それに、原作勢だとしてもοと聞いてあの女が出てこない奴にゃまだ早いぜ
この春ついに大学を卒業した私は、今年からついに新社会人としての生活を始めた。正直あんまり良い会社に就けたとは言えないけど………こればっかりは学校サボってゲームばっかりしてた時のツケだ、と思って諦めることにしている。ブラックってわけでもないんだから、安月給なりに生きていくしかないだろう。少なくともそう思えるだけの楽しい思い出が、大学時代に私にはあった。………一般人から見れば随分と血生臭い青春だったけど。
さて、そんな古い話よりも、今は前向きな話をしよう。
最近、なんと私は大学時代からの彼氏と同棲を始めたのだ。
私と彼との出会いは、今から二年前─────大学三年生の夏。
で、そこを救ってくれたのが今の彼氏ってわけなのだ!
彼は偶々同じゼミを受けてる人だったんだけど、偶然席が隣になった時さっきのことで落ち込みがちだった私に声かけてくれて、当時彼の所属していたサークル─────超過疎ってる小さなアメコミサークルだった─────に入るよう勧めてくれて。当時サークル無所属だった私は、彼に流されるままに所属することにしたんだ。正直今になると空虚さを埋めるためだけにサークル入る、だなんてあまりにも浅はかだったと思うけど、それでも幸運なことに、その選択は間違ってなかった。
声かけてきた時はヤリモクかと思って警戒してた彼だけど、全然手は出してこないしすごく優しくてみんなから慕われてるし気がきく、でもその一方でアメコミのことはすっごい好きなんだって伝わってくる、すごく明るい人だった。一番のお気に入りだと言うミーティアスというヒーローに至っては、リアルミーティアスと言うほどにそのキャラをゲームでよく使う………ゴールドバーグさん? というプロゲーマーまでも追っているらしくて、そのことを話す時、彼の目は本当に眩しいくらい輝いていた。私自身はゲームも漫画も映画も、抱えていた喪失感からあんまり深くまでハマることはなかったけど、一緒に話しができるってことが単純に嬉しくて………と、まあ、そんな彼に触れていくうちに、私はちょろいもんですっかり彼のことが好きになってしまったのでした、ちゃんちゃん、ってわけでね。………あ、あの時は依存先がなくなって特別落ちやすかっただけだから! 全然私が色ボケってわけじゃないからね!! ちょろくなんてないんだからね、多分!!!
まあともかく、そこからはちょっと色々云々あれこれちょめちょめぽいぽいやっちゃって、見事恋人になることに成功。(何したのかは秘密。………手回しとかいろいろ、ね?)そこからもなんとな〜く良い感じの関係を築きながらやってきて、彼が大学卒業を機についに同棲を始めようって言い出して。それで親に挨拶したりされたりした後に、都内の会社近くのアパートに二人暮らしを始めたんだ。元々は彼氏の家だったからいまだに少し緊張しちゃうけど、今のところ生活に支障はなし。順風満帆の共同生活をおくれてる。
…………強いて問題を挙げるなら、私があの時落ち込んでいた理由がどんどん言えなくなっていることだろうか。今やあの時代は私にとって思い出であると同時に黒歴史故、完全に姫モードは封印して付き合ってきた。だから彼と出会って以降の私とはキャラが違いすぎるし、ただでさえやってるゲームが『ヤバい』のに、そこに加え姫プやってました、なーんて言ったらそれこそ嫌われかねない。家を借りてる身として嫌われるのだけは避けねばならないので、もはやあの時の片鱗すら隠し通す覚悟が必要だ。
といっても、カケラの未練も残ってない界隈だから全然苦にはならないんだけどね。今は彼氏もいるし、もう『あそこ』での思い出はとっくに過去のものとして割り切りってる。つまりは、私は見事あの世界から脱出してみせた、と言うわけである。……まあそもそも、あの世界のモードが漏れ出ることなんて平穏に暮らしてれば滅多にないだろうけど。あまりに非日常な界隈すぎるし、当時のユーザーに会う手段だって……もうどこにもないんだから。
◆
冬が近づいてきて、寒がりさんな私たちは早めの暖房のお世話になっていた。機械から出る少し乾いた気流が部屋の温度を温めに保つ。窓が開けられない分空気が澱んでいるような気もするが、それくらいの方が冬はあったかいのだ。
そうして布団の上で私がごろごろだらけていると、ふとその横でテレビと睨めっこしている彼氏のことが気になった。
「さっきからそれ、何してるの? 面白い番組でもやってるわけ?」
ほとんどスマホをいじっていたので内容は一切見ていなかっけど、さっきから彼がわいわい騒いでいるのは分かっていた。どうも結構面白いらしく、普段はあまり声を荒げる性格ではないはずの彼氏が奇声を上げていて、意外な一面だな、と陰ながら思っていたのだ。そこで話を聞いてみると、どうやらそれはあるアメコミ格ゲーをマスクマンとプレイするというテレビ番組の企画らしい、ということを彼が語ってくれた。らしい、というのは偶然テレビをつけたらそう書いてあっただけで、彼氏自身もあんまり知らない番組だったからだ。
そう言われて改めて画面を見れば、なるほど確かに、そこではいつぞやサークルで見たアメコミキャラがくんずほぐれつで戦っている。片方はゼノセルグスで、もう片方は
というかそれ以上に気になるのは、この番組の名前にもなっている司会の女の子………たしか笹原エイトとかいうアイドルだ。最近そこそこに名前を聞く売り出し中の子で、見れば顔もその地位に[[rb:相応 > ふさわ]]しいかわいさを持っている。
「ふーん、普段テレビとか見ないのに、ほんとアメコミ好きだねぇ。……それともアイドルの子が好みなの?」
少しイラッときたので適当に揺さぶりをかけておいた。それで彼氏があわあわして否定しているけど、それは笑顔でスルー。別に本気で疑ってるわけじゃないし? まあ揶揄い半分だからね?(本気半分とも言うが)
さて、そうして私たちが
……だが、その演出はどうもうちの彼氏には効き過ぎてしまったようで。彼氏は突然「Foooooooo!!!」などと、つい欧米かと突っ込んでしまいたくなるような大歓声をあげて満場総立ち、スタンディングオベーションし始めてしまった。てかなんかテレビの中の画面女子もおんなじようなことになってるし………大学で一年だけしかアメコミかじらなかった私じゃわかんないんだけど、これってそんなに盛り上がるシーンなのかな。確かにヤバいくらいかっこいいけども…………ってか「さすがリアルカースドプリズン」って………リアルカースドプリズンって誰? ミーティアスじゃないの?
と、私が疑問に思っていると、ついに始まった三つ巴の戦いは殴り合いの様相を呈し、格ゲー未経験の私でもわかる高レベルな戦いが繰り広げられていく。パンチひとつひとつが相手の行動を読まれたもので、先ほどの口上も根拠なく放たれたものでもないらしい。もしかしたら彼らは格ゲーのランカーとか、そういう人たちなのかもしれない。………まあ、私としてはそんなの全然興味ないんだけど。あのゲーム以上のゲームはきっと私には見つけられないし、恋人もできて今や姫もできなくなっちゃったから誰にもチヤホヤされないしで、私としては本当にゲームをやる意味が皆無なのだ。今だってコレがアメコミものだから見てるけど、正直そうじゃなかったらさっさとSNSに戻っている。
私にとってこの映像は所詮タダの暇つぶしか、或いはちょっとした彼氏の好きなものに過ぎないもの。その程度の認識である──────
……そう、その筈だったのだ。
突然、カースドプリズンが懐から一個の銃弾を取り出した。
そんなところに銃弾がある理由は知らない。原作にそんな描写はないが、先ほどから機械少女が暴れてるのでその手のものなのかもしれない。とにかく、いま彼の左手には鈍く光るソレが握られていたのだ。……なぜか、指と指の間に。
「…………え?」
私はソレを見た瞬間、思わず声を出していた。
そうだ、私はそれを知っている。その構えを、その技を知っている。
それは、焦げ付くような
それは、蒸せ返るような
それは、魑魅魍魎の跋扈する
苦痛と興奮の渦の中、共に唱える
「
「っっっ!!!!!」
瞬間、胸へと走る激痛、肺に空洞が開いたような感覚。思考は赤に染まり、全身を炎のような灼熱が駆け回る。脳信号はオールレッド、刻まれた本能がこれ以上はまずいと警告を打つ。
痛い、痛い、痛い、いたい!!
そして、久しく感じていなかった苦痛が私を襲った。あまりの苦痛に今にも叫び出さんとする喉、反射的に地面をのたうちまわろうとする肉体。そんな抗い難い衝動の中で、しかし私の理性はいやに冷静で。ソレは手慣れたように私の体を動かすと、さも当然のことのように彼氏の腕を握らせた。そして、これまた自然な動きで上目遣いをして涙目を──────
「………ゆ、
と、ここで彼氏に声をかけられ、私は俄に我に帰った。
「んぅ………あれ?」
改めて辺りを見回せば、そこは何の変哲もないただのアパートの一室だ。……孤島などではない。火薬の匂いもタバコの匂いもしないし、まして体に風穴が開いているなんてそんなわけがない。
そう、さっきまでのは全て私の幻覚だったのだ。私の脳内に本能レベルで刻まれた、
そして体に染み込んで消えない本能に若干ビビりながらも、私は無意識に今のシーンを反芻する。
(てか、今の技って、絶対
………と、ここでいつまでもぼーっとしていると彼氏に変に思われかねないことに気づき、私はそこで思考を中断した。もし異常の理由を勘繰られでもしたら私が隠したい鯖癌の記憶について話すことになる。そうなると私の本性がばれかねない………というかさっき一瞬癖で姫ムーヴしそうになってたわ。これ以上はちょっと別のところで考えるのがいいかな。
「……あはは、ごめん。なんだろ、なんかちょっとふらっとね。…………私、お茶でも飲んでくるから」
とりあえず冷静になった私はそう言って無理矢理離席に理屈をつけると、心配そうな顔をした彼氏から離れさっさと台所へと向かった。その胸中に、まさか現代で孤島出身者と会えるなんて、という、呆れとも懐古ともつかない、複雑な思いを抱きながら。
◇
部屋に取り残された彼氏は、弱々しく部屋を出る彼女を見ながら、ひとつ首を傾げた。
「……変な侑芽、どうしたんだろ。まさか、爆発音に驚いちゃった、とか? そんなに怖がりじゃなかったと思うけどなぁ……」
もしかして、体調が悪いのを誤魔化していたんだろうか。彼はふとそう疑問に思って、一緒に台所へ行ってあげたほうがいいか、と逡巡する。だがしかし、一瞬立ち上がりかけたところで、彼はすぐにその考えを否定した。
「いや、具合悪いってことはないか。だって──────────」
「あんなに笑った顔の侑芽、初めて見たもんな」
ちょっといつもより目がギラギラしてた気がするけど、なんて付け足して、彼はまた上がった体を座らせる。そして、彼は再びテレビの画面へと目を戻した。
↓つまり今回やりたかったこと
Q.セプテントリオンに対してどう思う?
サンラク:セプテントリオンを許すな……って、まあ元々イカれたゲームだったししゃーない
アトバード:頭に鉛玉千発でも打ち込んでやるよ^ ^
バイバアル:死ねカス
ゅめ:……ま、もう諦めてるから、許してあげな(鬼の形相)(めっちゃ青筋立てながら)(ガチで怖い)
Q.あなたにとって鯖癌とは?
サンラク:いつか旅立つべき故郷
アトバード、バイバアル:いつか帰りたい実家
ゅめ:もはや辿り着けない理想郷
なお、第二問の下二つの差は「帰らない覚悟があるかないか」