これは、原作時間より遥か前、過去の鬼殺隊の戦い。
人々の為に鬼を滅殺する鬼殺隊士達を描いた物語。
基本一話完結のオムニバス形式の短編集です。

※毎回鬼殺隊側が勝つとは限りません。
※ガバがあるかもしれませんが生暖かい目で流してください。
※誤字、脱字は指摘していただくと助かります。

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原作のおよそ100年前を想定。


爛々と紅炎 業火の如し

 

とある鬼殺隊の隊士、天舘 金人(あまたち かねひと)、二十歳。

階級は(きのと)、柱を除いて上から二番目、入隊から四年と当たり前のように隊士が死に入れ替わるこの組織の中ではそこそこのベテランとも言える。

そんな彼は七年前まで若くして流行病で死んだ母に変わり妹と弟、そして金人を含めたの三人子供を男で一つで養ってくれた立派な父と共に細々とではあるが、幸せな日常を送っていた。

 

 

…あの日、鬼が現れるまでは。

 

 

ある夏の夜、父と妹、そして弟と共に景色の良い崖際から月見をしていた時のこと。

鬼は突然現れた。

まず初めに弟の命を一瞬で奪い、続いて妹を襲おうとした時に事態を飲み込んだ父が鬼を止めようとして揉み合い、必死に妹を逃がすように叫んでいた。

弟があまりにもあっさりと殺されたショックで呆然としていた金人だったが、父の叫びで気を取り戻し、妹を背に庇いながら鬼から距離を取った。

しかし、そうこうしている間に鬼は揉み合う父を次々と傷付けて、段々と父が血を流しいつ失血死してもおかしくない程に衰弱を始めていた。

それでも、父は決して鬼を金人達の元に行かせまいと鬼を離さなかった。

 

金人はなんとか父を助けたい思いで、近くの太い木の枝で父が抑えている鬼の頭を殴りつけたが…それで鬼がよろめいて力が緩んだのか、父が最後の力を振り絞り…鬼と共に崖から落ちて行った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

後に生き残った金人と妹は駆けつけた鬼殺隊に拾われ、鬼殺隊からの支援を受けて二人だけの日常に戻るか、鬼狩りの道へ歩むことを提案された。

妹は、前者を選んだ。

金人は…後者を選んだ。

 

金人を育てたのは、老齢で引退した元(きのえ)の隊士だった。

 

彼の修行は厳しく、それでも金人は死に物狂いで修行に食らいつき、三年の修行を経て最終選別を乗り越え鬼殺隊に入隊した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

それから四年の月日で多くの鬼を狩り、順調に実力を付けた金人だったが、移りゆく日々の中で確かに変わらないものがあった。

 

 

───この世から鬼を滅する、と。

 

 

それだけを胸に、人々の安寧を脅かし不条理に幸せを奪う鬼という生き物を滅ぼす為に、金人は今宵もその剣を振るおうと目的地へと赴いていた。

 

 

 

 

「白沢の滝…朱乃(あけの)、ここで良いんだよな?」

 

『カァ!ソウ!近辺ノ集落ガ全滅シタトノ情報アリ!死体ノ状態カラ鬼ノ可能性大!』

 

 

朱乃という名前の鎹鴉が金人の質問に元気よく答える。

それを確認した金人は未だ鬼の気配を感じられていない中でも直ぐに抜刀し、突然の奇襲にも対応出来るよう備えた。

強い鬼は気配を隠すのが上手く、特に血鬼術という異能を行使する鬼は最早なんでもありだ。

 

勿論そんな異能の鬼とも何度も交戦経験がある金人だが、それでも毎回苦戦を強いられている事に変わりはなく、今回の任務に当たるに置いても驕りはない。

全ては悪鬼滅殺それだけの為に。

 

 

「仏さんは既に(かくし)が弔ったと聞いたが…血の匂いの処理はちゃんとしたんだろうな?匂いに釣られるのは鬼だけじゃない。獣も集まって来てたら気配が混雑して面倒だ」

 

『大丈夫!ツベコベイワズ戦エ!馬鹿メ!』

 

「オイ言い方!…ったく、もう何年一緒にやってるんだからそろそろ甘やかしてくれても良いんだぞ?」

 

『ヘッ!』

 

「チッ…」

 

 

小馬鹿にしたような朱乃の言葉と表情に金人も思わず舌を打つ。

ともあれ足を止める暇も余裕もなく、目的地である集落に向かうと、そこは鬼によって破壊されたのか辺りの建物は軒並み破壊し尽くされ、無事な形状を保っているものが無い。

ここまで派手に暴れたのなら目撃情報が残っていてもおかしくは無いが、生憎住人の全てが皆殺しにされたのだからそれを期待することもできない状況だった。

 

 

(建物の破壊の規模、逃げ惑うだろう数十人の人達を残さず殺し尽くしていること…二〜三人しか食ってないような雑魚鬼には出来ない芸当だ。恐らく異能の鬼…ん?しかしこの破壊痕、何か引っかかるな…何だこの違和感は…)

 

「おい、朱乃。仏さん達の状態はどうだった?」

 

『聞イテイナイノカ間抜ケメ。死体八ドレモ───』

 

「伏せろぉ!」

 

『ヒャウンンン!?』

 

 

朱乃が金人の質問に答えようとした時、即座に()()に反応した金人が飛んで追従してきていた朱乃を地面に引き落とし、自らも屈む。

そしてその頭上を────不可視の斬撃が駆け抜けた。

過ぎ去ったそれは直線上にあった既に崩壊した家屋や木々を上下にかち割り破壊する。

 

 

「キヒャ…ヒャッヒャッヒャッ!避けた、避けた、良く避けたなぁ!偉いな、凄ぇな、やるなぁ!」

 

「…」

 

 

破壊が駆け抜けた後の一瞬の静寂。

そこに割って入ったのは、極めて不快感を煽る高笑い、そしてドスの効いたおぞましい声。

声の方向に金人が目を向けると、それはそこにあった岩の上に腰掛けていた。

屈強な、しかし野犬を彷彿とさせるしなやかな体躯、ざんばらに伸びた髪、一枚布を巻いたような装い…そして、片目に刻まれた『下参』の文字。

 

 

(下弦の参…十二鬼月!)

 

「キヒャヒャ…聞いてるか?なぁおい。俺は鼬丸(いたちまる)、見りゃ分かんだろ?十二鬼月だ!下弦の、参だ!」

 

「…悪いが、鬼はどれも醜くて区別がつかん。この前倒した蝉鬼の親戚か何かだったりするか?」

 

「誰だよそれ知らねぇなぁ…キヒャ、舐めたこと言うじゃねぇか。余程腕に自信があるのか、頭のおかしい馬鹿か…まあやるこたぁいつも通りだ…気の利いたこたぁ言えねぇが…死ねぇ!!」

 

「じゃあ代わりに社交辞令くらいは述べてやる…ご愁傷さま!」

 

 

鼬丸と名乗った鬼が殺気を溢れさせ、それと同時に軽口を返した金人が踏み込み、鼬丸と距離を詰めた。

移動の勢いは激しく盛る炎の如く、悪鬼を焼き尽くす業火の如く。

 

 

───炎の呼吸、壱の型 『不知火(しらぬい)

 

 

一閃、一撃必殺を見越した力強い直線斬り。

鬼の首目掛けて振り抜かれた刀は────鼬丸の首にくい込んで止まっていた。

否、首を切り落とす前に鼬丸の手が刀を掴んで止めていたのだ。

 

 

「…キキ、キヒャヒャ!良かったなぁ!今の!止めなけりゃ首が落ちるかと思ったぜ」

 

「チッ、クソが!」

 

「おっと危ねぇな、血の気が多い奴は好きだが、だとして死ぬつもりはさらさらないんでねぇ…って、少しくらい話しようぜ?」

 

 

鬼から離れる為に蹴り抜かれた金人の脚を、鼬丸は刀を離し後方に飛び退いて避ける。

しかし気後れすることなく金人は再度間合いを詰め、攻勢の構えを取った。

 

 

───炎の呼吸、弐の型 『昇り炎天』

 

 

「ふっ、はっ…はは!速ぇな!」

 

 

───炎の呼吸、参の型 『気炎万象』

 

 

「ぐぅっ!?…クク、強ぇなぁ!」

 

 

低い姿勢からの切り上げは爪で真横に弾かれ逸らされるが、続く振り下ろしが耳を捉えて切り落とす。

その事に一瞬たじろぐも、直ぐに再生し威勢を取り戻した鼬丸は、金人に向かって鋭い爪で襲いかかった。

ただの爪と言えど、十二鬼月の肉体能力により強化された膂力によって振るわれるそれはやわな人間の肉体など容易く挽肉に変えられるほどの威力を有する。

 

如何に鬼殺隊の隊服がかなりの強度を誇っているとはいえ、その防御力は十二鬼月以上を相手しようとするならばまるで役に立たなくなる。

それを理解しているからこそ、金人は攻め手を止めて受けに専念し、高速で襲いかかる爪の連撃を躱し、弾き、時々反撃を交えながらしのぎ切った。

 

 

「キヒヒ…ヒャッヒャッヒャッ!おいおいどうしたぁ?俺の首を斬るんじゃなかったのかよ?受けに回ってたらいつまで経っても勝てねぇぞ?」

 

「…今のは軽い準備運動だ。二言目にはいつ首を落とされても良いよう洗っとけ」

 

「あぁ〜…そうかよ。じゃあそうならないように俺も少し本気だそうかね?」

 

「…」

 

「キヒャヒャ、臆したか?今ので本当は感じてたんじゃないか?分かっちまったんじゃないのか?…俺には勝てねぇって事に」

 

 

煽るような鼬丸の言葉だが、実際金人は焦りを感じていた。

数合撃ち合った感触的に、金人と鼬丸の迫撃能力はほぼ互角、数度反撃し攻撃を加えることに成功していた金人に若干の分があるくらいだろうか。

しかし、それだけではこの鬼には決して勝てない。

鬼の無尽蔵の体力、首以外ならば日輪刀によるどんな大怪我も直ぐに回復する再生能力、そして人智を凌駕する血鬼術。

 

これらを上回らない限り人間が鬼に勝てる道理は無い。

そして、鼬丸はとうとう金人に対して血鬼術を解禁し、勝負を決めにかかってきた。

 

 

「キヒャヒャヒャヒャ!どれだけ持つか…試してやろうじゃねえか!」

 

 

───血鬼術、『鎌鼬(かまいたち)

 

 

鼬丸が、腕を交差させるようにして振るった。

金人との離れた距離、一見それは虚空を切り裂いただけの無意味な行動に見えるが…先程の奇襲と集落の家屋の破壊痕からその攻撃の正体を察していた金人は咄嗟にその場に伏せる。

 

 

 

直後、金人の後方にあった森林が次々と幹から上下に両断されて倒れ込む。

その圧倒的な破壊によって森の中の動物達が一斉に移動し、鳥類は慌てるように飛び立って辺りに羽が舞い落ちる。

 

 

(さっき見た家屋の崩れ方もそうだが…やけにデカイ刃物でも使ったのかってくらいの両断面。攻撃範囲はかなり広そうか…面倒だな)

 

 

鼬丸から意識を逸らさないようにしながらも後方の被害に目を向けた金人は舌打ちをして、体勢を立て直し日輪刀を構える。

 

 

「どうだぁ?お前はこれを掻い潜って俺の首を斬れんのか?」

 

「斬ってやるさ。その余裕ごと、地獄の底まで」

 

「そうかそうか、キヒャヒャ!その威勢がいつまで続くか…見物だなぁ!」

 

 

鼬丸が腕を無造作に振り上げる。

その瞬間には地面を引き裂きながら不可視の斬撃が金人に向かって走ってくるのを視認し、横に飛び退いてそれを回避する。

しかし鼬丸も何度も腕を振るい不可視の斬撃を飛ばしてくるので金人も一向に距離を詰めることが出来ず、回避に専念する事で精一杯だった。

 

 

(このままじゃジリ貧か…ここは果敢に攻め込むか?どうやって?あの斬撃、そもそも受けれる性質の攻撃かも分からない。これで下手に迎え撃って刀が折れたら目も当てられん。どうする?どうする?)

 

「おいおい、どうしたァ!俺の首を斬るんじゃなかったのかよ!」

 

「焦んなよ、直ぐに落としてやるから待ってろ!」

 

 

(クソッ、どうする?危険を犯してでもやるか?安全策に拘ってたらキリが無い。本当に?俺に出来るのか?俺にそんな度胸が…あるのか…?)

 

 

思考しながらの回避も、段々と限界が近付いて来ている。

頭を動かさなければ状況の打開は不可能だが、回避に意識を割いていなければ段々とかすり傷とはいえ被弾も増え、集中力が切れればもう避けられ無くなる。

焦燥が思考力を段々と奪い、それに伴って呼吸も乱れ始める。

何度も回避行動を行って地面を転がり、体力も削れてきた。

 

そして考えているうちに、金人は遂に回避し切れず脇腹に深い傷を受けてしまう。

 

 

「ぐぁっ…!?」

 

「…キヒャヒャ、もう終わりかよ。つまんねぇの」

 

 

ドクドクと血を流し、地面に膝を着く金人の姿を見た鼬丸は興味が失せたかのように攻撃を中断し、無気力に腕をだらんと下げた。

呼吸を荒くし俯く金人は傷を抑えるも、出血が止まることはなく徐々に自らの熱が、命が零れ落ちていく感覚を感じ取り朦朧とし始める意識に死を覚える。

 

 

「…はぁ、もういいよ、お前。じゃあな」

 

 

────血鬼術、『乱斬禍鼬(らんざんまがいたち)

 

 

鼬丸が、ゆっくりと腕を上げて…それを勢いよく振り下ろす。

 

その動作に伴って発生したのは、不可視の斬撃の嵐。

避ける隙間もない刃の壁。

地面を抉り、人体など微塵切りにしてしまうだろう恐るべき攻撃。

 

不可視なれど、確かに死が迫る様を金人は幻視して─────

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

────懐かしい記憶、暖かい風。

妹を背負う父の姿と弟と手を繋ぐ幼き日の自分の姿が朧気に浮かび上がる。

 

 

 

『お父さん、お母さんはどこに行ったの?』

 

『母ちゃんはなぁ、遠いところに行ったんだよ』

 

『遠いところって?』

 

『きっと素敵な所さ。母ちゃんは蘭の花が好きだからなぁ、今度一緒に摘んであげよう』

 

『お母さんに会えるの!?』

 

『う〜ん、難しいかなぁ。お母さん恥ずかしがり屋だから、顔を見せてくれないかもな。だから、俺達が離れた後にこっそり花を持ってってるんだよ』

『そうなんだ…僕、お母さんに会いたいよ…』

 

『…そうだな。俺も会いたいよ。けどなぁ、金人────

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

─────頼むから、お前と博文(ひろふみ)、そして朱里(あかり)は当分母さんに合わないでくれ。それだけが、俺と母ちゃんの願いなんだ』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「…諦めて…たまるかってんだよ!!」

 

 

────炎の呼吸、伍の型『炎虎』

 

 

意識を覚醒させ、刀を握る腕に力を込め、迫る死に向き直る。

膝を着いた体勢から、片脚を前に出し後脚で地面を蹴る体勢に。

渾身の力を全身に込めて…踏み込んだ。

 

それは、まるで恐れを知らぬ猛き虎の如く。

 

 

「っ!?」

 

「う、あぁぁぁぁぁぁ!!」

 

 

間隔を読み、目測を測り、不可視の刃に衝突する直前───全霊をもって刀を振り抜く。

 

 

 

 

そして感じた、確かな手応え。

刀と衝突し、ぶつかったものを切り捨てたという確信。

 

 

「…っ、お前ぇ…面白ぇじゃねぇかぁ!!」

 

 

鼬丸が、再度腕を振り上げ、振り下ろす。

再三発生する不可視の斬撃の嵐が、先程よりより強い勢いでこちらに襲いかかってくる。

先程は斬ることが出来たが、次は出来ないかもしれない。

 

 

───だからなんだと言うのか。

 

 

 

(心を…燃やせ)

 

 

────炎の呼吸、壱の型『不知火』

 

 

斬撃の嵐に突っ込み、ぶち抜く。

 

 

(心を…燃やせ)

 

 

「おらあぁぁぁぁぁ!!」

 

 

────炎の呼吸、参の型『気炎万象』

 

 

鼬丸が我武者羅に振るった腕から飛ぶ無数の斬撃を、打ち破る。

 

 

(心を…燃やせ!)

 

 

 

かつて、金人が教えを乞うた隊士は元炎柱の継子だったという。

それは…炎柱が己の使命を全うする為の鼓舞であり、暗示。

 

 

「これで、終わりだァ!」

 

 

────血鬼術、『天つ神風』

 

 

それは最早斬撃ではなく、触れたもの全てを塵に帰る竜巻だった。

地面を根こそぎ抉り、空気を引き裂きくぐもった音だけが金人の耳に届く破壊の暴威。

されど、金人は足を止めず、恐れを抱かず、今はただ一つの目的の為だけに刀を振るう。

 

 

(心を燃やせ、限界を超えろ!)

 

 

悪鬼滅殺、それを成し遂げる為に。

 

 

────炎の呼吸、奥義 玖の型『煉獄』

 

 

破壊の暴威に対して、かつての炎柱から、金人の師匠へ、そして金人へと受け継がれた炎の呼吸の奥義をもって迎え撃つ。

広範囲を抉り取る剣戟、まさに鬼を骨から焼き尽くす地獄の業火の如き炎の呼吸の極地。

 

全身に、全霊を、全力で。

例えばその身が朽ちようとも、目の前の悪鬼を滅殺する為に。

踏み込んだ脚を…蹴り抜く。

 

 

「うおぉぉぉぉぉぉ!!」

 

「キヒャヒャヒャヒャヒャヒャ!!」

 

 

互いの渾身の一撃が、月明かりの下にぶつかり合って─────

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「───────」

 

「…ぅ」

 

「────ん、─────とさん!」

 

 

暖かい日の熱。

いつかの記憶のような、安らぎの温もり。

そして目に飛び込む眩さと鼓膜を揺らす声にぼんやりとした意識が目を覚ます。

 

 

「…ぅあ?」

 

「金人さん!無事ですか!?」

 

「…おまぇ…隠…か?」

 

「は、はい!止血は済ませましたけど、絶対に無理に動かないでくださいよ!」

 

「…お、鬼…は?」

 

「鬼…そうですよ、金人さん、やりましたよ!貴方、下弦の参に、十二鬼月に勝ったんですよ!」

 

「…そう、か…良かった…」

 

「まったく、決着を見守っていた朱乃さん…貴方の鎹鴉が近くに控えていた隠を直ぐに呼びに来たから迅速に私達も救護を始めることが出来たんですよ。感謝してあげてくださいね」

 

「…ん、お前そんなに俺のこと心配してくれたのか?」

 

『へッ!自惚レルナ間抜ケ!死二損ナイ!』

 

「ひでぇなオイ…」

 

 

事の顛末を聞き、全身から力が抜けた金人は鎹鴉の朱乃からの無慈悲な罵倒を聞き流しながら隠の顔を見上げるために上げていた頭を地面に下ろし、朝日を眺める。

 

太陽は、恐ろしい夜の終わりを告げるもの。

人類が逃げ隠れる闇を祓ってくれるもの。

 

そして、人々を守り、生き物を健やかに生育させてくれる天然の恵。

人間は、太陽から数え切れない程の恩恵を受けて生きている。

その恩恵の中には…物理的な現象では言い表せない、文字通りの神秘さえ含まれているのだ。

 

 

 

「…俺、やったよ、お父さん」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

とある地域、崖上に建てられた小さな石碑。

石碑の前に座り、手を合わせて金人は思いを馳せていた。

 

 

「お父さん、お母さん、博文。俺と朱里は今も元気に暮らしているよ。朱里は…逞しい奴だから、問題ないだろうなぁ。俺は…安全な仕事とは言えないし、いつも死と隣り合わせだけど…それでも、ね」

 

 

風が吹き、金人の前髪を揺らす。

風に運ばれた葉や土埃が石碑に纏わりついたのを手で払って除けた金人は、立ち上がり太陽を見上げる。

 

 

「俺は、お父さんと、お母さんと、博文に会いたいよ。でもね─────まだ、会いに行かないから。俺には、やるべきことがあるから。だから…全部終わったら、またいつか…朱里も連れて、一緒に過ごそう」

 

 

そう言い残した金人は、石碑に背を向けて歩き出す。

ふと足を止めて、石碑の方を一瞥すると、柔らかく笑い再び歩き出した。

 

そこに、鎹鴉の朱乃が金人の頭に止まり、容赦なく嘴で旋毛をつつく。

 

 

「いててて!?何すんだお前!」

 

『任務ダ!ボサットスルンジャナイ!ノロマめ!』

 

「いつになったら温和になるんだお前は!そろそろ俺を甘やかせ!」

 

『へッ!』

 

 

昼、この時間だけは鬼が現れない人の時間。

それだけは、鬼殺隊にとっても数少ない安らぎの時間。

犯されることの無い日常。

これから長く続く戦いに身を投じ、多くの出会いと別れを経験し苦痛と血の味を経験するだろう彼らにも、その時だけは、平穏があっても良いだろう。

 

鬼殺隊は、鬼を滅ぼすその日まで戦い続ける。

人々の安寧を守る為、理不尽に大切な人が奪われる気持ちを、他の誰かにもさせない為に。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

崖の上の石碑の前に置かれた、四本の蘭が風に揺れた。

 




鼬丸…オリジナルの十二鬼月、下弦の参。
血鬼術は『鎌鼬』 目に見えない斬撃を放つ事が出来る血気術で、原作で炭治郎が斬っていた大岩くらいなら簡単に切断可能な威力。
最大威力は累の赤い糸にも匹敵し、並の隊士なら迎え撃とうとすれば刀の方が切断される。
現時点では血鬼術の起点は鼬丸が中心になるが、もし上弦並の力を付けられれば威力が上がるのは勿論自分から離れた位置からでも血鬼術を発動させ、縦横無尽の斬撃を繰り出せるようになる。

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