ミス・モノクロームを愛してた「ポーカーフェイス」 作:青 桜花楽
ぼくは絶望していた。
何もできなかった。
学校に通ったことすら、ほとんどなかった。
世間の人々によると、学校とは天国のような場所であるようだ。実社会は厳しいのだ。
もちろんぼくにとっては地獄だった。
ぼくは自殺することを決心した。
しかし、自殺する前に5分ほど時間があったので、録画しておいた「ミス・モノクローム」を見ることにした。この判断がぼくの命を救った。
運命は分からないものだ。
どうしてぼくは今も生きているのだろう?
それはともかく、ぼくは一目見るだけでミス・モノクロームに恋をした。
生きてやると決心した。
この決意がいう行われたのかは、よく覚えていない。
ぼくの記憶ほど信頼できないものはないのだ。
ミス・モノクロームについて語ろうとすると、ぼくの指は凍りつきはじめる。
あたかも、他人にミス・モノクロームについて語ろうとすれば、その良さが失われるかのようだ。
ミス・モノクロームはぼくにとっては常に神アニメであったが、特に評価を上げるきっかけになったのがEDテーマの「ポーカーフェイス」だ。
ぼくは「ポーカーフェイス」をリピートして永遠に聞き続けていた。
ぼくは元々オタクと呼べるような人間ではなかった。
なお、ぼくの中でのオタクとは、部屋を二次元ポスターで埋め尽くしているような人間を指す。
こんなに誰かのことを好きになったのは初めてだ。
ミス・モノクローム。
キミが好きだ。
ぼくはどうしてハーメルンにいるのだろうか。
分からなくなってしまった。
ぼくは小説家になろうに小説を投稿していたはずで、他の小説サイトは必要としていなかったはずだ。
そうか。
思い出した。
ここは二次創作の世界なんだ!
ぼく以外に誰もミス・モノクロームの二次創作を書かないから、ぼくが書くしかないんだ。
全く、くだらないオリ主転生を書く暇があるなら誰かミス・モノクロームの二次創作を書いてくれ。
ぼくからの、一生に一度のお願いだ。
今にして思えば、ぼくが「一生に一度のお願いだ」というフレーズを使うのはこれが初めてではないだろうか。
少なくとも、ぼくの記憶の中には存在しない。
嗚呼。
セミの鳴き声すら消えてしまった。
もうみんな死んでしまったのだろうな。
この世界は、まるで全てぼくのものみたいだ。
キミはどこにいるのだろう?
お願いだ。返事をしてくれ。「ぼくのことが好きだ」って言ってくれ。
もしぼくのことが好きなら、「ノー」とは言えないはずだ。
ぼくはコンサートに行き損ねた。
ぼくはミス・モノクロームがわずかなりとも三次元と結びついていることが理解できなかった。
現実と二次元を混同している?
残念ながら違う。
ぼくには現実は存在しなかった。はじめから現実は壊れていたんだ。
現実が正常に機能してくれていたら、ぼくが自殺することはなかっただろう。
もうダメだ。
ぼくは再び「ポーカーフェイス」を永遠にリピートさせ続ける決心を固めた。
こうしてぼくは生まれ変わるのだった。
ぼくは機械音が好きだった。
だからボカロ曲であれば、何とか聞くことができるのだった。
ぼくの記憶が正しければ、「パフューム」のような名前の歌手グループの歌は何とか聞くに堪えた気がするが、記憶があいまいなせいでよく分からない。
オーケー。
二人だけの世界に行こう。
そうすればぼくは救われるのだから。
この状態は本当に回復と呼べるのだろうか。
分からない。
だってぼくには未来がないから。
ミス・モノクローム。キミはぼくの女神だ。
どこかへと消えてしまいたい。だがその欲望を叶えることはできない。
異世界に召喚されたい。
でもその後どうするの?
「異世界に召喚される。ぼくは自殺する。」
こうして小説のタイトルは作られていく。
しかしこれでは一話で終わってしまう。
異世界は魔王を必要としている。
「異世界に召喚される。ぼくは自殺する。魔王を倒す。ぼくは自殺する。」
魔王を倒すためには伝説の剣が必要だ。
「異世界に召喚される。ぼくは自殺する。伝説の剣を手に入れる。ぼくは自殺する。魔王を倒す。ぼくは自殺する」
こうしてぼくの小説のタイトルは決まった。
この小説へのミス・モノクロームの影響はあまりにも不明瞭なものであった。ただカオスと呼ぶのも憚られるほどの無秩序と妹が支配する小説であった。
ぼくは妹が好きだ。だがミス・モノクロームは間違いなく妹ではない。これは非常に珍しいケースだ。
ぼくはどうしてミス・モノクロームが好きなのだろう。
誰かを好きになることに理由はいらない?その通りだ!
いいこと言うねキミ!名前を教えてよ!
ぼくは気がつくと壁と会話していた。時刻は既に午前二時を過ぎていた。
幽霊が出始める時間だ。ぼくは幽霊が存在すると信じていないが壁が存在することは信じている。そして壁がいつか話し始めてもおかしくないと信じている。物が喋りはじめることには何の驚きもなかった。
ぼくはこんな所で何をしているのか?
早く二次元に行かなければ……。
コミケは終わった。コミケよ、永遠なれ。
人混みに近づくだけで狂いそうになる。実に悲しい事実だ。
嗚呼。胸が破裂しそうだ。この痛みは一体なんだろう?
誰かぼくをたすけて。
ぼくをたすけて。
「島唄よ 風に乗り 鳥とともに 海を渡れ」
ポーカーフェイスに混じってなぜか島唄らしきものが流れてくる。どこかの迷惑な誰かがマイクで歌っているようだ。
ぼくはアイドルのことは嫌いだった。
だからアイドルに関係するものには近づかないようにしなかった。二次元であっても三次元であっても同じことだった。
ちなみに、ミス・モノクロームはアイドルだ。
どうしてだろう?
この行動はぼくの好みとも前例とも異なるはずなのに。
涙が渇いた瞳から零れ落ちてくる。
どうしてぼくは泣いているのだろう。
ぼくは今回も死に損ねた。
ぼくは空虚な人間だったので、自殺する理由も自殺しない理由もほとんど持っていなかったのだ。
5分アニメだけで、自殺という人生最大の決断があっさりと覆ってしまうぼくという存在の耐えられない軽さに泣きたくなる。いや、もう泣いていたか。
文章が出てこない。言葉だけがただツルツルした氷の表面を踊っている。
ツルツルした地面はダメだ。ザラザラした摩擦のある地面に戻ろう。
小説とは一定の文法に則って行われるゲームなのだ。
この文章は小説である。それも二次創作と呼ばれる最悪の部類の小説である。
ぼくはいつでも二次創作を軽蔑していた。偉大な一時創作を破壊するからだ。
原作を破壊しない分、二次創作よりは無断転載の方がまだましだというものだ。
もっとも、最近の小賢しい無断転載は勝手に原作を改悪してオリジナルだと主張し始めるようなので同じことか。
やれやれ。
ぼくが二次創作を書くなんて!
きっともうすぐ世界は滅ぶんだ。
さあ、二次元に行こう。
冷静に考えよう。
今のぼくに残っているものは何だ。
生きていたい?何のために?
どうでもいい。文章を書けているのが唯一の救いなのか。
ホームレス生活をしていると、文章を書くことすらできなくなり、無気力に寝転がることしかできないらしいと噂で聞いたことがある。ホームレスには自由はないようなのだ。
確かに、安全な家は自由の第一条件であるように思える。
なぜぼくが家について延々と語っているのかといえば、それはミス・モノクロームが家を追い出される所から始まるからだ。もしミス・モノクロームが家から追い出されなかったのであれば、ぼくはこれほどまでに好きになることはなかったのではないか?
話題がループしつつある気がする。
現在のぼくは空っぽなので無理もない。
ぼくはもっとミス・モノクロームについて語るべきことを持っていたはずなのに言葉にできない。
そもそも言葉にする必要もないものだったのかもしれない。
「簡単な言葉で説明できないものは存在しない」
そう言ったのは誰だっただろうか。
ぼくがこんなに愛しているミス・モノクロームは存在しない!?
そんな馬鹿な。
ミス・モノクロームはぼくに最も影響を与えた作品の一つだ。稀有な点として、ぼくはミス・モノクロームからは正の影響しか受けなかったことが挙げられる。
その他の作品から受けた影響の場合は、ぼくの人生を大きく狂わせたこともあって正当に評価することができない。
ある作品のせいでぼくは実妹を好きになった。またある作品のせいでぼくは義妹でも好きになれるようになった。またある作品のせいでぼくは旅を始めた。またある作品のせいでぼくは自殺することにした。
総じてみると、二次元はぼくにろくでもない影響を与えたようだ。
鏡を見ると、いつでもポーカーフェイスのぼくがいる。
ぼくは感情のない人間と言われていた。
感情が表情に反映されない。
ぼくは感情を持たない人間が存在するとは信じていないが、ぼくは間違いなく感情を持たないように見える少女が好きだ。
だからぼくはミス・モノクロームのことが好きなのだろう。
吐き気がする。セカイが回り始める。
貧血だろうか?それとも寝不足?
色々な理由が考えられるけれど、とりあえずぼくは寝ることにした。
おやすみ。
ミス・モノクローム。