを知られたくなくて追い払おうとしたのだろうと。

 相手は同年代くらいの男性で、姉がお洒落をしていたのを見るに、恋人か仲の良い友人じゃないかということだった。

 

 結局はその人に見つかってしまって、『きみに妹がいたなんて知らなかった』と言われたそうだ。

 

 つまりリリーの姉はアルバイトに行くと嘘をついて、彼と出かけていたと。

 

「相手の男のひとは、見たかんじは普通だった。

 死喰い人ではないと思うわ。服装が周りから浮いていなかったから。ほら、魔法育ちの人って結構……ローブみたいな長いのを着るじゃない。

 

 それでも魔法使いの可能性だってあるし、『とてもいい人』とも感じなかったの。

 だからどんな人なのか、世間話をしてみたのよ。わたしが自己紹介して、『海外の全寮制の学校に通っているから、(ほとん)どいないようなものね』って伝えて。感触は悪くはなかったかしら。……値踏みするようにじろじろ見られた気はするけど。

 

 少しだけ話したら、ペチュニアは『もういいじゃない』ってせっついて離れようとしたの。

 それで一旦わかれたんだけど……」

 

 そこまで話して、リリーは顔を曇らせた。

 

 その日はマグルの有名人が同じモールに来ていて、人だかりがすごかったらしい(有名人とはいっても、テレビに出て流行っていたのはいたのは少し前だ)。

 そこでリリーとクラリスは、“ローブみたいに丈が長い服”を着たのを何人か見つけてしまったらしい。

 

「夏だから薄そうな生地だったけれど、やっぱり目立つのよね。大抵の人はTシャツとかポロシャツだから。

 たとえば……水着の人を商店街で見かけるような感じかしら。季節は合っているんだけど、あんまり近づきたくはないというか……」

 

 そいつらは何かを企んでいそうな打ち合わせをしていたらしい。誘拐なのか攻撃なのかはわからなかったが、なにか仕掛けようとしていたのだと。

 しかし杖の魔法は『におい』ですぐわかってしまう。

 結局はクラリスがその有名人の会場に乱入するみたいになって、マイクで歌ってなんとかしたらしい。

 

 これまでに経験した大冒険には及ばないまでも、まあまあな事件だ。いつものように何とか解決まで持っていけたという彼女は、誇らしそうに顔をほころばせていた。

 

「ただ……」

 続きに彼女が取りかかると、その目はすぐに伏せられてしまった。

「その人と別れた後、ペチュニアとボーイフレンドにまた会ったんだけど、彼はうっすら笑ってたわ。

 まるで……あー、心か身体かに問題がある人を見つけた時みたいに。そうと気づいた瞬間に浮かべるような嫌な笑顔、『かわいそうだけど自分が上なんだから偉ぶって見えないようにしよう』って感じの!

 

 それに気づいていたのか、ペチュニアは泣き出しそうな顔をしていたの。それからこう言った。『私に妹なんていらない!』って。

 

 ボーイフレンドはペチュニアを慰めるように背中を撫でていたわ。

(ペチュニア)が妹なんていないって言った(わけ)がよく分かったよ』って」

 

 言葉を切ったリリーは沈んだ表情をしていた。

「その後その人とペチュニアがどうなったかは判らないわ。ただ……。恋人になれなくなった事だって、ありうるかもしれない」

 

 リリーの話はこれで区切りだった。

 彼女はため息をついたが、その流れで落ちこむ理由がよくわからない。

 

(聞くには聞いたけど……)

 はなしの途中と今とで、リリーの姉への印象に変わりがあっただろうか?

 答えはノーだ。

 

「いつもと違いがあるのか?

 あいつはいつも僕らがやった事を否定してきたし、これからだって変わらない。それだけじゃないか。

 君が気にするような事じゃない」

 

 それでもリリーは納得できなさそうに首を横に振った。

 

「でも……別にペチュニアが悪いわけじゃないわ、ボーイフレンドにとって……おかしな行動に見えたっておかしくない。人様のライブ会場に乱入したんだから」

「では君はおかしな行動をとったのか?誰かを助けに行ったのに?」

「そうじゃないわ。そういう事を言いたいんじゃなくて……」

 

 リリーだって全部あたまの中でまとまりきっているわけでもないのだろう。「あー」と考えるような声を出した。

 

「それが悪い行動じゃないなんて、わたしたちだってそれはわかってるの。悪いのは犯罪者だけよ。

 でも誰も悪くないのに、結果だけはペチュニアにとって悪い目がでちゃったじゃない」

 

「それで?あいつだけに悪い目が出た。だとしてもそれでどうなるって言うんだ。

『ざまをみろ』で終わりじゃないか。これまで何があったのか忘れたのか?」

 

「だからってそれだけで済ませられないわ……!私たちのせいじゃなくたって、巻き込んでしまったのに。

 言ったじゃない、しばらくは上手くやれてたって。おたがい関わらなかったら平和なのよ」

 

「はっきりと言ったらどうなんだ。『いつも中傷してくるのは姉の方で、自分はそんな人ともう関わりたくない』って。

 だってそうだろう。君の方からあいつを傷つけてやろうとした事があったか?今回の事だってそうだ。行いが悪いから報いを受けたんだ」

 

 あんなやつのせいで、優しい人が傷つくなんて間違っている。そんな姉とも平和を保とうと努力するような人が。

 セブルスは今まで"リリーの姉"と自分たちでどれ程衝突があったかを思い出させるように、過去の行状(ぎょうじょう)をあげていった。

 

 子どもの頃だけじゃない。入学した後だって同じような出来事は何度もあったのだ。もっぱら夏季休暇でリリーが自宅に戻っているあいだ。

 魔法を嘘だと認めなかった時、認めても『気色が悪い』ものなのだと拒絶した時、魔法を使う者を見下した時。

 

 そうやってセブルスが心を込めて説得し続けたのに、彼女の顔にさす(かげ)はむしろどんどん増していくようだった。

 

「──このまま付き合いを続けてみろ、後悔するに決まってる。そのうち君が『少年院』や『刑務所』に入ってるなんて言いふらすだろう。『海外の学校』でも『犯罪者みたいな仲間』でもなく!

 

 それとも、大人になって自由に魔法を使えるようになったら掌をかえすかもな、自分のために!君をうまく使って得をしようとするんだ。魔法でドレスアップさせろだとか、嫌いな相手に呪いをかけろだとか。そうやって都合のいい要求をし始める。

 

 そんな風になってもいいっていうのか。君はそんな事のために魔女になったんじゃない。

 あんな連中にそんな扱いをされるべき存在じゃないんだ」

 

 それからも彼女がどれ程姉と違っているかを説得し続けた。そうやって耐えてもいいことなんてないのだと。相手は何年経ってもただの“おろかな存在”でしかないのだ。

 

「──だから……!」

 しばらく唇をきつく結んでいたリリーが、ついに口をさしはさんだ。

「そうじゃないんだったら……!どうしてそんな言い方しか出来ないの」

 

 まるで、『リリー自身が』文句を言われ続けて耐えかねたみたいな態度だ。

 

「君のことを言ったんじゃない。あいつの……」

「それは(わか)ってる!……でも、わたしのことだって。

 どうしてきょうだいのことを気にしちゃいけないのよ。

 姉に迷惑をかけてしまったって思うのは、いけないこと……!?」

 

 セブルスは急いで「そんなことは言ってない」と否定した。

 

 それがいけないだなんて言ったつもりはない。リリーの悪いところだとも思わない。

 むしろ良いところだ。

 

「ぼくは君を責めたんじゃない。でも……」

 この世界にいるのは、その優しさを明け渡していい人ばかりじゃない。

 

「──あなたが言いたいことは分かってるわ」

 リリーの返事は思いの外ぴしゃりと断ち切るような調子だった。

 

「……つまりあなたは、『姉とうまく過ごしたいって気持ちを捨てろ』って、私がそうすべきだって言いたいのよね?

『あんなやつはさっさと諦めてしまえばいいのに』って……!『どうしようもないんだから』って!」

 

 セブルスの意図は正しく伝わっている。でもリリーはその答えが気に食わないというのだろうか。それが正しくないのだと。

 

 どうして否定されなくちゃいけない?

 彼女は傷つかずにいるべきなのに。

 まるでリリーが吐いた感情をそのまま飲み込んでしまったかのように、喉の奥のほうが痛む。

 

 そのせいだろうか。セブルスが返した言葉にも刺々(とげとげ)したものが混じりはじめた。

 

「君は諦めるべきじゃないと思うのか?君を否定しているのはあいつの方じゃないか、いつだって!

 そんなに君が傷つくのを好きだとは知らなかった。

 だとしたら、あいつと何かある度に僕らが手助けしたのだって余計だったわけだ。

 だって君は、本当は傷つきたかったんだから!」

 

 どう考えても『いつか姉と分かり合えるかも』だなんて期待は持ち続けるべきじゃない。

 それなのにリリーは、深く傷ついたように眉を下げた。

 

「私のしていることは無駄だって言うの?傷つくだけだって……。

 セブだって知ってるでしょ。

 ずっとペチュニアと上手くやりたかったのよ、わたし。だってそうでしょう、たった一人の姉妹なのよ。ずっと気まずいままでいたくない」

 

 それは理想でしかない。現実はちがう。

 セブルスの目の前で、こどもの頃の記憶がいっぺんに幻みたく過ぎていった。

 閃光が命を裂いていった時の光景も。

 

「──それじゃ君は、どんなやつとでも仲良くやれる程のすごい魔法でも使えるっていうのか?

 だったら是非なんとかして欲しいやつがいるんだ、君もご存知のエイブリーだとかマルシベールだとかね!あいつらの心をすっかり変えさせる方法があるならやってくれ、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()から!」

 

 もちろん、この世に『どんな相手とでもうまくやれる』存在なんて居ない。自分たちより深い知性をもつケンタウロスですら考え方のちがいで対立するのだから。

 リリーだってそんな事くらいわかっているのだろう。

 続く言葉は()()トーンダウンしていた。

 

「でも……家族なのよ。どんな人かよく知ってる。極悪人でも犯罪者でもない。ただ……うまく言えないけど、自分のルールみたいなものがあって、私たちはそのルールの中にいないの。それだけ」

 

 それは『相手のルールに触れないよう小さく縮こまっていたい』というのだろうか。自分たちのルールは間違っているわけじゃないのに。

 リリーが食い下がってきたので、セブルスももっと言葉を尽くす(ほか)なかった。

 

「家族は誰しもたった一人だ。たった一人の姉、たった一人の妹、男きょうだいだってそうだ。誰も代わりなんていない。何人いたって。親だってそうだ……!

 でも、すべての家族が上手くやれるわけじゃない!」

 

 諦めなければならない家族だっている。でもリリーは、それを理解しようとしないのだ。セブルスがとっくに知っているそれを、決して受け入れてくれないのだ。

 曖昧にしておいても良くなる見込みなんて無い。はっきりと諦めるべきだ。

 

 家族を諦めた時……完全に手が届かなくなった時の荒れ狂った胸のうちが、染みみたいに浮かび上がってきた感じがした。

 ほとんど5年前のそれは輪郭がかすれて()()()()いたが、痛すぎるそれを抱えて黙り込むなんてできない。リリーの反論を待たずに、セブルスは言葉をかさねた。

 

 

「……そうだ、無駄だ。君のしている事は……!

 君がどれだけ心を砕いても無駄になる。無駄になる度に傷つくのは君の方だろう!」

 

 リリーはやはり反論しようというのか、これまでと同じく真っ直ぐにその緑の瞳を向けてきて──、不意に、うつむいてしまった。

 

(諦めるつもりになったのか……?)

 

 それにしては眉根を寄せたままだ。苦しそうな、あるいはショックを受けて傷ついたような顔だ。

 彼女がどんな答えを用意しているのか、あまり良い予感はしない。

 

「あなたは……」

 

 それまでのはっきりと主張したそうな声から一転して、リリーはやけに静かで、どこか諦めたようだった。

 まるで刑に処せられることが決まったと告げられる前みたいに。

 

「──あなたは、私といっしょに頑張ってはくれないの」

 

 

 

 

 

 

 

 その後の食事の味は最悪だった。

 

 もちろん料理の腕の話じゃない。味つけはともかく、それまであったはずの通じ合っていたような雰囲気が散って消えてしまった。

「ほかのエリアも観てみる?」とうながすリリーも少しぎこちなかったが、セブルスだってこのままでいたいわけじゃない。「そうしよう」とどうにか調子を合わせて横に並んだ。

 

 たいていの観光客と同じく、2人とも新鮮さが失せる頃合いだ。ただの疲れもあるのだろうが、倦怠感のような、背中あたりが重いような感じがする。

 

 ひとつ間違いないのは、2人とも盛り『下がって』いるということだ。

 そしてそれは、陽が傾き始めるより前、そろそろ帰ろうかという時刻まで続いた。

 

 

 

 アッシリア・エリアの端まで一周したのは、午前中とくらべると足早だった。

 

「……魔法史でこの辺りの歴史をやったのってかなり前よね。今よりも魔法使いたちとそうじゃない人の生活が違っていたって聞いた……気はするんだけど」

「寝てたのか?」

「そんなことないわよ。……いえ、あったのかも。もう、そんなの覚えてないわ」

 最後は誤魔化して終わりにするような調子だった。

 

「もう、ニヤニヤしないでったら」

 

 それで会話のボールが止まってしまったので、2人はひとまず入り口ホールへ戻った。陽が落ちる前に帰らなくてはいけないからだ。

 セブルスは5年生となった今になっても、陽が落ちた後に帰ると面倒なことになると知っていたからだ。……入学前の頃とは状況がすこし違うが。

 

(早めに出て、帰りにどこかへ寄るのもいいかもしれない)

 セブルス自身には行きたいところは無いが、リリーの希望があるならそこでいい。

 持ちかけてみようかと声を掛けようとして、当の本人の瞳と目が合った。

 

「あー……セブ。

 実はちょっと、考えていたことがあって」

 切り出し方に良くない響きがある。

 

「あの、今日いろいろあったからじゃなくて、前々から色々考えていて。それで。

 ……私たち、しばらく会わない方がいいと思う」

 

 遠くで、観光客だろう子どもがスニーカーを鳴らして遊んでいるのが聞こえた。

 咄嗟になんと答えればいいかがわからない。

 どうしてリリーがそう言い出したのかわからなかったから?そうではない。

 どこかでその可能性もあることを理解していた。到底賛成できないが選択肢としてはあり得ることを。

 でも、きっとリリーはそれを選ばないんじゃないかとも予想していたのだ。

 

 セブルスが問いを返すよりも前に、彼女は「わたし……」と言いかけて首を横に振った。

「なんでもない」

「言おうとしたなら止めるべきじゃない。『どうしてなのか』だろう。言ってくれ。嫌いだって言われた方がまだマシだ」

「……もし嫌いなら、『嫌い』って言ってもいいの?」

「それはいやだ」

「ダメなんじゃない」

 リリーはくすくす笑い声をこぼしたが、その瞳には陰がさしたままだ。

 

 冗談はともかく、リリーがそう言い出した理由は予想がつく。でももちろんセブルスはその意見に反対だし、説得するつもりだった。

 だから何度も問いかけたのだが、リリーは決してうなずかなかった。

 

「なんでもないの。それしか言えない」

「なにも洗いざらい全て話せなんて言わない。でも、なんの説明もなく親友から縁を切られるなんて嫌だ。君だったら嫌じゃないのか」

「それは……、そうだけど……」

 

「それともリズには打ち明けるのか?」

「ちがうわ。リズにも知らせたりはしない。

 将来のことを考えたら、わたしが……あー、目指したいことがあるの。

 でもそのためには……、スリザリン生とこそこそ会うべきじゃなくて。私が死喰い人(デスイーター)になりたい場合以外は」

 

 想定の範囲でおさまりそうだった。

 たとえば魔法省に入りたいとか、特に闇払いなどの警察的組織に所属したいのなら、テロリスト側である死喰い人(デスイーター)につながりを持っていてはまずいだろう。そういう意味のはずだ。

 

「それは、来年(6年生末)の夏休みも?」

「……うん」

 

 せめて卒業した後なら……、そうでなくても成人した後ならまだわかる。

 でもこんなに突然、距離をおかれるなんて。

 これまで夏休みには会えてたのに、それすら無くすというのか。学校でだってそんなに会えるものではないのに。

 

()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 セブは信じられるもの、わざわざ非魔法族を苦しめようとはしないって。……嫌いであってもね」

 

 リリーがその辺りを疑っているとは思いつきもしなかったが、信じてもらえているならそれで良かった。

「でもね」とリリーは真剣な目のままで続けた。

 

「でも、それでも私たち、あんまり一緒にいない方がいいと思うの。

 だれが死喰い人(デスイーター)の構成員なのかは、構成員以外には隠すんでしょう?セブ自身は大丈夫でも、周りの人だって大人の魔法使いたちなのよ。それもとびっきり古い家の。私たちが知らない魔法を掛けられることだってあるわ。

 私の周りの人たちを危険に晒せない。

 ……もちろんセブだってそうよ。スリザリン生から裏切り者だと思われたら、あなたが危険だわ」

 

 言いたいことは理解できるが、だからといって「今後は(少なくとも魔法大戦が終わるまで)会えない」と言われて、すんなり受け入れるわけがない。

 それも相手が好きな人だった場合には。

 何でもいいから考えを変えさせたかった。

 

「それは……君らしくない。危険があるかもしれないからって、あきらめるのは」

 べつに口から出まかせというわけじゃない。グリフィンドール女子は進むと決めたことには猪突猛進で、やりたいことに妥協しないイメージがある。

 つまりセブルスに本当に会いたいと思うのならば、リリーは行動できるはずだ。

 

臆病(おくびょう)だと思う?わたしのこと」

「君はそんな人じゃないだろう」

「そう?……そうかもね」

 

 セブルスの言い分を認めながらも、やはりリリーは「やっぱり会うようにしようか」とは言わなかった。

 あまりに打ちのめされた顔を見せてしまっただろうか。彼女は取りなすように続けた。

 

「ねえ、わたしも友だちを辞めたいわけじゃないの。永遠に別れるなんて、そんなつもりじゃないわ。

 戦争が終わったら……、セブたちみたいな立場の元・スリザリンだって解放されるのよ。

 ──そうね、じゃあ私に会いたいなら戦争をはやく終わらせるように協力するのよ、セブも。表立っては危険かもしれないけど。これならどう?」

 ちょっと冗談めかした喋り方なのは、雰囲気ををやわらげようとしたのだろう。

 

 あいにく、セブルスには冗談に乗れるほどの余裕はない。

「戦争が終わるまでは会えないんだろう。何年かかるかも分からない、どんどん状況が悪くなっていく大戦を生き延びられるかもわからないのに」

 

 日刊予言者新聞が報じる戦況はずっと悪くなる一方だ。最初は行方不明が増えてきたというものだったのに、年を経るごとに高官の命が狙われただとか、大規模な襲撃などの事件が増えていったのだ。

 

「会わない方がいい。セブが"不死鳥の騎士団"にでも入らない限りは」

 つまりスリザリンと縁を切れば……、いや、それだけじゃない。敵対することが必要だ。『死喰い人となった同級生かもしれない相手を殺す(かもしれない)手伝いをする』という条件を()めば。

 それほどの覚悟がなければ会えないということだ。

 

「──もしかして、君は騎士団に」

「いいえ!」リリーは即、否定した。「……ちがうわ」

 泡を食っているということは、絶対にそうだ。本当にそうでないのなら、普通に「まさか」と答える(これがスリザリン女子だと完璧に嘘をつくのだが、リリーはグリフィンドールである)。

 

 それなら、なおさら打ち明けられないはずだ。

「もしもあなたの知り合いが死喰い人だったら、殺してしまうことがあるかもしれない」なんて。

 もちろん、彼女は殺すのではなく捕まえようとするのだろうけれど。

 

(騎士団に入らなければリリーには会えなくなる……)

 

 わざわざ命のやり取りをする“将来の夢”なんて()()()()()()()()

 リリーとこの先も会うために。それだけのために。『(嫌いだとしても)同じ寮で暮らした生徒かもしれない相手』を、殺すかもしれない手伝いをする?

 逆らえなくて死喰い人(デスイーター)の援助をさせられそうな相手には心当たりばかりだ。彼らが鎖につながれたり、死ぬことを許容できるのか?

 

(……出来てしまうかもしれない)

 

 だからといって、積極的にやってまわりたいわけではない。ましてや、リリーと会い続けるためだけになんて。

 でも……、じゃあこのまま終わりなのか?疎遠になって、リリーが死ぬかもしれない現場に飛び込んでいくのを、指をくわえて見ているだけ?

 

 そんなことは認められない、絶対に。

 

「ぼくは……絶対にそんなのは嫌だ。君を失うのも、君が離れていくのも!」

 

 

 

「君が好きだから……!」

 

 

 

 

RTAパートは本編と活動報告、どっちが好き?

  • 【活動報告】にあげて欲しい
  • 【本編】にあげて欲しい
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